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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)1090号 判決 1979年4月05日

原告 町山雅信

被告 株式会社電通映画社 外四名

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  原告に対し、被告株式会社電通映画社は金一一〇万円、被告株式会社ユニ・ピーアールは金二八六万円、被告相川堅は金二三〇万円、被告寿貿易株式会社は金二九九万円、被告株式会社まさとみは金一八四万円及びこれらに対する昭和五二年五月七日から右各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告と訴外金田信一(以下、金田という)との間には、原告を債権者、金田を債務者とする東京簡易裁判所昭和五一年(ロ)第一四一五号貸金請求督促事件の仮執行宣言付支払命令が存在し、同命令には、金田が原告に対し、金一五〇〇万円及びこれに対する昭和四九年三月三日から同年五月三〇日まで年一二パーセントの割合による金員並びに同月三一日から支払ずみまで年二四パーセントの割合による金員を支払うべき旨が記載されている。

2  金田と被告らとの間には、別紙賃料債権目録記載のとおり、金田を賃貸人、被告らを各賃借人とする建物賃貸借契約が存在し、金田は被告らに対しそれぞれその賃料債権を有していた。

3  そこで、原告は被告らを第三債務者として東京地方裁判所に対し、債権差押並び転付命令の申請をし(昭和五二年(ル)第一六八四号事件)、同裁判所から右申請どおりの命令(以下、本件転付命令という)の発付を受け、昭和五二年五月六日、本件転付命令正本が金田及び被告らに送達された。

4  よつて、原告は被告らに対し、本件転付命令に基づき、請求の趣旨のとおり、各賃料及びこれに対する本件転付命令正本が被告らに送達された日の翌日である昭和五二年五月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因事実に対する答弁

請求原因1ないし3の各事実は認める。

三  被告らの抗弁

1(一)  被告らは、本件転付命令のほかに、別紙差押債権目録記載(1) ないし(7) の債権仮差押、差押、取立命令及び配当要求により、別紙債権目録(一)ないし(六)記載のとおり差押等を受けている。

(二)  したがつて、本件賃料債権に対する本件転付命令は、別紙差押目録記載(1) に基づく差押につき、二重差押及び配当要求により、その差押額が拡張され、本件賃料債権について差押等の競合する状態にあるところになされたものであるから、無効である。

2  被告らは、昭和四九年一二月末日現在、金田に対し、別紙預託金目録記載一ないし五の電気料、水道料、共益費を預託していたが、金田が右金員を目的外に費消したため、改めて右各金員を電力会社等の各債権者に支払つた。そこで、被告らは、金田に対し、昭和五〇年三月五日、右各預託金返還請求権と、被告らが同年二月末日までに支払うべき同年二月分及び三月分の賃料債務の一部とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

3  (被告株式会社電通映画社についてのみ)

同被告は、本件貸室の賃料につき、前叙のとおり差押等が競合したので、昭和五三年三月一七日、同被告を供託者として、東京法務局に対し、金五二万四一一一円を弁済供託した。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)の事実は認める。

(二)  同1(二)の主張は争う。

本件転付命令は、先行する他の差押、配当要求にかかる賃料債権と区別され、これと競合しない特定の期間の賃料を対象としたものであるから有効であり、本件のごとき継続収入債権についてだけ、差押等の競合があつた場合に差押の範囲が拡張されるとするのは、転付債権者に不測の損害を蒙らしめるものであつて不当である東京高判昭四三・二・二三(高民集二一巻一号八二頁)。かりに、差押の限度が差押等の競合する分の合計額だけ拡張されるとしても、別紙差押目録記載(2) の仮差押は、本件転付命令の執行債権と同一の債権の執行を保全するためになされたものであるから、これが差押競合の対象となるとすることはできないし、また、本件転付命令発付後になされた別紙差押目録記載(5) ないし(7) の仮差押等は競合差押となるものではない。したがつて、拡張されるべき差押及び配当要求は、別紙債権目録(一)ないし(五)記載の各一ないし三の債権であり(右三の配当要求額は六か月間の賃料債権を対象とするものである。算式277万7857円÷49万円(本件貸室全賃料)=5.67ヶ月≒6ヶ月)これに基づき計算すると、差押の限度が差押競合等の額だけ拡張されるとしても、被告株式会社電通映画社については、昭和五一年四月分から昭和五二年四月分まで一ヶ月金五万円の割合による賃料合計金六五万円、同株式会社ユニ・ピーアールについては、昭和五一年四月分から昭和五二年四月分まで一ヶ月金一三万円の割合による賃料合計金一六九万円、同相川堅については、昭和五一年三月分から昭和五二年四月分まで一ヶ月金一〇万円の割合による賃料合計金一四〇万円、同寿貿易株式会社については、昭和五一年三月分から昭和五二年四月分まで一ヶ月金一三万円の割合による賃料合計金一八二万円、同株式会社まさとみについては、昭和五一年三月分から昭和五二年四月分まで一ヶ月金八万円の割合による賃料合計金一一二万円の各賃料合計額は、拡張された額を超え、かつ本件転付命令の対象となつた賃料額であるから、被告らは、右各賃料額より適法な相殺がなされた残額については、原告に支払うべき義務が存する。

第三証拠関係<省略>

理由

一  請求原因1ないし3の各事実は当事者間に争いがない。

二1  抗弁1(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実によれば、金田の被告らに対する各本件貸室の賃料債権に対する別紙差押目録記載(1) の差押は、その賃料債権の範囲を特に限定したものではなく、別紙債権目録(一)ないし(五)記載各一の金額を限度として、右差押命令が金田に送達された日の後に収入すべき部分にその効力が及ぶものというべきところ(民訴法五九八条三項、六〇四条)、別紙差押目録記載(2) ないし(4) の仮差押、差押、配当要求は、先行する右差押目録記載(1) の差押と競合するから、その金額の合算額まで被差押債権たる本件賃料債権の範囲が拡張されるものと解するのが相当である。けだし、民訴法六〇四条の法意は、本件賃料のような継続収入債権につき差押がなされた場合、その将来の収入全部について当然に差押の効力が及ぶとすることが不相当、不合理であるため、差押の範囲を債権額を限度として執行債権者が満足を得るために必要な額に限定したにすぎないのであるから、継続収入債権に対する差押につき仮差押、差押、配当要求がなされた場合、金銭執行につき他の債権者の仮差押、差押、配当要求を肯認する平等主義をとる現行の強制執行法制に鑑みると、差押の範囲の拡張を認めることが公平かつ妥当な取扱いであるというべきである。これを、本件において、各被告別にみれば、被告株式会社電通映画社については、本件転付命令発付当時、別紙債権目録(一)記載一の差押の後、同目録(一)記載一ないし三の合計金額三一七万七八五七円について差押の効力が拡張され、したがつて、別紙差押目録記載(1) の差押の効力の発生した昭和五〇年一月から起算して月額五万円の割合で右金額に満つるまでの六四か月間の賃料債権につき、差押の効力が拡張されるものというべきであるから、本件転付命令の対象とされた同年七月一日から昭和五二年四月三〇日までの間の賃料債権についても差押等の競合があるものというべき筋合である。被告株式会社ユニ・ピーアールについては、本件転付命令発付当時、別紙債権目録(二)記載一の差押の後、同目録(二)記載一ないし四の合計額六一五万七八五七円について差押の効力が拡張され、したがつて、別紙差押目録記載(1) の差押の効力の発生した昭和五〇年一月から起算して月額一三万円の割合で右金額に満つるまでの四八か月間の賃料債権につき、差押の効力が拡張されるものというべきであるから、本件転付命令の対象とされた同年七月一日から昭和五二年四月三〇日までの間の賃料債権についても差押等の競合があるものというべき筋合である。被告相川堅については、本件転付命令発付当時、別紙債権目録(三)記載一の差押の後、同目録(三)記載一ないし四の合計金額五三七万七八五七円について差押の効力が拡張され、したがつて、別紙差押目録記載(1) の差押の効力の発生した昭和五〇年一月から起算して月額一〇万円の割合で右金額に満つるまでの五四か月間の賃料債権につき、差押の効力が拡張されるものというべきであるから、本件転付命令の対象とされた同年六月一日から昭和五二年四月三〇日までの間の賃料債権についても差押等の競合があるものというべき筋合である。被告寿貿易株式会社については、本件転付命令発付当時、別紙債権目録(四)記載一の差押の後、同目録(四)記載一ないし四の合計額六〇二万七八五七円について差押の効力が拡張され、したがつて、別紙差押目録記載(1) の差押の効力の発生した昭和五〇年一月から起算して月額一三万円の割合で右金額に満つるまでの四七か月間の賃料債権につき、差押の効力が拡張されるものというべきであるから、本件転付命令の対象とされた同年六月一日から昭和五二年四月三〇日までの間の賃料債権についても差押等の競合があるものというべき筋合である。被告株式会社まさとみについては、本件転付命令発付当時、別紙債権目録(五)記載一の差押の後、同目録(五)記載一ないし四の合計額四七七万七八五七円について差押の効力が拡張され、したがつて、別紙差押目録記載(1) の差押の効力の発生した昭和五〇年一月から起算して月額一三万円の割合で右金額に満つるまでの三七か月間の賃料債権につき、差押の効力が拡張されるものというべきであるから、本件転付命令の対象とされた同年六月一日から昭和五二年四月三〇日までの間の賃料債権についても差押等の競合があるものというべき筋合である。

3  ところで、原告は、別紙差押目録記載(2) の仮差押は本件転付命令の執行保全の目的でなされたものであるから差押競合の対象とならない旨主張するが、継続収入に対する差押につき仮差押がなされた場合に、右差押の効力が拡張されるべきものとするのは、右差押債権者の利益を保護するためであるから、右仮差押の被保全債権が本件転付命令の執行債権と同一であることが、右仮差押による執行競合の発生をなんら左右するものではなく、また、本件転付命令の効力が生じない場合、必ずしもその前提となる債権差押命令が無効となるものではないから、右仮差押が執行保全の目的を失うわけではないのであつて、右執行の競合を当初に遡つて発生しなかつたものとし、又はこれを覆滅するものと解する理由はない。したがつて、原告の主張は採用できない。

4  そうすると、抗弁1は理由があるから、本件転付命令は、賃料債権目録記載一ないし五の賃料につき債権差押命令が競合し、かつ配当要求がされているから、これが無効というべきである。

三  よつて、原告の被告らに対する本件転付命令に基づく本訴各請求は、その前提において理由がないからこれらを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 遠藤賢治)

(別紙) 賃料債権目録<省略>

物件目録<省略>

差押目録<省略>

債権目録(一)・(二)・(三)・(四)・(五)<省略>

預託金目録<省略>

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