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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)12568号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

そこで、右解約の申入れに正当事由があるかどうかについて判断する。

1 原告及び原告のために本件建物の賃貸を仲介した不動産業者である岩澤義治が、賃貸借当初において被告に対し、原告が地方に転勤するので本件建物を賃貸したこと及び原告が再び転勤になつて東京に戻つたときは本件建物を明け渡してもらいたいことを話したことは、前認定のとおりである。本件建物の賃料は、昭和四一年三月二一日から昭和四七年三月三一日まで一か月五万五、〇〇〇円であつたが、昭和四七年四月一日から一か月五万七、〇〇〇円、昭和五一年三月二一日から一か月六万五、〇〇〇円にそれぞれ増額されたこと、本件建物の修繕費を被告からの請求に従つて原告が負担してきたことは、当事者間に争いがない。原告本人の供述によれば、原告が負担した右修繕費の額は、ペンキの塗替えなど合計約五〇万円であることが認められる。

2 <証拠>によれば、原告は、昭和五一年一二月、トヨタ自動車工業株式会社を退職して、同和工業株式会社に入社したこと、同和工業は、昭和五三年一月の取締役会で、関東地区への業務の拡張を正式に決め、その担当者に専務取締役(昭和五四年一月一八日以降は代表取締役)である原告を指名し、原告が東京に滞在することの必要が生じたこと、その後、同和工業は、昭和五五年四月一日、日本工芸工業株式会社に吸収合併され、原告は、日本工芸工業の技術管掌取締役(副社長)に就任したこと、原告は、神奈川県横浜市鶴見区にある同社の東京支店に毎週二日ぐらい出勤しており、そのため、一週間のうち休日を除いて二日ぐらいを東京で過ごし、東京都福生市にある後記アパートを本拠として名古屋、大阪などに出張していることが認められる。

3 <証拠>によれば、原告は、昭和五四年四月、東京都福生市に二LDK(六畳一間、四畳半一間、LDK約九畳)のアパートを一か月五万九、〇〇〇円の家賃で借り、奈良女子大学に在学する長女を除き、妻、高校生の長男及び八五歳の母と一緒に生活していること、原告は昭和四一年、愛知県岡崎市にある原告所有の宅地266.81平方メートルの地上に床面積85.95平方メートルのプレハブ住宅を建築し、昭和五二年の春、これを床面積約138.84平方メートルに増築したこと、しかし、原告は、右建物の必要性が減少したので、早期にこれを売却処分する積もりであり、被告から本件建物の明渡しを受けたときは、本件建物を取り壊して、その敷地(面積約264.46平方メートル)上に家族で住める住宅を建築することを計画していることが認められる。

4 被告の家族構成は、被告夫婦及びその三男二女の七人であるが、長男、次男及び長女はそれぞれ独立し、被告夫婦と本件建物に同居している子供は、三男(三〇歳すぎ)及ぶ次女(三七歳ぐらい)の二人だけであり、この二人も既に就職していること、本件建物は、二階建の三DK(六畳二間、八畳一間、DK一〇畳)であることは、被告において明らかに争わないので、これを自白したものとみなす。被告本人の供述によれば、被告は、昭和四一年ころ、農林省の役人を退官し、それまで居住していた官舎を立ち退いたので、本件建物を賃借することになつたこと、被告は、その後勤務していた平塚グリーンカントリークラブを限職しており、世田谷働く高齢者の会副会長であり、世田谷区高齢者事業団の仕事をしていることが認められる。

以上に認定した事実に基づいて考えるに、原告は、東京都世田谷区に約264.46平方メートルの高価な土地及びその地上に本件建物を所有していながら、勤務先の都合で地方に転勤したことからやむを得ず本件建物を被告に賃貸することになり、現在は、勤務先も変わつて東京に生活の本拠があるのに、被告から本件建物の明渡しを受けられないため、狭いアパートで家族四人が借家住いをしており、被告のために現在の生活状態を継続させることは酷であるといわざるを得ない。他方、被告も、いずれは原告が東京に戻つてきて本件建物の明渡しを求める意思であることを賃貸借当初から知つていたとはいえ、農林省の役人を退職した後、既に十数年間も本件建物に居住し、その居住地に密接な生活基盤を持つているのである。以上のような当事者双方の利害関係その他諸般の事情を比較考量するときは、前記解約の申入れに正当事由があることを直ちに肯定することは相当でない。

四しかしながら、既に認定した被告の家族構成、生活状態及び現下の借家事情からすれば、被告夫婦及びその子供二人が同居するに足りる規模の借家は、本件建物の付近においても入手することが困難ではないと考えられ、原告が本件建物の明渡しを求めるについて相当額の立退料を支払うときは、被告が他に移転することによつて被るべき財産上の損害(不動産業者に支払う礼金、代替家屋賃借のための敷金、移転費、住所移転通知の通信費など)を補償することができるから、既に認定した当事者双方の諸事情に加えて、右相当額の立退料の支払を補強条件とすることにより、原告は、本件賃貸借契約の解約申入れについて正当事由を具備するものというべきである。原告が昭和五四年一一月一五日の本件口頭弁論期日において被告に対し、被告から本件建物の明渡しを受けるのと引換えに立退料二〇〇万円を支払う用意があることを申し出たことは、当事者間に争いがない。右立退料の額は、前記補強条件を充足し得る相当な額であると認められる。

そうだとすると、本件賃貸借契約は、原告が昭和五四年一月一五日にした右解約の申入れにより、その六か月後である昭和五五年五月一五日の軽過をもつて終了したものというべきである。

(安達敬)

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