東京地方裁判所 昭和53年(ワ)2220号 判決 1981年9月28日
原告 司・東建装株式会社
被告 株式会社グランド東京
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
〔請求の趣旨〕
一 被告は、原告に対し、金五七八万五三七〇円及びこれに対する昭和四六年四月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
三 第一項についての仮執行の宣言
〔請求の趣旨に対する答弁〕
主文同旨
第二当事者の主張
〔請求原因〕
一 原告は、昭和四五年七月二六日、不動産の管理及び賃貸を業とする株式会社である被告との間で、被告が肩書地に所有するビルの五階の内装工事を請負代金一一四二万五二〇〇円、工事完成引渡期日同年九月五日とする請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し、その後、被告から追加工事を請負代金二二四万九三五〇円で請け負つた。
二 原告は、昭和四五年一一月一七日、本件請負契約に基づく工事及び追加工事の各工事(以下「本件工事」という。)を完成して被告に引き渡した。
三 被告は、原告に対し、右請負代金合計一三六七万四五五〇円のうち、五〇〇万円を支払い、さらに、昭和五二年一二月二二日、国に対し、原告の左記1及び2の租税債務二八八万九一八〇円について第三者納付した。
1 昭和四四年九月一日から昭和四五年八月三一日までの(一)法人税七八万〇五〇〇円、(二)過少申告加算税三万九〇〇〇円、(三)延滞税七八万六三〇〇円、合計一六〇万五八〇〇円
2 昭和四八年九月一一日納期の(一)源泉所得税七四万一〇八〇円、(二)不納付加算税六万三〇〇〇円、(三)延滞税四七万九三〇〇円、合計一二八万三三八〇円
四 よつて、原告は、被告に対し、右請負代金合計一三六七万四五五〇円から支払ずみの五〇〇万円及び租税債務の第三者納付分二八八万九一八〇円を差し引いた残代金五七八万五三七〇円とこれに対する本件工事完成引渡しの後である昭和四六年四月一日から支払ずみまでの商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔請求原因に対する認否〕
一 請求原因第一項のうち、原告が昭和四五年七月二六日不動産の管理及び賃貸を業とする株式会社である被告との間で、本件請負契約を締結したこと並びにその請負代金額と工事完成引渡期日が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は否認する。 二 請求原因第二項の事実は否認する。原告が本件工事を完成したのは昭和四六年三月三一日である。
三 請求原因第三項の事実は認める。
〔抗弁〕
一 消滅時効
原告は、昭和四五年一一月一七日に本件工事を完成し、被告に引き渡したと主張するところ、本訴の提起は、それからすでに三年を経過してなされ、本件請負代金債権は時効により消滅した。
被告は、右時効を援用する。
二 請負代金減額の合意
原告と被告とは、本件請負契約を締結した際、本件工事の一部は被告の注文で粕谷貫一によつて施工済であつたので、後日、協議のうえ右の既に施行された分を請負代金額から減額することを合意した。ところが、その後、原告が倒産したため右の協議ができなくなつた。
しかし、右の既施工分を客観的に査定すると、二一五万六〇四〇円となるから、右の特約に基づき、本件請負代金は右査定金額だけ減額されるべきである。
三 相殺
1 被告は、原告に対し、次の(一)ないし(五)の各債権を有する。
(一) 原告が被告から請け負つた本件工事の一部は被告の注文により既に粕谷貫一が施工済であつたが、原告と被告とは右既施工分を含めて請負代金額を約定したので、原告は、本件工事をなすに当り、右の既施工分の工事をすることを要しなかつたため、法律上の原因なくして、右の既施工分の客観的査定金額二一五万六〇四〇円相当の利得を受け、これにより被告は右と同額の損失を被つた。そこで、被告は、原告に対し、二一五万六〇四〇円の不当利得返還請求権を有する。
(二) 本件請負契約締結の際、工事の完成引渡しは昭和四五年九月五日と定められていたので、被告は、本件工事完成後直ちにナイトレストランを経営することを計画し、昭和四五年九月頃、白川弘志との間で、一か月一〇〇万円の演奏料で同人の率いる楽団を右ナイトレストランの専属バンドとする旨の出演契約を締結した。しかし、原告は、右の約定期限を徒過して本件工事を昭和四六年三月三一日完成して被告に引き渡した。そのため、被告は、右の計画どおりナイトレストランを開店することができず、昭和四五年一一月五日、白川に対し、右専属バンド契約に基づいて、昭和四五年一〇月分の演奏料一〇〇万円の支払いを余儀なくされた。被告の右の支払は、原告の工事遅滞の債務不履行により被告が被つた損害であり、被告は、原告に対し、一〇〇万円の損害賠償債権を有する。 (三) 原告と被告とは、本件請負契約締結の際、原告が工事を遅延したときは被告に対して営業補償損害金を支払う旨の特約をした。原告が昭和四五年九月五日の本件工事の完成引渡期限を徒過して昭和四六年三月三一日に完成引き渡したので、被告は、当初の計画どおりナイトレストランを開店できず、右工事の遅滞により得べかりし利益を喪失した。そして、被告が本件工事がなされた場所で開店したナイトレストランの昭和四八年一月一日から同年一二月末日までの一日当りの純利益は五万二九三六円であるから、本件工事が約定期限どおり完成していた場合の被告の一日当りの逸失利益も右と同額というべきである。そうすると、原告の右工事遅滞期間(昭和四五年九月六日から昭和四六年三月三一日までの二一二日間)の被告の逸失利益は一一二一万二四三二円(五万二九三六円×二一二日=一一二一万二四三二円)となる。右の逸失利益が約定の営業補償損害金であるから、被告は、原告に対し、一一二一万二四三二円の営業補償損害金を求める債権を有する。
(四) 原告と被告とは、本件請負契約締結の際、原告が約定の期限までに本件工事の完成引渡しができないとき、被告は、遅滞日数一日について請負代金の千分の一以内の違約金を請求することができる旨約定した。右(三)のとおり原告の本件工事完成引渡しの遅滞日数は二一二日であるから、右違約金は、二四二万二一四二円(一一四二万五二〇〇円×一〇〇〇分の一×二一二日=二四二万二一四二円)となる。被告は、原告に対し、右違約金二四二万二一四二円の支払を求める債権を有する。
(五) 被告は、請求原因第三項のとおり、原告の租税債務二八八万九一八〇円について、国に対し第三者納付した。そのため、被告は、原告に対し、二八八万九一八〇円の求償債権を有する。
2 被告は、原告に対し、昭和五三年七月一二日の本件口頭弁論期日において右1の(一)ないし(四)の各債権をもつて、さらに、昭和五四年六月八日の本件口頭弁論期日において右1の(五)の債権をもつて、それぞれ原告の被告に対する本件請負代金債権と対当額において相殺する旨の意思表示をした。
四 権利濫用
原告は、国が取立訴訟を提起する前には、被告に対し本件請負代金債権の請求をせず、右訴訟係属中、国から訴訟告知を受けても放置していた。ところが、被告が国に対して原告の租税債務につき第三者納付し、国が右訴訟を取り下げ、原告に対して六か月以内に訴えを提起すべき旨の通知をするや、原告は、本件訴えを提起した。右の経緯からすれば、原告の本件訴訟提起行為は権利の濫用というべきである。
〔抗弁に対する認否〕
一 抗弁第一項の消滅時効の完成については争う。
二 抗弁第二項のうち、原告と被告とが被告主張の合意をし、原告がその後倒産したことは認めるが、その余の事実は否認する。
三 抗弁第三項の1の(一)の事実は否認する。同項1の(二)のうち、本件請負契約締結の際、その工事の完成引渡期限が昭和四五年九月五日と定められていたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告が本件工事を完成して引き渡したのは昭和四五年一一月一七日である。同項1の(三)のうち原告と被告とが本件請負契約締結の際、被告主張の営業補償損害金の約定をしたこと及び本件工事の完成引渡期限が昭和四五年九月五日の約定であつたことは認めるが、被告営業のナイトレストランの純利益は知らない、その余の事実は否認する。同項1の(四)の事実は否認する。同項1の(五)の求償債権については、第三者納付をした被告が求償権を取得したことは認めるが原告は、右金額を減額して請求しているから、さらに相殺を主張するのは背理である。
四 抗弁第四項の主張は争う。原告は本件債権を漫然と放置していたものではない。また、そもそも原告の行為については権利濫用の法理は適用されず、その基準に反するものでもない。
〔再抗弁〕
一 抗弁第一項に対し、時効の中断及び援用権の喪失
1(一) 国は、昭和四六年八月二三日及び昭和四八年九月一一日の二回にわたり、原告に対する租税債権をもつて原告の被告に対する本件請負代金債権のうち六四二万五二〇〇円について差し押さえ、被告が支払に応じないため、昭和四九年四月三〇日、取立請求の訴えを提起した(当庁昭和四九年(ワ)第三、三〇〇号事件)。右訴訟については、昭和五一年九月二八日、国勝訴の判決が言い渡された。被告は、右判決に対して控訴したが(東京高裁昭和五一年(ネ)第二、二五〇号事件)、昭和五二年一二月二二日、請求原因第三項のとおり、被告が国に対し原告の租税債務を第三者納付したので、国は、同日、右差押えを解除するとともに、右訴えを取り下げた。
(二) 右の国の本件請負工事債権の差押えにより、原告は、第三債務者である被告に対して自らの権利を行使することができず、また、被告の履行を受けることも許されないこととなつて、いわば権利のうえに眠る自由さえなくなつていたのであるから、その間の時の経過によつて権利消滅の効果は生じないものと解すべきであり、本件請負代金債権の時効は中断されたものというべきである。
(三) 国の被告に対する右の訴えは、昭和五二年一二月二二日、取り下げられたが、訴訟係属中は催告の効力が持続すると解されるところ、訴訟の終了時から六か月以内に本訴を提起したので、本件債権の消滅時効は中断されたと解すべきであり、右訴訟においては、原告の被告に対する債権全体が主張されていたから、債権全体について時効が中断されたものと解すべきである。
2 本件債権について、国の差押え及び訴えが時効の中断事由にならないとしても、被告は、請求原因第三項のとおり、昭和五二年一二月二二日に原告の租税債務について第三者納付をしており、これは原告との関係では本件請負代金の一部弁済となり本件債権の承認となる。仮に、右一部弁済の前に時効が完成していた場合には、その後に債務の承認をした以上、消滅時効の援用は許されない。
二 抗弁第三項の1の(二)ないし(四)に対し、期限延長の合意
原告と被告とは、本件請負契約締結後、合意により、本件工事の完成引渡しの期限を昭和四五年一一月一七日に延長した。
〔再抗弁に対する認否及び被告の主張〕
一 再抗弁第一項の1の(一)の事実及び同項の2のうち被告が請求原因第三項のとおり原告の租税債務について第三者納付をしたことは認める。その余の原告の主張は争う。 1 時効中断の効力は、民法一四八条により相対的なものであるから、国と被告との間における差押、取立訴訟という事由は、原告と被告との間では時効中断の効力を有しない。また、国が原告の被告に対する本件債権を差し押さえても原告は被告に対し請負代金債権の存在確認訴訟を提起しうるから原告の権利行使は妨げられないし、本件においては、原告は、国の被告に対する取立訴訟の係属中に、国から訴訟告知を受けたにもかかわらず漫然と放置していたのであつて、権利のうえに眠つていたものというべきであり、本件の国の差押えによつても時効は中断されない。
国の被告に対する取立訴訟についても、右訴訟は取下げによつて終了したので時効中断の効力はないし、また、国の被告に対する訴訟であるから、原告の催告としての効力を有せず、いずれにしても時効は中断されない。
2 被告による、原告の租税債務についての第三者納付は、原告の被告に対する本件請負代金債権を承認したものではない。被告は、国に対して和解金の支払として第三者納付をしたのであつて、本件請負代金債務を認める意思は全くなく、一部弁済でもないのであるから承認としての効果を生じる余地はない。
3 仮に、本件請負代金債権について、国の差押え又は取立訴訟によつて時効が中断された場合には、国が差し押え、取立権を取得したのは本件請負代金債権のうち六四二万五二〇〇円であるから、中断の効力を有するのはこの範囲に限られるべきである。
二 再抗弁第二項の事実は否認する。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因第一項の事実のうち、原告が昭和四五年七月二六日不動産の管理及び賃貸を業とする株式会社である被告と、本件請負契約を締結したことは、当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第一三号証、原告会社代表者尋問の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証によれば、本件請負契約の当初の約定の工事のうち、粗積工事一一万円は中止し、石工事二一万八〇〇〇円及び左官工事四万五〇〇〇円を加え、その他タイル工事、装飾工事、建具工事、鏡及び硝子工事並びに家具工事の各工事については一部変更し、本件請負契約代金は合計九九万二六〇〇円増額になり、さらに、現場で発注された厨房工事九五万四七五〇円営繕工事(四階サウナ倉庫雑工事並びに五階及び六階の各階段横更衣室新設工事)三〇万二〇〇〇円の追加工事があり、結局、請負代金は二二四万九三五〇円増額され、本件請負工事代金の総額は、合計一三六七万四五五〇円となつたことを認めることができ、被告代表者尋問の結果中右認定に反する供述部分は信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
次に、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証の二及び第九号証の二、前掲甲第一三号証、成立に争いのない乙第六号証、第七号証、第九号証、第一四号証の一、第一五号証、第一六号証並びに原告会社及び被告会社の各代表者尋問の結果(但し、乙第六号証、第七号証及び被告会社代表者の供述のうち、後記認定に反する部分を除く。)を考え合わせると、被告は、本件工事を行つた場所でナイトレストランを経営することを予定していたところ、原告の本件工事は当初の約定期限から相当遅れたが、原告は、昭和四五年一一月一〇日、被告に対し、同月一七日までに工事を完了させる旨の念書を提出したので、被告は、同月一二日、金子昌夫名義で渋谷保健所長に対して営業許可申請書を提出し、同月一八日、ナイトレストラン・キヤツツアイの開店被露のパーテイを行ない、同月二〇日、食品衛生法施行細則一八条に基づく施設の基準に合致するかどうかの、渋谷保健所長の調査を受け、同月二一日、同日から昭和四八年一一月三〇日までの食品衛生法上の飲食店営業の許可を受けたこと、被告は、東京都渋谷都税事務所に対して同月一八日にキヤツツアイを開業したことを通知していること、原告は、前記約束に反しキヤツツアイ開店後も部分的には工事を残し、同年一二月二八日、被告に対し、昭和四六年一月二五日までに工事を完成させる予定の工程表を作成提出して、同月中に、右工事を完成したこと、しかしながら、被告のキヤツツアイ開業後における原告の工事は同店の営業自体には差しつかえない程度の手直しの工事であつたこと、ところが被告は、昭和四五年一二月、キヤツツアイをいつたん閉店し、昭和四六年四月六日、三洋観光株式会社名義で営業を再開したこと、以上の事実を認めることができ、乙第六、第七号証及び被告会社代表者の供述のうち、右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
右の事実によれば、原告の本件工事は、昭和四五年一一月一七日までに、その主要部分を完成して、原告から被告に引き渡され、被告は、右場所において同月一八日からナイトレストラン、キヤツツアイの営業を開始したものの、営業には差しつかえないものではあつたが手直し程度の工事が残つていたので昭和四六年一月にも原告に残りの工事をさせ、被告は、同年四月六日に営業を再開するにいたつたのであるから、遅くとも同年三月末ころまでには原告の工事は終了して被告に引渡されたものと認めることができる。
請求原因第三項の事実は、当事者間に争いがない。
以上の事実によれば、原告は、本件請負代金一三六七万四五五〇円中七八八万九一八〇円の弁済を受けたことになり、なお、被告に対し、本件請負残代金として五七八万五三七〇円の請求権を有することを認めることができる。
二 そこで、抗弁のうち、先ず、被告は、本件請負代金債権は消滅時効によつてすでに消滅した旨主張するので、この点につき判断する。
右に認定したとおり、本件工事は、遅くとも昭和四六年三月末に完成し、被告に引き渡されたのであるから、本件債権の消滅時効の起算点は、昭和四六年四月一日とすることが相当である。そうすると、本件債権の消滅時効の期間は民法一七〇条により三年間であるところ、本訴の提起が昭和五三年三月一〇日であることは当裁判所に顕著であるから、被告の消滅時効の抗弁は一応理由があるので、次に、原告の主張する時効の中断事由について検討する。
再抗弁1の(一)の事実は、当事者間に争いがない。原告は、国が原告に対する租税債権を執行債権として原告の被告に対する本件債権を差し押さえたことによつて本件債権の時効は中断し、また、国が被告に対して取立ての訴えを提起し、昭和五二年一二月二二日、右訴訟を取り下げたが、原告は、それから六か月以内に本訴を提起したので、本件債権について時効は中断した旨を主張する。原告の右の主張は、国の本件債権に対する差押え及びその取立権に基づく取立訴訟の二つの行為が時効の中断事由にあたると主張しているものと解される。
ところで、民法の規定する時効中断事由の本質は、権利が確定されることによつて真実を反映する蓋然性の基礎がくずれ、あるいは、権利の主張があることによつて継続性自体が絶たれたこと、そして、このような場合には、権利者は権利の上に眠るものとはいえないことにあるものと考えられる。従つて、民法一四七条二号に定める時効中断事由としての差押えとは、権利の現実的実行行為として、時効の対象とされている権利の権利者が自ら行つた場合をいうものと解すべきであり、国が原告の被告に対する債権を差し押さえても被差押債権たる原告の被告に対する債権の消滅時効を中断するに由ないものといわなければならない。
そして、本件債権については、右のとおり、遅くとも昭和四六年四月一日が時効の起算点となるところ、前記判断のとおり、昭和四九年四月三〇日に国の取立訴訟が提起されたことが当事者間に争いがないので、右取立訴訟は前記時効起算点から三年を経過した後に提起されたことは明らかであるから、右の訴訟の提起も時効中断の効力を生じないものというべきであり、結局、この点に関する原告の主張はいずれも理由がない。
次に、原告は、被告が昭和五二年一二月二二日に原告の国に対する租税債務についてなした第三者納付は本件請負代金の一部弁済となり、本件債権を承認したこととなるし、仮に、それ以前に本件債権につき消滅時効が完成していたとしても、被告が消滅時効の援用をすることは許されない旨主張する。被告が国に対して原告の主張する第三者納付をしたことは当事者間に争いのないところであるが、被告の右第三者納付が本件請負代金の一部弁済となるかどうかはさておき、時効利益の援用、放棄の効果は、相対的なものであるから、仮に被告が国に対して本件債権を承認したとしても、原告との関係においても直ちに承認の効果を生ずるものではない。そうすると、右の承認を理由とする原告の右主張は理由がない。
右のとおり、原告の消滅時効中断の主張及び援用権の喪失の主張はいずれも理由がなく、他にこの点に関する主張、立証がないので、結局、原告の本件請負代金債権は時効によつて消滅したものと判断せざるを得ない。
三 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 牧山市治 小松峻 佐久間邦夫)