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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)11757号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因一項記載の本件各通知書が原告らに送付されたことは当事者間に争いがない。原告らはこれら各通知書の原告らに対する未納国税についての記載内容は誤つており、そしてかかる誤つた未納国税額を前提として差押え手続に入るとの通知を受けたことにより精神的苦痛を蒙つたと主張して、被告に対し国家賠償法一条一項及び不法行為の規定により慰藉料の請求をしているものである。

ところで被相続人市川虎之助死亡に係る相続人たる原告らの相続税の確定経過が、被告において「課税処分等の経緯について」で主張しているとおりであることは原告らも争わないところである。

二そして相続税に関する規定たる国税通則法、相続税法において、相続税額の確定については所得税法等他の主要国税と同様一次的には納税者の申告によつて確定させる申告納税方式を採用していること、申告後の納税額の増額の変更たる「修正申告」についてはこれを新たな申告と評価して先になした申告に係る税額が自動的に増額された額に変更されることになるとしていること、他方減額変更については法定申告期限から一定期限内に限り納税者から税務官庁に対して減額更正の請求を認め、税務署長において更正の請求に相当の理由があると認めたときは更正の処分をなし、それをもつてはじめて税額が更正されること、従つて昭和五四年三月一五日になした原告市川まき、同市川信子の修正申告に係る相続税額の変更は新たな申告と評価し得るのでその申告どおり確定するが、原告梶原秀子の更正の請求については減額の処分がなされない限り既に確定している税額が適法に存在することになるところ、本件各通知書が原告らに送付された時点においては原告梶原秀子に対し減額の更生処分はなされていなかつたこと、等については被告が「被告の主張」二項において主張するとおりである。

そうすると本件各通知書の原告らに対する未納国税額の記載に誤りはなかつたわけで、これが誤りであることを前提とする原告らの本訴請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないことになる。

三もつとも原告らの主張、及び原告梶原秀子本人尋問の結果を総合すると、原告らが本件通知書の記載内容の非を鳴らしている真の理由は次のようなものと窺われる。

すなわち相続税の申告書提出後に遺産分割の協議の成立等の事由により相続人間の取得割合が申告書の記載とは異なることになつた場合、そのことを相続税額に反映させるには前述のとおり取得分が増大して相続税が増額する相続人は修正申告を、減少して相続税の減額する相続人は更正の請求をすることになる。

原告らの言い分は、右のような場合相続財産という一定額の財産についての関係者の取得割合の変更に起因する関係者の税額の変更であるから、税額が増大する者と減少する者とを連動させて確定して請求するのが適正な措置であるというにある。原告らのかかる言い分の根拠は右の場合増額については申告どおりの額を請求し、減額についてはその点の処分がないからといつて従前の額を請求するのは、相続財産の総額について本来の税額よりも多い額を請求することになり、特に本件では原告梶原秀子については未納国税がないと看做されて当然であるのに本件各通知書を送付するのは不当であるというにあると思われる。

四確かに遺産分割によつて取得した財産を基礎として算出した相続税額に関してなされる修正申告、更正の請求はその実質は遺産分割により取得した財産をもとに相続税を確定するもので、一般の修正申告、更生の請求の請求とは異なる面が存する。ちなみに本件各通知書の送付後になされた小石川税務署長の原告梶原秀子、同市川まきに対する減額更正の処分もかかる趣旨を踏まえてなされたものであると認められるのである。

しかし遺産分割の協議が成立したことによる相続人からの相続税額の変更も、一旦なされた申告内容の変更であることには変わりはない。我国で所得税、法人税、相続税等主要国税につき申告納税方式を採用しているのは、納税者の収入支出は本来納税者自身が最も良く把握しているところであつて、納税者自身の申告と納付が適正であればそれ以上の手続は必要でなく、それによつて税務職員数、あるいは徴税に要する費用が少なくてすむという合理的な面が多々存するからである。

そして右のごとき納税申告方式を採用する理由及びあらゆる場合に変更を許すと納税義務の具体的内容を不安定ならしめて行政を混乱に陥れることから変更については当然一定の制限が加えられることになるが、減額変更については特にこのことが言えるため法は前記のごとく更正の処分をまつてはじめて税額が変更されるとしていると解される。この点遺産分割の協議の成立に由来する減額の更正の請求についても同様のことが言え、従つてその手続を一般の更正の請求と同一としているのも理由がある。

そうだとすると更正の処分がなされていない限り原告らに対して各通知書記載どおりの未納国税が存在しているとの被告の主張は首肯できるところで、それを誤記のある違法なものと言うことはできない。

五そもそも原告市川信子に関しては本件通知書記載の未納国税がその後に変更になつたわけではない、仮に形式的な軽微な違法行為があつたとしても、現実的損害が生じていないのに不法行為による慰藉料請求を安易に認めると濫許の弊が生じるとしてこれを否定的に解するのも理由のある見解である。かかる観点からすると原告市川信子については勿論その余の原告についても仮に本件各通知書の送付に妥当を欠く点があつたとしてもそれが慰藉料請求の対象となり得るものかどうかについては疑問なしとしない。

しかしいずれにしろ前記のとおり本件各通知書の記載内容が誤りであるとの原告らの主張は認めることはできないのであつて、本件各通知書の送付が国家賠償法一条一項の「公権力の行使」に該当するか否かについてはさておき、本件各通知書の送付につき違法性、あるいは故意、過失は存しない。よつてこれが存在を前提として国家賠償法一条一項あるいは不法行為の規定により被告に賠償責任があると主張する原告らの本訴請求はその余の点を判断するまでもなく前提を欠き理由がない。

(岡部崇明)

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