東京地方裁判所 昭和53年(ワ)502号・昭53年(ワ)98号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
そこで右約束手形の裏書譲渡が原告の訴外並木に対し負担する抵当権付債務を消滅せしめるものであるか否かについて判断する。既存債務の弁済に関連して手形が授受された場合は、通常既存債務の確保を目的とした弁済の方法にすぎず、代物弁済とするには特にこの点に関する当事者の合意の存在することを要するものと解するのが相当である。これを本件についてしらべてみるに、原告の訴外並木に対する右約束手形の裏書譲渡により債務が消滅したとする原告の主張に沿う<証拠>は、後記認定事実に照らしてにわかに措信しがたく、他に原告主張の事実を肯認するに足る証拠は存しない。
二却つて、<証拠>を併せ考えると、次の事実が認められる。
原告は、昭和五二年一二月二日、競売中の本件土地、建物を抵当権設定登記の抹消登記手続をする約定の下に代金四五〇〇万円で訴外武田住宅総合サービス株式会社に売渡す旨の契約を締結し、これよりさき同年一一月八日、抵当権付債権の譲受人である訴外並木に対し、右債務弁済のため元利合計金二一二四万三二〇〇円に礼金を併せ額面金二三〇〇万円、支払期日昭和五三年一月三一日、振出人株式会社武田公務店の約束手形一通を裏書譲渡し、並木からその旨の領収書を受領したが、同人との間では、競売の取下げ(当時既に被告不二家が競落していたから、取下げについては右競落人の同意を要する)について、何ら話合がなされなかつた。右契約後、原告及び武田工務店は、並木に対し、抵当権の抹消に協力してくれるよう依頼したが、並木は、競売申立代理人である深沢弁護士の助言に従い手形が決済されるまでは抹消できない旨回答した。ところが同年一二月二〇日、原告は競落人である被告不二家から不動産引渡命令の執行を受けたので、急遽、右執行停止の手続を原告代理人萩弁護士に委任した。そこで同年一二月二四、五日頃、並木は原告らから右執行停止の申立に協力方を要請されてこれを承諾し、同弁護士作成の原稿に基づき、作成日付を同年一一月八日に遡らせたうえ、右手形の受領により原告に対する債権は消滅した旨の証明書(甲第一二号証)及び金二一二四万三二〇〇円を受領した旨の弁済受領証明書並びに抵当権設定登記等を抹消のうえ競売申立事件を取下げる旨付記した領収書(甲第七号証の一、二)の虚偽文書を作成交付し、原告はこれを東京地裁民事第二一部に提出して、同裁判所の不動産引渡命令に対する異議に基づく執行停止申立の疏明資料に使用した。
以上認定の次第であるから、原告は債務支払の方法として並木に前記手形を交付したにすぎず、右手形の授受により原告の抵当権付債務が消滅し、被告不二家のした競落が無効になるものとは到底いえない。
(土田勇)