東京地方裁判所 昭和54年(ワ)11475号 判決
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【判旨】
三建物所有を目的とする土地賃貸借中に、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで借地内の建物の増改築または大修繕をするときは、賃貸人は催告を要しないで賃貸借契約を解除することができる旨の特約があるにもかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改策または大修繕をした場合において、増改策または大修繕が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるにたりないときは、賃貸人は前記特約に基づき解除権を行使することは許されないものというべきである(最高裁第一小法廷昭和四一年四月二一日判決参照)、本件においてこれをみるに、<証拠>によれば、次の事実が認められる。
1 本件建物は、薫の前の本件土地賃借人伊藤輔が昭和一〇年頃建築したもので、薫はこれを昭和一四年七月八日買受け、スプリング製造工場として使用してきた。当時は別紙見取図表示(以下記号のみ記す)の1、チ、21、7、1を結ぶ線内の部分二六坪二合五勺の、木造トタン屋根、板壁、コンクリート床の建物で、天井板は張られていなかつた。
2 昭和二二年秋頃、薫は、イ、ハ、26、21、イを結ぶ線内の部分(現厨房部分)を増築した。当時本件建物の入口は1と2の間、6と29の間、25と30の間にあり、ニ、イ、7、1、ニを結ぶ線内の部分は、空地のまま、出入のための通路や材料置場等として使われていた(この点について、原告本人は、右部分の増築は本件更新後であると供述しているが、証人坂本重雄の証言に照らし採用しがたい。なお、仮に右増築の時期が原告のいう通りであつたとしても、後に述べるとおり本件の結論を左右しない。)。
3 薫は、昭和三八年一〇月頃本件建物を株式会社昭和機器製作所に賃貸したが、その頃前項の空地部分を、ニ、イ間のブロック塀に屋根をさしかけ、1、7間の下見板をはずし、コンクリート床にして既存部分と一体として使用できるようにし、14、チ、15、14を結ぶ線内の部分を取り毀して隅切りをし、屋根の雨もりを補修した。右増築(現厨房部分を含む)については、昭和五四年三月六日、現況調査のうえ床面積150.18平方メートルと変更登記されている。
4 昭和四六年六月頃昭和機器が退去して、その後株式会社千代洲に賃貸したが、千代洲は、31と14の間を入口とし、シャッターを取りつけ、下見板を張りかえ、かつ15から27までの間の壁を道路ぎわ一杯に、ホからトまでの線の位置に移動して使用し、昭和五二年一二月、シャッターをとりはずし原状に回復して退去した。
5 被告会社は昭和五三年一一月本件建物を賃借したが、弁当仕出業を営むための必要上、21、23、ロ、22を結ぶ線上にブロックを積んでプロパンガスボンベ置場をつくり、7、イ、ハ、26を結ぶ線上の壁と同部分の天井にトタン板、建物全体に天井板を張り、31と14の間、22と26の間に引き戸を入れ、水はけのため床のコンクリートをならし、溝を設けた。ホからトまでの間の壁は15から27までの線に戻してトタン板で張り、屋根はトタン板で補修した。
6 被告らは、右表入口工事のため12、13、28の柱を、西側壁工事のため16、17、18、19、20の柱をそれぞれ新設(計八本)し、31、4、10、11の柱を取替え(計四本)たが、1、2、3、5、6、29、7、25、30、9、8、26、22、21、27、23、24、15、14の計一九本は既存のまま、うち2、3、5、9、8、22、24、15の柱には板を、30、25、27の柱にはトタン板を張つて、使用している。6、26、23、21の柱は建築当時のままなんら手を加えていない(1、29、7、14の四本は、壁の中に入つているので外部から見ることはできない。)。
以上の事実が認められる。
右3の事実は本件建物の増築に該当し、5、6の事実は改築ないし大修繕に該当するというべきであるが、本件張物は、増改築、大修繕の前後とも、木造、トタン葺き、コンクリート床、平家建の工場用建物であつて、木造建物所有を目的とする本件賃貸借契約の本旨にもとるところはなく、右のような増築、修繕をしたからといつて、賃貸人である原告に対し不当に不利益をこうむらせるものではない。本件建物を賃貸し、当該賃借人の使用の便に供するため改装、修繕をすることは、本来建物所有者である被告中曽根が自由になしうるものであり、本件増築、修繕は、借地の通常の利用上相当というべきである。賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めることはできず、原告が前記特約に基づき解除権を行使することは許されない。
(大城光代)