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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)11697号 判決 1980年1月31日

原告 高橋満枝

右訴訟代理人弁護士 樋口光善

同 高橋むつき

被告 株式会社第一勧業銀行

右代表者代表取締役 村本周三

右訴訟代理人弁護士 宮沢邦夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

〔請求の趣旨〕

一  被告は原告に対し金五七万五〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

〔請求の趣旨に対する答弁〕

主文同旨

第二当事者の主張

〔請求原因〕

一  原告は、昭和五三年八月一五日ころ、訴外日光建設株式会社から同会社振出の金額一五万円の小切手の割引きの申し込みを受けたので、日光建設の信用調査を原告と当座取引のある訴外東京信用金庫高田馬場支店に、訴外日光建設の取引銀行である被告神田支店に対して照会することを依頼した。

二  東京信用金庫高田馬場支店貸付係が、前同日ころ、原告の右依頼に応じて、被告神田支店に対し、電話により日光建設の信用照会をしたところ、被告神田支店貸付係は、「日光建設と当座取引があります。そのくらいの金額の小切手の決済なら懸念はありません。」と答えたので、東京信用金庫の職員は、原告にその旨を報告した。

三  ところで日光建設は、昭和五三年三月二九日、東京手形交換所の銀行取引停止処分に付されていたにもかかわらず、被告の職員は右事実を看過して前記記載のとおりの回答をした。

四1  原告は第二項の信用照会に対する回答を信頼していたので、昭和五三年九月一三日ころ、日光建設の依頼に応じて額面金額五〇万円の小切手(以下、本件小切手(一)という)の割引きを行ない、更に、同月一四日、日光建設の要請により本件小切手(一)を金額五〇万円、振出日同月二一日、支払人被告神田支店の小切手(以下、本件小切手(二)という)に差し換えた。

2  しかるに、被告は、昭和五三年九月二七日、日光建設との銀行取引を停止したため、原告は本件小切手(二)の取立が不可能となり、右小切手金額五〇万円に相当する損害を受けた。

五  ところで第二項の回答をした被告職員は、被告神田支店内で貸付係を担当しており、同人がなした右第二項の信用照会に対する回答は被告会社の事業の執行についてなされたもので、既に日光建設が銀行取引停止処分がなされているのにこれを見落したことは、銀行員として、明白かつ基本的な事実を見落したもので重大なる過失があるというべきである。

六  原告は本件の処理を弁護士樋口光善、同高橋むつきに委任し、同人らに対し着手金として金七万五〇〇〇円を支払った。

七  よって原告は被告に対し、民法七一五条に基づき、本件小切手(二)の額面五〇万円及び弁護士に対する着手金七万五〇〇〇円の合計金五七万五〇〇〇円及びこれに対する弁済期の経過した後である訴状送達の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

〔請求原因に対する認否〕

一  請求原因第一項の事実中、被告神田支店が日光建設の取引銀行であることは認めるが、その余は知らない。

二  同第二項の事実は否認する。

三  同第三項の事実中、日光建設が、昭和五三年三月二九日、東京手形交換所の銀行取引停止処分に付されたことは認めるが、その余は否認する。

四  同第四項の事実中、1は知らない。2のうち、被告会社が、昭和五三年九月二七日、日光建設との取引を停止したことは認めるが、その余は否認する。

五  同第五項の事実は否認し、争う。

六  同第六項の事実は知らない。

〔抗弁〕

東京都内の金融機関相互間でなされる取引先の信用照会に対する回答については、回答した金融機関は法律上の責任を追及されない旨の慣行がある。

〔抗弁に対する認否〕

抗弁事実は知らない。

〔再抗弁〕

仮りに、被告主張の慣行があるとしても、被告の職員の回答は重大なる過失に基づくものであり、このような場合は、被告は免責されないものと解すべきである。

〔再抗弁に対する認否〕

再抗弁事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第一項については、被告神田支店が日光建設の取引銀行であることは当事者間に争いがなく、その他は《証拠省略》により、これを認めることができる。

二  同第二項のうち、東京信用金庫高田馬場支店貸付係の職員が原告の依頼に応じて、昭和五三年八月一五日ころ、被告神田支店に電話により信用照会したこと及び右職員が原告に対し、被告神田支店の職員の回答を受けて、その信用照会に対する回答を報告したことは、《証拠省略》により、これを認めることができ、また被告神田支店職員の回答内容については《証拠省略》中には右職員がほぼ請求原因第二項のような回答をした旨の供述部分があるが、右供述は伝聞に過ぎず、《証拠省略》中にはこれを全面的に否定する趣旨の供述部分があること、《証拠省略》を総合すれば、被告は、昭和五三年九月二七日まで他の金融機関からの注意があるまで、日光建設との取引は継続していたこと(右事実は後記のとおり当事者間に争いがない。)、原告が日光建設から割引を依頼された小切手は、同年八月一五日ころ、決済されたことが認められ、以上からすれば、被告神田支店の職員の回答では日光建設が銀行取引停止処分に付されたことを告げなかったことを認めることができる。

三  同第三項については日光建設が、昭和五三年三月二九日、東京手形交換所の銀行取引停止処分に付されたことは当事者間に争いがなく、前記第二項認定によれば被告神田支店職員が銀行取引停止処分を看過したことを認めることができる。

四1  請求原因第四項1の事実のうち、原告が本件小切手(一)を割引き、更にその後右小切手が本件小切手(二)に差し換えられたことは、《証拠省略》によれば、これを認めることができる。

2  ところで、原告は、本件小切手(一)、(二)の割引をしたのは信用照会に対する被告神田支店の職員の回答を信頼していたためであると主張し、前記認定のとおり、被告神田支店の職員は、金融機関相互間の信用照会に対する回答に際して、日光建設の銀行取引停止処分を看過して回答したことは、銀行員としての注意義務に違反したことが認定でき、更に《証拠省略》によれば、原告は小切手・手形等の割引をなすか否かの決定に際して、一般的には金融機関に対する信用照会の結果にかなりの程度依存していることが認められるが、他方本件の日光建設との小切手割引の場合には信用照会を依頼したのは日光建設から昭和五三年八月一五日ころ申し込まれた金額一五万円、振出日同日の小切手の割引の判断資料とすることであったところ、本件小切手(一)、(二)の割引は右回答のなされた約一か月後に日光建設から依頼されたものであり、かつその金額が金五〇万円であったこと、右小切手の割引に際して原告は日光建設の資金繰りがかなり苦しいことを認識しつつも右割引依頼に応じたこと、そして原告は、昭和五三年九月一四日、訴外日光建設の申し入れにより本件小切手(一)を本件小切手(二)に差し換えることに応じたこと、及び右差し換えの理由が訴外日光建設のスポンサー的立場にあると思われる訴外森永忠一が本件小切手(二)に裏書きし、右小切手の支払を担保したためであったこと等の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》以上の事実によれば、原告が本件小切手(一)、(二)の割引に応じたのは、被告職員の回答があったとしても、専ら、右回答以外の理由に基づいたものであると判断することができ、他に原告の主張を裏付ける証拠がない以上、原告の主張は理由がない。

3  また、被告神田支店の職員の回答は、《証拠省略》によれば、金融機関相互間の信用照会は照会をなした金融機関が外部にその回答結果を漏洩しないという慣行のもとで運用されているものと認めることができるので、たまたま照会した金融機関がその回答結果を第三者にそのまま伝えることがあったとしても、回答した金融機関はそのことについて通常予見することができず、たとえその回答の結果によって第三者に損害が生じたとしても、回答した金融機関はその責任を負わないものと解するのが相当であり、原告が右回答を認識し、利用することを被告が知り得たことについての主張、立証がなされていない。

4  以上によれば、被告神田支店の職員の回答と原告が主張する損害との間には、相当因果関係があるとは認めることができない(なお、《証拠省略》中には、被告が後日原告主張の損害を支払うことを確認した旨の供述部分があるが、右供述部分は明確ではなく、右供述部分で被告の責任を認めることができないことは明らかである。)。

五  以上の次第で、本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小松峻)

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