東京地方裁判所 昭和53年(ワ)796号・昭53年(ワ)10105号 判決
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【判旨】
2 そして、右争いのない事実と、<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができ、<証拠判断略>。
(一) TOS観光は、昭和四八年五月二五日ゴルフ場経営等を目的として設立された会社であるが、その設立直後ころから、本件土地に本件ゴルフ場を建設することを計画し、同年一〇月一六日、本件土地の所有者である訴外会社イケソーとの間に、本件土地につき借地保証金一億円を支払つて借地権の設定を受けることについて基本的合意に達し、TOS観光が右借地保証金一億円を支払つたときに借地契約を締結することとし、そのころ、株式会社イケソーに対し、右借地保証金内金一五〇〇万円を支払つた。TOS観光は、また、同月二二日、札幌市との間に、同市の「ゴルフ場造成にかかわる自然の保全及び縁の環境整備についての指導基準」に従い、本件ゴルフ場造成に当つては、自然環境の保全及び整備のため、慎重に計画を樹立し、ゴルフ場全面積の五〇パーセント以上に植林するなどの内容の協定を締結し、更に、同年一二月二五日、札幌市長に対し、本件ゴルフ場造成工事に関し、宅地造成等規制法八条一項の規定に基づく許可申請をした。
(二) ところが、TOS観光は、その後、事業資金に窮し、本件ゴルフ場建設事業を推進させることが困難となつた。訴外株式会社北興の代表取締役をしていた菅野正雄は、TOS観光の代表取締役高橋友治郎からこのことを聞き、昭和四九年七月ころ、かねてからの友人であり、当時訴外三陸航空株式会社の代表取締役等をしていた原告に対し、本件ゴルフ場建設事業を引き継いでやつてみてはどうかと持ち掛けた。これに対し、原告は、適当な資金援助者があれば本件ゴルフ場建設事業を引き継いでもよいと考え、知人であり当時不動産会社である訴外株式会社高松の開発部次長をしていた高浜常知に資金援助者の紹介を求めたところ、同年一一月ころ、同人から、当時訴外ジャスコ株式会社の東北開発部長をしていた被告を紹介され、被告から資金援助の申出を受けた。そこで、原告は、一方において、高橋友治郎との間に、本件ゴルフ場建設事業引継ぎの条件について折衝するとともに、他方において、被告との間に、資金援助の条件について交渉を進めた。
(三) その結果、原告は、昭和四九年一二月一〇日までにTOS観光代表取締役の高橋友治郎との間に、次のような合意に達した。
(1) 原告は、TOS観光を買収し、すなわち、TOS観光の資本と経営権とを取得し、TOS観光の事業として本件ゴルフ場建設事業を承継して完成させる。
(2) 原告は、高橋友治郎に対し、TOS観光の買収費として二五〇〇万円を支払う。
(3) 原告は、直ちにTOS観光の代表取締役会長に就任するが、高橋友治郎も、本約定が完全に履行されるまでは代表取締役社長の地位にとどまり、本件ゴルフ場建設事業の推進に協力する。
(4) 高橋友治郎は、原告が本件ゴルフ場建設事業を承継して完成させることができるよう、株式会社イケソーから、原告が経営権を引き継いだ後もTOS観光が本件土地を借地することができるよう確約を取り付けるとともに、TOS観光が昭和四八年一〇月二二日札幌市長との間に取り交わした前記協定を原告がTOS観光の経営権を引き継いだ後も失効しないよう処置する。
(5) 高橋友治郎は、原告から前記TOS観光買収費二二〇〇万円の支払を受けたときは、速やかにTOS観光の全株式を原告に譲渡するとともに、他の役員全員を解任して退社させる。
(四) 他方、原告は、昭和四九年一二月一〇日、被告との間に、本件ゴルフ場建設事業に関し資金援助を受けるについて、左記内容の契約(本件業務委託契約)を締結した。
(1) 原告は、TOS観光の代表取締役会長に就任し、TOS観光の事業として本件ゴルフ場建設事業を推進する。
(2) 原告は、昭和五〇年三月末ころまでに、TOS観光を買収し、すなわち、TOS観光の全株式を取得するとともに従来の取締役を退任させてTOS観光の資本と経営権とを引き継ぎ、本件ゴルフ場敷地につき、その地主との間に正式に借地契約を締結し、かつ、本件ゴルフ場造成工事に関し宅地造成等規制法に基づく造成工事の許可及び都市計画法に基づく開発行為の許可を得る等関係諸官庁に対する手続を終える。
(3) 被告は、原告に対し、原告が右(2)の業務の執行に要する費用に充てるため、合計一億二七〇〇万円を次のとおり貸し付ける。
(イ)昭和四九年一二月一〇日 五〇〇万円
(ロ)同月一六日 五〇〇万円
(ハ)同月二五日 五〇〇万円
(ニ)昭和五〇年一月一五日 一五〇〇万円
(ホ)同月末日 三五〇〇万円
(ヘ)同年二月末日 五〇〇〇万円
(ト)同年三月末日 一二〇〇万円
(4) 原告は、昭和五〇年三月末までに、前記(2)の各業務を完了させ、その段階において、被告に対し、TOS観光の全株式及び経営権を譲渡し、本件ゴルフ場建設事業を引き継ぐ。そして、爾後、被告がTOS観光の実権を掌握し、被告の指定する者が代表取締役社長に就任して本件ゴルフ場建設事業を推進する。
(5) 前記(3)の貸付金一億二七〇〇万円は右(4)のTOS観光の株式及び経営権の譲渡代金をもつて返済に充てる。
(6) 被告は、原告に対し、本件ゴルフ場建設事業推進についての業績に報いるため、慰労金として二〇〇〇万円を支払う。
3 右2に認定したところによれば、(イ)原告が高橋友治郎からTOS観光を買収してその株式及び経営権を引き継ぎ、(ロ)本件ゴルフ場敷地につき地主と借地契約を締結し、(ハ)本件ゴルフ場造成工事に関し関係諸官庁に対する手続を完了するまでの諸業務は、一見、被告の委託に基づくものではなく、原告が自己の費用でするものであり、被告はただ、原告が右業務の執行に要する費用を貸し付け、原告が右(イ)ないし(ハ)の業務を完了した段階において、原告からTOS観光の全株式及び経営権の譲渡を受けるというだけの関係のようにみえないでもない。しかしながら、他方において、被告は、原告に対し原告が右(イ)ないし(ハ)の業務の執行に要する費用を貸し付けるか否かの自由を有するものではなく、一億二七〇〇万円の限度でこれを貸し付けるべき義務を負つているものであり、しかも、原告は、右(イ)ないし(ハ)の業務完了後もTOS観光を経営し、本件ゴルフ場建設事業を遂行していくというのではなく、右業務が完了したときは、被告に対しTOS観光の全株式及び経営権を譲渡し、その譲渡代金をもつて前記貸付金の返済に充てるとともに、被告から慰労金として二〇〇〇万円の支払を受けとることになつているのであり、これらのことを併わせて考えれば、原告が行う右(イ)ないし(ハ)の業務の執行は、実質的には被告の委託に基づいてするものであり、また、被告が原告に対し貸付金名下に交付する金員は、実質的には委託業務処理のための費用の支払いとしての性質を有し、慰労金名下の二〇〇〇万円は、実質的には委託業務処理に対する報酬としての性質を有するものと解するのが相当である。そうすると、被告は、原告が支出した前記(イ)ないし(ハ)の業務処理に必要な費用を原告に償還すべき義務があり、また本件業務委託契約が被告の責に帰すべき事由により中途終了するに至つたときは、原告の既にした業務執行の割合に応じた報酬を原告に支払うべき義務があるものというべきである。
(石井健吾)