東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)54号 判決
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【判旨】
二そこで、昭和四五年法律第九一号及び昭和五〇年法律第四六号の各附則が、憲法に違反し無効であるか否か、について判断する。
1 まず、右各附則は、実用新案権の設定の登録を受ける者若しくは実用新案権者又は商標権の設定の登録を受ける者が納付すべき登録料について、新旧法令の適用関係をどのように規定していると解すべきであろうか。右各附則は、いずれも、なお従前の例によるべき場合を列挙して規定し、それ以外の場合は、原則として、改正法施行の日から改正後の規定を適用すべきものとしている。ことに、昭和四五年法律第九一号附則第二条、第六条及び第八条並びに昭和五〇年法律第四六号附則第二条第一項及び第三条第一項前段の各規定は、いずれも、改正法施行の際現に特許庁に係属している実用新案登録出願又は商標登録出願については、別段定めがある場合を除き、その実用新案登録出願又は商標登録出願について査定又は審決が確定するまでは、なお従前の例によるべき旨を定め、その反面として、査定又は審決が確定した後に問題となるべき登録料に関しては、改正法施行前の出願に係る実用新案権又は商標権についても、改正法施行後に納付するものであるかぎり、原則として改正後の規定によらなければならないとの趣旨を明らかにしている。これに対する例外として、改正法施行後に納付することとなる登録料でありながら、なお従前の例によることができるのは、改正法施行前にすでに納付し、又は納付すべきであつた実用新案法上の登録料にかぎられる(昭和四五年法律第九一号附則第三条、第六条及び昭和五〇年法律第四六条附則第二条第二項、第三条第二項)。しかして、ここに改正法施行前に納付すべきであつた登録料とは、単に「納付することができた」という意味ではなく、改正法施行前にすでに納付を猶予されていた登録料をいうものと解すべきである。
それでは、このような内容を有する前記各附則は、憲法に違反し無効の法律というべきであろうか。以下に順次検討を進める。
2 憲法第一四条違反の主張について
同条第一項は、法の下の平等の原則を定めるが、これは、人種、信条、性別、社会的身分又は門地等、個人はすべて人間として平等の価値をもつとの、個人主義の基本理念に照らし、不合理と考えられる理由に基づいて、立法上及び法適用上、差別することを禁ずるものであり、字義どおり、法律上のあらゆる差別を禁止しようとする趣旨ではない。右基本理念に牴解しないかぎり、各人の年令、自然的素質、職業、人と人との間の特別の関係等個々具体的な事情を考慮して、道徳、正義、合目的性等の諸要請に基づき適当な具体的規定を設けることは、もとより妨げられるところではない。
実用新案権又は商標権の設定の登録を受ける者が納付すべき登録料を値上げするにあたり、新旧法令の適用の境界をどこに求めるかについても、納付時を基準とする案、出願時を基準とする案等いくつかの方策が考えられるが、立法府は、この点をめぐる立法政策上の具体的考慮に基づき、原則として納付時を基準とすべきこととして、前記各附則を制定したものである。その結果、原告が主張するように、同日に登録出願した者の間にも、改正前の低額の登録料を納付するだけで足りる者と、改正後の高額の登録料を納付しなければ、権利設定の登録を受けられない者とがでる等の事態を生ずることとなつたが、同日にされた登録出願であつても、その出願の具体的内容、査定、審判の難易その他諸々の事情の相違から、査定、審決の確定に至るまでに遅速の差が生ずるのは、見易いところであり、これがために、納付すべき登録料の額に前記のような差異がもたらされたからといって、これをもつて、前記基本理念に反する不合理な差別と断じえないことは、多言を用いるまでもなく明らかである。前記各附則は、憲法第一四条第一項の規定に違反するものとはいえない。
3 憲法第二九条違反の主張について
同条第一項は、財産権の不可侵の原則を定めるが、これは、講学上いわゆる制度的保障の一つとして、私有財産制を保障するとともに、各人の財産権に対する公権力による制限を原則として許さないことを意味するものであり、実用新案権又は商標権の設定の登録を受ける者が登録料の納付を要するものとすることとは、およそ関係がない。したがつて、出願後の法律の改正により、登録料が増額され、その結果、出願時のそれに比し、原告主張のように三倍強に達したからといつて、憲法第二九条第一項に違反するいわれは全くない。
4 憲法第三九条違反の主張について
同条前段はいわゆる事後法の禁止を定めるが、これは、本来刑罰法に関する原則であり、たかだか、その趣旨が刑罰以外の処罰に準用されることがあるに止まるものであるから、前記各附則とは全く関係がない。
5 かくして、前記各附則が原告主張の理由によつて憲法に違反すべきものとはなし難く、他に、憲法の規定に違反すべきものとすべき理由も見出すことはできないから、前記各附則が違憲無効であるとする原告の主張は、採用できない。
(秋吉稔弘 佐久間重吉 安倉孝弘)