東京地方裁判所 昭和53年(ワ)7940号 判決
一 原告が本件実用新案権を有すること、本件考案の実用新案登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、被告がイ号製品及びロ号製品を昭和五二年一二月まで、ハ号製品を昭和四四年一〇月から同五三年八月一四日まで製造販売していたこと、被告製品の各構造が別紙第一ないし第三目録記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
二 右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案公報。別添実用新案公報と同じ。)の記載によると、本件考案は、次の構成要件からなるものと認められる。
A カツター装置付きテープホルダーであること。
B 巻回テープ類を保持する本体に固定刃を有する引出口を形成し、該引出口には固定刃とともに、引出したテープ類を剪断する可動刃を回動自在に設けること。
C 操作摘みを有する可動刃の緩挿軸に幅截断用切刃を固着すること。
D 軸と引出口の間に一対の案内ロールを装架すること。
三 被告製品の各構造を表示するものであることについて当事者間に争いがない別紙第一ないし第三目録の記載及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告製品が装備しているカツター装置付き複写用ロール紙(転写紙)ないしロール感光紙の支持機構部分(以下、単に「支持機構」という。)は、それぞれ次の構造からなるものと認められる。
1 イ号製品及びロ号製品の各支持機構
A´ ロール紙(転写紙)Cの保持板24を複写機本体aの下部に取手25により出し入れできるように着脱自在に設けること。
B´ 保持板24にロール紙(転写紙)Cを所望の長さに切断するための固定刃21及び回転刃22を設置し、かつ、複写機本体a内にロール紙(転写紙)Cを搬送するための搬送ローラ23を設けること。
C´ 複写機本体aの機外側面にロール紙(転写紙)Cの幅を截断する幅截断用カツター部分b及び排紙トレー33を装備し、幅截断用カツター部分bの側面に作動ツマミ40を設け、下回転刃48を軸44に、下回転刃43と接合してロール紙(転写紙)Cの幅截断を行なう上回転刃49を軸45にそれぞれ装着し、作動ツマミ40を軸43により支持すること。
D´ 幅截断用回転刃の軸44、45とロール紙(転写紙)Cの最終排出口との間に一対の搬送用ローラ55、56を設けること。
2 ハ号製品の支持機構
A´´ 複写機の機体下部の支持装置54によりロール感光紙1を支持すること。
B´´ ロール感光紙1の通路上に固定刃2、回転刃3からなるロール感光紙1の長さ切断用カツターを設けること。
C´´ ロール感光紙1の進行方向に沿つて下回転刃軸46に装着された下回転刃4、上回転刃軸45に装着された上回転刃5からなる紙の幅截断用カツターを設け、複写機の機体前方に設けられた紙の幅截断用カツターの切換ツマミ20にはツマミ軸21が、ツマミ軸21には切換爪22が各固着されていること。
D´´ 幅截断用回転刃の軸45、46とロール感光紙1の最終排出口との間に搬送ローラ対55を設けること。
四 そこで、被告製品が、本件考案の技術的範囲に属するかどうかについて判断する。
1 イ号製品及びロ号製品の各支持機構について
前記確定した実用新案登録請求の範囲の記載及び前掲甲第一号証によると、本件考案の構成要件Bにいう「引出口」とは、巻回テープ類を保持するテープホルダー本体に形成された、巻回テープ類が右テープホルダー本体の外に引き出されるところの開口部を意味し、右開口部に、固定刃とともに引出したテープ類を剪断する可動刃を回動自在に設けることが本件考案の構成要件Bであると解される。そこで、イ号製品及びロ号製品の各支持機構が右構成要件を充足するかどうか検討するに、イ号製品及びロ号製品の構造を示すものであることに争いのない別紙(〔編註〕省略)第一目録及び第二目録の記載によれば、イ号製品及びロ号製品においては、ロール紙(転写紙)Cの最終排出口が右にいう開口部、すなわち本件考案の構成要件Bにいう「引出口」に該当するものと認められるが、右各目録の記載によれば、右最終排出口には固定刃も「引出したテープ類を剪断する可動刃」も設けられていないことが認められる。したがつて、イ号製品及びロ号製品の支持機構は、すでに右の点において本件考案の構成要件Bを充足しない。
原告は、構成要件Bに「本体に」とあるのは「本体内に」ということであり、かつ、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には構成要件Bにいう「引出口」と最終排出口を意味する構成要件Dにいう「引出口」とが同一の箇所を指すものであるとの限定的記載は全く無いとして、イ号製品及びロ号製品の複写機本体a内に存するロール紙(転写紙)Cを所定の長さに切断するための固定刃21及び回転刃22間の間隙部が、構成要件Bにいう「引出口」に該当し、したがつて、イ号製品及びロ号製品の各支持機構は、構成要件Bを充足する旨主張している。しかしながら、当事者間に争いのない実用新案登録請求の範囲の記載及び前掲甲第一号証によるも、原告の右「引出口」についての解釈は、これを首肯し得ないばかりか、かえつて、前記のとおり、右「引出口」とはテープ類の最終排出口を指すものと解されるのであつて、他に原告の右「引出口」についての解釈を正当と認めるに足る証拠はない。したがつて、右解釈を前提としてイ号製品及びロ号製品の各支持機構が本件考案の構成要件Bを充足するとの原告の前記主張は理由がない。
2 ハ号製品の支持機構について
本件考案の構成要件Bにいう「引出口」とは、巻回テープ類を保持するテープホルダー本体に形成された、巻回テープ類が外に引き出されるところの開口部を意味し、右開口部に固定刃とともに、引出したテープ類を剪断する可動刃を回動自在に設けることが本件考案の構成要件Bであると解されること前記1認定のとおりである。そこで、ハ号製品が右構成要件を充足するかどうか検討するに、ハ号製品の構造を示すものであることに争いのない別紙第三目録の記載によれば、感光紙排紙板13、13´の近傍の二つのロール感光紙最終排出口が右にいう開口部、すなわち本件考案の構成要件Bにいう「引出口」に該当すること、右目録の記載によれば、右最終排出口には「固定刃」も「引出したテープ類を剪断する可動刃」も設けられていないことが認められる。したがつて、ハ号製品の支持機構は、すでに右の点において本件考案の構成要件Bを充足しない。
原告は、前記1と同じ理由により、ハ号製品の複写機の機体内に存するロール感光紙1を所定の長さに切断するための固定刃2及び回転刃3間の間隙部が、構成要件Bにいう「引出口」に該当し、したがつて、ハ号製品の支持機構は、構成要件Bを充足する旨主張している。しかしながら、当事者間に争いのない実用新案登録請求の範囲の記載及び前掲甲第一号証によるも、原告の右「引出口」についての解釈は、これを首肯し得ないばかりか、かえつて、前記1で認定した如く、右「引出口」とはテープ類の最終排出口を指すものと解されるのであつて、他に原告の右「引出口」についての解釈を正当と認めるに足る証拠はない。したがつて右解釈を前提としてハ号製品の支持機構が本件考案の構成要件Bを充足するとの原告の前記主張は理由がない。
五 以上のように、被告製品の各支持機構は、いずれも、すくなくとも本件考案の構成要件Bを充足しないので、その余の点について判断するまでもなく、被告製品は本件考案の技術的範囲に属するものとはいえない。
よつて、被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとする。
〔編註その一〕本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。
巻回テープ類を保持する本体1に固定刃2を有する引出口3を形成し、該引出口3には固定刃2と共に、引出したテープT類を剪断する可動刃4を回動自在に設けたカツター装置付テープホルダーにおいて、操作摘み9を有する可動刃4の緩挿軸8に幅截断用切刃7を固着し、軸8と引出口3の間に一対の案内ロール5、6を装架した構造。