東京地方裁判所 昭和53年(ワ)7274号 判決 1979年3月22日
原告 明石昭
原告 明石隆信
右法定代理人親権者父 明石昭
同母 明石清子
右両名訴訟代理人弁護士 千葉睿一
被告 株式会社パレスゴルフクラブ
右代表者代表取締役 春山敏郎
右訴訟代理人弁護士 加藤隆三
同 重国賀久
主文
一 被告は、原告両名に対し、それぞれ金一七〇万円およびこれに対する昭和五三年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一、第二項と同旨
2 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、ゴルフ場を経営する会社である。
2 原告らは、被告の経営するゴルフ場を使用するゴルフ会員クラブ(以下「本件クラブ」という。)へ入会しようとして、原告明石昭は昭和四七年一一月一六日に、原告明石隆信は昭和四七年一一月二四日に、被告との間で各自金一七〇万円を被告に預託する旨の契約(以下「本件預託契約」という。)を締結し、右金員を被告へ交付した。
3 原・被告間の本件預託契約によれば、右預託金は預託の日より満五年を経過し預託者より返還請求のあった場合には直ちに返還する約定であった。
4 原告らは、昭和五三年七月三日被告に到達した内容証明郵便をもって本件預託金の返還を請求した。
5 よって原告ら各自は被告に対し預託金契約に基づき金一七〇万円及び返済期日の翌日である昭和五三年七月四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
全部認める。
三 抗弁
1 理事会の承認の欠缺
原告らは、本件クラブの入会に際し本件クラブの構成員を拘束する「パレスゴルフクラブ会則」を承認のうえ、被告と本件預託契約を締結したものであり、右会則によれば、預託金の返還については被告会社の取扱規程の定めによるものとしており、右取扱規程によると、預託金の返還請求があった場合には、理事会の承認を条件として預託金を返還する旨を定めている。
原告らの預託金返還請求は、右理事会の承認をえていないから、請求権は発生していない。
2 据置期間の延長
右会則には、理事会の決議を経て被告会社の取扱規程を改正できる旨定められており、右会則に従い昭和五一年一〇月二三日の理事会で前記取扱規程を改正し、据置期間を五年から一〇年とする旨の決議をした。右改正された取扱規程により、原告らの請求は期限が到来していない。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実のうち、会則の存在は認める。取扱規程の存在、理事会の議題となったか否か及びその承認の存否は不知、その余は否認する。
2 抗弁2の事実は不知。
五 再抗弁
本件クラブの理事会は会員を代表するものでなく被告が勝手に選任した「理事」により構成されるもので、被告と同視されるものであるから、会員と被告との間の権利・義務関係を一方的に原告らに不利に変更する理事会の決議は民法九〇条に違反し無効である。
六 再抗弁に対する認否
否認する。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因について
請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
二 抗弁1について
《証拠省略》によると、原告らは本件預託契約を締結するに際し、本件クラブの会則を遵守することを約しており(会則の存在については当事者間に争いがない。)、右会則第八条には、「入会保証金の取扱いについては、会社の定める取扱規程によるものとする。」旨の記載がなされており、取扱規程第三条には「入会年月日より起算して満五年を経過した会員の退会申請があれば理事会の承認を得て入会保証金を返還する。」旨の記載がなされていることが認められる。
しかし、一方《証拠省略》によると、本件預託契約を締結する際に被告より原告らに交付された「預り金証書」には「据置期間五年」とのみ記載されており、その他何ら預託金の返還について条件が付されていないことが認められる。
以上の事実から判断すると、被告会社の取扱規程は預託金(入会保証金)等について単に会社内部の事務処理上の取扱いを定めているにすぎないものであり、原告ら本件クラブの会員は預り金証書に定める預託金の据置期間の経過後はいつでも退会(預託金の返還請求)をすることができ、退会(預託金の返還請求)について本件クラブの理事会の承認を要するものではないと解される。従って、抗弁1は失当である。
三 抗弁2について
《証拠省略》により、昭和五一年一〇月二三日の理事会において据置期間を一〇年とする旨の決議がなされたことは抗弁2記載の事実のとおりであるが、前記認定事実から考えると、被告会社と本件クラブの会員との間の個々の権利義務の内容は当事者間の合意によって定められるべきものと解されるので、本件クラブの理事会が被告会社の取扱規程の改正により、会員の預託金に関する事項を個々の会員の同意なく一方的に変更できるという法的根拠は存しないというべきである。取扱規程の改正を理由とする抗弁2もその余の点について判断する迄もなく失当である。
四 従って本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山田二郎)