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東京地方裁判所 昭和52年(特わ)1827号 判決 1977年12月26日

主文

被告会社甲を罰金二千万円に、被告人Aを懲役一年にそれぞれ処する。

被告人Aに対し、この裁判確定の日から二年間、右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社有限会社甲は、印章販売を目的とする資本金一〇〇万円の有限会社であり、被告人Aは、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人Aは、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ

第一昭和四八年九月一日から同四九年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一一二、〇九七、五九一円あつたのにかかわらず、同四九年一〇月三〇日、所轄M税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が、一九、八四二、五一七円でこれに対する法人税額が六、六九八、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額四三、五七一、〇〇〇円と右申告税額との差額三六、八七二、二〇〇円を免れ

第二昭和四九年九月一日から同五〇年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一四七、三八六、六六四円あつたのにかかわらず、同五〇年一〇月三一日、前記M税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二七、八〇一、五〇六円でこれに対する法人税額が九、五七〇、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額五七、三八七、六〇〇円と右申告税額との差額四七、八一七、六〇〇円を免れ

たものである。

(決算締切日をめぐる期間損益についての当裁判所の判断)

一検察官は、被告会社の各事業年度(自九月一日至翌年八月三一日)末の八月分売上には、翌事業年度初めの九月一日より同月五日までの五日分の売上高が含まれているので、これは税法上の許容される会計処理ではなく、しかも、被告人においては、右の事実を十分承知しており、当該事業年度の期首の九月分と期末の八月分売上高が実際売上高と合致しないこと、従つて、申告所得額と実際所得額が合致していないことについての事実の認識に欠ける点がないから、所得税逋脱の犯意がないと言うことはできないとして各期事業年度の売上高を調整し、昭和四九年八月期(自昭和四八年九月一日至昭和四九年八月三一日)につき、五日分の実額を把握しえないところから、八月分売上合計金額を日割計算して五日分を算定した(三一分の五を乗ずる)金額五、六九七、二五八円が翌事業年度に繰越さるべき五日分相当額であると推定して同額を減算するとともに、前期の昭和四八年八月期(自昭和四七年九月一日至昭和四八年八月三一日)から、前同様の計算方法により、当該八月分のうち三一分の五にあたる二、二二四、二二九円を戻入させて加算し、差引合計三、四七三、〇二九円を減額したものであり、次いで、昭和五〇年八月期につき、前同様の計算方法により、四、九五五、二八二円を減算するとともに、五、六九七、二五八円を加算し、差引合計七四一、九七六円を増額したものである旨主張する。

この点につき、被告人は、被告会社の事業年度は定款の定めにより毎年九月一日から翌年の八月三一日迄ではあるが、営業収益については、被告会社の事業取引の性質上、取引先とは毎月翌月の五日締めであつたので決算締切日も九月五日締切日としていたものであるから、被告会社の逋脱所得の計算は右の締切日によつて算定すべきであり、しかも、右の会計処理は、被告会社設立以来一〇数年にわたつて継続して行なつてきたもので何ら租税対策上として行なつたものでもなければ、逋脱の意思で行なつたものでもない旨主張するので、この点に関する当裁判所の判断を示すこととする。

(一)  検察官は、法人税法においては所得計算につき「事業年度」ごとに行なうことが規定されている(法人税法二一条、二二条)にもかかわらず、被告会社の会計処理は、当該事業年度の益金の額に事業年度を異にする五日分の収益を含め(翌期分の繰上げ)或いは除外する(前期への繰下げ)ことになり、片や費用は、当該事業年度内の分だけで集計しているため、これは事業年度を設けて、当該事業年度ごとに所得を確定する(収益費用対応の原則)ことを義務付けた税法の規定に反する処置である。また売上時期をセールスに対する納品時として、セールスから一月分をまとめて一括して支払つて貰う為の売上代金を確定する方法として翌月五日締切としているにすぎないし、技術的にも、八月末で売上高を確定することになんら支障はない。また、会社設立以来継続して行なわれていたとしても、事業年度毎に所得を確定しようという税法の規定に反する処理である以上、これをもつて一般に公正妥当な会計処理の基準に従つているとはいえない旨主張する。

ところで、収税官吏B作成にかかる昭和五一年九月三〇日付調査書C及び、被告会社の経理担当者Cの検察官に対する供述調書第四項によれば、各事業年度とも九月一日より九月五日迄を調整して検察官主張どおりの売上高を算定したことは認められるが、しかしながら、右五日間の調整をしなければ、果して法人税法における期間損益たる事業年度の所得を算定しえないものかどうかを考えてみよう。

(二)  そもそも法人税法における所得金額は、各事業年度を単位として計算すべきこと(法二一条、二二条、一三条)、従つて、法人が定款等において、事業年度終了の日を月末と定めているときは、その事業年度の開始の月の初日から、その事業年度の終了の月の末日までの期間を計算期間として所得金額を計算しなければならないものとされる。

しかしながら、企業が、当該会計処理において、決算手続上その他の理由により、特定の期間損益事項につき、帳簿締切日を右末日より若干繰上げ、若しくは繰下げることがあるとしても、その締切日が、当該事業年度終了の日の前若しくは後の日に近接した一定日であつて、かつ、毎期同一の日に締切られ、しかも、かかる基準を適用することについて相当の理由があり、継続的に適用される会計処理として、そこに恣意ないし偶然的な事情に左右される余地がなく、税法の期間計算の趣旨に反しない場合には、その限度において税法適用上でも、かかる処置を敢えて否定すべきではないと解する。

これを本件についてみるに、被告人等の当公判廷における供述及びCの検察官に対する供述調書によれば、被告会社の売上先は各事業所別のセールスマンを対象とする取引であつて、最終消費者たる顧客ではないという特殊な販売方法をとつており、そして、営業収益については、各セールスマンから注文により品物を作成して発送し、右発送時を以て売上の発生時期(収益計上の時期)としていたものであり、しかも、右セールスマンの取引相手たる顧客の給与が一般に月末が多いところから、各セールスマンの販売の便宜を考慮して翌五日締切として毎月帳簿を締切つていたという特別の理由が認められ、また、被告会社は設立以来一〇数年にわたつて一貫して毎期同一日を決算締切日としていた事実も認めることができる。

(三) 右の事実によれば、被告会社の決算締切日につき、定款所定のそれとは異なつて五日間の期ずれがあるが、それは事業取引上からのやむを得ない理由があつたためと認められる。しかして、毎期継続して一〇数年にわたつて同一日たる九月五日を一定日として決算締切日とし、従つて、九月六日から翌年の九月五日までの期間損益を算定していたこと、ならびにそこに何ら意識的な利益操作の手段でなされたものでなかつたことが認められる。

しかして、それは定款等で定められた決算締切日によらない会計処理ではあるが、何等税法における期間計算の趣旨に反せず、納税者たる企業が継続して適用する健全な会計慣行であると解することができる。

けだし、一般に決算の実務上、各勘定科目について正確に月末までの計数等を整理することが困難な場合も少なくないところから、決算手続上、決算締切日を事業年度の末日から若干繰上げたり、或いは、本件のように事業取引上の理由からやむを得ず繰下げることも実務上その必要性が認められる。それは、一般社会通念に照らし、公正妥当と評価しうるに足るもの、すなわち健全な簿記会計の慣習というべきである。しかしながら、厳密にいえば、それは税法上の所得と企業利益との間に開差を生じている場合であるが、それが期間損益の本旨に反しない限り、税法上の所得計算は、できるだけ会計慣行との間に差異が生じないよう、納税者たる企業が継続して適用する健全な会計慣行によつていれば、その意思を尊重して計算するのが妥当であり、それが法人税法二二条四項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従うことになると解せられるからである。

かえつて、形式的に、当該事業年度の所得金額を定款等の期間によつて五日分について調整否認しても、その翌事業年度においては、右五日分を認容することとなつてこれを繰返すに過ぎないことになる。

また、被告人は、本件発覚後、国税局係官から爾後毎期八月末日を以て決算締切日とするよう指導を受けたが、しかし被告人は実務上、そのような帳簿締切日は困難であつて、現実には従来どおりセールスマンに対する取引は五日締めとしていること、従つて、帳簿の処理も五日締切の方が確実容易である旨供述しており、かえつて、本件検察官の主張する会計処理の方法では、一方の被告会社の主張する方法が、すべて当事業年度分につき実額であるのに比し、これは、前述したように単純に一ケ月を日数按分したものにすぎないため実額ではなく、一応の推定に過ぎないところから、そこに事業年度の収益の計算上不確定要素を取入れており、合理性を欠くものといえる。

(四)  これに対し、検察官は、特定の期間損益事項にかかる法人税の取扱につき、昭和四二年直法一の二七八の通達が存在し、本件においてもその解釈に当り参考になると思われ、同通達では、計算基準の確認につき、法人にあらかじめ、または調査の際にその計算基準の提出を求めて行なうものとする旨定められているところ、被告会社では、昭和四六年一一月一日付で、M税務署長宛に営業費用と営業外費用につき「期間損益にかかる計算基準の届出書」を提出しているが、売上高計上については届出をしていなく、かつ税務調査の際に届け出たとも認め難い旨主張する。

しかしながら、被告会社が事業上の必要から、一定の計算基準を長年にわたつて継続して適用していたこと、かつ、それが公正妥当な会計慣行であると認められることは叙上認定のとおりであり、しかして、その間、数回にわたる税務署係官による調査があつたが、本件期間損益の問題については何ら一度も指摘を受けなかつた事実が認められる。

しかも、法人税法は、かかる計算基準の確認について所轄税務署長への届出を要する旨を何ら規定していないし、また同法から、かかる届出を義務付ける趣旨も窺われないので、たとえ売上高計上について届出をしなかつたとしても、そのこと自体は何ら問題となりえない。またそもそも「通達」は上級官庁から、その指揮下にある下級官庁に対してのみ、その機関の所掌事務について命令又は示達するため発するものに過ぎないから(国家行政組織法第一四条第二項)、納税者たる国民を何等拘束するものではない。従つて、法人が一定の計算基準を継続して適用する会計処理につき、その計算基準を税務署長にあらかじめ提出し確認を求めたり、または同意を求める必要はないといわねばならない、

(五)  検察官は、被告会社の会計処理は当該事業年度の益金の額には事業年度を異にする五日分の収益を含め、或いは除外しながら、片や費用は当該事業年度内の分だけ集計している為事業年度を置いて、当該事業年度ごとに所得を確定する(収益費用対応の原則)ことを義務付けた税法の規定に反する処置である旨主張する。

しかしながら、被告人は、当公判廷において、被告会社から関与税理士を介して四六年一一月一日付でM税務署長あてに営業費用が期間内よりずれる場合があると届出られていることを供述しているように、費用についても収益に対応して当該事業年度の期ずれの存在することを供述しているのである。

また、かりに費用につき、定款所定の事業年度に拠つたために、両者につき期間計算において若干かい離することがあるとしても、両者の差異が僅か五日間であつて、しかも毎期各一定日による決算締切日が各同一であつて、それが継続して会計処理されている場合には、実務上会計帳簿の決算締切をなし、決算手続終了迄には相当の日時もかかるのであるから、本件の程度では、実質的にみれば、両者は対応しているということもでき、いわゆる税法上の費用収益対応の原則にもとることはない。

(六)  なお検察官は、被告会社が五日締めとしたことにつき、売上の計上日とそれをまとめていつ請求するかという売上代金の請求額、納入額決定の基準日とを混同することは許されないと主張し、また、税理士Dの検察官に対する供述調書によれば、同税理士は、被告会社の毎月の売上高締切日(翌月五日)が月の最終日(八月三一日)にはなつていないことを承知していた為、期末決算にあたり、売上高を確定する際には、期末時点で正しく把握するようにと被告会社経理担当者に対し指導していたのに右指導に従つた措置をとつていなかつた旨主張する。

しかしながら、叙上認定のとおり、被告会社は本件の売上計上時期につき発送(引渡)基準をもつて収益計上の時期としていること、及び期間損益、すなわち法人の各事業年度ごとに帰属すべき損益につき、その事業年度の末日を九月五日とすることとして決算締切日を定め会計処理をしているのであつて、被告会社自身の代金請求の便宜のためではないのであるから、何等両者を混同することにはならない。

また、D税理士は検察官に対し、被告会社では「九月一日から五日迄の翌期の売上が当期の売上に含まれて計上されていましたが、そのことを承知していましたか」との問に対して「(答)その点は分りませんでした」と供述しており、また、被告人も当公判廷において、期末の五日締切の件については税理士からも指摘がなかつた旨供述しているのである。従つて、被告会社では税理士の指導に従つた措置をとつていなかつたとする主張は失当である。

(七)  また検察官は、被告人において被告会社の定款に定めた事業年度に翌期の五日分が含まれていたことは了知しており、従つて、当該事業年度の九月分と八月分売上高が実際売上高と合致せず、申告所得額と実際所得額が合致していないことにつき事実の認識に欠ける点がない以上故意の成立になんら影響なく、所得税通脱の犯意がないとはいえないし、また、被告人が右の会計処理が許されるものと考えていたとしても、それは経理知識がない為に問題となると思わなかつたとみるべきであつて、許される処置と思つてそうしてきたとみるべきではない旨主張する。

しかしながら、被告人において定款に定めた事業年度に翌期の五日分が含まれていたことは知つていたとしても、被告会社の当該事業年度における期間損益を算定する前提となる事業年度は、定款上のそれではなく、飽く迄も企業利益算定のため事業年度(自九月六日至九月五日)を定めたことは叙上認定のとおりである。

しかも、五日締切日を決算締切日とすることは、会社設立以来一〇数年にわたつて継続していたもので、それが事業取引の必要上からやむを得ないものとして認められ、その間、税務職員からの指摘も全くなく、また、本件所得の隠蔽工作とは明らかに無関係であることからみても、当該五日分相当額につき、逋脱の犯意を推認しえないといわねばならない。

二以上のとおりであるから、被告人の主張は理由があると認め、そこで被告会社の逋脱所得算定の基礎となる事業年度の期間損益につき、九月五日を決算締切日として算定しなおすとすると、各期の売上高は次のとおりとなる。

〔Ⅰ〕

売上除外額

49年8月期

50年8月期

(6) 9/5締後分

496,212円

1,046,074円

(7) 〃(前期加算分認容)

△496,212円

〔Ⅱ〕

売上繰延額

(3) 9/5締後分

162,045円

203,696円

(4) 〃(前期加算分認容)

△370,946円

△162,045円

小計

287,311円

591,513円

〔Ⅲ〕

申告売上分調整

3,473,029円

△741,976円

合計

3,760,340円

△150,463円

すなわち、昭和四九年八月期につき、逋脱売上額には三、七六〇、三四〇円を加算することとなるので、その結果、実際所得金額も右と同額が増加することとなる。

昭和五〇年八月期につき、逆に逋脱売上額は、検察官の主張する金額から一五〇、四六三円の減算となるので、その結果、実際所得金額は右と同額が減少することになる。

右のように五日締切日とする決算手続をすることによつて逋脱売上高の変動を生じその結果として、各期の実際所得金額、逋脱法人税額の異動を生ずることになる。しかしながら、検察官は、各期につき予備的にも訴因の変更を求めない旨申立てているので昭和四九年八月期については、検察官の冒頭陳述において主張する売上高三五二、〇二一、〇一三円を基にした公訴事実たる実際所得金額一一二、〇九七、五九一円、逋脱法人税額三六、八七二、二〇〇円の範囲にとどめるが(最高裁判所昭和四〇年一二月二四日第三小法廷決定刑集第一九巻第九号八二七頁参照)、昭和五〇年八月期については、差引一五〇、四六三円の減額となるので、被告人の利益に、実際売上高は右金額分を控除したところにより計算したところ、五五三、七二四、二七九円となり、その結果実際所得金額は一四七、三八六、六六四円、逋脱法人税額は四七、八一七、六〇〇円となるので、右金額を超えた部分は、本件逋脱額とされた金額から控除することとした。

(法令の適用)

被告会社につき

いずれも法人税法一五九条、一六四条一項。刑法四五条前段、四八条二項。

被告人につき

いずれも法人税法一五九条(いずれも懲役刑選択)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第二の罪の刑に加重)。同法二五条一項。

よつて主文のとおり判決する。

(松澤智)

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