東京地方裁判所 昭和54年(ワ)12649号 判決
一 請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。
二1 成立に争いのない甲第一、第三号証、本件意匠権の実施品の電話送受話器カバーであることについて争いのない検甲第二号証によれば、本件登録意匠は電話送受話器カバーの形状及び模様にかかるもので、その構成は次のとおりであると認められる。
(一) 展開すると長細の亀甲状を呈するレザーシート様材料をもつて電話送受話器の把手を上からくるみ、長い方の二辺をとじ合わせて取付けるようにしたもので、レザーシート様材料の周縁部の全体にブレードがつけられている。
(二)(1) 平面の形状は、両短辺か半円形の長方形状であつて、右各半円形部はブレードで縁飾りされている。
(2) 正面及び背面の形状は、上辺及び下辺がいずれも直線状で、上辺が長く下辺がそれよりやや短かく高さの低い逆台形状を呈しており、斜めの両辺はブレードによつて縁飾りされている。
(3) 底面の形状は、両短辺か半円形の長方形状であつて、両側の半円形がそれぞれ内側に延長されて蛤形の切口状を呈し、右各切口状部を結ぶように長手方向の中心線に沿つてカバーを構成するレザーシート様材料の長い直線状の二辺をとじ合わせ目が形成されている。合わせ目の両側にはそれぞれブレードが並行してつけられ、そのブレードは蛤形の切口状部のふちを半円形部に到達するまで延長されている。
(4) 左右各側面の形状は、カバーを構成するレザーシート様材料の二辺をとじ合わせた扁平な筒状の形状で、右筒状部の外周部にはブレードによる縁飾りがなされている。
2 なお、原告は、右に認定した本件登録意匠の構成(一)の「長い方の二辺をとじ合わせて取付けるようにした」とある部分は「長い方の二辺を重ね合わせて取付けるようにした」と、同(二)(2)の「上辺及び下辺がいずれも直線状で」とある部分は「上辺はほぼ直線状で左右両翼において端部に向つてゆるやかに湾曲下降し、下辺はほぼ直線状で」とすべきである旨主張しているが、前顕各証拠によれば、前者の点は、レザーシート様材料の周縁部の全体にわたつてつけられているブレードが、底面において並行に接していることが認められることからして、二辺は重ねられてはおらず、二辺が接するようにとじ合わせられているものというのが相当である。また、後者の点は、上辺が左右両翼において端部に向つてゆるやかに湾曲下降しているものとは認め難い。したがつて、原告の前記主張は、いずれも失当である。
三1 請求の原因3の事実は当事者間に争いがない。
2 被告製品を表示するものであることについて争いのない別紙目録の記載、被告製品であることについて争いのない検甲第一号証並びに本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、被告意匠の構成は次のとおりであると認められる。
(一) 展開すると変形菱形状を呈するゴブラン織を模したジヤカード織でつるばら模様が描かれた布をもつて電話送受話器の把手を上からくるみ、変形菱形状の短軸の両端に配された短い直線の部分を重ね合わせて取付けるようにしたもので、前記布の周縁全部にパイピングが施され、そのパイピングの上に前記短い直線の部分を除いてブレードがつけられている。
(二)(1) 平面の形状は、両短辺が半楕円形の長方形状であつて、右各半楕円形部はブレードで縁飾りされている。
(2) 正面及び背面の形状は、上辺はその中央部が直線状で、左右両翼において端部に向つてやや湾曲下降し、下辺は直線状で、上辺が長く下辺がそれよりかなり短く高さの低い逆台形状を呈しており、斜めの両辺はブレードによつて縁飾りされている。
(3) 底面の形状は、両短辺が半楕円形の長方形状で、両側の半楕円形がそれぞれ内側に延長されて卵形の切口状を呈し、両側の切口状部の間で変形菱形状の布の短軸の両端に配された短い直線の部分が重ね合わされていて、重ね合わせにより外側となつたパイピングが設けられた短い直線の部分が長手方向の中心線からずれた位置にある。ブレードは卵形の切口状部のふちを半楕円形部に到達するまでつけられ、半楕円形部にはパイピングが施されている。
(4) 左右各側面の形状は、カバーを構成する布の二辺の端部を重ね合わせた扁平な筒状の形状で、右筒状部の外周部にはパイピングが施され、ブレードによる縁飾りがなされている。
3 なお、原告は、右に認定した被告意匠の構成(一)、(二)(3)の「短い直線」とある部分は「直線」と、同(二)(1)、(3)の「半楕円形」とある部分は「半円形」とすべきである旨主張しているが、前顕証拠によれば、前記認定したようにいうのが相当であり、原告の右主張は失当である。また、被告は、同(二)(1)の「ブレードで縁飾りされている」とある部分は「ブレードで縁飾りされ、かつその中央長手方向にはダーツが設けられている」と解すべきである旨主張している。確かに前顕検甲第一号証によれば、被告主張のように、半楕円形部の中央長手方向に一本のダーツが設けられていることは認められるが、ダーツが作り出す形状ではなく、右ダーツの縫い目そのものを捉えて被告意匠の構成要素と解することは本件の場合においては相当でない。よつて、被告の右の主張は失当である。
四 以上の認定事実に基づいて被告意匠と本件登録意匠の類否について判断する。
1 まず、底面の形状及び模様について本件登録意匠と被告意匠とを対比するに、前記二1(二)(3)、三2(二)(3)から明らかなように、全体の形状が両短辺が円みを有する長方形状である点、両短辺の円みが延長されて切口状部を形成している点、両短辺を除く切口状部の縁にブレードがつけられている点において共通するが、両短辺の形状が本件登録意匠では半円形であるのに対し、被告意匠では半楕円形である点、切口状部の形状が本件登録意匠では蛤形であるのに対し、被告意匠では卵形である点、本件登録意匠にあつては、蛤形の切口状部を結ぶように長手方向に中心線に沿つてカバーを構成するレザーシート様材料の二辺がとじ合わせられ、合わせ目が形成されているのに対し、被告意匠では、変形菱形状の布の短軸の両端に配された短い直線の部分が重ね合わせにより外側となつた短い直線の部分が長手方向の中心線からずれた位置にあつて、卵形の切口状部を結ぶように長手方向の中心線に沿つた合わせ目はない点、本件登録意匠では、右合わせ目の両側に並行してブレードがつけられているのに対し、被告意匠では右重ね合わせた短い直線部分にはブレードはなく、パイピングが施されているにすぎない点において相違している。
2 次に、前記二1(一)、三2(一)認定のとおり、本件登録意匠はブレード以外の模様を有しないのに対し、被告意匠にはゴブラン織を模したジヤガード織でつるばら模様が描かれている点において相違している。
3 更に、前記二1(二)(1)、三2(二)1認定のとおり、平面の形状のうち、両短辺の形状が、本件登録意匠では半円形状であるのに対し、被告意匠では半楕円形状であつて、鋭角的な感じを与えるという点、前記二1(二)(2)、三2(二)(2)認定のとおり、正面及び背面の形状が、本件登録意匠では下辺の長さが上辺よりやや短いという程度であるのに対し、被告意匠では下辺の長さが上辺よりかなり短く、前者が斜めの両辺の角度がゆるやかな逆台形状を呈しているのに対し、後者は斜めの両辺の角度が鋭い逆台形状を呈しているという点、前記二1(二)(4)、三2(二)(4)認定のとおり、左右各側面の形状及び模様において、本件登録意匠では、カバーを構成するレザーシート様材料の二辺をとじ合わせた形状で、筒状部の外周がブレードで縁飾りされているのに対し、被告意匠では、カバーを構成する布の二辺を重ね合わせた形状で、筒状部の外周にパイピングが施され、その上にブレードで縁飾りされている点等がそれぞれ相違している。
4 原告は、本件登録意匠の底面部の形状及び模様は、送受話器カバーが商品としてパツケージされて店頭に陳列されているときには下に隠れて見えないし、送受話器に装着されているときもその裏側に隠れて見えず、看者の注意をひく部分とはなり得ない旨主張している。
しかしながら、送受話器カバーが原告が主張するような態様で販売されるものとしても、底面部が見えない状態で常にパツケージされているとは断定できないし、これを電話送受話器の把手に装着した場合には、送受話器の使用時には、底面部も眼にふれるわけであるから、底面部の形状及び模様が看者の注意をひく部分とはなりえないとする原告の右主張は相当でない。
かえつて、前掲甲第一、第三号証、成立に争いのない甲第四、第六号証、乙第一、第二号証の各三並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件登録意匠の構成のうち、従前の意匠の構成に比べて最も特徴的な部分は、前記1(二)(3)に認定した底面の形状及び模様のうちの、各切口状部を結ぶように長手方向の中心線に沿つて長い直線状の二辺をとじ合わせた合わせ目を設け、その両側に二本のブレードを並行してもうけた形状及び模様の部分にあるものと認められるのであつて、被告意匠がこの点において相違していること前記1で述べたとおりである。
そして、右の相違点があるほか、前記1ないし3で述べた相違点があることからして、全体としてみれば、被告意匠は本件登録意匠とその生ずる美感を異にするといわざるを得ず、結局、被告意匠が本件登録意匠に類似するということはできない。
五 してみれば、被告意匠が本件登録意匠に類似することを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却する。
〔編註その一〕 本件登録意匠に関する事項は左のとおりである。
1 原告は、次の意匠権(以下、「本件意匠権」といい、その意匠を「本件登録意匠」という。)を有する。
出願日 昭和四七年八月一五日
登録日 昭和五一年二月一三日
登録番号 第四二五四三八号
意匠に係る物品 電話送受話器カバー
登録意匠 別添意匠公報に示すとおり
2 本件登録意匠は電話送受話器カバーの形状及び模様にかかるもので、その構成は次のとおりである。
(一) 展開すると長細の亀甲状を呈するレザーシート様の可撓性材料(以下「レザーシート様材料」という。)をもつて電話送受話器の把手を上からくるみ、長い方の二辺で重ね合わせて取付けるようにしたもので、レザーシート様材料の周縁部には全体にわたつてブレードがつけられており、このブレードが輪廓を明確にするとともに独特の模様を形成している。
(二) この電話送受話器カバーは、
(1) 上から見ると(平面図)、長方形で両短辺が半円形をなし、半円形部はブレードで縁飾りされている。
(2) 正面及び背面から見ると(正面図、背面図)、上辺はほぼ直線状で左右両翼において端部に向つてゆるやかに湾曲下降し、下辺はほぼ直線状で、上辺が長く下辺がやや短く高さの低い逆台形状を呈しており、斜めの両辺がブレードによつて縁飾りされている。
(3) 下から見ると(底面図)、長方形で両短辺が半円形をなし、両側の半円形がそれぞれ内側に延長されて蛤形の切口状を呈し、両側の切口状部を結んで合わせ目が形成されている。合わせ目の両側にはブレードが並行してつけられ、そのブレードは蛤形の切口状部のふちを半円形部に到達するまで延長してつけられている。
〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
目録
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本件意匠
四二五四三八 出願 昭 四七、八、一五 意願 昭 四七―三
六九五七 登録 昭 五一、二、一三
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