東京地方裁判所 昭和53年(タ)354号 判決 1979年4月23日
主文
一 被告と本籍東京都国分寺市富士本一丁目二六番地三亡本郷武雄および本籍右同亡本郷てるへとの間にいずれも親子関係のないことを確認する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
一 原告の請求の趣旨
主文同旨。
二 原告の請求原因
被告は、戸籍上、本郷武雄と妻てるへとの間の二男として記載されているが、事実は、仁宮武夫と仁宮美との間の子であり、本郷武雄およびてるへとの間には親子関係はない。原告は本郷武雄、てるへ間の子である。
よつて、主文同旨の判決を求める。
三 被告の答弁
1 本案前の申立
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
2 本案に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
四 請求原因に対する被告の認否および被告の主張
1 被告が、戸籍上、本郷武雄とてるへ間の二男として記載されていること、原告が右両名の子であることは認める。被告は、仁宮美が、仁宮武夫と結婚して、生んだ子であると聞いている。
2 本訴においては、不存在確認を求める親子関係の当事者が死亡しており、このような場合には検察官を被告とすべきであり、検察官を被告としていない本訴は不適法である。
3 本訴は訴の利益がない。本郷武雄と妻てるへの間には長女仁宮美、二女原告、二男被告があり、現在東京家庭裁判所に、武雄、てるへの遺産分割に関する審判事件が係属している。右事件は当初から遺産の有無が争点であり、相続人の確定についての争いはなかつた。被告と武雄、てるへとの間の親子関係存否の判断は、遺産分割の前提として処理すれば足りる問題であり、被告は相続分を主張する意思もないし、前提として被告が相続人でないと認定されても争う意思はない。被告が相続人であるか否かにより原告の相続分も異つてくるが、これも遺産がなければ無益なことであり、従つて原告は当初から争いのある遺産の範囲につき主張、立証を尽すべきであり、本件は、過去の法律関係の確認を求めるものでもあり、何ら現在の争いである遺産分割の紛争解決に役に立たないし、対世的効力を及ぼすことを適当とする事情もない。
4 本件請求は信義則に反し権利の濫用である。被告は、聞くところによると、本郷武雄、てるへの長女である仁宮美の生んだ子であるとのことであるが、武雄、てるへの長男が夭折したため、被告に本郷家を継がせるため同人ら間の二男として届けられ、以後四〇余年社会的にも本郷家の二男として認められ、今まで被告の身分を争われたことはないし、武雄、てるへが死亡後は被告が本郷家の祭祀を承継している。被告が戸籍上右のように届けられて家督相続人となつていたからこそ、美も原告も正式な婚姻ができたものである。原告はこのようなことを忘れて、私利私欲の遺産紛争のため、被告の蒙る不測の衝撃、当惑をかえりみず、あえて本訴を提起しているものであり、まさに本訴は信義則に反し、権利の濫用であつて、許されるべきものではない。
5 被告は出生時から本郷武雄、てるへ間の子として戸籍簿に記載され、今日に至るまで四〇余年、父の氏を称し、家族、親族はもとより社会的にも本郷家の二男として認められてきており、本郷家の祭祀も承継している。すなわち被告は戸籍に記載されているとおりの身分を占有しており、このような場合にはもはや被告の身分を争うことはできないものと考えるべきである。
五 被告の主張に対する原告の反論
1 検察官が被告となりうるのは、被告となる者がいずれも生存していない場合に限られるのであり、本件のように子が生存していて、子を被告として訴を提起できるときは、検察官を被告とすることはできない。
2 本訴の結果により、本郷武雄、てるへの遺産につき原告の相続分が異つてくるし、右遺産分割の問題が現に発生しており、戸籍訂正の必要それ自体をもつて確認の利益が認められていることを考えれば、本訴が確認の利益がないなどということは到底いえない。
3 被告の権利濫用の主張は争う。
六 証拠(省略)