東京地方裁判所 昭和53年(ワ)2502号 判決 1980年3月04日
原告
野口典子
被告
天山運輸株式会社
主文
一 被告らは連帯して原告に対し、金八四七万六、一一八円および内金七七七万六、一一八円に対する昭和四九年五月二五日から、内金七〇万円に対する昭和五三年四月二日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。
四 この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者双方の申立
一 原告
1 被告らは連帯して原告に対し、金二、七〇〇万円およびこれに対する昭和四九年五月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言を求める。
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第二当事者双方の主張
1 原告の請求原因
(一) 交通事故の発生
(1) 日時 昭和四九年五月二五日午前一一時五五分ごろ
(2) 場所 越谷市赤山四―九―八〇先路上
(3) 加害車 被告天山運輸株式会社(以下、被告会社という。)所有にかかるその従業員被告藤丸運転の事業用普通貨物自動車(足立一一あ三三―一二号・以下、加害車という。)
(4) 被害者 原告(昭和四四年一〇月三一日生)
(5) 態様 本件現場は幅員約八メートルの道路であるが、原告は越谷方面から川口方面に向う幼稚園児送迎用バスから下車し、右バス発車後、右道路を横断中、川口方面から越谷方面に向つて時速約六〇キロメートルで走行中の加害車に衝突された。なお、右道路の制限速度は時速四〇キロメートルと規制されていた。
(6) 受傷状況 本件事故により、原告は、頭部外傷、顔面挫創、両大腿骨骨折(非開放性)、鼠径部、会陰部裂創、左趾挫滅創の重傷を負い、
(イ) 越谷十全病院において、昭和四九年五月二五日から同年九月一五日まで入院、同月一六日から同年一二月七日まで通院し
(ロ) 帝京大学医学部病院において、同年一二月九日から同月二一日まで、昭和五〇年九月八日から同月一六日まで、昭和五二年三月二一日から同月二五日まで入院を繰返し、その間も通院を続け、現在なお通院継続中である。
そして、同年一二月九日付同医学部整形外科の後遺症診断書によれば、原告は、<1>尿道口、膣口、陰部の瘢痕性変形、<2>右下肢過成長・脚長差著明(六センチメートル)、<3>左第一趾基節骨以遠欠損という各後遺症を残し、結婚・出産に大きな問題を残すとされている。
(二) 帰責事由
(1) 被告藤丸は、幼稚園児送迎用バスが発進対向してきたのであるから、園児の道路横断のあることは容易に予測できるのであつて、前方を注視し、安全運転(徐行・警音器の吹鳴等)をする義務があるのにこれを怠り、さらに、制限速度を超えるスピードで加害車を運転した各過失があるから、原告の後記損害につき民法七〇九条所定の責任を負う。
(2) 被告会社は、被告藤丸の使用主であり、加害車を所有して自己のために運行の用に供していたものであつて、業務中の事故であるから、後記損害につき、自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条所定、民法七一五条所定の各責任を負う。
(三) 損害
原告は、本件事故により、左記損害を被つたものである。
(1) 治療関係費計金三三四万四、〇二四円
(イ) 入院治療費金三二〇万二、四七五円
(ロ) 通院治療費金八万五七二四円
昭和四九年一一月二日から昭和五二年一二月九日まで(実日数二二日間)、同月一〇日から昭和五四年九月一四日まで(実日数七日間)の通院治療費である。
(ハ) 紙おむつ代・氷代金二万八、三二五円
(ニ) 松葉杖代金六、〇〇〇円
(ホ) 靴型装具代金二万円
(ヘ) 証明書代金一、五〇〇円
(2) 入院雑費金八万四、六〇〇円
ただし、ちり紙代金八、〇〇五円、受領済の食事代金二万〇、一〇〇円を含む(入院日数一四一日、一日金六〇〇円として計算)。
(3) 入院付添費金四二万三、〇〇〇円
原告は、幼児であり、本件事故で重傷を負つたため、母親の付添を要した(入院日数一四一日、一日金三、〇〇〇円として計算)。
(4) 通院付添費および交通費金五万八、五〇〇円
ただし、帝京大学医学部病院へ二九回の通院、三回の入退院、越谷十全病院へ六回の通院、一回の退院に各要した交通費および幼児であるために要した付添費である。タクシー、あるいは電車を利用しており、父親が欠勤して付添つたこともあるが、一回平均一、五〇〇円は下らないから、三九回分金五万八、五〇〇円をもつて相当とする。
(5) 逸失利益金二、四六七万八、三八六円
ただし、昭和五三年賃金センサス女子平均年収金一六三万〇、四〇〇円を基礎とし、稼働可能年数は一八歳から六七歳までとし、原告の症状固定時とされる昭和五二年五月二五日の満年齢は七年七か月であるが、症状固定といえるか問題があるので、中間利息控除に当つては八年として考えるべきである。そして、原告の後遺障害は、尿道口、膣口、陰部の瘢痕性変形は同障害別等級表七級一三号に、右下肢過成長、脚長差著明は同表八級五号に、左第一趾基節骨以遠欠損は同表一〇級九号に各該当するから、同表八級以上に該当する身体障害が二つ以上あるときに当るので、繰上げて同表五級に該当する。よつて、労働能力喪失率は七九パーセントとなる。以上を基礎として、新ホフマン式計算方法によつて原告の逸失利益を算出すると金二四六七万八、三八六円となる
(6) 慰藉料金一、〇八四万円
(イ) 傷害慰藉料金二〇〇万円
原告は、昭和四九年五月二五日受傷以来一四一日間入院したほか、現在まで五年以上通院を続けている。よつて、傷害慰藉料としては金二〇〇万円が相当である。
(ロ) 後遺障害慰藉料金八八四万円
原告の後遺症は、外陰部、膣口、尿道口、会陰部の広範な挫創裂傷により外陰瘢痕拘縮を残し、結婚・出産は不能と見込まれ、現在もなお診察治療を続けている。原告は、女性であつて、右後遺症は女性としてはもちろん人間としても決定的な打撃である。原告は、現在のところ幼少であるため、左趾挫滅創、左下肢六センチメートル短縮のためよく転倒するなど運動に支障をきたす点にのみ自覚があるものの、今後成長して女性としての自覚が生まれてきたときの精神的打撃は測り知れないものがある。しかも、原告は、現在も診察加療中であるが、成長が止まる一七~一八歳まで診察の必要性があるとされ、形成による回復が可能かどうかも予測不能とされている。形成の結果はともあれ、今後何回にも亘る形成手術も必要となり、入通院が繰り返されることは明らかである。以上の事情を考慮するならば、後遺症慰藉料としては金八八四万円をもつて相当とする。
(7) 弁護士費用金二五〇万円
本件事故による損害として因果関係の認めらるべき弁護士費用は金二五〇万円をもつて相当とする。
(四) 損害の填補
原告は、被告らから入院治療費金三二〇万二、四七五円、松葉杖代金六、〇〇〇円、靴型装具代金二万円、証明書代金一、五〇〇円計金三二二万九、九七五円を、自動車損害賠償責任保険から金四一八万円計金七四〇万九、九七五円を受領した。
(五) そうすると、原告の残損害額は金三、四五一万八、五三五円となるが、原告は被告らに対し、右金員の内金二、七〇〇万円およびこれに対する本件事故発生日である昭和四九年五月二五日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。
2 被告らの答弁と主張
(1) 答弁
請求原因(一)(1)ないし(4)の事実は認める。同(一)(5)の事実中、本件現場が幅員約八メートルの道路であること、原告が幼稚園児送迎用バスから下車したことは認めるが、その余の事実は否認する。同(一)(6)の事実は知らない。同(二)(1)の事実は否認する。同(二)(2)の事実中、被告会社が加害車を所有して自己のために運行の用に供していたことならびに業務中であることは認めるが、その余の事実は否認する。同(三)(1)の事実は認める。同(三)(2)ないし(7)の事実は知らない。同(四)の事実は認める。同(五)は争う。
(2) 主張
本件事故発生については、被告らには全く過失がなく、原告の一方的過失によるものであり、かつ、加害車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたものである。すなわち、被告藤丸は、前記日時ごろ、加害車を運転し、毎時約六〇キロメートルで原告主張の場所にさしかかつた際、対向道路右側(加害車からみて)をマイクロバスが発進しており、さらに、その右側に原告およびその母親が立つているのを認めたが、原告らは当然右側(加害車からみて)歩道へ出るものと確信し、かつ、原告のそばには母親が付添つていたのであるから、原告が突然対向車線上に飛び出してくるものとは予想していなかつたところ、いきなり、原告が対向車線上に飛び出してきたため、本件事故が発生したものである。そして、本件事故の原因は、原告が対向車線上に飛び出し、保護者である原告の母親がこれを止めなかつたことによるものである。
仮に、右免責の主張が認められないとしても、原告の右過失は大きいものであるから、損害賠償額を算定するに当つてはこの点を斟酌すべきである。
3 被告らの主張に対する原告の認否
右主張事実はいずれも否認する。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 被告らの責任原因
請求原因(一)(1)ないし(4)の事実全部、同(一)(5)の事実中、本件現場が幅員約八メートルの道路であること、原告が幼稚園児送迎用バスから下車したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一、第一三、第二三号証、乙第一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一八号証、証人山村光夫の証言、原告法定代理人野口昌代尋問の結果および被告藤丸本人尋問の結果を総合すれば、本件事故現場は、川口市方面から越谷駅方面に通ずる歩車道の区別のあるアスフアルトで舗装された平坦な直線道路上(車道の幅員は約六・二メートルで、その中央にはセンターラインが引かれていた。また、同車道の北側には歩道、その南側には有蓋の側溝があつた。)であつたこと、ところで、被告会社の従業員である被告藤丸は、前記日時ごろ、加害車を運転し、右車道左側部分を川口市方面から越谷駅方面に向けて時速約六〇キロメートルで進行中、発進直後の幼稚園児送迎用バスが対向車線右側部分(加害車からみて)を対向進行してくるのを前方約四五・八メートルの地点に認めるとともに、同バスの窓越しに、原告の母親野口昌代が右道路南側の側溝の蓋の上に乗つて北側(車道側)を向いて佇立しているのを前方約六三・五メートルの地点に認め、さらに、同バスとすれ違つて、一四メートルほど進行したとき、同バスから下車したばかりの幼児(当時満四歳の女児)である原告が母親のすぐ右横に同方向を向いて佇立しているのを認めたが、このような場合、原告らが右道路を横断するのではないかと予想することもできたものであるから、同被告としては、あらかじめ、適宜減速するなどして加害車を運転し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠つて加害車を運転した過失により、右道路を横断しようとして、南側から北側に向け、駆け足で右車道に飛び出してきた原告を至近距離に発見し、あわてて急制動の措置等を講じたものの及ばず、原告主張の場所において、加害車を原告に衝突させ、その結果、原告に対し後記傷害を負わせたことが認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。
右認定事実に照らすと、本件事故は被告藤丸の前記過失によつて発生したものであるから、同被告は、原告の被つた後記損害につき民法七〇九条所定の責任がある。
また、被告会社が加害車を所有して自己のために運行の用に供していたことならびに業務中であることは当事者間に争いがなく、前掲各証拠によると、被告会社は被告藤丸の使用主であること、本件事故は、同被告が被告会社の業務を執行中に発生したものであることが認められるから、被告会社は、原告の被つた後記損害につき自賠法三条本文所定、民法七一五条一項本文所定の各責任がある。
二 原告の受傷の部位・程度等
前掲各証拠と成立に争いのない甲第二ないし第一二、第一五、第一六号証、乙第二号証によると、原告は、本件事故により、頭部外傷、顔面挫創、両大腿骨々折(非開放性)、鼠径部、会陰部裂創、左趾挫滅創の傷害を受け、右事故日である昭和四九年五月二五日から同年九月一五日まで(一一四日間)越谷十全病院に入院し、同月二一日から同年一二月七日まで(七八日間、実治療日数六日)同病院に通院し、また、同年一二月九日から同月二一日まで(一三日間)、昭和五〇年九月八日から同月一六日まで(九日間)、昭和五二年三月二一日から同月二五日まで(五日間)、帝京大学医学部附属病院に各入院したほか、昭和四九年一一月二日から昭和五二年一二月九日まで(七六七日間、実治療日数二二日)同病院に通院したこと、ところで、原告には、本件事故による後遺症として、<1>尿道口、膣口、陰部の瘢痕性変形(拘縮)、<2>右下肢の過成長、脚長差著名(左下肢長六〇・五センチメートル、右下肢長六六・五センチメートル)、<3>左第一趾基節骨以遠欠損が存し、ことに、右<1>については、将来、結婚・妊娠・出産などに問題を残していること、すなわち、この点に関する産婦人科的診察法として、視診・外診・内診その他があるが、現在、原告が弱年で発育過程にあるため、原告に対しては視診のみが可能であり、内診および骨盤等の検査により将来妊娠・出産が可能か否かの確診は一八ないし一九歳に達するまで出来ないけれども、左側外陰部から膣内側へかけての裂傷瘢痕から推定して、結婚生活、特に性交時に収縮不良など不都合が生ずる可能性があること、また、原告のように会陰、外陰部に瘢痕変形がある場合、児頭骨盤不適合がなければ、経膣分娩は可能であるが、分娩時に会陰裂傷が生じ易く、同時に出血多量の合併症が併発し易くなる可能性が存すること、そして、医師は、昭和五二年一二月九日、原告の右各後遺症状は同年五月二五日固定した旨の診断をしたことが認められ、これに反する証拠はない。
以上認定の事実に徴すると、右<1>の症状は自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表九級一六号に、右<2>の症状は同表八級五号に、右<3>の症状は同表一〇級九号に各該当するところ、同条によれば、同表一三級以上に該当する身体障害が二以上あるときは、重い方の身体障害一級を繰上げることとされているので、同表七級に該当し、その労働能力喪失率は五六パーセントと認めるのが相当である。
三 原告の損害
原告は、本件事故により左記のような損害を被つたものである。
1 治療関係費計金三三四万四、〇二四円
原告が、入院治療費金三二〇万二、四七五円、通院治療費金八万五、七二四円、紙おむつ代と氷代金二万八、三二五円、松葉杖代金六、〇〇〇円、靴型装具代金二万円、証明書代金一、五〇〇円計金三三四万四、〇二四円を要したことはいずれも当事者間に争いがなく、右各金員は、いずれも本件事故による損害と認める。
2 入院雑費金七万〇、五〇〇円
前掲各証拠によると、原告は入院期間計一四一日間の雑費として金七万〇、五〇〇円(一日金五〇〇円の割合)を要したことが認められる。
3 入院付添費金二八万二、〇〇〇円
前掲各証拠によれば、原告は、本件事故当時、幼児であり、右事故で前記傷害を受けたため、右入院期間計一四一日間原告の母親によつて付添看護を受けたが、その費用として金二八万二、〇〇〇円(一日金二、〇〇〇円の割合)を要したことが認められる。
4 通院交通費および通院付添費計金五万一、八四〇円
前掲各証拠によると、原告は、母親に付添われて、越谷十全病院へ六回の通院と一回の退院、帝京大学医学部付属病院へ二二回の通院と三回の入退院を繰返したが、その交通費として金二万九、四四〇円(電車賃一往復二人分金九二〇円、三二往復分として計算)、その付添費として金二万二、四〇〇円(一日金七〇〇円、三二日分として計算)を要したことが認められる。
5 逸失利益金九〇五万九、三七八円
前掲各証拠と成立に争いのない甲第二一号証によると、右各後遺症状が固定したものと診断された昭和五二年当時における賃金センサス女子労働者の産業計・企業規模計・学歴計の平均年間給与額は金一五二万二、九〇〇円(きまつて支給する現金給与額月金一〇万一、九〇〇円、年間賞与その他特別給与額金三〇万〇、一〇〇円、一年分の合計金額)であつたこと、原告は、右固定当時七歳の女子であつたこと、そして、原告は、一八歳から六七歳まで就労することが可能であることが認められるところ、この間における原告の逸失利益を、右年間平均給与額を基礎とし、労働能力喪失率五六パーセントとしてライプニツツ式計算方法によつて算出すると、金九〇五万九、三七八円(円未満切捨、60年〔67年-7年〕に対応するライプニツツ係数18.9292, 11年〔18年-7年〕に対応する同係数8.3064, 18.9292-8.3064=10.6228, 1,522,900円×56/100×10.6228=9,059,378円70銭)となる。
6 慰藉料金六二〇万円
前掲各証拠によつて認められる本件事故の態様・程度、原告の入通院期間、後遺症の有無・程度その他本件に現われた一切の事情(ただし、後記過失相殺の点を除く。)を考慮すると、原告の精神的苦痛を慰藉するためには金六二〇万円をもつて相当と認める。
7 弁護士費用金七〇万円
前掲各証拠によれば、原告は、被告らが本件損害賠償請求につき任意の弁済に応じなかつたので、やむなく、弁護士である原告代理人に本訴の提起と追行を委任し、同代理人に対し弁護士費用を支払うことを約束したことが認められるが、被告らに賠償を命ずべき同費用は、本件事案の内容・審理の経緯・損害認容額等に照らし、金七〇万円が相当であると認める。
四 過失相殺
前掲各証拠によると、本件事故前、原告の母親野口昌代は、幼稚園児送迎用バスから下車してきた原告を伴つて帰宅のため前記車道を南側から北側に向けて横断しようと考え、原告とともに前記側溝の蓋の上付近に一時佇立していたものであるが、このような場合、思慮分別の不十分な原告が帰宅を急ぐ余り左右の交通の安全を確認しないで、母親より先に一人で右車道を横断しようとする行動にでることもあり得ることを予想できたものであるから、原告がこのような行動にでないように原告の手を強く握るなどして、事故の発生を未然に防止すべきであつたにもかかわらずこれを怠つたため、原告の前認定のような飛び出し行為を規制し得ず、本件事故発生の原因を作つたものであることが認められ、これに反する証拠はない。
これによると、原告の母親は、原告の監督義務者として過失があつたものというべく、その過失の程度も小さいものではない。そして、被告藤丸と原告の母親の前記のような各注意義務懈怠の態様からみると、その過失の程度は、被告藤丸において八割、原告の母親において二割と認めるのが相当である。
そこで、前記三1ないし6の損害額計金一、九〇〇万七、七四二円につき過失相殺すると、原告の残損害額は計金一、五二〇万六、一九三円となる。
五 損害の填補
請求原因(四)の事実は当事者間に争いがなく、前掲各証拠と成立に争いのない乙第三号証によると、原告は被告らから食事代として金二万〇、一〇〇円を受領したことが認められる。そうすると、原告の損害填補額は計金七四三万〇、〇七五円となる。そこで、過失相殺後における右損害額金一五二〇万六、一九三円に弁護士費用金七〇万円を加えた計金一五九〇万六、一九三円から右損害填補額計金七四三万〇、〇七五円を控除すると、金八四七万六、一一八円となる。
六 結局のところ、原告の被告らに対する本訴請求中、損害額金八四七万六、一一八円および内金七七七万六、一一八円(弁護士費用を除いた金員)に対する本件事故発生日である昭和四九年五月二五日から、内金七〇万円(弁護士費用)に対する本訴状送達日の翌日である昭和五三年四月二日から各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める部分は理由があるのでこれを認容するが、その余の部分は失当としてこれを棄却すべく、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本朝光)