東京地方裁判所 昭和54年(ワ)12333号 判決
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【説明】
請求原因の骨子は、次のとおりである。
「1 原告は、AZプロモーションという名称でモデル紹介業を準備中であり、訴外甲田一郎(以下甲田という)はその従業員、訴外乙野美子(以下乙野という)は原告所属の女性モデルである。
2 被告は、昭和五四年一一月一三日頃、警視庁原宿警察署に対し、原告および右訴外人両名を「恐喝未遂」の被疑者として告訴した。
3 被告の右告訴の内容は、原告と甲田・乙野は共謀して、被告が乙野をモデルとして写真撮影した際同女に猥褻行為をした事実がないのにこれをしたとして、被告に誓約書や念書を書かせ、右の慰藉料として二〇万円を乙野に支払うよう約束させ、その支払いを迫つたが、被告はこれを拒否した。右は恐喝未遂であるから処罰を求めるというのである。
4 しかし、原告や右訴外人らは右のような恐喝行為をしたことはない。
5 被告の右誣告によつて、警視庁原宿警察署捜査員は、同月一四日、原告、甲田及び乙野を逮捕した。この結果、原告は恐喝未遂の共犯者として新聞・雑誌等で報道され、信用を著しく失墜し、名誉を毀損された。
6 <略>
7 よつて、原告は被告に対し、被告の不法行為に基づく慰藉料の一部として二〇〇万円、およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五四年一二月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
【判旨】
二そこで、被告の本件告訴が誣告にあたるか否かについて判断する。
1 被告が「誓約書」「念書」と題する書面を原告、甲田および乙野に差し入れ、乙野に二〇万円を支払う旨約束したことは当事者間に争いがない。
2 右当事者間に争いのない事実に<証拠>を総合すると次の事実が認められる。
(イ) 原告はAZプロモーションの名称でモデルのプロダクションを経営し、甲田はその従業員でマネージャーの仕事をしており、乙野は右プロダクションのモデルであつた。被告は昭和五四年一〇月一一日乙野を指圧の教材作成のため写真撮影のモデルとして自宅に来てもらい写真を撮影したが、その際同女に猥褻な行為をした(この点被告は乙野の承諾を得た旨弁解するが到底措信できない。)。
(ロ) 乙野から右のことを聞いた甲田は、直ちに被告を電話で呼び出し、原告の事務所階下の喫茶店で乙野と二人で被告を難詰し謝罪を求めるとともに金銭の支払いを求めた。この際甲田は原告は暴力団と親密であるかのような言辞を用い、被告が金銭の支払いを拒否する場合には危害が発生するかの如き態度で被告を脅し、乙野に金銭を支払う旨の誓約書を作成させ、甲田はこの概要を原告に報告していた。
(ハ) 甲田は二、三日後被告を原告の事務所に呼出し、原告や他の従業員のいる面前で金銭の支払いを要求し、原告や甲田らの言辞や態度におそれ金銭の支払いは止むを得ないとして分割支払いを承諾した被告に原告が文案を示して書面を作成させ、乙野に金二〇万円を月五万円宛分割支払うことを約束させた。
(ニ) その後甲田や原告は被告に電話で右約束の金銭の支払いを強要し被告と争つた。
3 <反証排斥略>
三右認定の事実によると被告が乙野に対し慰藉料名下に金銭の支払いを約束したのは、原告と甲田の言動に畏怖したものであり、被告の任意の意思によるものではない。仮に、原告主張のとおり原告が具体的な脅迫的言動をなさなかつたとしても、甲田が前認定のような言動をしていたのであるから、主従関係・日時・場所・周囲の情況等により被告が右の行為をするについて原告と甲田、乙野の間には共謀があつたと考えることは無理からないところといえる。そうすると被告が乙野に対し猥褻行為をなしたことにより民事法上の賠償義務を負担しているとしても、これを理由にして原告らが被告に前記認定のような行為をし、被告をして乙野に金銭の支払いを約束させたのは恐喝行為に該当すると判断し、犯罪を構成すると被告が考えることには相当な理由があるといえる。従つて被告が原告らの行為が恐喝未遂である旨原宿警察署に申告したことは正当な権限の行使であり、原告を陥れる目的で不実のことを申告したものではなく、誣告には該当しない。そうすると原告のこの点の主張は理由がない。 (岡田潤)