東京地方裁判所 昭和53年(ワ)3388号 判決 1982年12月21日
原告 長田利子
右訴訟代理人弁護士 竹内誠
同 山田尚
同 竹内洋
被告 東洋畜産株式会社
右代表者代表取締役 小沢慶之輔
右訴訟代理人弁護士 田中宗雄
同 島田正純
同 島田叔昌
被告補助参加人 森谷純三
右訴訟代理人弁護士 森松萬英
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、原告及び別紙目録記載の者が被告発行の甲第一三号株券(一、〇〇〇株券)及び甲第一四号株券(一、〇〇〇株券)に表章された被告株式二、〇〇〇株を有し、原告が被告発行の甲第一五号株券(一、〇〇〇株券)及び甲第一六号株券(一、〇〇〇株券)に表章された被告株式二、〇〇〇株を有することを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 被告の本案前の答弁
原告の請求を却下する。
2 被告及び補助参加人の本案の答弁
主文一、二と同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告株式会社は、昭和二三年六月一五日設立され、設立に際し記名式額面普通株式(一株の金額五〇円)二四、〇〇〇株を発行したが、原告及び訴外長田留男は、そのうち各自二、〇〇〇株を引き受け、払込みをなし、被告株式各二、〇〇〇株を取得した。
2 訴外長田留男は、昭和四四年一月五日死亡し、原告及び別紙目録記載の者(以下「訴外人ら」という。)が共同相続したので、相続人らは前記留男所有の株式につき、共有株式の権利行使者を原告と定め、昭和四九年一〇月一七日被告に届出た。
3 被告は、補助参加人が1項記載の原告及び長田留男所有の株式(以下併せて「本件株式」という。)を取得したとして、長田留男所有の株式については、被告の甲第一三号株券及び甲第一四号株券を、原告所有の株式については、甲第一五号株券及び甲第一六号株券を、それぞれ発行して右参加人に交付し、原告及び訴外人らの株式を否定している。
よって、原告は被告に対し、原告及び訴外人らが被告発行の甲第一三号株券(一、〇〇〇株券)及び甲第一四号株券(一、〇〇〇株券)に表章された被告株式二、〇〇〇株を有し、原告が被告発行の甲第一五号株券(一、〇〇〇株券)及び甲第一六号株券(一、〇〇〇株券)に表章された被告株式二、〇〇〇株を有することの確認を求める。
二 被告の本案前の主張
1 被告は、既に原告主張の株券を発行して補助参加人に交付しており、原告の本訴請求は、それが認容されると新たに株券の発行を余儀なくされ、株券の二重発行を招来するものであり、許されない。
2 被告の株主名簿には、現在原告及び訴外人らが株主であることの記載がないので、原告の本訴請求は、結局過去の株主であったことの確認を求めるものにすぎず、訴の利益がない。
三 本案前の主張に対する答弁
いずれも争う。
四 被告及び補助参加人の請求原因に対する答弁
請求原因はいずれも認める。但し、原告及び訴外人らは、留男所有の被告株式二、〇〇〇株を共同相続していない。
五 被告及び補助参加人の抗弁
1 被告は、昭和二三年一〇月一〇日付で、原告及び訴外長田留男に対し、その所有株式を表章する株券を発行交付していたが、補助参加人は、昭和四三年三月頃、右株式を原告から取得していた訴外森谷誠一より買い受け、右株券を取得した。
2(一) その後、補助参加人は、右株券を呈示して被告に右株式の名義書換え請求をなし、被告は、昭和五五年四月三日これを承認し、同月一〇日、株主名簿上株式の名義書換えをなすとともに、右株券に株式譲渡制限の記載をなして、それぞれ甲第一三号ないし一六号株券として補助参加人に交付した。
(二) 訴外長田留男所有の株式を原告及び訴外人が相続により取得したとしても、被告において、原告らのため名義書換えがなされていない。
(三) 以上のとおり、原告及び訴外人らは、被告の株主名簿上株主としての記載がなく、株券も所持していないので、被告に対し株主であることを主張することが出来ない。
六 抗弁に対する答弁
1 抗弁1は不知。
2 抗弁2の(一)中被告が補助参加人に対し、甲第一三号ないし第一六号株券を交付した点は認め、その余は不知。なお、甲第一三号ないし第一六号株券が被告の株券として有効なものであり、その発行が有効なものであることは認める。
3 抗弁2の(二)は認め、2の(三)は争う。
第三証拠《省略》
理由
一 請求の趣旨について
1 原告は、請求の趣旨において、裁判所の求釈明にも拘らず、原告及び訴外人らが被告の株主であることの確認を求める旨の表現を用いず、被告の株式を所有していることの確認を求めるとしており、更に、その際、右株式をいずれも甲第一三号ないし第一六号株券に表章されている株式と特定している。
2 ところで、株式会社は、株主を構成員とする社団法人であり、この株主の会社に対する法律上の地位が株式と呼ばれるものである。そして株式は、様々な自益権、共益権と称される諸権利と義務を包含しているものではあるが、常に均一化し細分化された割合的単位の形をとり、それ故個性を有しないものである。それは、多数の者が容易に株式会社の構成員になることができ、その取扱いが数量的に画一化されて容易に行われるという技術的な要請により決められたものである。
したがって、特定の株券ではなく、一定数の株式の帰属についての主張は、株式が、所有権の対象となる他の財産(権)のように内容が特定し具体化されたものとは異なり、右判示のような特質を有することから、会社に対してどれだけの数量的割合で株式に包含されている諸権利と義務とを行使できる地位にあるのかが問題となるので、結局のところ、一定数の株主であること――株主権の確認の主張と解すべきである。
3 また、株式は、会社が株券を発行している場合も、(その株券の交付により譲渡されることになるけれども、)その中味は、依然として没個性な割合的な単位の形をとるものであって、他の株式と区別され個性化されたものになることはない。したがって、株主が会社に対し、株主権の確認を求める場合は、あくまでも没個性的な株式数の自己への帰属を求めれば足り、また求めなければならない。もっとも、株式の名義書換えを会社に求める場合は、従前の株主名や株式を表章する株券による特定化を要求されるが、それは、事務処理上の必要から行われるものに過ぎない。
4 以上のとおり、本件の請求の趣旨は、株券により特定された株式の所有の確認の表現ではあるが、あくまでも単純な割合的な単位の株式数の株主の地位の確認を求める趣旨に善解することにする。
二 請求原因1ないし3については、当事者間に争いがない。
三 被告の本案前の主張について
1 本案前の主張1については、結局のところ、本訴が認容されれば、新たに株券の発行を余儀なくされ、株券の二重発行を招来する旨主張するが、株券の二重発行がなされた場合、従前の株券の発行が有効か否か、有効な場合の取締役の会社に対する責任をどうするかといったような事後処理しなければならない問題が生じることはあるが、そのことから直ちに本訴請求を許されないものとする理由にはならず、この主張は理由がない。
2 本案前の主張2については、本訴は、あくまでも現在の株主権の確認を求めているものであって、過去の株主であったことの確認の請求とは認められないから、この主張も理由がない。
四 抗弁について
1 抗弁2の(一)中被告が補助参加人に対し、甲第一三号ないし第一六号株券を交付した点及び抗弁2の(二)事実は、当事者間に争いがない。
2 《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
被告は、昭和四八年一〇月一日開催の臨時株主総会において、定款を変更して、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の規定を設けることを決議し、その後株主に対し株券を会社に提供すべき旨の通知をした。原告及び訴外人らは、当時株券を所持していなかったため、商法第三五〇条第三項、第三七八条所定の異議申述催告公告をなしたところ、異議申述期間内に補助参加人から異議の申述がなされた。その後補助参加人は、被告に対し、本件株式について、株券を提供して自己への譲渡承認と株式名義書換えの申請をなしたところ、被告(当時は清算手続中)は、昭和五五年四月三日、清算人会を開催し、右各申請を承認し、同月一〇日被告株主名簿の名義を、訴外長田留男及び原告からいずれも補助参加人へと書換えた。その際、被告は、補助参加人から提供のあった《証拠省略》の株券四葉につき、その表面に被告の株式の譲渡等には取締役会の承認が必要である旨の記載を押印してそれぞれ甲第一三号株券、甲第一四号株券、第一五号株券、第一六号株券として新たに補助参加人に交付した。
3 原告は、甲第一三号ないし第一六号の株券につき、それらが有効な株券であり、その発行が有効であることを認めているが、この趣旨は、必ずしも明確でないが、この株券が真正な株主に対し交付されたことまで認める趣旨でないことは当然としても、少くともこの株券が被告会社の株式を表章する有効な有価証券としての性質を有することを認めたものと解することができる。
4 これらの株券がいずれも原告及び訴外人らの占有下にないことは当事者間に争いがない。
5 一方、《証拠省略》によれば、被告の株主名簿上本件株式の現在の名義は、原告及び訴外人らにはなく(このうち訴外長田留男所有株式の名義については当事者間に争いがない。)、訴外桑野敬一郎ないし訴外菅野和子となっていることが認められる。
6 ところで、商法第二〇六条第一項は、記名株式の移転については、取得者の氏名等を株主名簿に記載しなければ会社に対抗できない旨規定している。このことは、株主名簿上第三者が株式の名義人となっている以上、原則として、実質上の株主でも名義を書き換えるまでは、たとえ実質的に自己が株主であることを証明しても会社が認めない限り、会社に対し株主であることを主張できない趣旨であると解することができる(なお、この場合、会社が自ら株主名簿上の名義人でない実質上の株主を株主と認めることができるか否かは、また別問題である。)。そして、この法理は、株式の移転の場合に限らず、たとえば本件のように、第三者に株主名簿上の名義が変わっている以上、従前の名義人が右第三者の株式の取得を否定し、依然として自己が実質上の株主である旨の主張をなす場合も同様であると解される。
したがって、前記判示のとおり、原告及び訴外人らは、被告の株主名簿上の名義人ではないので、原則として被告に対し株主であることの確認を請求することはできないものである。
7 もっとも、株式の名義書換えは、株券を呈示して所定の申請をなせば、会社は、株券の占有者はこれを適法な所持人と推定されるので、株主名簿の閉鎖期間中である等正当事由ある場合を除き拒絶することはできないのであるから、株主名簿の名義人でなくとも、株式の名義書換えの請求と同時にこれと併せて株主権の確認を求めることは、名義書換えが認められるのであれば、これを認めてよかろう。しかしながら、本件では、原告及び訴外人らは、株券を所持せず、株式の名義書換請求もできない場合であって、いずれにしても被告に対し株主権の確認を求めることはできない。
結局のところ、本件のように有効な株券が発行されている場合、原告らが会社に対して株主権の確認を求めるためには、原則として、株主名簿上の名義人であるかさもなくば株券を所持していることが必要なのであって、これはつまりは、株券が有価証券である以上、株主権(これは、いわゆる自益権と共益権等の諸権利と義務とを包含した法的地位であることは前記判示のとおり。)を会社に対し主張して権利行使するためには株券を所持していることが必要であるという有価証券理論の適用の一つでもある。
8 なお、以上の理論は、被告が不当に原告らからの株式の名義書換えを拒絶している等の特段の事情のある場合は、認められないが、本件では、この点についての主張、立証はない。
ちなみに、本件において、原告及び訴外人らが有効な株券を紛失したと主張するのであれば、まず、商法第三五〇条第二項、第三七八条第一項の異議申述催告公告の手続をとるか(本件ではこの手続がとられている。)除権判決を取得する等して新たな株券の交付を受けるか、現在の株券の所持者から株券の引渡しを受ける方法をとるべきであり、これらの手続により株券を取得することなしに被告に対し株主権の確認を求めることは許されない。
9 以上のとおり、抗弁2は、その余の点につき判断するまでもなく、理由があり、原告の請求は認められない。
五 よって、原告の被告に対する本訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 千葉勝美)
<以下省略>