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東京地方裁判所 昭和53年(借チ)53号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

申立人は、相手方から、本件土地を、非堅固建物所有の目的で、期間の定めなく賃借し、同地上に本件建物を所有しているのであるが、相手方に対し本件借地条件を堅固建物所有目的とすることへの承諾を求めたところ、この申入を拒絶されたため、借地契約の目的を右のように変更する旨の裁判を求めた。裁判所は、この申立を容れたうえ、附随処分について次のとおり判断した。

【判旨】

3 そこで附随処分について検討する。

(1) まず本件土地の更地価格につき、昭和五四年五月二四日付の鑑定委員会の意見書では、近隣の取引事例に基づきこれに適宜補正を行つた価格に近隣の地価公示地(港区5の11、港区麻布十番二―一四―二所在)における公示価格との均衡を考慮して一m2当り四〇〇、〇〇〇円合計約六八、九〇〇、〇〇〇円と算定し、昭和五五年六月九日付の鑑定委員会の意見書では、昭和五四年五月から昭和五五年六月までの間の地価の上昇を、右公示地における昭和五四年から昭和五五年の公示価格上昇率一二%をもとに、これを右六八、九〇〇、〇〇〇円に乗じて得た七七、一六八、〇〇〇円をもつて昭和五五年六月時点での本件土地の更地価格と算定しており、右は近隣の取引事例ないし地価上昇を考慮して算定されているから、算定方法ないし価格はいずれも相当なものと認めるべきである。

(2) 次に本件の財産上の給付額について検討するに、前記本件の両鑑定意見書では、結論として更地価格の一〇%相当をもつて給付額としている(昭和五四年五月二四日付鑑定意見書では、非堅固建物所有を目的とする場合の借地権割合七〇%と堅固建物所有を目的とする場合の借地権割合八〇%との間の借地権割合の増加分一〇%をもつて給付額とする)。

ところで、申立人は、本件土地と隣地の藤井所有地に跨つて本件建築予定建物の建築を計画していて、申立人によれば、右建物は右両土地の境界に沿い各々区分建物となる構造とするので、仮に本件土地上の部分の収去をなすべき事態となつても、容易にこれをなし得るというのである。しかし非堅固建物に比し堅固建物の収去が困難であることは、一棟の堅固建物の各々の部分を区分建物とすることにより相違するものでない。のみならず、各々区分建物とするとしても(申立人提出の図面によるとそのままでは申立人主張の各部分が直ちに区分建物となる余地はないが、両土地の地境に沿つて垂直にシャッター等で障壁を設けることにより、これが可能となる余地がないでもない)、区分建物を相互に隔てる障壁を初めとして各種の管理施設ないし設備等共用部分施設とみるべき部分が存することになるであろうから、仮に申立人において将来本件借地権を処分することになると、地主である相手方の介入権行使を躊躇させるのみならず、介入権行使の結果は当事者の予期しない複雑な法律関係を生ずることとなることが予測せられるのであり、同様のことは相手方が建物買取請求権を行使する場合にも生ずることが考えられる。そうすると申立人が本件土地と藤井所有地(申立人が藤井所有地にどのような使用権限を設定するのかは明らかでないが)に跨がり前記建物を建築すると本件土地の賃貸人である相手方に申立人が本件土地上の範囲に限つて一棟の堅固建物を建築する場合に比し相当の不利益を蒙らしめる結果となることは明らかである。

もつとも本件においては、前記の通り右両土地に跨つて本件建物が存在しているのであるが本件のような場合をも含め、相隣接する自己所有地と借地間ないし同一または格別の賃貸人からの格別の借地間に跨つて一棟ないし数棟の非堅固または堅固建物を建築所有する型態で借地を利用する場合が巷間にはまま存するところであろうが、それらは多くが関係当事者間でそれなりの合意がなされているものと考えられる。本件において前記増改築即ち前記両土地に跨つて本件建物を建築所有することについて申立人においてその都度相手方の承諾を得ていたかについてはいささか疑問なしとしないが、それはともかく仮に相手方において右について明示または黙示の承諾を与えていたものと認められるとしても、本件建物は非堅固建物であつて、非堅固建物の場合に両土地を右のように一体として使用することを承諾していたからといつて、直ちに堅固建物の場合にもこれと同一に論ずることは、借地法が非堅固建物所有目的の場合と堅固建物所有の場合の借地契約の内容を別異に法規制しているのみならず、堅固建物所有目的の場合従つて堅固建物が建築された場合には前記説示のような非堅固建物所有の場合には左程問題とならない事態を生ずること等に鑑みると多くの場合通常の当事者の意思に沿う所以であるとは言難いと考えられる。そして更に借地条件を変更する旨の裁判は、借地条件を非堅固建物所有の目的から堅固建物所有の目的に変更するのであるが、その結果として借地人にその後建築する具体的な堅固建物の建築について更に借地法八条の二第二項の地主の承諾に代る増改築の許可の裁判を得るまでもないと解するとすれば、借地条件変更申立事件においては、申立人である借地人が、将来当該借地の範囲内でのみ堅固建物を建築する計画を有するものか、本件の場合のように他地に跨つてその計画を有するものかは、借地法八条の二第三項の一切の事情として附随処分を判断する場合のみならず当該申立の許否の判断をする場合にもこれを考慮することが、借地非訟制度の目的により叶う所以のものである。

これを本件についてみると、本件ではともかくも従来申立人において前記のように本件土地と藤井所有地を一体として利用してきていて、相手方においてこれに従来格別異議を唱えたと認める事情の存しないこと申立人への本件借地権の譲渡についてはそれなりの譲渡承諾料が支払われておりその後本件当事者間に本件以外にとくに借地紛争はなく推移してきたこと、本件建築旨定建物は四階建の中層堅固建物であり取毀しが著るしく困難とは認められないこと、相手方は期間満了の際には正当事由に基づく明渡請求をする予定でいるが、右正当事由による本件土地の明渡の認められる可能性は本件資料を検討しても殆んど存しないと考えられること等本件に現れた諸般の事情を考慮するときは、地主である相手方に生ずることの予測される前記事情による不利益は、申立人が堅固建物を建築所有することにより得る利益と共に本件においては申立人に命ずる財産上の給付の額等においてこれを考慮することで双方の利益の調節は一応なしうるものとして、本件申立を許容するのが相当である。

しかしてこの種事件において当裁判所が通例申立人にその支払を命ずる財産上の給付は更地価格の一〇%とされており、前記鑑定委員会の意見は結論において右通例に沿うものであるが、本件においては以上に屡々説示した事情を考慮するときは、申立人に対し、財産上の給付として一一、六〇〇、〇〇〇円(更地価格の約一五%に相当する)の支払を命ずるのが相当であると考える。

(櫻井登美雄)

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