東京地方裁判所 昭和54年(ワ)12631号 判決 1981年9月24日
原告 新東亜交易株式会社
右代表者代表取締役 辻喜代治
右訴訟代理人弁護士 杉下裕次郎
右訴訟復代理人弁護士 清水利男
同 小幡雅二
被告 関東重車輌工業株式会社
右代表者代表取締役 関口晶平
<ほか三名>
右訴訟代理人弁護士 畑七起
主文
一 被告らは各自原告に対し、金四、五四三、〇〇〇円並びにこれに対する被告関東重車輌工業株式会社及び被告関口晶平についてはいずれも昭和五五年二月二七日から、その余の被告らについてはいずれも昭和五四年一二月二九日から、夫々支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告に対し、金七、二一〇、〇〇〇円並びにこれに対する被告関東重車輌工業株式会社(以下「重車輌」という。)及び被告関口晶平についてはいずれも昭和五五年二月二七日から、その余の被告らについてはいずれも昭和五四年一二月二九日から、夫々支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 昭和五二年一一月二一日、原告は、被告重車輌に対し、原告所有の中古機械である日立建機株式会社製クローラクレーン型式U106AL2型一台(以下「本件クレーン」という。)を以下の約定(以下「本件契約」という。)で売渡した。
(一) 代金額 金一一、二九五、九八六円
(二) 代金支払方法 頭金を金一、〇〇〇、〇〇〇円とし、残額金一〇、二九五、九八六円は昭和五二年一月から同五五年一月まで毎月末日に金四一三、〇〇〇円(但し、第一回及び第二回は各金二〇〇、〇〇〇円、第三回は金三九六、〇〇〇円とする。)宛支払う。
(三) 特約事項 本件クレーンの所有権は原告に留保し、被告重車輌が右代金の支払いを完済した時に同人に移転する。
2 本件クレーンは、
(一) 昭和五三年六月一五日頃、被告重車輛から被告富士建設機械株式会社(旧商号、東洋建設機械)こと渋谷敏夫(以下「渋谷」という。)に売渡され、
(二) 昭和五三年六月二二日頃、右被告渋谷から被告新潟建機株式会社(以下「新潟建機」という。)に売渡され、
3 その後、右被告新潟建機より第三者に売渡された。
3 前項(一)、(二)、(三)の売買にあたり、被告重車輌の代表取締役である被告関口晶平、被告渋谷敏夫及び被告新潟建機の代表取締役である訴外須田丈夫は、それぞれ本件クレーンの所有権が原告に留保されており、売主には右クレーンを処分する権原がないことを熟知しており、本件クレーンを売買することにより原告の所有権を侵害することを認容しながら、あえて売買したもので、被告らの行為は故意により原告の本件クレーンに対する所有権を違法に侵害したものである。
4 仮りに、被告らに前項の故意がなかったとしても、被告重車輌は建設機械のリース会社であり、他の被告らは、いずれも建設機械販売業者であるので同販売業者として、建設機械の売主は同機械を売渡す際社団法人日本産業機械工業会制定の売主の所有権を証する譲渡証明書を買主に交付する慣行があることを熟知しており、本件クレーンの売主らは右証明書を所持していないので、右クレーンの所有関係を調査しその所有者を確認すべきであり、しかも右調査は容易に行えたにかかわらず、これを怠った過失があり、被告らの行為は過失により原告の本件クレーンに対する所有権を違法に侵害したものである。
5 被告らの右不法行為は関連・共同しており、この共同不法行為により、原告はその所有にかかる本件クレーンを喪失したので、原告は右クレーン喪失時の価額金七、二一〇、〇〇〇円相当額の損害を蒙った。
6 よって、原告は、被告らに対し、各自、被告らの共同不法行為の損害賠償金七、二一〇、〇〇〇円並びにこれに対する被告重車輌及び同関口晶平についてはいずれも本訴状が送達された日の翌日である昭和五五年二月二七日から、その余の被告らについてはいずれも本訴状が送達された日の翌日である昭和五四年一二月二九日から夫々支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 被告渋谷敏夫
(一) 請求の原因第1項は不知。
(二) 請求の原因第2項の事実は認める。
(三) 請求の原因第3項乃至第5項は否認する。
被告渋谷は、被告重車輌から過去数回建設機械を買入れたことがあり、本件クレーンも相当な代価で被告重車輌から買入れたものであって、仮に売買により所有権を取得していないとしても、適法に即時取得によりその所有権を取得しており、また、原告の主張する日本産業機械工業会の譲渡証明書は、同会に加入している建設機械製造業者又はその指定販売業者が発行しているものであり、現実の取引でも右譲渡証明書は添付されていないから、被告渋谷には本件クレーンの取得について故意又は過失はなく、不法行為は成立しない。
2 被告新潟建機
(一) 請求の原因第1項は不知。
(二) 請求の原因第2項の事実は認める。
(三) 請求の原因第3項乃至第5項は否認する。
イ 被告新潟建機は昭和四七、八年頃から数回建設機械の売買業を営む渋谷と建設機械の取引があるが、同人から買入れた建設機械については本件の如きトラブルは一回もなく、本件クレーンも昭和五三年六月通常の方法で相当な代価八〇〇万円を支払って買入れているので、被告渋谷少くとも被告新潟建機は本件クレーンを適法に即時取得しているものであり、また、原告の主張する日本産業機械工業会の譲渡証明書は、同会に加入している建設機械製造業者またはその指定販売業者が発行しているもので、その他の大多数の建設機械販売業者の間には普及していないから、現実には譲渡証明書が添付されることなく取引がされており、特に中古品はその添付のない方が多いのが実際であり、本件クレーンの取引について被告新潟建機に故意や過失はない。
ロ 仮りに本件クレーンの喪失時における価額が金七、二一〇、〇〇〇円であったとしても、原告の右クレーンの価額(売渡し代金)の未収分は金四、五四三、〇〇〇円であるので、原告の損害額は右未収分の額を超えるものではない。
三 被告重車輌、同関口に対する公示送達
被告重車輌、同関口は、公示送達による適式の呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。
第三証拠《省略》
理由
一 請求の原因第1項について判断するに、《証拠省略》によれば、原告・被告重車輌間に本件契約が締結され、原告がその所有の本件クレーンを所有権を留保して右被告重車輌に売渡した事実が認められる。
二 請求の原因第2項の事実は、《証拠省略》により認めることができる(右事実は、原告と被告渋谷、同新潟建機との間では、争いがない。)。
三 請求の原因第3、4項の被告らの故意、過失の有無について判断するに、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができ、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
1 被告重車輌は建設機械のリースを、被告渋谷、同新潟建機は中古建設機械の販売をそれぞれ営業とするものであるが、被告重車輌は未だ本件クレーンの代金を完済していないのに本件クレーンを被告渋谷に売渡したこと。
2 建設機械は一般に高価額のものが多いため、大部分が製造業者又は販売業者から使用者等に対して割賦販売の方式によって売渡され、代金の完済があるまで所有権を売主に留保しているのが通例であること。
3 割賦代金の支払未済の機械の盗難及び買主による不法転売の事故が頻発したため、建設機械の製造業者によって組織されている社団法人日本産業機械工業会は、前記事故の防止及び建設機械の取引秩序の健全化を図るため、昭和四六年六月以降、統一形式による譲渡証明書を使用する慣行の普及に努めてきていること。
4 右譲渡証明書は、社団法人日本産業機械工業会制定の細則により、建設機械の製造業者又は指定販売業者によって作成され、これらのものが販売した機械につきその代金全額が支払われ買主に機械の所有権が完全に移転した時点で買主に交付され、爾後機械の取得者が機械を他に譲渡する場合は、その所有権を証明するため譲渡証明書を機械に添付し、その機械の所有権の譲渡と共にこれを買主に交付していること。
右のような譲渡証明書による建設機械の取引の慣行の普及について、同工業会は、昭和四六年以来新聞の広告、製造業者・販売業者・使用者等に対するパンフレットの配布、内容証明郵便による地方の建設機械販売業者等(被告新潟建機を含む。)に対する譲渡証明書の使用の要請等の手段によりP・Rに努めており、そのため中古建設機械の売買に当り譲渡証明書によってその所有権を確認するという慣行は、昭和五三年には大体業界に浸透し今日に至っていること。
従って、建設機械の取引は概ねこの慣行によっていると認められるので、もし取引対象の機械に譲渡証明書が添付されていない場合には、特段の事情がない限り、所有権は製造業者・指定販売業者あるいは売主の前主等に留保されている可能性が強いといえること。
右認定事実によると、被告らが本件クレーンの売買にあたって、原告の所有権を侵害することを認容しながら取引をしたという故意までは認定しがたいが、被告らは建設機械のリース業者あるいは販売業者として本件クレーンの取引にあたってその所有者を調査すべきであり、またこの調査は、譲渡証明書が添付されていない建設機械を譲り受けるに当っては特にその権利関係を調査し、その所有権を確認すべき注意義務があると認めるのが相当と考えるところ、本件クレーンは右慣行が始められて以降の昭和四八年製の中古機械であり、譲渡証明書の添付がないので、売主である被告重車輌又は被告渋谷敏夫に本件クレーンの所有権が移転していない可能性が強いにもかかわらず、右買主らはいずれも売主を信用し前記のような調査確認を全くしなかった(但し、被告新潟建機の代表取締役訴外須田丈夫は、本件クレーンの製造業者に対してのみ右クレーンの割賦代金の支払状況について照会している。)ことが認められるので、右被告らは本件クレーンが原告の所有であることを知らなかったとしても、その知らなかった点あるいはその所有関係を明確にしないで売買した点について過失があったものといわなければならない。
《証拠省略》によると、本件クレーンが被告重車輌から被告渋谷へ売渡された当時、本件クレーンのボディに被告重車輌の社名が大きな字で書かれており、また、本件クレーンの内部あるいは横側にプレイト又はペイントで所有権留保の掲示がされていなかったこと、被告新潟建機の代表者須田は、被告渋谷から本件クレーンを買受けるにあたり、同被告から本件クレーンの所有権は同人に移転し、また譲渡証明書は紛失していると説明を受けていたことはそれぞれ認められるのであるが、このような事実があっても被告らの右過失は否定されるものではなく、また本件クレーンの取引価額が格別安価なものでなく、本件クレーンのほかに過去数回にわたり事故なく取引をしていたとしても、被告らの右注意義務がなくなるというものではない。
五 請求原因第5項の被告らの共同不法行為の成立と損害について判断するに、前記各証拠によれば、以上のような被告らの関連・共同した過失行為に因り、本件クレーンは被告新潟建機に転売されたが、同社から更に第三者に転売されその所在が不明となってしまい、原告が本件クレーンの返還を求めることは事実上不能となったことが認められる。そして、《証拠省略》によれば、右クレーンの喪失時の価額は金七、二一〇、〇〇〇円であるが、原告が本件クレーンの価額について支払いを受けていないのは金四、五四三、〇〇〇円であり、その余は被告重車輌より支払われているので、原告の右クレーンの喪失による損害額はまだ支払いを受けていない金四、五四三、〇〇〇円を超えるものではないと認められる。
六 よって、原告の本訴請求は、被告らに対し、各自、共同不法行為による損害賠償金四、五四三、〇〇〇円及びこれに対する被告重車輌及び同関口晶平についてはいずれも本訴状の送達された日の翌日である昭和五五年二月二七日から、その余の被告らについてはいずれも本訴状が送達された日の翌日である昭和五四年一二月二九日から、夫々支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を夫々適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 山田二郎)