東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11387号 判決 1979年9月18日
昭和五二年(ワ)第一一〇六六号事件原告 昭和五三年(ワ)第一一三八七号事件被告 (以下、原告という。) 朝野辰人
昭和五二年(ワ)第一一〇六六号事件被告 昭和五三年(ワ)第一一三八七号事件原告 (以下 被告という。) 株式会社 豊田商店
右代表者代表取締役 豊田重昭
右訴訟代理人弁護士 阪本清
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 原告は、被告に対し、
1 別紙物件目録記載一の土地が被告の所有であることを確認する。
2 別紙物件目録記載一の土地につきなされた浦和地方法務局川口出張所昭和五二年八月二二日受付第三五八八一号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。
三 訴訟費用は、本訴及び反訴を通じ、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
(本訴)
一 原告
1 被告は、原告に対し、別紙物件目録記載二の物件を収去して同目録記載一の土地を明渡せ。
2 被告は、原告に対し、昭和五二年八月二二日から右明渡ずみまで一か月七万円の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行の宣言
二 被告
主文一、三項と同旨。
(反訴)
一 被告
主文二、三項と同旨。
二 原告
1 被告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第二当事者の主張
(本訴)
一 請求の原因
1 別紙物件目録記載一の土地(以下、本件土地という)は、もと訴外川口市北部土地区画整理組合(以下、訴外組合という。)の所有であった。
2 本件土地は、訴外組合が土地区画整理事業施行区内において保留地予定地として定めた川口市前川町一丁目一九五ブロックの四号地積一七四・四坪であったところ、その後、右事業を承継した埼玉県が、右施行区域につき換地処分をなし、昭和五二年三月四日付をもって本件土地の所有権保存登記手続を経由したものである。
3 ところで、訴外組合は、訴外熊木弥三郎(以下、弥三郎という。)との間で、昭和三四年一二月二四日、訴外組合が弥三郎に対し、本件土地を売る旨を約した。
4 弥三郎は、昭和三五年一一月一六日、原告に対し、本件土地を売る旨を約したが、原告のために直ちに仮登記手続をなしえなかったので、原告との間で、同年一二月一六日、浦和簡易裁判所において、弥三郎が原告に対し右売買契約に基づく所有権移転登記手続をなす義務があることを確認する旨の即決和解(以下、本件即決和解という。)が成立した。
5 ところが訴外熊木マツ(以下、マツという。)は、本件土地につき、浦和地方法務局川口出張所昭和五二年八月五日受付第三三五六八号をもって所有権移転登記手続を経由した。
6 そこで、原告は、本件即決和解につき、マツを弥三郎の特定承継人として、浦和簡易裁判所に対し、承継執行文付与申請をなし(同裁判所昭和五二年(サ)第一四八号)、昭和五二年八月二〇日、同裁判所から右承継執行文の付与を受け、これに基づき、本件土地につき、浦和地方法務局川口出張所昭和五二年八月二二日受付第三五八八一号をもって所有権移転登記手続を経由した(以下、本件登記という。)。
7 被告は、別紙物件目録記載二の物件を所有して本件土地を占有している。
8 本件土地の賃料相当損害金は一か月七万円である。
9 よって、原告は、被告に対し、別紙物件目録記載二の物件を収去して本件土地の明渡と、昭和五二年八月二二日から右明渡ずみまで一か月七万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める。
二 請求原因事実に対する答弁
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3の事実は認める、但し、訴外組合と弥三郎間の契約は、売買予約にすぎない。
3 同4の事実のうち、本件即決和解が成立したことを認め、その余は不知。
4 同5ないし7の事実は認める。
5 同8の事実は不知。
三 被告の主張
1 マツは、昭和四七年四月二六日、被告との間で、マツを売主、被告を買主とする本件土地の売買契約を締結した。
2 ところで、弥三郎は、昭和三六年三月七日、マツに対し、原告主張の請求原因第3項に基づく本件土地の譲受人としての地位を譲渡し、訴外組合は、右同日、右地位の譲渡を承諾した。
したがって、(一)、弥三郎は、本件土地を取得すべき売買契約上の権利を喪失したものというべきであり、また、少くとも、(二)、マツは、本件即決和解につき訴外弥三郎の特定承継人ではないから、原告のための本件登記は、違法な承継執行文によりなされた無効なものというべきである。
3 仮に、右主張が採用されないとしても、被告は、遅くとも昭和四〇年一二月以降、マツから、本件土地をその隣接地も含めて建物所有の目的で賃借している。
四 被告の主張事実に対する答弁
被告の主張1ないし3の事実は不知、法律上の主張は争う。
(反訴)
一 請求の原因
1 本件土地は、もと訴外組合の所有であり、訴外組合が土地区画整理事業施行区域内において保留地予定地として定めた川口市前川町一丁目一九五ブロックの四号地積一七四・四坪であったところ、その後、右事業を承継した埼玉県が、右施行区域につき換地処分をなし、昭和五二年三月四日付をもって本件土地の所有権保存登記手続を経由したものである。
2 訴外組合は、弥三郎との間で、昭和三四年一二月二四日、訴外組合が弥三郎に対し、本件土地を売る旨の売買の予約をした。
3 弥三郎は、昭和三六年三月七日、マツに対し、前項に基づく本件土地の譲受人としての地位を譲渡し、訴外組合は、右同日、右地位の譲渡を承諾した。
4 マツは、昭和四七年四月二六日、被告との間で、マツを売主、被告を買主とする本件土地の売買契約を締結した。
5 マツは、本件土地につき、被告に対し前記売買を原因とする所有権移転登記手続をしないでいたところ、原告のために本件登記がなされた。
6 よって、被告は、原告に対し、本件土地につき、被告が所有権を有することの確認及び、被告のマツに対する所有権移転登記手続請求権を保全するため、マツに代位して、本件登記の抹消登記手続を求める。
二 請求原因事実に対する答弁
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3、4の事実は不知。
3 同5の事実は認める。
三 抗弁
本訴の請求原因1ないし5記載のとおりであるからこれを引用する。
四 抗弁事実に対する答弁及び主張
本訴の請求原因事実に対する答弁1ないし3及び被告主張1、2記載のとおりであるからこれを引用する。
五 被告の主張事実に対する答弁
被告の主張1、2の事実は不知、法律上の主張は争う。
第三証拠関係《省略》
理由
(本訴について)
一1 請求原因1、2の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、本件土地につき、土地区画整理法による換地処分の公告が昭和五一年一二月一八日ころになされ、保留地として設定されたことを認めることができる。
2 同3の事実のうち、訴外組合と弥三郎間の売買が本契約であることを除き、その余の事実は当事者間に争いがない。
3 同4の事実のうち、本件即決和解が成立したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は、昭和三四年一〇月七日、弥三郎から、川口市前川町一丁目二五〇八番ないし二五一一番の各土地合計四八三坪を代金三一八万円で買受け、手付金一〇〇万円を支払ったが、弥三郎がその後これらを第三者に転売したため、その責任を追求したこと、弥三郎は、昭和三四年一二月二四日、訴外組合から、本件土地を代金八七万二〇〇〇円で買受けることとし、右同日、訴外組合長高石幸三郎との間で「替費地予約売買契約書」と題する書面を作成したが、右契約書の第一条には、「訴外組合長は本件土地を使用せしめ訴外組合長の特別処分において正式にこれを弥三郎の土地として登記するものとする」との記載があり、予約に関する条項を欠いていること、そこで、原告は、弥三郎から本件土地を代替地として譲受けることで示談することとし、昭和三五年一一月一六日、弥三郎との間で、原告が新たに七〇万円を支払い、合計一七〇万円を代金額として本件土地を買受ける旨合意したこと、当時、本件土地は、訴外組合(但し、訴外組合の事業は、昭和四六年四月一日、埼玉県に移管された)が、土地区画整理事業の施行の費用にあてるために土地区画整理法九六条による保留地予定地として設定されていたため、換地処分が完了するまでその所有権を取得することができなかったので、原告は、弥三郎との間で、昭和三五年一二月一六日、本件即決和解をなし、その履行を確実にしようとしたこと、以上の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
4 以上の事実によれば、本件土地は、土地区画整理法九六条により保留地予定地として定められ、同法一〇四条により、本換地処分の公告があった日の翌日において、訴外組合ないし埼玉県がその所有権を取得すべき性質のものであるから、訴外組合と弥三郎間の本件土地の売買は、訴外組合(埼玉県)が、本換地処分により、保留地とされた本件土地の所有権を取得することを停止条件として効力を生ずるものというべきであり、したがって、また、本換地処分未了の間に、弥三郎との間で本件土地を買受ける旨を約した原告の立場は、弥三郎の訴外組合に対する停止条件付売買契約に基づく買主としての地位を譲受けたにすぎないものというべきである。それ故、原告は、昭和三五年一一月一六日、訴外組合に対し、本換地処分を条件とする停止条件付所有権移転請求権を取得したものということができる。
二 請求原因5ないし7の事実は当事者間に争いがない。
三 そこで、被告の主張について判断する。
1 《証拠省略》によれば、つぎの事実を認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
弥三郎は、昭和三四年ころから、家財を処分して遊興し、家庭を顧みることがなかったので、妻のマツは、家族の生活に窮し、財産保全のため、弥三郎名義の不動産を自己の名義にする必要が生じ、弥三郎の承諾を得て、昭和三六年三月七日、訴外組合に対し、弥三郎が訴外組合に対して有する本件土地の停止条件付売買契約上の譲受人としての権利義務を承継することの承認願を申請し、右同日、訴外組合の承認を得た。そして、マツは、昭和四〇年一二月二三日ころから、被告に対し、本件土地及び隣接地二二・六六坪を賃料月額四〇〇〇円で賃貸していたが、昭和四七年四月二六日、被告に対し、右賃貸土地を代金は一〇五〇万円、所有権移転登記手続をなすべき時期は土地区画整理事業が終了した場合に協議して定める旨の約定で売渡し、そのころ、被告から右代金を受領した。
2 ところで、前記一3に説示したとおり、訴外組合と弥三郎間の本件土地の売買は、訴外組合(埼玉県)が、本換地処分により、保留地とされた本件土地の所有権を取得することを停止条件として効力を生ずるものであるから、右認定事実によれば、マツ及び被告は、本換地処分未了の間に、本件土地につき弥三郎の譲受人としての地位を順次に承継取得したにすぎず、したがって、被告は、昭和四七年四月二六日、訴外組合に対し、換地処分を条件とする停止条件付所有権移転請求権を取得したものというべきである。
四 以上によれば、本件土地の所有権は、本換地処分の公告がなされた日の翌日である昭和五一年一二月一八日ころ、弥三郎から、原告と被告に対し、それぞれ譲渡されたもの、いわゆる二重譲渡がなされたものというべきであるから、すすんで、本件即決和解にもとづく本件登記の効力について判断するに、本件登記は、マツが、弥三郎の原告に対する本件土地の所有権移転登記手続義務につき、民事訴訟法二〇一条一項にいう承継人に該当するとして発付された承継執行文に基づくものであるところ、前記三2に説示のとおり、マツは、弥三郎から本件土地の譲受人たる地位の譲渡を受けたものであり、したがって、マツは、弥三郎の原告に対する本件土地の所有権移転登記手続義務を引受けたものではないから、右登記手続をなすべき債務につき、弥三郎の承継人ではないことが明らかであり、それ故、本件登記は、違法な承継執行文による無効な登記といわざるをえない。
五 そうすると、原告は、本件土地の所有権を取得したことをもって、被告に対して対抗することができないものといわざるをえず、したがって、その余の点を判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。
(反訴について)
一 請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、本件土地につき、土地区画整理法による本換地処分の公告が昭和五一年一二月一八日ころになされ、保留地として設定されたことを認めることができる。
二 請求原因2の事実のうち、訴外組合と弥三郎間の売買が予約であることを除き、その余の事実は当事者間に争いがなく、右売買が、訴外組合(埼玉県)において、本換地処分により、保留地とされた本件土地の所有権を取得することを停止条件として効力を生ずるものであることは、本訴についての前記判示一のとおりであるから、これを引用する。
三 《証拠省略》によれば、請求原因4の事実を認めることができ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。
右事実によれば、マツは、被告に対し、本件土地の所有権移転登記手続をなすべき義務があるというべきである。
四 請求原因5の事実は当事者間に争いがない。
五 原告は、本訴の請求原因1ないし5記載のとおり、本件即決和解にもとづき有効に本件登記をなした旨を主張するが、本件登記が違法な承継執行文によりなされた無効なものであることは、本訴についての前記判示四のとおりであるから、これを引用する。
六 以上によれば、被告は、原告に対し、本件土地の所有権を有することの確認を求めうべく、また、マツは、原告に対し、本件登記の抹消登記手続請求権を有するものというべきであるから、被告は、被告のマツに対する売買による本件土地の所有権移転登記手続請求権を保全するため、本件登記の右抹消登記手続請求権を代位行使しうるものというべき筋合であって、被告の反訴請求は理由がある。
(結論)
よって、原告の本訴請求を棄却し、被告の反訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 遠藤賢治)
<以下省略>