東京地方裁判所 昭和54年(ワ)11563号 判決
一 原告が本件実用新案権を有すること、本件考案の実用新案登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、被告が昭和五三年一月頃より被告製品を製造販売していること、被告製品の構造が別紙物件目録記載のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。
二 右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案公報。別添実用新案公報と同じ。)の記載によると、本件考案は次の構成要件からなるものと認められる。
(イ) 吊り戸棚と同様意匠の排気装置のケースを吊り戸棚と連続させてガス台の上方に設置すること
(ロ) ケースは下方及び天井付近を室内に開口させること
(ハ) ケース内に室内空気の吸入方向を下方又は上方のいずれかに切換える機構を付設したフアンを設けること
(ニ) 下方又は上方からの吸気を壁に設けた排気口から室外に排出するようにしたこと
(ホ) 厨房用排気装置であること
三 しかして、被告は、本件考案の構成要件(ハ)にいう切換機構は、室内空気の吸入方向を下方又は上方のいずれか一方に切換える、すなわち二者択一の切換機構を指称し、被告製品にはかかる切換機構は存しないから右構成要件を欠く旨主張する。
被告の右主張は、右構成要件に「吸入方向を下方又は上方のいずれかに切換える機構」とは吸入方向が下方である時は上方が閉となり、逆に吸入方向が上方である時は下方が閉となるといういずれか一方すなわち二者択一の切換をいうとすることを前提とするものであるところ、原告は右のような二者択一の切換ではなくて、吸入の方向が下方からなされていた時に上方からの吸入をも可能にし、あるいは逆に上方からの吸入が行われていた時に下方からの吸入をも行いうるように切換えることができることを意味する旨主張する。
1 そこでまず、右の「吸入方向を下方又は上方のいずれかに切換える機構」について判断する。
(一) 前掲甲第一号証によると、本件考案は、ガス台、流し等の上方に設けられた吊り戸棚と連結させて排気装置のケースを設け、該ケース内にフアンを装置してガス台使用時の火気嗅気等を吸入して室外に排気させ、また天井付近からも室内空気を吸入して排出するようにし、良好な排気が行えることを目的とし、この目的を達成するために、前記二記載の構成を採用し、この構成を採つたことにより、(外観上排気装置の存在が目立たず、厨房の美観を損わず)、かつガス台使用時にはその直上から吸気し、ガス台不使用時には臭気等の集り易い天井付近から吸気して有効な排気を行えるという実用上の効果を奏するものであることを認めることができ、現に実施例においても、ガス台使用時には制御筒15の開口16を覆筒12の下部開口14に合致させ下部開口14から(即ち下方から)空気を吸引し、ガス台不使用時には制御筒15の開口16を覆筒12の上部開口13に合致させ、上部開口13から(即ち上方から)空気を吸引する切換機構を付設したフアンが示されている(第3図)ことが同号証により認められ、同号証により認めうる右第3図についての説明と同図とを併せると、右の実施例は下部開口14から(すなわち下方から)空気を吸引する場合には覆筒12の上部開口13は制御筒15の筒壁により閉鎖され、上部開口13から(すなわち上方から)空気を吸引することができないし、また上部開口13から(即ち上方から)空気を吸引する場合には覆筒12の下部開口14は制御筒15の筒壁により閉鎖され、下部開口14から(すなわち下方から)空気を吸引することができないという機構であつて、右フアンは室内空気の吸入方向を下方又は上方のいずれか一方に切換える機構を付設したフアンであることを認めうるのである。
(二) しかして成立につき争いのない乙第六号証によれば、本件考案の登録出願前、既に、ケース内に室内空気の吸入方向を下方だけから、あるいは下方と上方との両方からの、いずれかに切換える機構を有する厨房用排気装置が開示され、したがつてこのような構成が公知となつていたことが認められる。
(三) 右に認定した事実を総合し、前記本件考案の登録請求の範囲に「吸入方向を下方又は上方のいずれかに切換える」と明瞭に記載されていることを斟酌すれば、右構成要件(ハ)にいう「室内空気の吸入方向を下方又は上方のいずれかに切換える機構」とは、被告が主張するように二者択一の切換機構をいうのであつて、原告のいうように、吸入の方向が下方からなされていた時に上方からの吸入をも可能にし、上方からの吸入が行われていた時に下方からの吸入をも行いうるようにできる機構をいうものではないと解さざるをえない。
(四) 前掲甲第一号証により認められる第4図及び同図に関する説明には、右の二者択一の切換機構ではなくて、室内空気の吸入方向を上方のみから、あるいは上方と下方との両方からのいずれかに切換える機構を付設したフアンをもつものが一実施例なるものとして示されているが、これをもつて、前記認定を覆えすに至らないこと叙上説明から明らかである。
2 右のとおりであるから、本件考案の構成要件(ハ)の「吸入方向を下方又は上方のいずれかに切換える機構」とは吸入方向を下方又は上方のいずれか一方に切換える機構をいうものである。
四 被告製品の構造を表示するものであることについて当事者間に争いがない別紙物件目録の記載及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告製品は次の構造からなるものと認められる
(イ)´ 吊り戸棚の側部に連続してガス台の上方に設置することができること
(ロ)´ ケースは下方及び天井付近を室内に開口させていること
(ハ)´ ケース内に室内空気の吸入方向を下方のみから、あるいは下方と上方の両方からのいずれかに切換える機構を付設したフアンが設けてあること
(ニ)´ 下方のみから、あるいは下方と上方の両方からの吸気を壁に設けた排気口から室外に排出するようにしてあること
(ホ)´ 厨房用排気装置であること
五 そこで、被告製品の構造(ハ)´と本件考案の構成要件(ハ)とを対比するに、被告製品の構造(ハ)´のフアンは、「室内空気の吸入方向を下方のみから、あるいは下方と上方の両方からのいずれかに切換える機構」を付設したものであるのに対し、本件考案の構成要件(ハ)にいうフアンは、前記三で認定したように、「室内空気の吸入方向を下方又は上方のいずれか一方に切換える機構」を付設したものであることを要することから、被告製品のフアンが本件考案のフアンに該当しないこと明らかであり、したがつて、被告製品は本件考案の構成要件(ハ)を欠如するものであるといわなければならない。
六 以上によれば、被告主張のように、被告製品が本件考案の構成要件(イ)を欠如するかどうかを問うまでもなく、被告製品は本件考案の技術的範囲に属さないというべきであるから、被告製品が本件考案の技術的範囲に属することを前提とする本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないものとしてこれを棄却する。
〔編註その一〕本件における請求原因は左のとおりである。
1 原告は次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。
考案の名称 厨房用排気装置
出願日 昭和四二年八月二三日
公告日 昭和四九年二月二五日
登録日 昭和四九年一一月二〇日
登録番号 第一〇六〇四二九号
2 本件考案の実用新案登録出願の願書に添附した明細書(以下、「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は次のとおりである。
「吊り戸棚6と同様意匠の排気装置のケース7を吊り戸棚と連続させてガス台4の上方に設置し、ケース7は下方および天井付近を室内に開口させケース7内に室内空気の吸入方向を下方又は上方のいずれかに切換える機構を付設したフアンを設けて下方または上方からの吸気を壁に設けた排気口から室外に排出するようにした厨房用排気装置」
〔編註その二〕本件に関する目録は左のとおりである。
添付(イ)号図面(〔編註〕省略)第1図、第2図に図示し左記に説明する構造を有する厨房用排気装置(商品名・ブース形レンジフードフアン)
(一) 下縁が上縁より前方に突出する側面略梯形、正面略長方形の形状を有するケース7は、下面に下部開口8を、前面上部に開口9をそれぞれ有し、ケース7内に上部開口9に連通する通路22を開閉するダンパー21が設けられる。ダンパー21はケース7の前面下部に配設されたレバー25を上下方向に作動することにより、レバー25に連結されたリンク26・27を介して開放位置若しくは閉鎖位置に選択的に位置づけられる。ケース7内にはモーター20で駆動される排気用フアン19が取り付けられ、ダンパー21を閉じてケース7の下部開口8のみからか又はダンパー21を開いて上部開口9と下部開口8との双方から空気を吸引する。ケース7の上面、背面及び一側面には排気用のダクトを挿通する開放部28、29若しくは孔30が設けられている。
ケース7は参考図面第1図及び第2図に示すように吊り戸棚6の側部に連続してガス台4の上方に設置することができる。
(二) (イ)号図面の簡単な説明
第1図は、排気装置の斜視図
第2図は、排気装置の縦断面図である。
(三) 符合の説明
7はケース、8は下部開口、9は上部開口、19は排気用フアン、20はモータ、21はダンパー、22は通路、25はレバー、26・27はリンク、28・29は排気用ダクト挿通用の開放部、30は排気用ダクト挿通用の孔である。