東京地方裁判所 昭和52年(特わ)1801号 判決 1977年12月23日
本店所在地
東京都世田谷区奥沢一丁目二二番二二号
三陽産業株式会社
(右代表者代表取締役
森正弘)
本籍
東京都品川区旗の台六丁目一〇八二番地
住所
東京都世田谷区奥沢一丁目二二番二二号
会社役員
森正臣
大正六和一一月二九日生
右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官五十風紀男出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人三陽産業株式会社を罰金六〇〇万円に、被告人森正臣を懲役六月に処する。
被告人森正臣に対し、この裁判確定の日から二年間、右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人三陽産業株式会社(以下「被告会社」という。)は、肩書地に本店を置き、船舶用バルブコック、機械工具、パイプ、プレス製品等の製作及び販売等を目的とする資本金三〇〇万円(昭和四九年一〇月三〇日以前は一〇〇万円)の株式会社であり、被告人森正臣(以下「被告人」という。)は、被告会社の取締役会長としてその業務全般を統括していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、仕入を水増計上する等の方法により所得を秘匿したうえ、
第一、 昭和四八年九月一日から同四九年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が七九八二万七六八九円あった(別紙(一)の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年一〇月二八日、東京都世田谷区玉川二丁目一番七号所在の所轄玉川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五三二八万八二三四円でこれに対する法人税額が二〇三三万三九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五二年押第二一二六号の符号二)を提出し、そのまま納期限を従過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額三〇九三万一五〇〇円(税額の算定は別紙(三)の一計算書参照)と右申告税額との差額一〇五九万七六〇〇円を免れ、
第二 昭和四九年九月一日から同五〇年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五八三九万四七七六円あった(別紙(二)の修正損益計算書参照)のにかかわらず、同年一〇月二九日、前記玉川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二三九一万二四一六円でこれに対する法人税額が七八二万七三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の符号三)を提出し、そのまま納期限を従過させ、もって不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二一五七万八六〇〇円(税額の算定は別紙(三)の二計算書参照)と右申告税額との差額一三七五万一三〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
第一 判示冒頭事実を含む判示事実全般につき、
一、 被告人の当公判廷における供述並びに大蔵事務官に対する質問てん末書(一三通)及び検察官に対する供述調書(乙1ないし14)
一、 森正弘の大蔵事務官に対する質問てん末書(甲2)
一、 登記官作成の登記簿謄本(甲1)
第二 別紙(一)、(二)の各修正損益計算書掲記の各勘定科目別「当期増減金額」欄記載の数額のうち、
(イ) 「売上高」(各<1>)につき、
一、 大蔵事務官作成の売上金額調査書(甲3)
一、 被告人作成の「(株)三保造船所の売上について」、「期末売上調整金額について」と題する各申述書(甲4、5)
(ロ) 「期首商品棚卸高」(各<2>)、「期末商品棚卸高」(各<4>)につき、
一、 大蔵事務官作成の商品在庫調査書(甲6)
一、 被告人作成の「各事業年度の商品在庫の除外額について」と題する申述書(甲7)
(ハ) 「当期商品仕入高」(各<3>)につき、
一、 大蔵事務官作成の商品仕入金額調査書(甲8)
一、 被告人作成の「水増し仕入について」、「毎期末納品分の仕入計上について」と題する各申述書(甲9、10)
(ニ) 「交際接待費」(各<12>)、「交際費損金不算入額」(別紙(一)<34>、同(二)<35>)につき、
一、 大蔵事務官作成の簿外交際費調査書(甲13)
一、 被告人作成の「台湾で遣った交際費について」、「家庭内で遣った交際費について」、「私が遣った交際費について」と題する各申述書(甲14ないし16)
(ホ) 「販売手数料」(別紙(一)<24>、同(二)<25>)につき、
一、 大蔵事務官作成の販売手数料調査書(甲17)
一、 稲井俊明作成の申述書(甲19)
一、 被告人作成の「稲井取締役に渡した金について」と題する申述書(甲18)
(ヘ) 「受取利息」(別紙(一)<25>、同(二)<26>)につき、
一、 大蔵事務官作成の定期預金受取利息調査書(甲20)
(ト) 「価額変動準備金繰入額」(別紙(一)<31>、(二)<32>)、「価額変動準備金戻入額」(別紙(二)<31>)につき、
一、 玉川税務署長作成の証明書(甲21)
(チ) 「事業税認定損」(別紙(一)<37>、同(二)<38>)につき、
一、 大蔵事務官作成の事業税認定損調査書(甲22)
第三 別紙(一)、(二)の各修正損益計算書掲記の各勘定科目別「公表金額」欄記載の数額及び過少申告の事実につき、
一、 押収にかかる被告会社の昭和四九年八月期、同五〇年八月期の各法人税確定申告書各一袋(昭和五二年押第二一二六号の符号二、三)
(いわゆる認定利息及び認定報酬について)
検察官五十嵐紀男作成提出にかかる冒頭陳述書添付別紙1の(1)、(2)各修正損益計算書及び同2の(1)、(2)各「ほ脱所得の内容」中の記載によれば、被告会社は、(一)昭和四九年八月期の期首に被告人に対し一八五九万六二七五円の貸付金を有し、同期中にその一割に相当する受取利息一八五万九六二七円の収入があり、同時にこれと同額を被告人に対し役員報酬として支給し、(二)昭和五〇年八月期の期首に被告人に対し三二五〇万五七六四円の貸付金を有し、同期中にその一割に相当する受取利息三二五万〇五七六円の収入があり、同時にこれと同額を被告人に対し役員報酬として支給したというのであり、大蔵事務官作成の「受取利息(認定)及び役員報酬調査書」(甲11)並びに「森正臣に対する貸付金算定調査書」(甲12)中には、右主張に副う記載が認められる。
しかしながら、被告人の当公判廷における供述並びに大蔵事務官に対する昭和五一年二月一三付質問てん末書第二一問答、同年一一月二二日付質問てん末書第一一問答及び検察官に対する供述調書第六項によれば、被告会社において被告人に対し前記(一)、(二)の如き貸付を行なった事実は全くなく、真実は、被告会社の簿外資産中被告人個人の用途に供されたと目される金額につき、本件調査後の時点において、大蔵事務官の計らいにより、被告会社からの被告人に対する貸付金として経理上の事後処理がなされたに過ぎないものであることが明らかである。
果して然らば、存在しない貸付金に基づき被告会社に前記(一)、(二)の受取利息収入を生ずるいわれはなく、いわんや、これと同額の役員報酬が被告人に対し支給されたものと認むべき根拠はない。前掲大蔵事務官作成の各調査書の如きは、行政目的による税務処理上の技巧としては格別、刑事裁判における事実認定上の資料としてはきわめて証拠価値に乏しいものと断ぜざるを得ない。ちなみに、前記(一)、(二)の期中に被告会社に前記受取利息収入がなかったことについては、弁護人提出にかかる売主被告人買主被告会社間の土地建物売買契約書の記載(被告人所有の土地、建物の売却代金と被告会社から被告人に対する前記貸付金の元利金を昭和五一年九月一日付を以て相殺する趣旨)によっても、明瞭に裏書きされている。
よって、検察官主張の前記(一)、(二)の受取利息及び役員報酬については、その証明がないものと認める次第である。
(法令の適用)
法律に照すと、判示各所為は、各事業年度ごとに法人税法第一五九条第一項(被告会社については、さらに同法第一六四条第一項)に該当するところ、被告人については所定刑中懲役刑を選択することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法第四八条第二項により合算した金額の範囲内において罰金六〇〇万円に、被告人については同法第四七条本文、第一〇条により犯情重いと認める判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内において懲役六月にそれぞれ処し、被告人に対し同法第二五条第一項を適用してこの裁判確定の日から二年間、右刑の執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 半谷恭一)
別紙(一)
修正損益計算書
三陽産業株式会社
自 昭和48年9月1日
至 昭和49年8月31日
別紙(二)
修正損益計算書
三陽産業株式会社
自 昭和49年9月1日
至 昭和50年8月31日
別紙(三)の1
税額計算書
三陽産業株式会社
別紙(三)の2
税額計算書
三陽産業株式会社