東京地方裁判所 昭和53年(ワ)5582号 判決 1980年4月22日
原告
破産者山芳建設株式会社破産管財人
村田寿男
被告
新建設株式会社
右代表者
東道男
右訴訟代理人
石葉光信
同
石葉泰久
主文
一 被告は原告に対し金三六二三万八九七〇円及びこれに対する昭和五三年二月一九日から完済にいたるまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因1の事実のうち、破産会社が土木などの設計施行請負を業とする会社であり、昭和五三年五月二日東京地方裁判所において、負債金六億五〇〇〇万円であるとして、破産の宣告を受け、原告がその管財人に選任されたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、破産会社は昭和五二年九月一六日に一回目の、翌五三年一月三一日に二回目の各不渡手形を出し、同年二月二日に銀行取引停止処分を受けたことが認められる。他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。そうすると、破産会社は右二回目の不渡手形を出した昭和五三年一月三一日には支払を停止したものというべきである。
二1、2<省略>
3 次に、右弁済が否認権の対象となるか否かについて判断する。
破産会社が不渡手形を出した年月日、破産会社と被告間の本件下水道工事契約及び破産会社と葛飾区間の本件下水道元請工事の各内容、両契約の関係は前記のとおりであるところ、<証拠>によれば以下の事実が認められる。
破産会社は、本件下水道工事施行当時、同工事以外にも、破産会社・被告・三幸建設三社による共同企業体方式で東京都の下水道工事を請け負つていた。そして、前記のとおり本件下水道工事契約における代金の支払は、当初注文者である葛飾区から破産会社に支払われ、破産会社がさらに被告に支払うことになつていたものであるところ、かつて破産会社が被告あてに振り出した金額二七〇〇万円の約束手形につき、破産会社において昭和五二年九月一六日これを不渡りとしたため、破産会社の支払能力に不信の念を持つた被告は同年九月三〇日破産会社と被告との間で、代金の支払を確実にするため、葛飾区から破産会社への本件下水道工事代金支払を被告の指定する東海銀行新小岩支店の破産会社名義の普通預金口座へ振り込む方法によることとし、銀行への届出印は被告があらかじめ保管しておくこととする等、本件下水道工事代金が、破産会社の自由にできず、かつ、事実上直接に、被告へ支払われたのも同然の結果となるような内容に従前の支払方法を変更する合意が成立し、その旨の覚書(乙第一号証)が作成され、以後右の印鑑と預金通帳は被告が保管していた。
その後本件下水道工事は順調に進んでほぼ九割がた完成していたが、破産会社は、昭和五三年一月三一日、二回目の不渡手形を出した。同日、破産会社の工事部長酒井実は、本件下水道工事現場及び破産会社・被告・三幸建設の三者で共同企業体形式をもつて請負い施行していた工事現場の各事務所、葛飾区役所にそれぞれ倒産の事実を電話で通知し、破産会社常務取締役山本裕士とともに、葛飾区役所へ赴いた。同人らは区側の担当課長と会つて二回目の不渡りを出したことの挨拶とともに、工事の継続もしくは被告への工事の肩替りを懇請したが、いずれも断られ、結局打切り清算することになつたので、右山本は本件下水道工事現場に行き関係書類を用意して区役所に戻り、その場に居た被告の営業部長藤江義治に対し、二回目の不渡手形を出したことや区側との話の経過を伝えるなどその間の事情を説明した。また、同日午前被告の工事部長金原勝二は、工事現場で酒井から、これ以上やつていけないので区役所へ解除の申立をしてきたと聞かされたほか、同日午後には区から午前中で工事を中止するよう連絡を受けた。そして翌日本件下水道工事について葛飾区の出来高払がなされるための出来高検査があり、破産会社からは酒井が、被告からは右金原らが立会つた。翌二月二日右酒井は出来高計算書その他の必要書類を同区に提出し、当日の午後に同区役所において同区から打切り清算金の支払を受けたが、その際には違約金一八六五万円、前払金利息金三一万二七二三円、国税金三八〇万一四七七円、都税金一四六万一八一〇円、住民税金一八万五〇二〇円の合計金二四四一万一〇三〇円を差し引かれ、額面金三五三三万八九七〇円の小切手が手渡されたので、これを直ちにその場で、あらかじめ連絡を受けて長時間待つていた前記藤江に渡し、同人から前記のように預り証(甲第四号証)を受け取り、被告は同日これを破産会社の被告に対する本件下水道工事代金の一部の弁済にあてた(葛飾区から破産会社への代金の支払いが、被告指定の銀行の破産会社名義の預金口座へ振り込んでなす旨の合意が成立したこと、葛飾区から破産会社へ昭和五三年二月二日に額面金三五三三万八九七〇円の小切手が交付され、これを同日被告が破産会社からさらに交付を受けたことは当事者間に争いがない。)。
以上の事実が認められる。<中略>他に右認定を左右すべき証拠はない。
以上認定の事実によれば、被告は、昭和五三年二月二日、本件下水道工事代金の一部に相当する金三五三三万八九七〇円を破産会社から受領した際、既に破産会社の支払停止の事実を知つていたものというべきである。
してみると、破産会社の被告に対する右による金三五三三万八九七〇円の弁済は、破産法七二条二号により否認の対象となる。
三請求原因3の(一)の各事実は当事者間に争いがなく、被告が昭和五三年二月二日には破産会社の支払停止の事実を知つていたことは右で認定のとおりである。
してみると、破産会社の被告に対する右の金九〇万円の弁済も否認の対象となる。
四<省略>
五以上によれば、被告に対して金三六二三万八九七〇円及びこれに対する破産会社から被告への右金員交付の後の昭和五三年二月一九日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める原告の本訴請求は、理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(仙田富士夫 片桐春一 山崎勉)