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東京地方裁判所 昭和54年(モ)1555号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

三前項認定の疎明事実によれば、債務者は、昭和五一年頃から翌五二年春頃にかけて、本社工場と大島工場の各敷地と建物を購入ないし新築して事業規模を拡大したが、その直後の昭和五三年四月期には七六一万余円の赤字経営に転落したこと、翌五四年四月期には九一五万余円の当期利益を計上するまで回復したが、前記設備投資による過度の資金固定化と暖冬異変による在庫製品増加の影響もあつて、金融機関からの借入金は、手形割引によるものを除いても合計三億五六八二万余円に達し、そのため金利の高騰を招き、かつ他方では在庫製品の処理に苦慮していること、そして債務者所有の前記不動産には購入・新築の当初すでに被担保債権極度額一億一〇〇〇万円の根抵当権が設定されており、昭和五三年四月期には本社工場分につき極度額四〇〇〇万円の根抵当権と、大島工場分には被担保債権額三五〇〇万円の抵当権が各追加して設定されたので、結局担保物権によつて把握されている前記不動産の交換価値は一億八五〇〇万円に達するところ、前記不動産の時価は、債務者の昭和五四年四月期貸借対照表によれば合計一億一三一一万円にすぎず、右評価には多少の含みがあるとしても、本社工場近隣地の昭和五四年度公示価格から推算するとき、少なくとも土地の時価は右債務者自身による評価より格段に高いとは認められず、さらに債務者所有名義不動産のみならず債務者代表者やその長男名義の物件にも債務者のため共同担保権を設定していることに鑑みるとき、根抵当権の被担保債権額が、現実には抵当権のそれと同様に極度額より二、三割少ないと債務者に有利に仮定してみても、なお前記不動産に被担保債権額を超える残存価値があるとはうかがえないこと(なお債務者は、被担保債権額を検討する際に岡山県信用保証協会の分は除外すべき旨主張しているが、保証委託の主債務につき、同一物件に別個の担保権が設定されている等の特段の事情が認められない限り、右主張は採用し難い。)、不動産以外のめぼしい資産として、債務者は取引銀行に対し合計一億一四七四万円弱の預金債権を有しているものの、これとて債務者に対する貸付金等の反対債権によつて相殺されるおそれが多分に存すること、債務者は債務額六〇〇万円弱の国税債務について延納の申請をしていること等の事実を一応認めることができ、<る>。反面、債務者に有利な事実として、前顕各疎明資料により、債務者は昭和五四年四月期には九一五万円の当期利益を計上していること、かつて手形の不渡事故は一度もなく、過去五年以内に本件を除いて保全処分を受けたことがないこと、債務者の主要取引銀行や、大手企業を中心とする製品販売先には本件仮差押執行後にも変動がないこと、本件の被保全債権は三一八万余円にすぎないことが一応認められるものの、これらを考慮してもなお、以上の疎明事実を総合するとき、債務者の営業状態が思わしくない状況にあり、現時点においてもその責任財産に強制執行をなすには困難を伴う状況にあると一応認めることができる。

ところで仮差押の必要があるというためには、右の状況に加えて、債務者がその責任財産を量的もしくは質的に減少せしめ、そのため将来、債権者において本案訴訟で勝訴しても被保全債権の満足を得ることが著しく困難な事態に陥るであろうと推認するに足りる客観的事情の疎明が必要であると解されるところ、前項の疎明事実によれば、債務者は代表者片山勇とその妻及び長男が取締役及び株式をほぼ独占する同族会社であり、本社工場の敷地及び建物の相当部分が購入当初から右片山勇の所有名義になつていること、赤字欠損期にあつても右三名で年額合計二二六八万円もの役員報酬名下の金員を受領していること、さらに昭和五三年一月頃には、製品を製造原価より相当廉価に売却した事実を一応認めることができ<る>。そして以上によれば、債務者の今後の営業状態如何によつては、その責任財産が恣意的に散逸される事態が惹起されるおそれを一応認めることができ、従つて本件において保全の必要がおると認め得る。

(寳金敏明)

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