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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)7593号 判決 1979年7月01日

原告

本多村義

右訴訟代理人

市野澤角次

被告

株式会社パレスゴルフクラブ

右代表者

春山敏郎

右訴訟代理人

加藤隆三

重国賀久

主文

一  被告は原告に対し、金一六〇万円及びこれに対する昭和五三年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四七年一〇月、被告の経営するパレスゴルフクラブに入会し、その際被告に対し入会保証金一六〇万円を預託期間五年間、退会時に返還を受けるとの約定のもとに預託した。

2  原告は、遅くとも昭和五三年三月九日に被告に到達した内容証明郵便をもつて被告に対し、右パレスゴルフクラブを退会する旨の意思表示をするとともに前記預託金一六〇万円の返還を求めた。

よつて原告は被告に対し、右預託金一六〇万円及びこれに対する昭和五三年三月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  抗弁

1  原告の入会したパレスゴルフクラブは、被告の経営管理するゴルフコース及びその附属施設を使用し、会員がこれを所定の条件をもつて利用することにより健金なゴルフの普及発展を期するとともに会員相互の親睦をはかることを目的とする被告とは別個独立の任意団体であり、その会員となろうとする者はすべて、同クラブの構成員を拘束する会則を承認したうえ被告に入会保証金を預託して同クラブに入会するものである。

2  パレスゴルフクラブの会則第八条には「入会保証金の取扱いについては会社の定める取扱規定によるものとする。」との定めがあり、右の規定を承けて定められた被告の取扱規定第三条には、入会年月日から起算して満五年を経過した会員から退会申請があつたときは、理事会の承認を得て入会保証金を返還する旨定められていた。

3  ところで、前記会則第二〇条には、会員の中から選任された理事をもつて構成する理事会(実質上の会員の議決機関)の決議を経て被告の右取扱規定を改正することができる旨定められているところ、右会則に従い昭和五一年一〇月二三日開催された理事会において前記取扱規定を改正し、第三条所定の五年の期間を一〇年とする旨の決議を行つたので、右改正後の取扱規定によれば、原告については入会保証金の据置期間が満了していない。

4  よつて、被告の原告に対する保証金返還債務の履行期は到来していないので、本訴請求は失当である。<以下、事実省略>

理由

一請求原因事実については当事者間に争いがない。

二当事者間に争いのない抗弁1の事実、<証拠>を総合すると、パレスゴルフクラブは被告の経営するゴルフ場施設を利用しようとする者が入会保証金を被告に納入して会員となるいわゆる預託会員制ゴルフクラブであること、原告入会時の同クラブの会則第八条には入会保証金の取扱いについて被告の定める取扱規定に委任する旨の条項は存せず、当時保証金の預託期間は五年とされていたこと、昭和五一年一〇月二三日に開催された右クラブ理事会において被告の取扱規定第三条が改正されて預託期間が五年から一〇年に延長されたことをそれぞれ認めることができ、右の認定を左右する証拠はない。

三そこで原告入会後の右の会則や取扱規定の改正が原告の預託金返還請求権に対してどのような影響を及ぼすかについて考える。

1  パレスゴルフクラブ及びその会則の性格

<証拠>によると、パレスゴルフクラブの会則には、代表者その他の役員並びに理事会の権限についての定めは存するものの、理事らの選任方法については、理事は会員の中から被告取締役会の推薦により選任される旨及び理事長は理事会の推薦により選任され、かつ副理事長、常任理事を指名して被告の承認を得る旨定められており、これらの者は、結局、会員の総意とは全く関係なく被告の意向に添つて選任されることが明らかであつて、これらの者によつて組織される理事会は実質上会員の議決機関に相当するものとは到底考えることができず、また一方、会員総会等の会員の総意をクラブの運営管理に反映する手段が会則に全く規定されていないこと、クラブの財産管理については、その運営の経費はすべて被告の負担とされ、会員は単に会費や施設利用料金を被告に納入する旨定められているのみで、クラブには固有の資産はなく、従つてその運用に関する定めもなんら存しないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

してみると、パレスゴルフクラブは、その代表の方法、財産の管理等のいずれの点からみても全面的に被告の支配下にあり、会員の総意を反映させる手続は何ら保障されていないので、到底権利能力のない社団の実体を備えているものと認めることはできず、むしろ被告経営のゴルフ場施設の管理運営を担当すべく設置された被告の業務代行機関にすぎないものと認めざるをえない。

従つて、同クラブの会則の法的性格は、会員に対して団体法的な拘束力を生ずる社団の定款に相当するものではなく、被告とクラブ会員との間のゴルフ施設利用等についての集団的な契約関係を規律する約款と認めるべきであり、同クラブの会員となろうとする者は右会則を承認して同クラブに入会することにより、被告との間に直接契約を締結するものと解するのが相当である。

2 右のように考えると、同クラブの会員の被告に対する権利義務の内容は入会時における会則の内容によつて定まるものであつて、その後の理事会による会則や取扱規定の改正は原則として個々の会員の同意を得ない限り各会員に対してなんら効力を生じないものといわなければならない。

もつとも、右会則の第二九条、第二〇条によると、理事会の決議によつて同会則及び被告取扱規定を改正することができる旨定められているので、原告は将来右のような改正のあることを承認して被告と契約を締結したものと解する余地がないでもない。しかしながら、前記認定によると理事会は被告と同一視すべき立場にあることが明らかであるから、その改正権限を有する範囲は契約当事者の一方たる被告と同視すべき理事会が原告の同意を得ることなく合理的に内容を変更することができる事項、すなわち本件においては、たとえば会費や施設利用料金の将来に向つての変更など会員の権利義務に影響を及ぼさないクラブの組織運営に関する事項に限られるのであつて、それを超える事項については、将来理事会によつてそれが一方的に変更されることを承認して原告が被告と契約を締結したと解し得る余地はない。よつて、理事会が原告の重要な権利である預託金返還請求権の履行期について一方的にその期間を変更し、あるいは預託金の返還について理事会の承認を要するものとするがごとき決議を行つたとしても、右決議は原則として原告を拘束する効力を有しないものといわなければならない。

3  以上のとおりであるから、原告入会後の被告主張にかかる会則や取扱規定の改正について被告が原告の同意をえたことをうかがうに足りる証拠のない本件においては、原告の被告に対する預託金返還請求権は右改正によつてなんら影響を受けないことが明らかであるので、被告の抗弁はそれについて判断するまでもなく失当であつて排斥を免れない。<以下、省略>

(近藤浩武 押切瞳 瀬木比呂志)

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