東京地方裁判所 昭和53年(ワ)312号 判決
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【判旨】
一本訴では、補助参加人高橋敏男弁護士に対する被告久松の訴訟委任の有無、同弁護士のなした訴訟行為の効力が争いとなつているがその点は結局、原告の、所有権移転仮登記等の抹消登記の請求を清算金の支払請求へ訴の変更することの許否に関係することである。
本件各不動産についての登記経過並びに本訴に対する被告久松の態度からすると同被告の高橋敏男弁護士への訴訟委任があつたと認められるのであるが、これら事情を勘案するといずれにしろ原告の訴の変更は許され、且つ被告久松は清算金の支払義務を負担せねばならぬところである。
二すなわち訴の変更前請求原因一、二項の本件各不動産は原告の所有であつたところ、被告久松への所有権移転仮登記、所有権移転登記、さらに訴外協栄建設への所有権移転登記等が経由されたことは当事者間に争いがなく<証拠>を総合すると次の事実が認められる。
昭和五一年末頃原告は叔母の内堀明子から共同事業をしないかとの勧誘を受け、事情によつては参加してもよいとの返答をしたこと、他方その頃原告は内堀明子から原告が相続した本件各不動産(当時本件土地一、二は一筆であつた)につき登記手続をしてやると言われ、同女に実印を渡したこと、
その結果本件各不動産につき昭和五二年一月二六日受付で相続を原因として原告に所有移転登記が経由されたが、その後(内堀明子の了承のもとにと思われるが)、原告の関与がないのに本件各不動産を担保として借入れがなされたこと、
その間の事情は必ずしも判然としないのであるが、結果として本件各不動産につき川口信用金庫に対して昭和五二年二月一日受付で債務者・有限会社森戸製作所、被担保債権一、〇〇〇万円の抵当権設定登記が経由され、さらに昭和五二年三月五日に訴外梅沢から原告、山下庄三郎、国分義雄を連帯債務者として、一、八〇〇万円の借入れがなされるとともに本件各不動産につき被告久松を権利者として、昭和五二年三月二二日受付の所有権移転請求権仮登記及び同日受付の被担保債権一、八〇〇万円の抵当権設定登記が経由されたこと、
右の訴外梅沢の原告、山下庄三郎、国分義雄に対する一、八〇〇万円の貸付けについてはその旨の連帯借用証書も作成された(丁第八号証但し実質上の借受人は山下庄三郎で、原告はこの借入れには関与していない)にもかかわらず、被告久松を権利者として右のごとき各登記が経由されたのは次のごとき事情であること、
すなわち訴外梅沢は手許に資金がなかつたことから被告久松から、一、五〇〇万円を借受けて山下庄三郎に一、八〇〇万円を貸付けたものであるが、同訴外人は被告久松に他にも借受金があつたので同被告に対する誠意として被告久松を権利者として右の各登記を経由したこと、
その後弁済期に山下庄三郎からの弁済がなかつたので訴外梅沢は本件各不動産につき代物弁済を原因として被告久松に昭和五二年七月一五日受付で所有権移転登記を経由し、さらに実質上は同訴外人が売主となつて本件各不動産を訴外協栄建設に、三、三〇〇万円で売却しその売却代金のうちから同訴外人は借受金の元利合計を被告久松に交付し、残りは、同訴外人において領得したが、山下庄三郎に対するこの時点での元利合計は一、九五〇万円であつたこと、なお訴外協栄建設への本件各不動産の売却は右の次第でその登記薄上の所有名義人が被告久松となつていることから、売買契約上は売主は被告久松で、訴外梅沢は仲介人として契約書(丁第一号証)は作成されたこと、
三以上の事実が認められるところ、被告久松現訴訟代理人は、同被告は右仮登記抵当権設定登記所有権移転登記さらに訴外協栄建設に対する所有権移転登記につき関与しておらず、同被告のまつたく預り知らぬところである旨主張し、同被告もその本人尋問で、本訴の訴状も見たことはなく、当時胃潰瘍を患つていたため、被告に心労をかけることを心配した妻が、被告に訴外梅沢を紹介した人物に本件訴状を渡して処理したもので、本件で本人尋問のため出頭(昭和五五年一一月二八日)まで本件訴状が送達されていることもまつたく知らなかつた旨供述する。
なるほど証人梅沢博保の証言、被告久松の本人尋問の結果によれば、被告久松は歯科医であるところ、仕事あるいは医療奉仕等に熱心で不動産の売買といつたようなことには無関心な面があることが窺われる。他方証人梅沢博保は、前記各登記をなすにつき(被告久松が理解したかどうかはともかく)被告久松に事情の概要を説明し、同被告の実印を使用し、印鑑証明書の交付を受け、その了承を得て委任状を作成したものであり、また本件各不動産が被告久松の所有名義になつた際には権利書を同被告に預けた旨、並びに被告久松から本訴を提起されて迷惑だから訴外梅沢において解決するように命じられ、それでは知り合いの高橋敏男弁護士に頼みますと返答したうえ、被告久松作成名義の訴訟委任状を作成して高橋敏男弁護士に本訴の追行を依頼した旨供述する。
訴外梅沢の前記のごとき所為に鑑み、証人梅沢博保の右供述は直ちに措信できるものではないが、被告久松から訴外協栄建設への所有権移転登記はその手続上、登記義務者たる被告久松の実印、印鑑証明書と無関係であるはずはなく、その点に関し被告久松は何ら合理的な説明をするわけでなく、そうすると訴外梅沢は被告久松からこれらの交付を受けたと認めざるを得ないのである。
のみならず本件記録によれば、被告久松宛に二回に亘つて当裁判所から期日呼出状が送付されており、また証人高橋敏男の証言によれば、同証人は本訴に関し再三被告久松方に架電し、訴訟の進行状況を報告したのであるが、その際に主に被告の妻が対応したものの被告久松自身とも話したことがあることが認められる。(この点に関し被告久松はその本人尋問で記憶がないと供述するのみであつてその供述は採用することはできない)。
四右認定のとおり本件各登記には被告久松の意思が何らかの形で関与しており、これに加え本訴に対する同被告の右のごとき対応を総合すると、高橋敏男弁護士に対する訴訟委任状の被告久松の署名、捺印が同被告の意向と無関係に作成されたものとは到底認め難く、結局被告久松は訴外梅沢に対する貸付金の回収方法として本件各不動産及び本訴に関し包括的にその処理を訴外梅沢に委せ、同訴外人において結果的に被告久松の利益に反する処置をしたとはいえ、被告久松から付与された代理権限に基づいて高橋敏男弁護士に被告久松の名で訴訟委任をしたと認めざるを得ない。
高橋敏男弁護士の訴訟活動が適切なものであつたかどうかはともかく、右に説示した次第で同弁護士の訴の変更についての同意並びに原告に対する清算金支払義務の承認等本訴での訴訟行為は被告久松の訴訟代理人としてのもので有効であると解される。
なお仮りに高橋敏男弁護士を被告久松の訴訟代理人と認めることができないとしても、前認定の被告久松の本訴に対する応対並びに本件各不動産についての各登記の経過等からすると原告の訴の変更は許され且つ被告久松は原告に対して清算金の支払義務を負担するところである。
五すなわち原告の当初の訴は登記原因の無効を理由に被告久松への所有権移転登記の抹消登記を求めるもので、これを清算金の支払請求に変更することは給付を求める対象をまつたく変更させることになる。しかしいずれにしろ本件各不動産の所有権移転登記の登記原因に関することであり、さらに本件が紛糾するに至つた原因は被告久松が訴の提起を受けながらその処理を訴外梅沢に委せるといつた対処をしたことにあるのに対し、原告は本訴係属後すぐに訴の変更を申立て、そして被告久松の同意があつたことを前提にその後の訴訟活動をしてきており、その点に落度があるわけでない。かかる事情からすると原告の訴の変更は請求の基礎に変更があるとは認められず、許されるところである。
(岡部崇明)