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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)12418号 判決 1981年10月27日

原告

株式会社日本フローラルアート

右代表者

吉森洋二

右訴訟代理人

藤本昭

被告

新潟電気工事株式会社

右代表者

橘正信

右訴訟代理人

長野源信

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  当事者の主張

(請求原因)

一  原告は、手芸等の通信教育ならびに時計等の通信販売を業とし、被告は電気工事の設計、施工を業とする、いずれも株式会社である。

二  原告は、昭和五三年四月二二日被告との間で、被告の考案製造にかかる音響機器「パノラミツクPS7型」(以下本件製品という。)の継続取引に関する契約および試験販売として四〇〇台を、代金六〇〇万円で買い受ける旨の契約(以下本件基本契約および本件試験販売契約という。)を締結し同日、現金三〇〇万円と支払期日を昭和五三年六月二〇日とする約束手形一通を振出し交付した。

1 第一次請求

(一) 原告が被告と右契約を締結したのは、被告の「本件製品は、製品開発費だけでも約二、〇〇〇万円を費した画期的な音響機器で、類似製品は全くない」旨の説明を信じていたからであるが、右契約を締結した直後に、本件製品と同じ機能を有する商品名「アンビエンス・ステレオ・コントローラ」が、既に松下電器株式会社からより低額で販売されていることが判明した。

(二) 而うして、その後の原告の調査によると、右「アンビエンス・ステレオ・コントローラ」は、昭和五二年一〇月ごろから製造販売されているが、被告にはナショナルの製品を製造販売している取引先があることからすると、被告はこの事実を充分知悉していたとみられるのであり、それにもかかわらず、本件製品の性能等充分な説明をすることなく契約の締結を急がせたこと、また、昭和五三年四月二三日付報知新聞に広告を出して代理店を募集し、店頭販売を行なうといつておきながら、現在に至るまで行なつていないことからすると、被告は当初から販売出来る可能性のない本件製品を口実にして、代金名下に原告から金員を騙取したのである。

(三) 仮に、被告に原告を欺罔する故意がなかつたとしても、原告と契約を締結するに際し、類似競争製品の有無及びその内容を調査しなかつたことが、過失に該当する。

2 第二次請求

(一) 仮に1の不法行為が認められないとしても、昭和五三年六月八日、原告の常務取締役木場慶充と被告の専務取締役橘元義とは、それぞれ原・被告を代表して、二記載の本件試験売買契約の内容を、被告は原告に対し、本件製品と同種の音響機器を一台当り金六、〇〇〇円で四〇〇台を製作して引き渡し、代金二四〇万円は、原告が昭和五三年四月二二日に交付した金六〇〇万円のうちからこれに充て、残額の金三六〇万円のうち、金三〇〇万円は同年九月二〇日に、金六〇万円は同年一二月末日に返済する旨の契約に変更した。

(二) 仮に、右橘に被告を代表する権限が授与されていなかつたとしても、専務取締役の名称を付すことを認めていたのであるから、被告は原告を含む第三者に対し、右橘に対し被告を代表する権限を与えた旨表示した。

(三) ところが、被告は昭和五三年七月三日突如右音響機器の製作を拒否したので、同日原告と被告とは右契約を合意解除した。

3 第三次請求

仮に12の主張が採用されないとしても、原告は二記載の本件試験販売売買契約(実質は製作物供給契約)を締結した直後である昭和五三年四月二七日、本件製品と同機能の機器が、松下電器株式会社から販売されているのを知り、同日被告に対し、製造を中止させ、同年八月一八日民法六四一条に基づき、契約を解除した。<以下、事実省略>

理由

一原告が通信販売を業とし、被告が電気工事の設計・施行を業とする株式会社であること、被告が原告と原告主張の売買契約(但し、契約年月日を除く。)を締結し、その代金として金六〇〇万円を受領しているについては当事者間に争いがない。

二第一次請求について

1  原告は、右契約は被告が販売出来る可能性のない本件製品を口実にして、代金名下に、原告から金員を騙取するために、原告を欺いて締結させた旨主張するが、本件に顕われた全ての証拠を検討してもこれを認めるに足りない。

かえつて、<証拠>によると、本件製品は、被告が長期間に亘る資金的援助の結果によつて、村田敏が考案したもので、村田は昭和五二年一一月一二日疑似音場装置の名称で、特許出願中であり、現に試作品も完成していたこと、被告としても本件製品を被告の主力商品にすることを考えていたことが認められる。

更に、原告は被告が契約を締結するに際し、類似競争商品の有無及びその内容を調査しなかつたことが過失に該当すると主張するが、一般に商取引においては、当事者は自からの知識経験を利用して自己の利益を図り、又護らねばならないのであり、かかる観点からすれば売主に目的物と類似し、競争する商品の存否について、調査しこれを開陳する義務があるとはいえないのであるから、このような義務の存在を前提とする原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく、主張自体失当である。

三第二次請求について

証人木場慶充、同奥烈の各証言中の一部には、原告の常務取締役木場と被告の常務取締役である橘元義との間で、昭和五三年六月八日に、本件試験売買契約を原告主張の内容の契約に変更する合意ができた旨の原告主張に副つた部分が存するのであるが、右各証言は、証人橘元義の証言、被告代表者の供述に照らすとたやすく信用することができず、他にこれをみとめるに足りる適確な証拠はない。

すると、その余の点について判断するまでもなく、原告の第二次請求が理由がないこと明らかである。

四第三次請求について

<証拠>によると、原告が被告に対し昭和五三年八月一七日付内容証明郵便で、当該郵便到着後、二週間の期間を定めて売買代金六〇〇万円の返還を催告し、右郵便は翌一八日被告に到達していることが認められ、以上によると原告は遅くとも昭和五三年八月一七日までに、本件試験販売契約を解除する旨の意思表示をしていたことが推認できる。

而うして、<証拠>によると、原告が、本件試験販売契約を解除した理由が昭和四七年四月二七日朝日新聞紙上に掲載された広告によつて、本件製品と同じ機能を有すると想像される音響機器が商品名「コンビエンス・コントロール」として、既に松下電器から、本件製品の予定販売価格三万六、八〇〇円に対し、一万九、八〇〇円で販売されていることを知つたためであることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

すると、本件試験販売契約を解除した当時、被告の責に帰すべき事由があつたものとは認め難いと言わなくてはならない。

そこで原告は、本件試験販売契約が実質的には製作物供給契約であり、民法六四一条に基づく解除である旨主張するので、この解除の効力の点について検討する。

判旨ところで、ある物を製作して、これを注文者に引き渡すことを内容とする契約(製作物供給契約)は、財産権の移転ということを強調すれば、売買の概念に包摂されるように思われるが、物を製作するということに着目するかぎり、請負の要素も存するといえるのであるが、このような契約において、売買の規定を適用すべきか、請負の規定によるかは、製作物が代替物のときは、売買の規定を、不代替物のときには請負の規定を、それぞれ適用するとするのが衡平の観点から相当である。けだし、代替物であれば給付物の個別化もしくは特定が行なわれていないのであるから、かならずしも、供給者自から製作する必要がないのに対し、不代替物においては、供給者自からが製作することが必要で目的物の引き渡しは仕事の完成の一部とみられるからである。

これを、本件についてみると、<証拠>によると、本件製品は昭和五三年一月ごろには、一応試作品が完成するまでになつていたが、被告はその商業化するにあたつて資金力が充分でないことから、原告の販売網を利用する目的で、取引銀行のもと支店長の紹介で、原告と接触し、昭和五三年四月二二日本件基本契約および試験販売契約を締結したこと、原告は当初から本件製品と類似する商品の存在を疑い、そこで先ず取り敢えず四〇〇台を購入して、これを試験的に、通信販売するために締結したのが本件試験販売契約であること、その結果が良好であつたときに、原告は初めて本件製品を継続的に取り扱うことを考えついたのであり、本件基本契約が効力を生ずるのは、試験販売において継続販売が可能と判断されたときと定められていたこと、本件基本契約が効力を生じた時点では、原告は本件製品を月間一、五〇〇台程度取り扱うことを予定していたが、被告は原告の通信販売とは別に、店頭販売を行なうことを考えていたこと、

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定した事実によると、本件製品は大量に同種のものが生産されることを期待された商品であつて、個々の製品についていえば、一定の規格に適合してさえすればよいのであるから、不代替物というに妨げないのであつて、本件試験販売契約には売買に関する規定を適用するのが相当である。従つて、法定解除権が存在するときにのみ、解除は認められるところ、既に認定したとおり、原告が右契約を解除した当時、被告に責を負うべき点があつたとは認め難いのであるから、右契約解除の効力は生じないというべきである。

四結論

このようなわけで、原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のように判決する。

(畔柳正義)

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