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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)10407号 判決 1981年9月09日

原告

高原秀行

右訴訟代理人

海老原茂

飯塚和夫

橋本岑生

被告

株式会社八王子ゴルフ倶楽部

右代表者

櫻田武

右訴訟代理人

輿石睦

松澤與市

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

<前略>

三1 原告は、前記事務局において原告の入会を拒否した根拠である本件細則第一条②の規定は、外国人であること、または元外国人について帰化後の経過年数が何年であるかというような形式的な理由で入会希望者の入会を制限する内容のものであつて、合理的根拠を欠き、憲法一四条の趣旨に違反し、公序良俗に反するものとして無効というべきであると主張するので、以下この点について検討する。

右細則第一条②の趣旨については、前段二、2、(一)に認定したとおりであり、同細則第一条②は、訴外カントリークラブの正会員となれない者として外国人及び帰化した元外国人であつて相当年限を経過しない者を掲記しているのである判旨が、およそある者が、本件カントリークラブのような私的団体への加入を希望する場合、右団体としてその者の加入を認めるか否かは、私的自治の原則が最も妥当する領域の問題として、その自由な自主的裁量的判断によつてこれを決すべきものと解するのを相当とする。そして、その決定が、他面、個人の基本的な自由や平等に対する侵害となるような場合であつたとしても、それがその態様、程度からして社会的に許容しうる限度を超えない限り、公序良俗違反とはならないものと解さなければならない(最高裁判所昭和四八年一二月一二日大法廷判決民集二七巻一一号一五三六頁参照)。右の理は、その加入の是非の基準を会則等によつて明文化して定める場合においても、同様に妥当するものというべきである。

これを本件についてみるに、前掲証人遠藤實の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告の主張(一)、(1)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

判旨右認定の事実に前記二、2、(一)に認定の事実を併わせ考えれば、被告及び訴外カントリークラブは、それが各々別個独立の法主体であるかどうかの点はともかく、両者相提携して、ゴルフ愛好家をして、ゴルフ場の経営を目的とする被告の株主となることによりその事業に出資をさせ、もつてこれを右会社の経営に参加させるのと併わせて、ゴルフクラブを組織したうえ右株主を同時に同クラブの会員として、ゴルフのプレーをさせるとの形態をとる、いわゆる株主会員制のゴルフ場を営為する者であつて、同ゴルフクラブへの入会希望者に対する入会の許否決定にあたつては一定の紹介者、一定の年齢、一定の国籍等の形式的要件の存在を前提としたうえで、理事会において、当該希望者がほかならぬ同カントリークラブにとつて、全人格的観点から同カントリークラブの構成員たるにふさわしい者かどうかを検討したうえ、入会の許否を決定するという、極めて厳格な手続をとつているものであり、被告それ自体は株式会社であるものの、訴外カントリークラブそのものは、被告の株主を会員とするゴルフ愛好家の会員相互間の親睦と信頼関係を基礎にした閉鎖的な私的社交団体としての性格を極めて濃厚に帯有するものであると認めることができる(被告が八王子カントリークラブなる名称によるゴルフ場の経営を目的とすること、訴外カントリークラブが被告の株主をメンバーとする株主会員制のゴルフクラブであることは当事者間に争いがない。)。右認定を左右すべき証拠はない。してみると、訴外カントリークラブにおいては、右の目的のために必然的ともいえる団体の閉鎖的性格と会員の質的均一性を、入会に際しての理事会の承認及び細則における一定の欠格事由の規定を厳格に適用することによつて担保することとしているものとみられるが、外国人は、一般的に、生活様式、行動様式、風俗習慣、思考方法、情緒等人間の精神活動の面において日本人と異質なものを有していることが多いほか、特に言語上の障碍のために日本人との意思の疎通をはかることが難かしく、お互いに信頼関係を形成するのが困難であることが少なくないため、外国人を一律に入会不適格者と定めることも、右のような訴外カントリークラブの目的・性格からして、種々の議論が予想されることは兎も角、決して是認できないわけではない。また、右事実は、現在外国人である者のみならず、日本国に帰化してからあまり年月の経過していない者にとつても同様にあてはまると考えられることからすると、外国人及び帰化して相当年限を経ていない者を一律に入会不適格者とする本件細則の規定をもつて、私的自治の原則を逸脱した不合理な規定であるとすることはできず、右規定をもつて公序良俗に違反するものといえないことも明らかである。なお、このような一律的な規定を定めると、個別具体的な場合においては、時として、日本人と言語、情緒等精神活動の面で十分意思の疎通をはかり得る者をも会から排除することとなり、そのために硬直に過ぎて妥当性を欠く結果を招く場合もなくはないと考えられるが、しかし、それにしてもなお、訴外カントリークラブの私的な閉鎖的社交団体性からすれば、右規約の定め自体をもつて、社会的に許容される限界をこえる定めをしているものとは断じ難い。

2 また、原告は、原告のように、いわゆる在日朝鮮人として日本人と同様の生活を永年にわたつて営んできた者に右規定を適用することは許されない旨を主張する。

たしかに、本件細則を形式的に適用するときは原告主張のような、原告にとつて不利益な事態が生ずることを避け難いかも知れないけれども、右は、入会につき一律の規定を設ける以上、当然生ずる止むを得ない事態というべきであり、右細則が公序良俗に反しない以上、その形式的適用もまた、一般には、そのこと自体につき公序良俗違反の問題を生ずる余地はないといわざるを得ないのであつて、規定の形式的適用から生ずる具体的な場合の不合理を予見してこれをいかに回避すべきかについてもまた、原則的には規定の制定及び制定された規定の解釈運用に当たつての、同カントリークラブ自らの自由な自主的裁量的判断により決せられるべき事柄というほかはないところであるが、原告主張のような者であつても言語上の障碍はないにせよ、旧来の日本人との間に種々異なる点がみられたとしても何ら異とするに足りないところであるから、訴外カントリークラブが被告主張のような内規に従つて事案を処理し、あるいは内規が存しない場合においても、右の者について、これに右細則を適用し、「相当年限」を約五年半とする運用をして、右の者が日本国籍取得後約五年半を経ていないがゆえに右細則にいう「相当年限」を経ていない者として取り扱つたからといつて、これを直ちに公序良俗に反する違法不当の措置ということはできない。

なお、憲法一四条のいわゆる平等規定は、私人相互間の法律関係に直接適用されるものではなく、その規定の趣旨は、各個別的な実体私法の各条項を通じて実現されるべきものであるから、原告の憲法違反の主張は、採用できない。

3 次に原告は、本件会則等が公表されていないと非難する。

しかし、前認定のとおりの訴外カントリークラブの閉鎖的性格からして、その会則等を一般に公表しないことが、当然に公序良俗に反するものでないことは明らかであり、また入会希望者としては、前記事務局等へ問い合せることにより、容易に入会に関する規約を知り得るのであるから(右の如き閉鎖的団体に入会を希望する者に対して、右の程度の労をとることが要求されたとしても、何ら妥当性を欠くものではない。)、入会希望者の問合せに対して何ら回答しなかつた等の特段の事情の認められない本件においては、原告の右主張も理由がない。

4 右に判断したところによれば、前記事務局ひいては訴外カントリークラブにおいて原告の入会を拒否したことについては、原告のゴルフプレイに関するエチケット、マナーの良否を論ずるまでもなく、何ら違法不当の点はなく、したがつてまた、原告がその主張する株式の取得につき、被告の取締役会の承認を得られないために名義書換ができなかつたことについて被告に違法不当の責はないものというべきである。

四結論

以上によれば、原告が訴外カントリークラブへ入会できず、その取得した株式についての名義書換ができなかつたために、原告主張のような損害を被つたとしても、被告においてその賠償をすべきものということはできず、他に原告主張の損害を被告において賠償すべき根拠についての十分な主張立証はないから、原告の本訴請求は、その余の点を考えるまでもなく失当として棄却をまぬがれない。よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(仙田富士夫 清水篤 嶋原文雄)

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