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東京地方裁判所 昭和53年(刑わ)2878号 判決 1980年3月31日

主文

被告人一一名をそれぞれ懲役二年に処する。

未決勾留日数中、被告人谷川朋彦に対し一四〇日を、その余の被告人に対し各二〇〇日を、それぞれその刑に算入する。

被告人一一名に対し、この裁判の確定した日から各三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、別紙訴訟費用負担一覧表記載のとおり、被告人らの負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人ら一一名は、昭和五三年三月二六日の午後、ほか約三〇〇名の者とともに、新東京国際空港の開港に反対するなどの目的をもつて、千葉県山武郡芝山町所在の通称横堀街道を集団示威行進し、同日午後一時二五分ころ、同町香山新田一二四番地所在の火の見やぐら付近路上に至つたが、同所付近において、右約三〇〇名の者と共謀のうえ、

第一  同日午後一時二五分すぎころから同一時三三分ころまでの間、同町香山新田一二四番地及び同七七番地付近の路上、畑地などにおいて、同所周辺における違法行為の警戒・警備、規制・検挙などの職務に従事していた千葉県警察本部長指揮下の警視庁第一機動隊及び同第九機動隊所属の約六〇〇名の警察官らの身体に対し共同して危害を加える目的をもつて、火炎びん、鉄パイプ、石塊を所持して集合し、もつて、兇器を準備して集合し、

第二  同日午後一時三〇分ころから同一時三三分ころまでの間、前同所において、前記職務に従事していた前記警察官らに対し、火炎びん、石塊を投げつけ、鉄パイプで殴りかかるなどの暴行を加え、もつて、火炎びんを使用して右警察官らの身体に危険を生じさせるとともに、同警察官らの前記職務の執行を妨害し、その際、右暴行により、警視庁第九機動隊第四中隊長大畑勝治(当時四一年)に対し加療約一ヶ月半を要する顔面、両手及び左上腕第二度熱傷、同第九機動隊本部無線担当員岩田貞実(当時二七年)に対し加療約一週間を要する左肩甲部打撲の各傷害を負わせた

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(弁護人及び被告人らの主張に対する判断)

弁護人及び被告人らは、本件に関し種々の主張をなしているので、その主な点について、当裁判所の判断を示すことにする。

一  管轄違の申立について

弁護人らは、被告人谷川を除くその余の一〇名の被告人については、本件起訴当時、犯罪地又は住所、居所若しくは現在地が東京都内でなかつたから、本来当裁判所に土地管轄がなく、また、被告人谷川とともに罪を犯したという点も立証されていないから、関連事件として併合管轄することもできないし、仮りに関連性があるとしても、土地管轄は訴訟条件として起訴時を標準として判断すべきであるところ、右一〇名の被告人に対する起訴は、昭和五三年四月一六日で、被告人谷川が当裁判所へ起訴された同年一〇月六日より前であるから、起訴時には土地管轄がないので、いずれにしても当裁判所に管轄権はなく、管轄違の言渡をすべきである旨主張する。

しかしながら、右一〇名の被告人については、起訴当時土地管轄が当裁判所になかつたとしても、これらの被告人とともに千葉地方裁判所に起訴されたのち移送されて当部で併合審理された被告人谷川の住居が東京都にあることは一件記録上明らかであり、同被告人に対しては当初より当裁判所に土地管轄があるところ、右一〇名の被告人に対する事件は、判示のとおり被告人谷川とともに犯したもので、同被告人に対する事件と相互に関連することが明らかであるから、刑事訴訟法第九条第一項第二号、第六条により、当裁判所が併せて管轄することができることは明白である(もつとも、被告人谷川に対する事件は、一旦公訴を棄却されているが、これは、移送後同被告人が少年であることが判明したためであり、右一〇名の被告人に対する事件が移送によつて当裁判所に適法に係属した後のことである。なお、たとえ右一〇名に対する事件については、被告人谷川に対する事件が当裁判所に起訴されるまで当裁判所に管轄権がなかつたとしたところで、同被告人に対する事件が当裁判所に起訴されたときに、これと併せて管轄することができるので、少なくともその時点で管轄権の瑕疵は治癒されているといえるのである。)。

よつて、弁護人らの主張は採用できない。

二  公訴棄却の主張について

被告人らのうち一部の者は、本件起訴は、新東京国際空港の建設に対する反対運動を政治的に弾圧するためになされたもので、かつ、本件現場付近にいた者を無差別に大量逮捕し、これに基づいてなされた不当なものであり、公訴権の濫用であるから公訴は棄却されるべきである旨主張するが、後記のとおり本件現場における警察部隊による規制、検挙活動は適法なものと認められ、また、判示のような被告人らの所為はその態様等に照らし処罰に値するものであり、更に、当裁判所が取り調べた全証拠を検討しても検察官がことさら被告人らの反対運動を政治的に弾圧しようとの意図のもとに公訴を提起したとは認められないので、被告人らの右主張は採用できない。

なお、被告人目黒は、同被告人の逮捕手続に関し、証人森田孝一は、当公判廷では同被告人を現行犯人として逮捕したと証言しているが、検察官に対する供述調書では被逮捕者の逮捕番号を同被告人の逮捕番号成田二〇八二号とは異なる同二〇七九号と述べており、かつ、同証人が当公判廷で供述した逮捕状況は右二〇七九号の者に対する逮捕の状況と酷似しており、これらの点からすると、同証人は同被告人を逮捕した者ではないと考えられ、このような逮捕、起訴手続には著しい違法があるので、同被告人に対する公訴は棄却されるべきであると主張する。確かに、同証人の検察官に対する供述調書では被逮捕者の逮捕番号が二〇七九とされていることが窺われるが、同証人の当公判廷における供述によれば、同証人が逮捕番号成田二〇八二号の同被告人と並んで並列写真四葉を写していること、同証人は逮捕した者を自ら連行し、並列写真を写すまでその者と終始一緒であつたこと、同証人が逮捕した者は当日一人だけであつたこと等が認められ、加えて、被告人目黒に関する押収物についての同証人の供述と客観的証拠物とが符合すること等の事情も認められ、これらの点を総合して考慮すれば、同証人が逮捕した者は被告人目黒であると認めることができ、検察官に対する供述調書中の逮捕番号の記載は誤記と認められる。もつとも、同証人の当公判廷における供述その他の証拠によつても、同被告人の本件当時の具体的犯行を特定するには至らないが、同被告人も、後記のとおり本件集団に所属していたことは明らかであるから、同被告人に対する逮捕手続並びに公訴提起には何ら違法は存しない。よつて、同被告人の主張も採用できない。

三  構成要件該当性等について

1  弁護人らは、被告人らに対する本件各公訴事実について、被告人ら各別の具体的行為は何ら立証されていないので、実行共同正犯は成立せず、また、共謀共同正犯の理論は近代刑法の個人責任の原則に反するもので、憲法第三一条に照らし違憲というべきであり、仮りに合憲であるとしても、被告人らが各公訴事実につき事前においても現場においても共謀した事実はないので、共謀共同正犯も成立しないし、更に、次の各点からも被告人らは全員無罪である旨主張する。

(一) 兇器準備集合罪の点については、被告人らの本件行動は政治目的をもつた大衆運動であるから、暴力団の規制・取締りという同罪の立法の目的、趣旨等に照らし、そもそも被告人らに同罪を適用することはできない。仮りにこれが肯定されたとしても、本件の場合、被告人らは、新東京国際空港の開港に反対すること、及び通称横堀第二要塞に対する警察当局の差押に抗議することなどの点で一致していたので、共同して危害を加える目的を有していなかつた。

(二) 火炎びんの使用等の処罰に関する法律第二条第一項違反の罪については、同罪は、人の生命、身体又は財産に対する具体的危険の発生を要件とするいわゆる具体的危険犯と解すべきところ、本件においては、使用された火炎びんの数量が少なく、そのうち燃上したものはごくわずかであり、しかも警察部隊の手前でほとんどが落下しており、加えて現場にいた警察部隊も冷静に行動していたところからみて、具体的危険は未だ発生していなかつた。仮りに具体的危険が発生したとしても、それは極めて局所的であつて、現場にいた大多数の者は具体的危険の発生を認識、認容し得ない状況にあつたもので、被告人らについても右の認識、認容があつたという証拠は何ら存在しない。

(三) 公務執行妨害罪については、本件現場における警察官らの規制行為は、被告人らの正当な集団示威行進を何らの根拠なく阻止しようとしたり、また、多数の機動隊員を現場付近に秘匿待機させ、デモ集団を挑発したうえ、具体的な実行行為を現認しない者までも無差別的に逮捕したもので、明らかに過剰警備であり、更に、本件警備は、新東京国際空港建設過程における政府、公団、警察側の種々の違法を承継するものであつて、いずれにしても、本件現場における警察官らの職務執行は違法であり、同罪の保護法益としての適格性を欠くものである。

(四) 傷害罪の点については、被告人らは、被害者に対する具体的加害行為には何ら関与しておらず、他方、被害者のうち岩田貞実の被害の程度は、防護服の上から一回殴打されたというに過ぎない軽微なもので、同罪の「傷害」には該当しないというべきである。

2  そこで、これらの点について検討すると、前掲各証拠によれば、本件当日の本件現場付近における状況に関して、次のような事実が認められる。

(1) 昭和五三年三月二六日午前一〇時ころから、千葉県山武郡芝山町所在の旧菱田小学校跡地で「三里塚空港開港阻止全国大決起集会」が開かれ、同集会終了後、同日午後零時三〇分すぎころから、これに参加した者のうち約三〇〇名の集団が、新東京国際空港の開港に反対し、また、通称横堀第二要塞に対する警察当局の差押に抗議する目的をもつて、同町所在の通称横堀街道を辺田方面から横堀公民館(同町香山新田九四番地所在)方面へ向けて集団示威行進し、同日午後一時二五分ころ、同町香山新田一二四番地所在の火の見やぐら付近路上に到着したこと

(2) 同所付近の土地の形状は、右火の見やぐらの南西沿いに南東の辺田方面から北西方向に前記横堀街道が走つており、同やぐらから百数十メートル北西の同街道南西沿いに前記横堀公民館があり、その間の同街道南西側には同町香山新田九四番地及び同七七番地の畑地ないし荒地が、更にその南西側には窪地が、同街道北東側には同一二四番地の畑地ないし荒地があり、右窪地付近を除き同所付近の見通しは良好であること

(3) 前記集団に所属する者は、ほとんど全員がヘルメツトを着用し、右火の見やぐら付近の路上及び畑地等において、同日午後一時二五分すぎころ約二〇名の者(以下、第一グループという。)が火炎びんを、約六〇名の者(以下、第二グループという。)が火炎びん、鉄パイプを、残余の者(以下、第三グループという。)のうち多くの者が投石用の石塊をそれぞれ手にもつて準備し、隊列を横に広げながら体制を整えたこと

(4) 同時刻ころ、前記横堀公民館の南側付近には、警視庁第一機動隊所属の警察官約三〇〇名が、警戒警備のため前記横堀街道をはさみ扇状に待機しており、また、前記窪地付近には警視庁第九機動隊所属の警察官約三〇〇名が、同様の目的のため待機していたこと

(5) 同日午後一時三〇分ころ、前記第一グループの者は、前記火の見やぐら付近から横堀街道上を横堀公民館方向へ前進し、同公民館付近で待機中の前記第一機動隊所属の約三〇〇名の警察官らに対し、所携の火炎びんに点火してこれを投てきしたこと

(6) 引き続き、前記第二グループの者は、第一グループの後方から前進し、同日午後一時三三分ころまでの間、前記香山新田九四番地、同七七番地、同一二四番地付近の路上並びに畑地などにおいて、前記第一機動隊所属の警察官及び第九機動隊所属の約三〇〇名の警察官に対し、火炎びんに点火してこれを投てきし、あるいは鉄パイプで殴りかかるなどしたこと、なお、右第一及び第九機動隊所属の警察官らは、右第一、第二グループの攻撃開始直後、検挙活動に入つたこと

(7) 残余の第三グループの者は、右第一グループ、第二グループの前記各攻撃の際、これらのグループに追従して前進し、同グループの後方から、前記各警察部隊に対し、所携の石塊を投げつけ、あるいはかん声を上げるなどして、右第一及び第二グループの攻撃を支援したこと

(8) 前記のような攻撃の結果、第九機動隊第四中隊長大畑勝治が前記香山新田七七番地付近で火炎びんの投てきを受け、また、同第九機動隊本部無線担当員岩田貞実が同一二四番地付近で後方から左肩部を鉄パイプによつて殴打され、それぞれ判示のとおりの傷害を負つたこと

(9) 被告人ら一一名は、いずれも、前記集団に所属していたものであるが、前記警察官らの検挙活動開始後、現場付近において逃走していたところ、被告人倉田は、同日午後一時三二分ころ、前記香山新田九四番地付近(証人山田均は、当公判廷において、同被告人を逮捕した地点を同七七番地付近と供述しているが、司法警察員小名木隆作成の実況見分調書添付の地籍図等に照らせば、右逮捕した地点は同九四番地付近と認められる。)において警視庁第一機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕され、逮捕直前火炎びんの火を頭部付近にあびていたこと、被告人安藤は、同一時三三分ころ、同七七番地付近において、同第九機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕され、逮捕時鉄パイプ一本(昭和五四年押第四二九号の六)を所持していたこと、被告人土橋は、同一時三二分ころ、同七六番地付近(前同様、司法警察員小名木隆作成の実況見分調書添付の地籍図等に照らして認定)において、同機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕されたこと、被告人飯塚は、同一時三三分ころ、同一二四番地付近において、同機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕されたこと、被告人平松は、同時刻ころ、同七七番地付近において、同機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕されたこと、被告人目黒は、同時刻ころ、同一二四番地付近において、同機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕されたこと、被告人吉田は、同時刻ころ、同一二四番地付近において、同機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕されたこと、被告人谷川は、同時刻ころ、同七六番地(前同様、司法警察員小名木隆作成の実況見分調書添付の地籍図等に照らして認定)付近において、同機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕され、逮捕時鉄パイプ(未押収)を所持していたこと、被告人大畑は、同時刻ころ、同一二四番地付近において、同機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕され、逮捕時石塊二個(前同号の二四)を所持していたこと、被告人高野は、同時刻ころ、同一二四番地付近において、同機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕され、逮捕時鉄パイプ一本(前同号の二六)を所持していたこと、被告人池永は、同一時三四分ころ、同一二五番地付近(前同様、司法警察員小名木隆作成の実況見分調書添付の地籍図等に照らして認定)において、同機動隊所属の警察官に現行犯人として逮捕されたこと

3  以上の認定事実をもとにして各罪の成否を検討する。

(一) 兇器準備集合罪の点については、右認定の諸事実及び前掲各証拠によれば、(1)前記集団の所持していた兇器が火炎びん、鉄パイプ、石塊という危険なものであつたこと、(2)その量も大量であつたこと、(3)攻撃対象である警察部隊の目前で組織的グループ編成等の攻撃体制の準備を完了させたこと、(4)このため、同集団に所属する者全員が右各兇器の存在はもちろん、これらの兇器を警察部隊に対する攻撃に使用するものであることを認識し得たこと、(5)同集団は、体制を整えるや、直ちに兇器を使用して警察部隊に対し攻撃に及んでいること、(6)同集団は、準備段階から兇器の使用に至るまで、終始相互に連けい支援し、一体的行動をとつたこと等の事実が認められ、これらの事実に照らせば、前記集団に所属する者全員が、現場において共謀のうえ、警察部隊に対し共同して危害を加える目的をもつて兇器を準備して集合したことを十分に認定することができる。

ところで、被告人ら一一名は、前記認定のとおりいずれも同集団に所属していたことが明らかであるから(ことに、被告人安藤、同谷川、同大畑及び同高野は、前記のとおり兇器を所持していたことが証拠上明らかである。)、被告人全員につき兇器準備集合罪が成立する。

なお、本件がたとえ政治目的あるいは大衆運動から出たものであるにせよ、右認定のような兇器準備集合罪に該当する所為がなされた以上、本件についても、当然その適用は免れ得ないものである。

(二) 火炎びんの使用等の処罰に関する法律第二条第一項違反の罪については、まず、本罪は、具体的危険犯と解されるが、前記認定の諸事実及び前掲各証拠によれば、本件現場付近で使用された火炎びんは、第一グループ、第二グループ合わせて数十本にのぼり、使用された範囲も現場付近一帯にわたりかなり広範囲であること、そのうち多数の火炎びんが警察部隊の至近距離に達していること、現実に第九機動隊所属の大畑勝治が火炎びんにより火傷を負つていること等の事実が認められ、これら事実に照らせば、本件においては、現場付近一帯に具体的危険が発生したことが十分に認められる。

次に、火炎びんの使用に関する犯意並びに共謀の点については、第一、第二グループの火炎びんを所持していた者につき、火炎びんの使用並びにこれによる具体的危険の発生を認識、認容していたことが当然に認められるほか、その余の本件集団に所属する者についても、前記認定の諸事実及び前掲各証拠によれば、本件当日の午後一時二五分すぎころ前記火の見やぐら付近に本件集団が集合して体制を整えた際、火炎びんを所持した者のごく近くにその余の者も位置していたこと、火炎びんを所持した数十名の者が時間的にまず最初に集団の前方で横に広がりながら体制を整えたうえ前進行為を開始したこと、このため、その余の者も火炎びんの存在はもちろん、現実に火炎びんを警察部隊に対する攻撃に使用するものであることを認識し得たこと、そして、その余の者は、第一、第二グループの火炎びんによる攻撃の際、これらのグループの者に追従して前進し、その後方から石塊を投げつけたり、かん声を上げるなどして、右攻撃を支援したこと等の事実が認められ、これらの事実に照らせば、本件集団に所属する者のうち、火炎びんを所持していない者についても、右第一、第二グループによる火炎びん投てきのための前進行為が開始される時点までに、その使用並びにこれによる具体的危険の発生を認識、認容していたことが認められる。そして、前記認定のとおりの本件攻撃開始前後における右集団の組織的一体的行動に照らせば、右第一、第二グループの火炎びんを所持する者については、その余の右集団に所属する者のためにも火炎びんを使用する意思が、右その余の者については、火炎びんを現実に所持使用する者と一体となつてその行為を利用する意思がそれぞれ認められ、したがつて、右集団に所属する者全員について、火炎びんの使用についての現場における共謀が認定できる。

そして、被告人一一名は、前記認定のとおり、いずれも右集団に所属していたことが明らかであるから、各人が火炎びんを現実に使用したと否とにかかわらず、被告人ら全員につき、火炎びん使用等の処罰に関する法律第二条第一項違反の罪が成立する。

(三) 公務執行妨害罪及び傷害罪については、まず、本件現場付近における警察部隊の職務執行に関しては、前掲各証拠によれば、警察部隊は、被告人らの所属する集団が現に火炎びん、鉄パイプ、石塊を所持したうえ、現場付近で警戒、警備に当たつていた警察部隊に対し、攻撃を加えたため、規制、検挙活動に入つたことが認められ、その職務執行は警察法、警察官職務執行法、刑事訴訟法等に照らし適法なものであり、更に、本件当日の被告人ら所属の集団の行動経緯等に照らし、前記第一機動隊及び第九機動隊を現場付近へ配置して警戒、警備を行うことは当然是認されるべきところであり、その他当裁判所において取り調べた全証拠を検討してみても、本件現場における警察部隊の職務執行につき何ら違法は見出せない。したがつて、この点に関する弁護人らの主張は採用できない。

次に、公務執行妨害及び傷害に関する犯意並びに共謀については、前記認定のとおり、本件集団は、共同して警察部隊に対し危害を加える目的をもつて、現実に警察部隊に対し、火炎びん、鉄パイプ、石塊を使用して暴行を加え、その結果、二名の警察官に傷害を負わせたことが明らかであり、加えて、右集団が終始一体となつて行動していたことなどに照らせば、警察部隊に対し具体的に暴行行為に及んだ者はもちろん、仮りにこれに及ばなかつた者であつても、現場において、他の者と共同して警察部隊に暴行を加え、その公務の執行を妨害することにつき共謀があつたことが優に認められる。

そして、被告人ら一一名は、前記認定のとおり、いずれも右集団に所属していたことが明らかであるから、各人が暴行に及んだと否とにかかわらず、被告人ら全員につき、公務執行妨害罪及び傷害罪が成立する。

なお、岩田貞実に関する傷害について付言すれば、同人の当公判廷における供述及び医師岩崎三樹作成の診断書謄本によれば、右岩田の被害は、鉄パイプによつて一回左肩部を殴打されたことにより生じた打撲で、痛みが約一週間続き、職務も休んだこと等が認められ、決して軽微なものとはいえず、刑法第二〇四条にいう「傷害」に該当することは明白といわざるを得ない。

(四) 以上のとおり、当裁判所は、被告人らに対する本件各公訴事実につき、本件現場における共謀共同正犯を認めた次第であるが、いわゆる共謀共同正犯の適用が憲法に違反するものではないことは、これまで幾多の判例が示してきたところであり、当裁判所もこれと同様の見解に立つものである。

四  違法性阻却の主張について

被告人及び弁護人らは、本件においては、

(1)  被告人らの行為は、違法・不当な新東京国際空港の建設に反対し、かつ、通称横堀第二要塞に対する警察当局による違法な差押に抗議するための行動で、目的において正当なものであつた

(2)  司法による事後的救済が時間的にも長期間を要し、現実に機能し得ないという状況下にあつて、右違法・不当な行為の積重ねをこれ以上認められないという緊急の事情があつた

(3)  使用された手段は、若干の火炎びん、鉄パイプ、石塊のみであり、警察側が様々の装備を有していたことなどに照らせば、不相当な兇器とはいえない

(4)  被告人らの行為によつて損害を受けた法益の程度は、被告人ら及び地元住民の受けた法益の侵害の程度が甚大であるのに比べ、全く軽微なものであり、法益の比例原則に欠けるところがない

(5)  公権力の恣意的行使に対し、被告人らには一定の実力を行使する以外他に代替的手段がなかつたもので、その補充性に欠けるところがない

などの事情が存在するとし、これらの事情に照らせば、被告人らの本件行為は、憲法に内在する国民の抵抗権に基づく正当行為として、ないしは正当防衛行為として違法性が阻却されるべきものであると主張する。

そこで、右主張について検討すると、当裁判所において取り調べた全証拠、就中、弁護人申請の各証拠によれば、新東京国際空港の建設に関連して、建設予定地選定手続や建設過程における諸手続に関する問題、騒音等の環境に関する問題、燃料運搬に関する問題、空域や関連交通手段に関する問題など種々の問題点が指摘され、批判的見解が存在すること、被告人らも右空港建設に反対し、あるいは抗議する意思を有していたことが認められる。ところで、被告人らが右空港建設に関していかなる見解を有しようとも、それは内心に属する事柄であり、それ自体自由ではあるが、その見解を外部的に表明する場合にどのような手段・方法が許されるかは自ら別個の問題であるといわなければならない。本件の場合における被告人らの所為は、判示認定のとおり、火炎びん、鉄パイプ、石塊という兇器を多数準備して集合し、かつ、これを使用して警戒警備のため待機中の警察部隊に対し攻撃をしかけ、結果として二人の警察官に傷害を負わせるなどしたというもので、態様においてはなはだ危険なものであるばかりでなく、被告人らの行為によつて侵害された社会的法益、個人的法益等も決して軽微なものとはいえないうえ、当裁判所において取り調べた全証拠を検討しても、本件当時、被告人らが判示のごとき所為をとらざるを得なかつたような特段の緊急事情や急迫不正の侵害があつたとも認められず、以上の事情にかんがみれば、被告人らの本件所為は、現行法秩序に照らし、到底是認し得ないものであることは明らかである。その他当公判廷において取り調べた全証拠を精査しても、本件につき違法性を阻却すべき事由は見出せない。

以上の次第で、被告人及び弁護人らの右主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人一一名の判示第一の所為は、各刑法第六〇条、第二〇八条ノ二第一項前段、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に、判示第二の所為中、火炎びんを使用した点は各刑法第六〇条、火炎びんの使用等の処罰に関する法律第二条第一項に、公務の執行を妨害した点は各刑法第六〇条、第九五条第一項に、大畑勝治及び岩田貞実に対する各傷害の点は各同法第六〇条、第二〇四条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号にそれぞれ該当するところ、右の火炎びんの使用と公務執行妨害及び各傷害は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により一罪として刑及び犯情の最も重い大畑勝治に対する傷害罪について定めた懲役刑で処断することとし、判示第一の罪については所定刑中懲役刑を選択するが、被告人らの以上の各罪は、同法第四五条前段の併合罪であるから、いずれも同法第四七条本文、第一〇条により重い大畑勝治に対する傷害罪の刑に同法第四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人一一名をそれぞれ懲役二年に処し、同法第二一条を適用して、未決勾留日数中、被告人谷川朋彦に対し一四〇日を、その余の被告人に対し各二〇〇日を、それぞれその刑に算入し、情状により同法第二五条第一項を適用して、被告人一一名に対し、この裁判の確定した日から各三年間それぞれその刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して、主文掲記のとおり被告人らに負担させることとする。

(量刑の理由)

被告人らの本件犯行は、集団による組織的犯行であり、使用された兇器も、火炎びん、鉄パイプ、石塊という危険性の高いもので、結果的にも現場にいた警察官に対し加療約一ケ月半を要する傷害を負わせるなどしたもので、また、社会に及ぼす影響も看過できないものがあり、被告人らの目的、動機がどのようなものであれ、その刑事責任は軽くないといわざるを得ない。

他方、本件犯行そのものは、警察部隊による早期制圧もあつて比較的短時間で終了したこと、場所的にも人家の少ない地域であつたこと、具体的被害者が幸い二名にとどまつたこと、被告人ら全員いずれも前科がなく、本件により既に相当期間の身柄拘束を経ていること等の事情も認められるので、主文のとおり量刑したうえ、その刑の執行を猶予したものである。

よつて、主文のとおり判決する。

別紙

訴訟費用負担一覧表

旅費・日当などを支給した証人の氏名 上欄の証人に支給した訴訟費用を負担すべき被告人の氏名並びに負担割合

海宝満、小名木隆、浅田等、徳田隆文、関根清治、篠原修二、古賀嘉運、生本洋三、平松雅人、磯勝彦、中津研二、大畑勝治(第七回、第八回公判)、岩田貞実(第七回、第八回公判)、山田均、稲垣順一、長谷川英雄(第一〇回公判分のみ)、高野正行、橋本堅治、森田孝一、青木進、鈴木武英、高田清次、粟野健二、高根沢幸次、早川幸男、西田覺、畑健次郎、八岩まどか、上坂喜美、石井節子、福田徹、加納明夫、三ノ宮廣、下野英俊 全被告人につき各一一分の一

大石雅彦 被告人倉田正純に全部

岡沢節子 被告人安藤晴夫に全部

土橋浩眞佐 被告人土橋眞由美に全部

飯塚イト 被告人飯塚静江に全部

山下光司、杉本新太郎 被告人平松弘二に全部

目黒妙子 被告人目黒眞實に全部

山荷義則 被告人吉田富美香に全部

谷川美津子 被告人谷川朋彦に全部

山下義仁 被告人大畑龍次に全部

高野幸子 被告人高野保義に全部

梅村美恵子 被告人池永章一郎に全部

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