東京地方裁判所 昭和52年(手ワ)787号 判決
原告 石井マス
右原告訴訟代理人弁護士 佐藤充宏
古川太三郎
被告 パチンコ大栄こと 金海鎮
右訴訟代理人弁護人 高橋信良
神山祐輔
松尾一郎
被告 株式会社サンオー
右代表者代表取締役 桜井一男
被告 株式会社ユーケン
右代表者清算人 稲川義男
右訴訟代理人弁護士 北武雄
同 斎藤和雄
二 主文
被告らは各自原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和五二年二月二〇日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
三 請求の趣旨 主文一、二項と同旨の判決並びに仮執行宣言
四 被告パチンコ大栄こと金海鎮(以下被告金という)及び被告株式会社ユーケン(以下被告会社という)の請求の趣旨に対する答弁
1 被告両名
原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする旨の判決
2 被告会社
担保を条件とする仮執行免脱宣言
五 請求原因
1 原告は別紙手形目録記載の約束手形一通を所持する。
2 被告金は右手形を振出し、被告株式会社サンオー、被告会社はそれぞれ拒絶証書作成義務を免除したうえ、右手形を裏書譲渡した。
3 右手形は支払呈示期間内に支払場所に呈示されたが、その支払が拒絶された。
4 よって、被告らに対しそれぞれ手形金と満期から完済まで手形法所定年六分の割合による利息金の支払を求める。
六 請求原因に対する被告金及び被告会社の答弁
請求原因1、3項は認める。2項中各被告自身の手形行為は認める。4項は争う。
七 被告会社の抗弁
1 被告の本件手形金の支払義務は、手形法七七条一項四号、五〇条一項により、原告の受取を証する記載をなした計算書及び本件手形引渡義務と同時履行の関係にあるから、原告において右義務を履行するまで被告は手形金の支払を拒絶する。
執行段階において、執行官が、債務名義に引換給付の趣旨が明示されていない以上、民事訴訟法五三五条所定の書類のみを交付するに止まり、手形の交付を実行しないところがあるので、引換給付を命ずる法律上の利益と必要性がある。
2 手形の遡求義務者が手形金の一部を支払った場合には、手形法五一条を類推適用しなければ、所持人が残額につき他の遡求義務者から遡求を受けない限り、一部支払をした遡求義務者は再遡求ができないことになり不当な結果を招くことになるから、手形法五一条を類推して、所持人は受取を証する記載をなした計算書を交付し、手形上に支払った旨の記載をなし、手形の証明謄本を交付すべき義務があり、右義務は手形金の支払と同時履行の関係にあるから、原告において右義務を履行するまで、被告は手形金の支払を拒絶する。
八 理由
1 原告の請求原因事実1項ないし3項は、原告と被告金及び被告会社との間で争いなく、被告株式会社サンオーは本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しないから、原告の右請求原因事実を自白したものとみなす。
2 被告会社は、本件手形金の支払は本件手形及び計算書の交付と同時履行の関係にある旨主張する。
手形法七七条一項四号、同法五〇条一項によれば、遡求義務者は手形金の支払と引換に手形と計算書の交付を求める権利を有し、同時履行の関係にあることは明らかであるが、主文において引換給付を命ずる必要性があるかどうかは検討を要するところである。
手形の原因債権に基く請求と手形の返還については、民法五三五条所定の同時履行の関係にないが、衡平の観念及び当事者の合理的意思に照らして、同時履行の関係にたち、主文において引換給付を命ずべきであるとするのが判例であるが、右のような事件においては、主文において手形の返還義務を命じておかなければ、義務者は無条件で強制執行されてしまうから主文で引換給付を命ずる法律上の利益も必要性もあると解されるところである。
しかしながら、本件のように手形金の請求の場合には、遡求義務者は前記のように手形法五〇条一項により、遡求権者に対し手形と計算書の交付を請求する権利を有し、この権利は強制執行の際でも、その権利行使を妨げられないところであるから、敢えて主文において引換給付を命ずる法律上の利益も必要性もないといわざるを得ない。
ところで、被告会社は、強制執行において、執行官が手形の交付をしないところがある旨主張するところ、右主張を認めるに足りる証拠はないばかりでなく、仮に、執行官が手形の交付をしないことがあった場合には、手形の交付を欲する遡求義務者は前記のとおり執行官に対し手形の交付を要求する権利があり、それでも執行官が交付しない場合には執行方法の異議を申立てることができ、遡求義務者の権利は擁護されるのであるから、執行実務の如何によって、前記結論は左右されないといわざるを得ない。
3 被告会社は、一部遡求義務を履行した場合にも、手形法五一条を類推して、手形の証明謄本等と引換給付の判決を命ずべきである旨主張する。
遡求義務者が一部支払をなした場合にも基本的な考え方は2と同様である。
しかしながら、手形法三九条二項により、支払人が満期に一部の支払をなした場合は所持人は支払を拒めないが、遡求の段階においては、一部遡求を認めると遡求関係が複雑化するため、遡求義務者は所持人に対し一部遡求を要求することはできない(所持人が任意に応ずる場合は別である。)と解すべきであり、所持人に一部遡求に応ずる義務がない以上、右一部遡求に応ずる義務を前提として引換給付を命ずることはできないものといわざるを得ない。
また、被告会社は一部遡求の場合につき、手形法五一条の類推適用を主張するが、同法は一部引受があった場合に際して、引受けられなかった残額を遡求義務者が支払い、支払った遡求義務者は自己の債務につき全部免責を受ける場合を規定しており、一部遡求の場合とは同一に扱えず、一部遡求の場合には(所持人が任意に応じた場合)手形法三九条三項を類推して、遡求義務者は所持人に対し受取証の交付と手形上に支払った者の名を附記して一部支払の旨を記載することを請求しうると解すべきである。こう解することにより、一部支払をした遡求義務者は、自己あるいは自己の前者が残額を支払って手形を受戻すのを待って再遡求する他なく、所持人が残額を遡求しない限り、一部支払をした遡求義務者は再遡求できなくなるが、前記のとおり、そもそも一部遡求はこれを認めると遡求関係が複雑化するから、遡求義務者に一部遡求を要求する権利を与えていないところであり、一部遡求による遡求関係の複雑化を避けるため、自己あるいは自己の前者が残額を支払い手形を受戻すまで再遡求ができないのもやむを得ないところである。
以上2、3のとおり、被告会社の抗弁はいずれも理由がなく採用しない。
よって、原告の本訴請求はいずれも理由があるから、これを認容し、民事訴訟法八九条、九三条、一九六条(被告会社の仮執行免脱宣言の申立は相当でないからこれを却下する。)を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山崎潮)
<以下省略>