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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)1416号 判決 1979年4月16日

原告(反訴被告)

中部電化工業株式会社

右訴訟代理人

布井要太郎

右輔佐人弁理士

密山順

被告

雪印種苗株式会社

右訴訟代理人

関一郎

右訴訟復代理人

小林章一

被告(反訴原告)

株式会社新明製作所

右訴訟代理人

平岩敬一

右輔佐人弁理士

横溝成美

主文

原告(反訴被告)の請求を棄却する。

被告(反訴原告)株式会社新明製作所と原告(反訴被告)との間で、昭和五一年五月一二日付出願(同年特許願第五四五四八号)にかかる、名称を「穀物の処理方法とその装置」とする発明についての特許を受ける権利は、被告(反訴原告)株式会社新明製作所がこれを有することを確認する。

訴訟費用は本訴及び反訴を通じて全部原告(反訴被告)の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判<省略>

第二  当事者の主張

一  原告の本訴請求の原因

1  山村未知男は、次の経緯により本件発明を完成し、これにつき特許を受ける権利(本件権利)を取得した。

すなわち、右山村は、各種機械装置の設計、製作等を業とする株式会社山村機械製作所の代表者であるが、昭和五〇年一二月頃集塵装置を見学するため、日化設備販売株式会社の佐藤勲とともに被告雪印種苗株式会社(以下、「被告雪印種苗」という。)を訪問したところ、同被告の工務課長高橋増次から圧扁飼料乾燥機の製作、研究の依頼を受けた。山村は、調査の結果、従前の装置においては飼料を圧扁する際のロス(粉砕損耗分)が多く、なお解決すべき技術的課題が残されていることを知り、一旦は右の依頼を断つたのであるが、その後再び高橋から右同様の依頼を受けたため、これに応ずることとした。そして、山村は、昭和五一年二月頃から同年三月頃までの間に、まず、(1)とうきびを蒸し釜で蒸すこと、(2)とうきびを蒸した後、約三〇〇度の温度で加熱すること及び(3)一晩湯につけたとうきびを熱すること、という三種類の実験を行つたところ、これらの実験によつては飼料を圧扁する際のロスを少なくするという所期の目的を達することはできなかつたものの、その間「蒸気によつてとうきびの内部まで浸透させる」ことに着想し、次いで、被告雪印種苗江別工場の蒸気ボイラー並びに自ら試験機として製作した加圧タンク及び圧扁ローラー機を使用して、種々の圧力条件のもとに実験を重ねた結果、一平方センチメートル当たり四キログラム重以上の圧力を加えれば、所期の目的に合わせて、右実験中に着想した澱粉のアルフア化という目的をも達成しうることを発見した(右実験の詳細については甲第四二号証参照)。この間、山村は、参考文献として「鋳型用澱粉」なる著書(甲第五六号証の一ないし三)を利用するとともに、北海道立工業試験場の吉町晃一から得た助言を参考にした。かくして、山村は、昭和五一年三月中には高圧蒸気を利用した加圧、加熱方式による圧扁飼料乾燥機の実用化の目途をつけて本件発明を完成する一方、右装置の製作見積り価格を金一五〇〇万円、いわゆるランニングコストを飼料一トン当たり金六〇〇円と算定し、前記日化設備販売を通じて被告雪印種苗に対し、右装置の製作が可能である旨及びその製作見積り価格等を報告した。次いで、昭和五一年四月二一日右日化設備販売から被告雪印種苗に対し、「穀類圧篇装置仕様書」(乙第一五号証)が提出され、同年五月一九日には両会社間に右装置に関する工事請負契約(乙第一六号証)が締結された。そして、山村を代表者とする前記山村機械製作所は、右日化設備販売の下請けとして、同年五月二〇日頃から右装置の製作を開始し、同年七月頃にはこれを完成し、試運転を経た後納入した。なお、山村は右装置の製作に当たり各種図面(甲第八ないし第四〇号証)を作成したが、これらの図面について前記高橋から修正を受けたようなことはない。

ところで、山村は、この間の昭和五一年五月一二日本件発明につき、名称を「穀物の処理方法とその装置」として、特許出願(同年特許願第五四五四八号)をしたところ、その願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

「(1) 穀物を高圧蒸気により加圧、加水、加熱したのち圧扁ローラーにて圧扁片を形成し、上記圧扁片を加熱乾燥したのち常温冷却することを特徴とする穀物の処理方法。

(2) 上方にロータリーバルブを有する加圧タンクの排出口をロータリーバルブを介して圧扁ローラーを連結し、上記圧扁ローラーには乾燥機を連結せしめ、上記乾燥機は被処理物を熱風乾燥したのち常温冷却することを特徴とする穀物の処理装置。」

右のとおり、本件発明は山村に対する被告雪印種苗からの開発要請を契機として生れたものではあるが、その完成に至るまでの創意、工夫あるいは種々の実験はすべて山村の精神的活動に基づくものであり、同人が本件発明の発明者であることは明らかである。

2  原告は、昭和五一年一二月五日前記山村未知男から本件権利(出願中の権利)を譲り受け、昭和五二年一月五日特許庁長官に対し、その旨の届出をした。

3  以上のとおり、本件権利は原告に属するものであるにもかかわらず、被告らは、本件発明の発明者が前記高橋増次であつて、本件権利は右高橋から被告雪印種苗を経て同新明製作所に譲渡されたものである旨主張し、原告が本件権利を有することを争つている。よつて、原告は本件権利が原告に属することの確認を求める。

二  本訴請求の原因に対する被告らの認否<省略>

三  被告新明製作所の反訴請求の原因

1  本件発明の発明者は、以下に述べるとおり被告雪印種苗の高橋増次であり、同人が本件権利を取得したものである。

(一) 昭和四六年頃右高橋が工務課長として勤務していた被告雪印種苗では、サラブレツド種の馬の飼料となるえん麦を圧扁してフレーク状にするという試みがされていたところから、高橋は圧扁フレーク装置の研究、開発に関心を懐くようになつた。当時、被告雪印種苗は電気式フレーク装置を有する苫小牧市の丹波屋に飼料の加工を委託していたが、加工代が高いうえ、乾燥の度合が激しく、損耗分が多いため、所期の製品を得られないという状況であつた。

(二) 高橋は、昭和四七年春頃から独自に圧扁フレーク装置の開発に着手し、前記丹波屋の装置の製作者である株式会社東食から電気の使用料及び圧扁ロールの圧力等右装置の機構に関する資料を入手し、自ら圧扁フレーク装置の設計をしたうえ、株式会社忠鉄工に依頼して、被告雪印種苗の下請け業者である小樽市の中川商会内に右装置を製作、設置させ、さらに、右装置の完成後である同年一一月頃にも前記東食から圧扁フレーク飼料のアルフア化度及び水分含有量等に関する資料を入手し、研究を継続した。なお、右中川商会の装置は昭和四八年一二月頃被告雪印種苗の釧路工場に移転されたが、その際、高橋は右装置に原料中の夾雑物を除去するための精選機を取り付けるという改良を加えた。

(三) 次いで、高橋は、昭和四九年四月頃圧扁フレーク飼料とその装置につきヨーロツパ各地を三週間にわたつて視察し、帰国後の同年六月頃からは本格的に圧扁フレーク装置の開発に取り組むこととなり、まず必要なデーターを収集するべく、米山穀機、上田鉄工及び明治機械等の製作にかかる蒸気式圧扁装置につき調査した結果、これらの装置によつては所期の製品を得ることは不可能であることが判明したため、日本シーズ線株式会社及び株式会社島津製作所に共同開発を呼びかけたものの、やはり所期の装置を得ることはできなかつた。この間、右日本シーズ線との検討段階において、圧扁飼料のアルフア化度を高めるためには原料である穀物の芯部まで加温、加湿する必要があることが確認されたことから、高橋はこれを可能にする方法としては蒸気による加圧方式が好都合ではないかと考えていた。

(四) 高橋は、昭和五〇年六月頃前記上田鉄工製の蒸気式圧扁フレーク装置を見学したが、その際同装置においては一応加圧方式が採用されてはいたものの、実際には加圧が行われていないことに気付き、加圧状態を保つたうえで原料を加圧罐に連続的に供給するためには、加圧罐の入口と出口にロータリーバルブ(ロツカーバルブ)を介在させる以外に方法はないと考えるに至つた。なお、ロータリーバルブは昭和三七年頃被告雪印種苗に設置された装置においてすでに使用されており、高橋もこれにつき一応の知識は持つていたが、さらに、前記忠鉄工の佐藤忠に相談するなどして詳細な検討を加えた。

かくして、遅くとも昭和五〇年一〇月頃には蒸気を利用した加圧、加温、加湿方式による圧扁フレークの製造法及び装置の基本的構想ができ上り、本件発明は完成した。すなわち、従前の蒸気を利用した製法ないし装置においては、(1)蒸気による加温、加湿が穀物の芯部にまで及ばないため、アルフア化が不十分であること、(2)ロール圧扁機による圧扁操作に極めて大きな動力を必要とするうえ、蒸気使用料も過大であつて、ランニングコストが高いこと、(3)穀物の品温が十分に高くならないため、水分の除去が不十分であり、乾燥時にアルフア化が戻つていわゆる老化現象を起こし易いこと及び(4)連続的な圧扁加工が不可能であること等の欠陥が存したところ、本件発明はこれらの欠陥をすべて克服することを目的とするものである。

(五) 一方、被告雪印種苗においては、これより先の昭和五〇年五月末の役員会で新たに圧扁フレーク装置を設置することが決定され、その設置場所の第一候補として同被告の江別工場が挙げられていた。そこで、高橋は、同年七月から八月にかけて、自ら研究、開発中の新装置の製作費等を算出するうえでの参考資料とするため、各機械メーカーから従前の蒸気式圧扁フレーク装置に関する見積り書を取り寄せ、同年九月頃には前記忠鉄工に右新装置に関する工事を依頼し、同社の内諾を得ていたのであるが、たまたま同社には同年一一月に別の工事予定が入つてしまい、納期の関係で新装置に関する工事の全部を同社に発注することは不可能となつた。ところで、新装置に関する工事のうちには、現に操業中の被告雪印種苗江別工場内に、その操業を停止させることなく新装置を組み込むという関連工事が含まれており、これは右工場を熟知している前記忠鉄工でなければ到底困難なものであつたため、同社には右関連工事のみを発注し、図面さえあれば可能な機械本体部分の製作は他の業者に請け負わせることとした。

(六) 被告雪印種苗は昭和五〇年一二月頃新装置の製作を日化設備販売株式会社に発注することとし、高橋はその頃、同社の下請けとして製作工事を担当するという株式会社山村機械製作所の山村未知男と接触した。そして、高橋は、昭和五一年一月頃から右山村に対し、新装置の構想につき説明するとともに、飼料機械について無知な同人を教育するため、他メーカーが製作した圧扁フレーク装置を見学させたり、収集済みの資料を見せるなどして新装置を理解させるべく努めた。次いで、同年三月頃には山村に対し、蒸気の圧力及び飼料中の水分含有量等を最終的に検討するため、前記江別工場にある蒸気ボイラーを使用して実験を行うよう指示する一方、自ら縮尺によらず描いた図面に仕様を書き入れて交付し、山村は右図面及びその他高橋からの口頭による指示に基づき新装置に関する各種図面を作成した。

(七) その後昭和五一年四月二一日、前記日化設備販売は被告雪印種苗に対し、「穀類圧篇装置仕様書」を提出したところ、右仕様の具体的内容は細部の数字に至るまで概ね高橋の指示に基づくものであつた。次いで、昭和五一年五月一九日、被告雪印種苗と日化設備販売との間で正式に新装置に関する工事請負契約が締結された。なお、新装置は昭和五三年一月に完成した。

(八) 右のとおり、高橋は、当時飼料業界及び飼料機械メーカーが到達しえた最高水準の技術、知識を十分に理解し、これを応用して種々の欠陥を有する既存の圧扁フレーク製造法ないし装置を改良して本件発明を完成したのに対し、山村は単に高橋の指示に基づき機械の製作を担当したにすぎないことが明らかである。

2  本件発明は、被告雪印種苗の工務課長である前記高橋増次により、いわゆる職務発明として完成されたものであつたため、本件権利は、昭和五一年九月一日右高橋から被告雪印種苗に譲渡され、次いで、同年一一月二〇日同被告から金二〇〇〇万円で被告新明製作所に譲渡された。

3  以上のとおり、本件権利は被告新明製作所に属するものであるにもかかわらず、原告は、本件発明の発明者が前記山村未知男であつて、本件権利は右山村から原告に譲渡されたと称し、現に本件発明につき特許出願中であり、被告新明製作所が本件権利を有することを争つている。よつて、被告新明製作所は、原告との間で、本件権利が同被告に属することの確認を求める。<以下、事実省略>

理由

一山村未知男が昭和五一年五月一二日、名称を「穀物の処理方法とその装置」とする本件発明につき特許出願(同年特許願第五四五四八号)をしたこと及びその願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二そこで、本件発明の発明者が誰であるかの点につき判断する。

<証拠>を総合すれば、反訴請求の原因1の(一)ないし(七)の各事実及びこれらの事実に加えて、次の事実を認めることができる。<反証判断略>

(一)  山村未知男は、各種機械装置の設計、製作等を業とする株式会社山村機械製作所の代表取締役であるが、昭和五〇年一二月頃日化設備販売株式会社の下請けとして被告雪印種苗の発注工事を請負うことにより、右日化設備販売の佐藤勲とともに同被告の江別工場を訪問し、同被告の工務課長高橋増次と面談した。高橋はその際山村に対し、右江別工場に設置すべき新装置の概要及び従前の圧扁フレーク装置との差異を種々説明した。ところが、山村は、圧扁飼料あるいはその製造装置に関する知識、経験を殆んど持ち合わせていなかつたため、高橋の右説明を十分理解することができず、昭和五一年一月頃重油バーナーを用いたいわゆるバツチ式装置に関する図面を作成、持参したが、もとより所期の新装置とはほど遠い内容のものであつた。そこで、高橋は、山村に対し、重ねて新装置の構想を説明するとともに、千葉県の日魯漁業に設置された圧扁フレーク装置及び被告雪印種苗釧路工場にある電気式マイクロナイザーを見学させたり、高橋自ら収集した従前の装置に関する各種資料を見せるなどした。

(二)  一方、山村は、独自に昭和五一年二月頃前記山村機械製作所の従業員金山聡を補助者として、(1) とうきびを家庭用蒸し釜で蒸した後、ハンマーでつぶすこと、(2) とうきびを蒸した後、ガスコンロ又はストーブで摂氏約三〇〇度に加熱したうえ、ハンマーでつぶすこと及び(3) 一晩風呂の湯につけたとうきびを、そのまま又は(2)と同様の方法で加熱したうえ、ハンマーでつぶすこと、という三種類の実験を行い、次いで、高橋の指示に基づき、同月末頃から三月半ば頃までの間、試験用に製作した加圧罐及び圧扁ローラー機と前記江別工場の蒸気ボイラー及び飼料とを使用して、種々の圧力条件のもとに実験を繰り返すとともに、右実験により得られた圧扁飼料中の水分含有量に関する検査を北海道立工業試験場に依頼するなどした。

(三)  なお、前記山村機械製作所は、昭和五一年五月下旬頃から前記日化設備販売の下請けとして新装置の機械本体部分の製作を開始することとなつたが、実際の製作作業はさらに鈴木鉄工所及び山本製作所に請負わせた。そして、右機械本体のうち加圧罐に関連する部分は同年七月頃ひとまず完成したのであるが、試運転の結果、ロータリーバルブから蒸気が漏れる等の欠陥があることが判明したため、高橋は、山村を同道して岩田醸造の蒸気式加圧装置(但し、みそ製造用のもの)を見学させたうえ、補修作業を指示した。ところが、その後山村の前記特許出願をめぐつて同人と被告雪印種苗との間に紛争が生じたため、山村及び前記山村機械製作所は右補修作業を完了しないまま、工事から手を引くに至つた。

以上の認定事実によれば、高橋は、被告雪印種苗の工務課長として、従前の圧扁フレーク製造法ないしその装置の有する種々の欠陥を十分に認識し、これを除去、改良すべく昭和四七年頃から研究、開発を継続し、創意、工夫を重ねた結果、昭和五〇年一〇月頃本件発明を完成して本件権利を取得するに至つたものであるのに対し(但し、本件発明が特許を受けることができるものであるか否かの点は別論である。)、山村は、単に高橋の指示に基づき、本件発明にかかる装置の製作図面の作成等を担当したにすぎないものであることを認めるに十分である。

もつとも、前掲<証拠>中には、右山村は、前記(二)で認定した三種類の実験の結果、蒸気によりとうきびの内部まで(湿度及び水分を)浸透させること、すなわち、蒸気による加圧方式を着想し、次いで、前記江別工場の蒸気ボイラー等を使用しての実験中に飼料のアルフア化ということを思いつき、昭和五一年三月中には本件発明を完成した、との部分が見受けられる。しかしながら、前者の実験なるものは本件発明に至る道程としては余りにも幼稚拙劣なものというほかはないし、一方、後者の実験が高橋の指示に基づくものであることは前記認定のとおりである。そして、加圧蒸気による圧扁フレーク装置は、加圧の効果が不十分なものではあつたが、従前すでに製作されており、また、飼料のアルフア化にしてもすでに周知の事項であつたことは前記認定のとおりであるから、山村が前述の各実験から突如として蒸気による加圧方式及び飼料のアルフア化を着想したというのは少なからず不自然な感じを免れないのであるが、仮に山村がそのように着想したとすれば、同人のこの種の知識がそれだけ乏しかつたことを示すことにもなろう。加えて、山村は、前記認定のとおり、昭和五〇年一二月頃高橋と接触する以前は圧扁飼料の製造法ないしその装置につき殆んど予備知識を持ち合わせていなかつたというのであるから(ちなみに、山村自身もその旨証言している。)、その後わずか三か月程度の間に本件発明を完成したとするのも全く不自然といわざるをえない。したがつて、前掲証言部分は到底信用することができない。

なお、<証拠>中には、山村未知男が加圧装置について有する技術、経験を基礎に穀類のアルフア化装置を完成したとの趣旨の記載が存するけれども、<証拠>によれば、山村が本件発明につき前記のとおり特許出願をしたため、同人と被告雪印種苗との間に紛争を生ずることとなつたところ、同被告においては、あくまで本件発明の発明者は高橋増次であると考えていたものの、山村が先に特許出願をしたという既成事実をひとまず尊重して、同被告と山村との共同出願とすることで事態の収拾を図ることとし、山村もこれに応ずる意向を示したため、同被告において前記書面を作成したのであるが、正式調印に至る前に結局交渉は決裂したことが認められるから、前記書面は何ら前記認定と矛盾するものではなく、山村が本件発明の発明者であることを窺わせる証左とはいえない。

よつて、山村未知男が本件発明の発明者であることを前提とする原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

三次に、<証拠>によれば、反訴請求の原因2の事実が認められる。そうすると、本件権利は被告新明製作所がこれを有することになる。

ところで、原告が被告新明製作所の本件権利を争つていることは訴訟上明らかである。したがつて、同被告の反訴請求は理由がある。<以下、省略>

(秋吉稔弘 佐久間重吉 安倉孝弘)

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