東京地方裁判所 昭和53年(借チ)1号 決定
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
第三当裁判所の判断
一申立人の借地権について
本件で取り調べた資料によれば、次の事実を認めることができる。
昭和二四年二月一日、本件土地につき地主である相手方と申立人との間に非堅固建物の所有を目的とする賃貸借契約が締結されたが、その詳細は、申立人が相手方の同意のもとに吉川志げから賃借権の譲渡を受け、賃貸借期間を相手方と吉川との賃貸借期間二〇年の残存期間(昭和三八年八月末日まで)とし、賃料は月額九九円二七銭とするものであつた。
右賃貸借期間は、申立人のほか、相手方所有地の他の借地人である丸源一郎(丸正己らの先代)、高橋熊雄、木下勇夫、藤崎卓司、鳥海菊藏、荒川重年らについても同様であつたが、相手方は期間満了前に申立人を含むこれら借地人に対し自己使用による更新拒絶の通知をし、昭和三八年一〇月初め各賃借地の明渡しを求める調停の申立をした。
こうした経緯の後、本件土地についても相手方と申立人との間に賃貸借の更新が約定され、期間は更新時(昭和三八・九・一)より二〇年、賃料は昭和四〇年一月以降月額一万三八三五円(坪あたり約八二七円)とされ、なお、申立人は、更新料として合計七三万六六五〇円を、昭和四〇年五月二一日内金三〇万円、残金四三万六六五〇円は月額三六三八円(円未満切捨)の一〇年月賦の約定で支払つている。
その後、賃料は昭和五二年六月以降月額八万五〇〇〇円(坪当たり約五〇八一円)に改訂された。
二借地条件の変更相当性について
本件で取り調べた資料によれば、次の事情を認めることができる。
本件賃貸借は、前述のとおり相手方と吉川志げとの間の賃貸借を承継したものであるが、吉川の賃借時(昭一八・九・一)はもちろん、申立人の賃借時(昭二四・二・一)においても、非堅固建物所有を目的とすることが格別異例でもなかつたが、昭和二六年三月には防火地域に指定され(現に商業地域、容積率七〇〇%とされている)、その後現在では、附近に高層の堅固建物が林立し、土地の利用状況は著しく変更するに至つた。要するに、「現ニ借地権ヲ設定スルニ於テハ堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルコトヲ相当トスルニ至リタル」ものということができる。
三権利濫用等の相手方の主張について
土地はこれを細分化することなく共同開発して利用することが好ましいことは自明のところであり、本件においても、申立人借地を含む相手方所有地四一〇m2五七の一括利用が望ましいことはいうまでもない。しかし、相手方主張の共同ビルの建設は、別紙図面にみるように、渡部清子、丸正己ほか四名、申立人、山田正志、小嶋賢次、高橋熊雄、藤崎卓司、木下勇夫という多数の借地人があり、さらには山田の借地のように地上のビルに多数の借家人がある状況の下においては、これら関係者の利害が錯綜して、いうべくして容易に行なわれ難いのが例である。そこで、まず必要なのは、地主と多数借地人との間の信頼関係であるが、本件においては容易にこれを認め難いのが現状である。
共同ビルの建設は望ましいが、そして申立人自身これに賛成であるが、その実現は現状において望みえない情況にあり、共同ビル建設の障害となつているのは申立人ではない。
相手方のいわゆるペンシルビルの建設は、都市開発上望ましいものとはいえないが、共同ビルの建設が不可能であればやむをえないところであり、相手方の所有地は申立人の「ふじ野ビル」の建設をまつまでもなく、山田の持田ビルによつて三分割されている現状で、申立人の単独ビル建設のみを非難するのは当を得ない。
共同ビル建設の提案については、申立人も第一回審問期日から付調停の勧告に応じ、約一年間の調停をくり返し、これが不調となつて後も、相手方のいわゆる西武不動産の乗出しによる共同ビル構想の成否を見守つてきたもので、その実現困難な現状において、本件申立を維持する申立人を非難しうる根拠は相手方にはない。高層ビルの建設について、地主や隣地借地人の協力の必要であることを申立人は知るべきであるが、ことは相手方についても同様であり、多数借地人(ないし地上建物の賃借人)との間の協力―信頼関係の維持―なくして共同ビル建設のありえないことを相手方は知るべきである。
相手方はまた、申立人の「ペンシルビル」の建設自体を非難するが、申立人自身共同ビルの建設に反対でなかつたのであり、また申立人の予定するビルの建設が最新の工法をもつてしてもなお隣地との関係から許容され得ないとする相手方の主張は、これを肯認すべき資料がない。
(可部恒雄)