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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)12160号 判決 1981年1月29日

原告

露崎元彌

右訴訟代理人

佐藤義彌

外一名

被告

道佛訓

被告

太平洋野球連盟

右代表者会長

工藤信一良

右被告両名訴訟代理人

岡崎隆治

外五名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因1の事実並びに同2の事実のうち、昭和五〇年七月二七日に新潟球場においていずれも被告連盟加盟の近鉄バッファローズ対ロッテオリオンズのダブルヘッダー試合が行われ、その第二試合において原告が主審、被告道佛が右翼の審判を勤めたこと及び同年八月二一日に後楽園球場において同じく日本ハムファイターズ対太平洋クラブライオンズの試合が行われ、原告が主審、被告道佛が二塁の塁審を勤めたこと、原告と被告連盟との間における審判員契約が昭和五二年度をもつて終了したことは当事者間に争いがない。

二そこで、原告が主張する被告道佛の違法行為について判断するに、

前記両試合が行われた際、被告道佛がロッテオリオンズ及び太平洋クラブライオンズの監督、コーチ、選手等に対し、主審を務める原告の判定につき弥次、非難を集中するよう要請し煽動したことについては、<証拠>中にはこれに沿うかのような部分があるが、右はいずれも伝聞を内容とするものにすぎないものであつて、右事実を明確に否定する被告道佛本人尋問の結果に照らすならば、いずれもたやすく措信し難く、他にこれを認める証拠はない。

却つて、<証拠>によると、昭和五〇年七、八月当時、原告が審判員として下した判定に対して、選手、監督、コーチなどからの不満が多く、審判部長であつた被告道佛に対し、再三にわたつて、原告を球審から外すなどの措置を要求して来たこと、これに対し被告道佛は被告連盟の事務局に報告することもあつたが、時には直接本人(原告)に抗議するように答えたこともあつたことがあるが、それ以上に特に被告道佛が理由もなく、原告の審判としての判定に抗議し、弥次るよう働きかけたものではないと認められる。そして、原告の判定に対する抗議、非難に対し、直接本人に抗議(判定に対する試合中の抗議を含めて)するよう応答することは何ら非難されるべき行為には当らないこと論をまたないところである。

また、右試合における原告の判定に対する弥次、抗議の程度についても、原告本人尋問の結果によれば、監督、選手から抗議及び弥次、罵声が頻繁にあつたとの供述があるが<証拠>によるとプロ野球の試合において審判員の判定に対し、監督、選手側からしばしば抗議がなされ弥次が飛ばされることは、特に異例のことではなく、むしろ日常的なことと認められるところ、右当日の試合において原告のなした判定に対し特に通常なされる程度を著しく超え、原告の審判員としての業務の遂行ないし試合の進行を妨げる程の抗議、弥次がなされたものとは、本件全証拠によつてもこれを認めることができない。のみならず、<証拠>によると、そもそも審判員に対する評価は、同人の有する技量の点を離れ、単に担当した二、三の試合における選手等からの抗議、弥次等の多少によつて左右されるものではないことが認められる。したがつて、以上いずれの点からしても、原告の右主張は失当というべきである。

三以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(川上正俊 持本健司 林圭介)

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