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東京地方裁判所 昭和53年(行ウ)149号 判決 1979年8月01日

東京都豊島区北大塚二丁目二六番三号

原告

金田昭夫

右訴訟代理人弁護士

田中学

東京都豊島区西池袋三丁目三三番二二号

被告

豊島税務署長

高橋宗

右指定代理人

竹内康尋

鳥居康弘

中村政雄

金田晃

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟の総費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた判決

(請求の趣旨)

一  被告が昭和五〇年七月一六日付で原告に対してした原告の昭和四九年分所得税にかかる更正の請求について更正すべき理由がない旨の処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

主文と同旨

第二当事者双方の主張

(請求原因)

一  原告は、昭和五〇年三月一五日被告に対し昭和四九年分所得税について総所得金額一八一万五〇〇〇円及び分離長期譲渡所得の金額を別紙のとおり二四七万五〇〇〇円とする確定申告をした。

しかし、右申告においては、分離長期譲渡所得の特別控除額を租税特別措置法(昭和五〇年法律第一五号による改正前のもの。以下、「措置法」という。)三一条二項所定の一〇〇万円としたが、正しくは同法三五条一項所定の居住用財産の譲渡所得にかかる特別控除が受けられるべきであったので、原告は昭和五〇年四月一八日右を理由として被告に対して更正の請求をした。これに対して、被告は、同年七月一六日付で更正すべき理由がない旨の処分(以下、「本件処分」という。)をした。

原告は、本件処分を不服として異議申立て及び審査請求をしたが、いずれも棄却された。

二  しかしながら、本件処分は、以下に述べるとおり、措置法三五条一項の解釈を誤った違法があり、取り消されるべきである。即ち、

1 原告と妻金田百子は、豊島区西巣鴨三丁目九二〇番二の土地(以下、「本件土地」という。)を共有していたところ、昭和四八年一二月一七日原告の姉金田ミツイ(以下、「ミツイ」という。)との間において、<1>本件土地がミツイの所有であることを確認する、<2>ミツイは原告夫婦に対して一〇〇〇万円を支払う、<3>本件土地上にあるミツイ所有家屋の一部に居住していた原告夫婦は右家屋(以下、「本件家屋」という。)から立ち退く旨の調停が成立し、これに基づいて右<2>の譲渡収入一〇〇〇万円を取得した。

ところで、措置法三五条一項は、個人がその居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡をし、当該家屋とともにその敷地の用に供されている土地もしくは当該土地の上に有する権利の譲渡をした場合には、その譲渡代金について特別控除をすべき旨を定めているが、その趣旨は、居住用の家屋をその敷地又は敷地の利用権とともに処分したときは、原則として居住場所を失ない新たに居住場所を入手しなければならなくなるので、課税上も特別の扱いをしようというものである。

そうすると、原告は、右にみたとおり本件家屋から立ち退いて住居を失ない、その前提として敷地である本件土地を処分したわけであるから、措置法三五条一項が適用されて然るべきである。

2 しかるに、本件処分は、右事情を考慮せず、単に本件家屋が原告夫婦の所有ではなくミツイの所有であるという形式的理由により、措置法三五条一項の適用がないとしたもので、違法である。

(請求原因に対する認否及び被告の主張)

一  請求原因のうち、本件土地の譲渡が措置法三五条一項所定の居住用財産の譲渡に該当し、その譲渡所得について同項に定める特別控除がなされるべきであるとの点は争う。

その余の請求原因事実はすべて認める。

二  措置法三五条の規定が適用されるための要件は、同条の解釈上、<1>個人がその居住の用に供している家屋を譲渡した場合、<2>居住用家屋とともにその敷地の用に供されている土地等を譲渡した場合、<3>居住用家屋が災害により滅失した場合において、その家屋の敷地の用に供されていた土地をその災害のあった日から一年以内に譲渡した場合であって、そのいずれかを具備している場合に同条が適用されるところ、これを本件についてみると、原告も自認しているとおり、原告が譲渡したのは本件土地のみであり、本件土地上に存する本件家屋ではないのであるから、これが前記<1><2>の各要件に該当しないことは明らかなところであり、また<3>の要件は居住用家屋が災害により滅失した場合を前提要件としていることから、本件事案が右に該当しないことも明らかであり、結局本件においては同条所定の各要件をいずれも具備していない。

したがって、措置法三五条の立法趣旨等を論ずるまでもなく、本件土地の譲渡に同条の適用の余地のないことは明らかである。

第三証拠関係

一  原告

1  甲第一号証、第二ないし第四号証の各一、二、第五号証

2  証人長岡利雄の証言、原告本人尋問の結果

3  乙号各証の成立はすべて認める。

二  被告

1  乙第一号証の一ないし三、第二号証

2  甲第五号証の成立は知らない。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因事実は、本件土地の譲渡が措置法三五条一項所定の居住用財産の譲渡に該当し、その譲渡所得について同項に定める特別控除がなされるべきであるとの点を除き、すべて当事者間に争いがない。

二  原告は、本件のような事情のもとでは、本件家屋からの立退きとともにする本件土地の譲渡について措置法三五条一項が適用されるべきである旨を主張する。

しかしながら、措置法三五条一項は、居住状態を喪失することとなる者すべてについて広く優遇措置を講じようとするものではなく、居住用の所有家屋を喪失する者であることを要件として一定範囲の者に対して租税面で優遇しようとする規定であることは、文言上明らかである。したがって、本件家屋を所有していなかった(当事者間に争いがない。)原告は、本件家屋を立ち退くとともに敷地である本件土地を譲渡しても、その譲渡所得について措置法三五条一項の適用を受けることはできないといわざるを得ない。

よって、措置法三五条一項の適用がないとした本件処分に原告主張の違法はない。

三  以上のとおりであるから、本件請求を棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条後段、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 川崎和夫 裁判官 岡光民雄)

確定申告に係る長期譲渡所得金額の算出経緯

<省略>

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