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東京地方裁判所 昭和53年(むイ)872号 決定 1978年9月11日

被告人 武居浩二

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一  本件準抗告の申立の趣旨は、

原裁判中、被告人とその妻武居美和子との間の接見および文書の授受を禁止する部分を取消す。

との裁判を求め、その理由の要旨は刑事訴訟法八一条によつて認められる接見等の禁止は、被告人を勾留しただけでは防止できないような強度の逃亡または罪証隠滅のおそれが存する場合に許されると解すべきところ、本件においては、被告人とその妻武居美和子との間の接見および文書の授受を許しても、被告人が、これを利用して、逃亡したり罪証を隠滅するおそれはないから、同女との接見および文書の授受をも禁止した原裁判は、違法であり、取消されるべきであるというのである。

二  一件記録によれば、被告人は、昭和五三年六月二日覚せい剤取締法違反被疑事件により逮捕、同月五日勾留され、同月二三日身柄拘束のまま同法違反被告事件により東京地方裁判所に起訴されたこと、同日同地方裁判所裁判官は、被告人に対し刑事訴訟法三九条一項に規定する者以外の者との接見および文書の授受をすることを禁止する旨の裁判をなしたこと、同年八月二三日被告人に対する第一回公判期日が開かれ、同期日において冒頭手続の後検察官請求の証拠中弁護人の同意にかかる分の取調を終え、不同意の書証に代えて申請された証人尋問が採用となり、次回公判期日の指定告知があつたこと、その後、同年九月二日弁護人門井節夫および同吉田武男から前記接見等の禁止をした裁判の一部取消を求める本件準抗告の申立がなされたことが認められる。

三  ところで、勾留に関する処分は、予断排除の要請から公訴の提起のあつた後第一回公判期日までは、裁判官が行なうが(刑事訴訟法二八〇条一項)第一回公判期日後においてはすべて当該被告事件の審判を担当する受訴裁判所の権限に委ねられているのである。本件においては、すでに第一回公判期日が開かれ、同期日において証拠調手続が行なわれているのであるから、この段階に至つて第一回公判期日前に、裁判官のした接見および文書の授受の禁止の裁判自体に対して準抗告の申立をなすことは、もはや許されないというべきである。

四  よつて、本件準抗告の申立は不適法であるから、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により、棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 林修 植村立郎 大谷直人)

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