東京地方裁判所 昭和53年(ワ)12890号 判決 1981年12月21日
原告 東健機材株式会社
右代表者代表取締役 布山忠良
右訴訟代理人弁護士 宮文弘
被告 東陽工業株式会社
右代表者代表取締役 大角春夫
右訴訟代理人弁護士 富永義政
同 福田治栄
同 山崎陽久
同 八木橋伸之
右訴訟復代理人弁護士 田島恒子
主文
一 本件訴のうち主位的請求部分を却下する。
二 被告は原告に対し金七九万四〇〇〇円及びこれに対する昭和五一年九月二一日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払義務のあることを確認する。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の申立
一 原告
1 主位的請求
(一) 被告は原告に対し金二八七万二三四一円及びこれに対する昭和五一年九月二一日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
(三) 仮執行宣言
2 予備的請求
(一) 被告は原告に対し金二八七万二三四一円及びこれに対する昭和五一年九月二一日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払義務のあることを確認する。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 本案前
本件訴をいずれも却下する。
2 本案
(一) 原告の請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は、建築材料等の販売を業とする会社である。
2 原告は被告に対し、毎月二〇日締め翌月二〇日支払の約で、昭和五一年五月二一日から同年七月三一日までの間、空調機器並びに水道配管材料等を売渡したが、その売掛代金は金五八一万〇二六一円である。
ところが、被告は金二九三万七九二〇円を弁済したのみである。
3 よって、原告は被告に対し、主位的に右売掛残代金二八七万二三四一円とこれに対する最終の弁済期日の翌日である昭和五一年九月二一日から完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、右主位的請求が不適法であれば予備的に被告が原告に対し右金員の支払義務があることの確認を求める。
二 被告の本案前の主張
原告の被告に対する本訴請求にかかる売掛代金債権について、原告の債権者訴外中野優の申立により昭和五二年八月五日債権差押及び取立命令(当庁昭和五二年(ル)第三一六八号、同年(ヲ)第六〇九〇号)が発せられ、それが被告に送達されてその効力を生じた後に本件訴が提起されたのであるから、本件訴は、主位的予備的請求のいずれも訴訟追行権なき者の起訴として不適法であり、却下されるべきである。
すなわち、原告は右取立命令後もなお被差押債権の主体たる地位を失わないが、取立命令が効力を生じた後は差押債権者に被差押債権の管理処分権が与えられ、反面差押債務者は管理処分権を失うことになるから、原告は被差押債権につき給付訴訟を提起し追行する権限はもとより、保存行為として確認訴訟を提起し追行する権限もないというべきである。
三 本案前の主張に対する原告の答弁及び反論
本件売掛代金債権につき被告主張の差押及び取立命令がなされ、それが効力を生じた後に本件訴が提起されたことは認めるが、本件訴が不適法であるとの主張は争う。
右のような場合、即時的給付判決も現実の取立執行を制限すれば差支えないと解されるし、また取立命令は転付命令と異なり債権者に債権の取立権能を付与するにすぎず原告が当該債権の主体であることに変りないから、少くとも債権の存在の確認を求めることは許されなければならない。
四 請求原因に対する被告の認否及び主張
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実のうち、被告が原告から原告主張の期間内に継続的に水道配管材料等を買受けたこと、被告が原告主張の金員を弁済したことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 原告主張の取引期間内、被告は原告に対し日本住宅公団印西地区第二六住宅工事現場分として代金三五五万円相当の資材の注文をしたところ、実際納入された資材は代金三二九万七三二八円相当分であり、それを値引された代金二九三万七九二〇円を昭和五一年七月一〇日原告に弁済した。
また大蔵省宿舎工事現場分として代金一四三万円相当の資材を注文したところ、実際は代金八七万二六九八円相当の資材が納入されたにすぎず、それを代金七九万四〇〇〇円に値引された。
被告は、右売掛残代金の支払を留保しているが、それは原告が昭和五一年七月下旬倒産し、多数の債権者から支払請求を受け、支払うべき相手が不明となったためである。
第三証拠関係《省略》
理由
一 本案前の主張について
原告の被告に対する本訴請求にかかる売掛代金債権が、原告の債権者訴外中野優の申立により昭和五二年八月五日債権差押及び取立命令が発せられ、それが被告に送達されてその効力を生じた後に本件訴が提起されたことは当事者間に争いがない。
右のように金銭債権につき差押及び取立命令がなされた場合、取立権能は差押債権者が有し差押債務者である被差押債権の債権者にはないから、右差押債務者は給付訴訟についての訴訟追行権を有しないというべきであるが、右取立命令によっては債権自体の帰属は変らないから差押債務者はその確認訴訟の追行権を失うことはないものと解される。
従って、本件訴訟において給付判決を求める原告の主位的請求は不適法な訴であるから却下を免れないが、予備的請求である確認の訴は適法であるといわねばならない。
二 本案の予備的請求について
1 請求原因1の事実及び原告が被告に対し昭和五一年五月二一日から同年七月三一日までの間継続的に水道配管材料等を売渡したこと、被告が右売掛代金の一部として金二九三万七九二〇円を弁済したことは当事者間に争いがない。
2 原告は、右取引期間内に被告に対し代金五八一万〇二六一円売掛けた旨主張するところ、証人伊藤和夫の証言により成立を認めることができる甲第一号証の一、二及び原告代表者本人(第一、二回)の供述は右主張に符合するけれども、甲第一号証の一、二の売上欄の記載は、右証人の証言によると、原告の従業員が記載したもので、税理士である同証人が資料によって確認した数値でないことが認められるうえ、それが如何なる資料に基いて記帳したものか明らかでないから信憑性に乏しく、更に以下の証拠に照らすと、右供述等は俄かに措信することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。
却って、《証拠省略》によると、被告から原告に対し前記取引期間内である昭和五一年六月一日付で納入場所を日本住宅公団印西地区第二六住宅として代金三五五万円の注文書が出されており、同じく同月五日には、納入場所を大蔵省現場として代金一四三万円の注文書が出されていること、現実の資材の納入は右注文書交付前からなされているが、被告の現場では納品の都度納品書、請求書と照合するなど点検しており、その結果原告から注文書通り納品されていない資材がかなりあったこと、原、被告間の取引では毎月二〇日締め翌月一〇日払の決済条件が約されていたところ、昭和五一年六月二〇日付で原告から被告に対し六月分の請求書が出されているが、それに記載されていた三六二万九〇五二円の請求額が訂正され、三二九万七三二八円とされたうえ、一〇・九パーセントの三五万九四〇八円が出精値引され結局金二九三万七九二〇円が請求額とされていること、右の訂正は現実に納入されていないものなどが訂正されないまま原告から請求されたため被告側が訂正したものであるが、この訂正された金額により翌月一〇日の支払期日に異議なく決済されていること、昭和五一年七月下旬原告が倒産したため、同月二〇日付の原告の請求書は出されていないが、資材を納入する都度出されていた請求書の合計代金額は金八七万二六九八円であること、右納品額が前記注文額に足りないのは原告が倒産し以後納品できなかったためであり、代金額に約定された九パーセント七万八五四三円の出精値引をすると、七月分の代金は金七九万四〇〇〇円(一〇〇円以下切捨て)となること、なお前記値引のいずれも、原告の担当者と被告の現場の担当者が交渉のうえ合意されたものであって、右程度の出精値引は当該業界の取引において通常行われていること、以上のほか原、被告間で水道配管等の資材の取引はなされておらず、注文書、契約書の類も存しないこと、被告は昭和五〇年一〇月一日から昭和五一年九月三〇日までの事業年度の確定申告において原告に対する買掛金債務七九万四〇〇〇円と申告しており、また前記差押における第三債務者に対する陳述命令に対しても、右額の買掛金債務の存することを認める旨昭和五二年八月一一日付けで回答していること、以上の事実が認められ、右認定に反する前掲原告代表者本人(第一、二回)の供述は措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右事実によると、原告の被告に対する昭和五一年五月二一日から同年七月三一日までの売掛代金は金三七三万一九二〇円であり、そのうち金二九三万七九二〇円が弁済されているので、売掛残代金は金七九万四〇〇〇円であるということになる。
3 そうすると、被告は原告に対し右売掛残代金七九万四〇〇〇円とこれに対するその弁済期日後であることが明らかな昭和五一年九月二一日から完済に至るまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払義務を負うにすぎないということができる。
三 よって原告の本件訴のうち、主位的請求部分は不適法であるから却下することとし、予備的請求については、被告が原告に対し金七九万四〇〇〇円とこれに対する昭和五一年九月二一日から完済に至るまで年六分の割合による金員の支払義務の確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 佐々木寅男)