東京地方裁判所 昭和53年(行ウ)134号 判決 1979年7月17日
原告 福島明 外八名
被告 建設大臣 東京都知事
主文
1 本件訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
1 被告建設大臣が昭和五〇年三月一九日建設省告示第三九四号をもつてした東京都市計画道路事業の事業計画の変更を認可する処分を取り消す。
2 被告東京都知事が昭和五三年八月一五日東京都告示第八三二号をもつて東京都中野区中野四丁目及び五丁目地内の土地についてした土地収用法に基づく手続開始の告示を取り消す。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決
二 被告建設大臣
(本案前の申立て)
1 原告らの被告建設大臣に対する訴えを却下する。
2 訴訟費用中原告らと被告建設大臣との間に生じたものは原告らの負担とする。
(本案についての申立て)
1 原告らの被告建設大臣に対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用中原告らと被告建設大臣との間に生じたものは原告らの負担とする。
との判決
三 被告東京都知事
(本案前の申立て)
1 原告らの被告東京都知事に対する訴えを却下する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決
第二当事者の主張
一 原告らの請求原因
1 被告建設大臣は、東京都市計画道路事業補助線街路第二六号線及び補助線街路第七四号線(以下「本件事業」という。)について、土地収用法の一部を改正する法律施行法(昭和四二年法律第七五号。以下「施行法」という。)による改正前の都市計画法(大正八年法律第三六号。以下「旧都市計画法」という。)第三条の規定により昭和三六年七月七日建設省告示第一三一八号をもつて都市計画事業決定及び本件事業の執行年度割を昭和三六年七月七日から同四一年三月三一日までとする決定をしたが、その後昭和四一年三月三一日建設省告示第一〇七九号をもつて執行年度割を昭和三六年七月七日から同四六年三月三一日までと変更し、さらに都市計画法(昭和四三年法律第一〇〇号。以下「現行都市計画法」という。)第六三条第一項の規定により昭和四六年三月三〇日建設省告示第五三三号をもつて本件事業の施行期間を昭和三六年七月七日から同五〇年三月三一日までと変更する事業計画変更を認可する処分を経て、昭和五〇年三月一九日建設省告示第三九四号をもつて本件事業の施行期間を昭和三六年七月七日から同五四年三月三一日までと変更する事業計画変更を認可する処分(以下「本件認可」という。)をした。
2 本件事業の対象となつた土地の収用については前記改正前の旧都市計画法第三条による都市計画事業の認可(昭和四二年政令第三四五号による改正前の都市計画法及同法施行令臨時特例(昭和一八年勅令第九四一号)第二条第一項、第二項の規定により都市計画事業の認可は不要とされる。)をもつて土地収用法第二〇条の規定により建設大臣のなした事業の認定とみなされ(施行法による改正前の旧都市計画法第一九条)、右事業の認定としての効果は都市計画法施行法(昭和四三年法律第一〇一号)第三条第一項の規定により現行都市計画法施行後も引き継がれる。
一方、土地収用法の一部を改正する法律(昭和四二年法律第七四号。以下「改正法」という。)をもつて土地収用法が改正され、収用又は使用の手続の保留の制度が新設され、これに伴い旧都市計画法も改正されたが、すでに都市計画事業決定がなされ土地収用法上の事業の認定がなされたものとみなされる土地の改正法による改正後の土地収用法による収用又は使用については、施行法第一四条、第四条の規定により収用又は使用の手続は保留されているものとみなされる。そして、右手続が保留されているものとみなされるものについては現行都市計画法施行後も旧都市計画法(施行法による改正後のもの)第二一条第一項但書の規定による手続開始の申立てがなされていないものはなお収用又は使用の手続が保留されているものとみなされる(都市計画法施行法第六条。都市計画法施行令付則第七条第四項)。
したがつて、事業施行期間にある本件事業については右に述べたところにより事業の認定がなされ、かつ収用又は使用の手続が保留されているものとみなされるところ、被告東京都知事は東京都中野区中野四丁目及び五丁目地内の土地について改正法による改正後の土地収用法第三四条の三の規定により昭和五三年八月一五日東京都告示第八三二号をもつて手続開始の告示(以下「本件告示」という。)をした。
3 しかしながら、本件認可及び本件告示は以下の理由により違法である。
(一) 本件事業について原告らは東京都及び中野区と協議を重ね、原告らと東京都及び中野区との間でシヨツピングセンターの建設、原告らのシヨツピングセンター内の代替店舗への入居等について合意が成立したにもかかわらず、その後東京都及び中野区は突如として右シヨツピングセンターの建設を断念し右シヨツピングセンター予定地に勤労青少年中央会館を誘致するという方向転換をなした。そこで原告らは東京都と折衝を重ねたが東京都は具体的な回答をなさなかつた。
(二) ところで、事業計画の認可においてはその事業が都市計画の全体像からみて必要欠くべからざるものか、及びそれにより住民である原告らの利益を不当に侵害するおそれがないかについて慎重に配慮するとともに、それが必要不可欠であると判断されるとしてもその理由について住民らの理解を得るために最善の努力をなすべきであるにもかかわらず、被告建設大臣は前記(一)記載の経過を無視し、右配慮及び努力を怠つて本件認可をなしたものであるから、本件認可には裁量権を濫用した違法がある。
(三) 原告らと東京都及び中野区との間で前記(一)記載の合意が成立していたにもかかわらず右合意の内容の実現を困難とするように計画を変更し収用手続を開始することは信義則上許されないというべきであるし、仮に右合意の成立が認められないとしても長期間にわたつて代替店舗提供の意向が示された以上その後恣意的に計画を変更し右意向の実現を自ら困難にして収用手続を開始することは信義則上許されないというべきである。したがつて本件告示は違法である。
4 よつて、原告らは本件認可及び本件告示の取消しを求める。
二 被告らの本案前の主張
1 被告建設大臣
行政事件訴訟法第一四条第三項によれば、「取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。」とされているところ、本件認可は昭和五〇年三月一九日に告示されているから、同五三年九月一四日提起された被告建設大臣に対する訴えは前記規定所定の期間を徒過した不適法な訴えである。
2 被告東京都知事
手続開始の申立ては起業者がすでになされている事業の認定の土地収用法上の諸効果のうち手続保留により停止されていた効果を発生させ収用手続を開始させようとするものであり、手続開始の申立てが適式なものであれば都道府県知事は事業の認定の適否や右申立ての内容の適否については審査せず遅滞なく手続開始の告示をしなければならないのであつて、右告示は起業者の申立てにより収用又は使用の手続が開始される旨及び図面の縦覧場所を一般に知らしめる伝達的意味合いを有するものと解すべきであり、右告示自体としては起業地の所有者等の権利義務に直接何らの影響を及ぼすものではない。また、右告示に伴う土地収用法上の効果は告示自体の効果ではなく同法が告示に特に付与した効果と解すべきであり、しかもその効果は単に手続の保留により停止されていた事業の認定の効果を発生せしめるものに過ぎず、右告示の時以降起業者が収用裁決の申請など後続の土地収用手続を適法に進めうるのは右告示の法定効果により解除された事業の認定の効果によるものである。したがつて、本件告示は抗告訴訟の対象となる行政庁の処分とはいえないから本件告示の取消しを求める原告らの被告東京都知事に対する訴えは不適法である。
三 請求原因に対する被告らの認否
1 被告建設大臣
請求原因1及び2の事実は認める。同3のうち(一)記載の事実は不知、その余は争う。
2 被告東京都知事
請求原因1及び2の事実は認める。
四 被告らの本案前の主張に対する原告らの反論
1 本件認可の取消しの訴えについて
本件認可のように一連の手続を経て行われる行政作用については各段階について訴えの提起をなすことも、また最終行為の訴訟において争うこともできるものと解すべきであるし、本件告示によつて本件認可の効果の発生が可能になつたとするなら本件告示があつた時点で本件認可の効力を争うことも許されると解すべきであるから、本件告示の取消しを求めるとともに本件認可の取消しの訴えを提起することは行政事件訴訟法第一四条第三項に規定する出訴期間の制限に反するものではない。
2 本件告示の取消しの訴えについて
(一) 手続開始の告示がなされることによつて手続の保留により停止されていた土地収用法上の諸効果が発生し起業者は具体的な土地収用行為を進めることができるようになるのであるから、本件告示に事業の認定による諸効果を超える効果がないということはできない。
(二) 原告らは被告東京都知事が従前の経緯を無視し突如として停止されていた土地収用法上の効果を発生させたことが違法である旨主張するのであるから、このような場合には手続を開始することの適否を判断した上で告示をなすべきであるし、原告らは事業の認定の適否を争うのではなく手続を開始することの適否を争うのであるから事業の認定に対する出訴を認められただけでは原告らの権利保護に欠けることは明らかである。
五 原告らの反論に対する被告東京都知事の再反論
原告らが都市計画事業決定後に生じた事由を争うのであつても、その後なされた本件認可或いは本件告示後になされる収用裁決などの後続の具体的処分に対する抗告訴訟の出訴が認められ、右各訴えにおいて右違法事由の主張が可能であるから、これによつて原告らの権利侵害に対する救済の目的は十分に達成される。したがつて本件告示に対する出訴が認められないからといつて原告らの権利救済に欠けることにならない。
第三証拠関係<省略>
理由
一 本件訴えの適否について判断する。
1 被告建設大臣に対する訴えについて
請求原因1及び2の事実、すなわち、本件事業についての都市計画事業決定が施行法による改正前の旧都市計画法の規定によりなされたものであること、右決定をもつて土地収用法上の建設大臣のなした事業の認定とみなされ、右事業の認定としての効果は現行都市計画法施行後も引き継がれること、本件事業の対象となつた土地については収用又は使用の手続が保留されているものとみなされること、その後昭和五三年八月一五日本件告示がなされたことは、原告と被告建設大臣との間において争いがない。
ところで、現行都市計画法に基づく事業計画の変更を認可する処分は、現行都市計画法及び土地収用法に基づく一連の行政処分の一部をなすものであり、また収用又は使用の手続が保留されているものとみなされる場合には手続開始の告示があるまで原則として右認可が土地の収用又は使用について有する効果は発生しないが、右認可自体独立した一つの行政処分として存在し、それ自体固有の法律効果を有しているのであるから、右認可の取消しを求める訴えの出訴期間は右認可のなされた時をもつて基準とすべきであると解するのが相当である。
そして、本件認可が昭和五〇年三月一九日に告示されていることは当事者間に争いがなく、昭和五三年九月一四日本訴が提起されたことは一件記録上明らかであるから、本件認可の取消しを求める本件訴えは、行政事件訴訟法第一四条第三項に規定する出訴期間を徒過した後に提起されたものといわなければならない。
よつて、原告らの被告建設大臣に対する訴えは、不適法である。
2 被告東京都知事に対する訴えについて
改正法による改正後の土地収用法は、起業者の資金の準備や事務処理能力に対応するため収用又は使用の手続の保留の制度を設け、起業者はいつたん起業地の全部又は一部について事業の認定後の収用又は使用の手続を保留することができることとし、その手続を開始しようとするときはあらためて手続開始の申立てをすべきものとしているが、手続の保留をするか或いはいつ保留された手続を開始するかは起業者の判断に委ねられており、手続開始の申立てが適式であれば都道府県知事は事業の認定の適否や手続を開始することの適否については審査せずに遅滞なく手続開始の告示をしなければならないものと解せられる。また、右告示の効果はそれまで保留されていた事業の認定の効果を生じさせるものに過ぎず、右告示の時以降起業者が収用手続を進めることができるのは事業の認定の効果によるものと考えられるから、右告示は起業地の所有者等に対し事業の認定と独立して法的効果を有するものとは認め難く、右告示をもつて抗告訴訟の対象となる行政庁の処分と解することはできない。そして、前記1で述べたように旧都市計画法による都市計画事業の決定をもつて土地収用法上の事業の認定とみなされ、右事業の認定としての効果が現行都市計画法施行後も引き継がれ、一方施行法の規定により収用の手続が保留されているものとみなされ、その後手続開始の告示がなされた本件のごとき場合も右と同様に解するべきである。
なお、原告らは手続開始の告示の適否を争うのであるから事業の認定に対する出訴を認められただけでは権利保護に欠けると主張するが、事業の認定後に生じた事由をもつてその後になされる収用裁決等を争うことも可能であるから、手続開始の告示に対する出訴が認められないからといつて原告らの権利保護に欠けるということはできない。
よつて、本件告示の取消しを求める原告らの被告東京都知事に対する訴えは、不適法である。
二 以上の次第であるから、原告らの訴えはこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九三条第一項本文、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤田耕三 田中信義 北澤晶)