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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)12936号 判決

一 請求の原因1及び3の事実は当事者間に争いがない。

二 本件発明の構成要件と作用効果について

1 右当事者間に争いのない本件発明の願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第一号証(本件特許公報)によれば、本件発明の構成要件は請求の原因2(一)記載のとおりであると認められる。

2 前掲甲第一号証によれば、本件明細書には「本件発明の主なる目的は、ゲロータ型流体圧力装置において、効果的な密封装置の設計を容易にしかつ弁の直径を比較的小となしうるような新規な改良出入口及び通路配置を有する装置を供することである。」旨記載され(本件特許公報3欄9~13行)、また本件明細書に示される二つの実施例につき、「第一の実施例は三つの主要な利点を有している。一つの利点は一組の相対運動面、すなわち弁の面32とケーシングの面34との間だけを密封すれば良いことである。第二の利点は面32、34が平らな面であり、かつそれらの摺動係合に起因する摩耗が単に偏倚装置を設けることによつて自動的、連続的に補償されるようになしうることである。この補償装置は弁28をケーシング面34の方に向つて弾発し、不可避的に発生する摩耗が面32、34間の接触損失を起こさないようにするものである。第三の利点は、前述のごとく通路(69~74)を口16に連結することによつて弁28の直径を最小限に止めうることである。」旨(同公報7欄42行~8欄11行)、第二の実施例も第一の実施例と同一の利点を有する旨(同公報11欄9~23行)、各記載されていること、及び右以外は本発明の作用効果の記載はなく、明細書全体の構成からみて右二つの実施例の作用効果の記載をもつて本件発明の作用効果の記載としていることが認められ、右によれば、本件発明においては流体送給通路装置と流体排出通路装置間の流体漏洩の危険のある面は一組の相対回転面だけであり、その一組の相対回転面のみを密封すればよいこと、右一組の相対回転面は平らな面なので、面の摺動係合に起因する摩耗による面の接触損失を容易に防止しうること、及び弁の直径を小となしうることが、本件発明の主たる作用効果であることが認められる。

三 被告製品を本件発明と対比する。

1 右二によれば、本件発明の構成要件Fは、流体入口導管について、

(一) 流体入口導管がケーシングの外部からケーシングの平らな面に延びていること、

(二) 流体入口導管が凹欠流体送給通路装置と常時連通すること、

を要件として規定していることが認められる。

これに対し、被告製品は、被告製品を示すこと当事者間に争いのない別紙物件目録の記載によれば、流体が流体入口14´、通路66´、中ぐり孔22´弁28´の外周の環状溝65´、流体送給通路装置68´を通つて、流体通路ケーシング区画4´の平らな面34´内の円周方向に隔置された開口へ流れる構成となつていると認められるが、前掲甲第一号証によれば、本件発明の「流体入口導管」の導管とは流体を単に導き送る管を意味し、流体の流れを制御する弁のようなものは含まないと解されるから、被告製品においては右流体送給通路装置68´を含まない流路すなわち右流体入口14´から環状溝65´に至る流路が本件発明の流体入口導管に当たると認められる。

右によれば、被告製品は、流体入口導管が本件発明の凹欠流体送給通路装置に対応する流体送給通路装置68´に連通するといえても、右導管は弁28´の外周の環状溝65´まで延びているだけで前記ケーシング区画4´の平らな面34´まで延びていないことが認められ、したがつて被告製品は、本件発明の構成要件Fの右(一)の要件を充足しない。

なお、原告らは、被告製品においては流体送給通路装置68´も含めた流路が本件発明の流体入口導管に当たり、同時に右流路は本件発明の凹欠流体送給通路装置に当たる流体送給通路装置68´に連通する旨主張するが、前掲甲第一号証によれば「連通」とは異なる部品間の連絡を意味するものであることが明らかであるから、流体入口導管と流体入口導管中のある部分が連通するということはありえず、原告らの右主張は採用できない。

2 別紙物件目録の記載によれば、被告製品は、前記のように本件発明とは異なり流体入口導管に当たる流路が弁の外周の環状溝65´まで延びてはいるものの、流体通路ケーシング区画4´の平らな面34´までは延びずに流体送給通路装置68´に連通する構成をとつているため、弁28´の平らな面32´と右ケーシング区画4´の平らな面34´との間、及び弁28´の背面35´とブツシユ29´の表面との間、の二組の平らな相対回転面において、相互に開口する六個の流体送給通路送置68´と六個の流体排出通路装置69´~74´との間で流体の漏洩の危険が存し、その間で右漏洩がないように密封する必要があることが認められ、右によれば、被告製品は、本件発明と右のような構成上の差異を有することにより、その作用効果の点においても、本件発明と異なり、一組ではなく二組の平らな相対回転面を密封しなければならないという差異を有することが認められ、本件発明の主たる作用効果を奏するということはできない。

なお、原告らは、被告製品の弁28´の背面35´とブツシユ29´の表面間の密封は、弁28´の平らな面32´と前記ケーシング区画4´の平らな面34´間の密封に比べ、ブツシユ29´の表面がすべて平らな密封面であるから広狭の変化もなく、液体が通過する面でもないので、流体漏洩の度合が後者に比して格段に少なく密封装置としては後者とは本質的に異なる旨主張し、その密封の質的差異を強調するが、右の質的差異があるとしても、被告製品では、前記のように流体漏洩の危険のある相対回転面が本件発明よりも一組多く、本件発明とは異なり、一組ではなく二組の相対回転面の密封が必要であることに何の変わりもない。

3 以上によれば、被告製品は、本件発明の構成要件Fを充足せず、その作用効果においても右差異を有するものであるから、本件発明の技術的範囲に属するということはできない。原告らの主張は採用しえない。

四 よつて、被告製品が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却する。

〔編註その一〕 本件特許発明に関する事項は左のとおりである。

1 原告イートン・コーポレーシヨンは、左記(一)の特許権(以下、「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有し、原告住友イートン機器株式会社は、本件特許権につき左記(二)の専用実施権(以下、「本件専用実施権」という。)を有する。

(一) 特許番号 第五五七七七三号

発明の名称 液体圧力装置

出願    昭和四一年七月一八日

出願公告  昭和四四年五月二四日

登録    昭和四四年一〇月二八日

願書に添附した明細書の特許請求の範囲の記載別添本件特許公報該当欄記載のとおり

(二) 期間    本件特許権の存続期間中

地域    日本全国

内容    製造、使用、販売

2 本件発明の構成要件と作用効果について

(一) 本件発明の構成要件は次のとおりである。

A 流体圧力装置において中央孔を有するケーシングと一つの室の外壁を画定する内歯リング部材と、前記室内に偏心的に配設されかつリング部材よりも一つだけ歯の少ない共働外歯星形部材とを有すること、

B 前記部材の一つが他の部材の軸線のまわりにおいて惑星運動を行い、かつ前記一つの部材がそれ自体の軸線のまわりにおいて回転運動を行うようになつていること、

C 前記部材が相対的に運動する際に該部材の歯が密封的に噛合して前記部材間の偏心線の片側に膨脹小室を形成し、かつ前記線の他の側に収縮室を形成するようになつていること、

D 前記ケーシング内に回転自在に配設された弁と、前記弁を前記部材の一つに作動的に連結し、前記弁を前記部材の一つの前記運動の一つと同期的に回転させるようになつた駆動装置とを有すること、

E 前記ケーシング及び前記弁が相互に係合する平らな面を有していること、

F 前記弁の平らな面の中に設けられた凹欠流体送給通路装置及び前記弁の平らな面に設けられた流体排出通路装置と、前記ケーシングの外部から該ケーシングの平らな面に延びかつ前記凹欠流体送給通路装置と常時連通する流体入口導管と、前記ケーシングの外部から前記ケーシングの孔に延びる流体出口導管と、前記弁内に設けられ前記排出通路装置及び前記ケーシング孔を連通させる導管装置とを有すること、

G 前記ケーシング内に設けられ該ケーシングの前記平らな面内に円周方向に隔置された開口を形成しかつ該個所から前記リング部材の室に延びて前記小室と連通するようになつた通路装置を有すること、

H 前記流体送給及び排出通路装置が前記弁及びケーシングの間において相対的に運動した時に前記各ケーシング通路と逐次的に連通し、前記入口導管と前記偏心線の片側における膨脹小室との間並びに前記出口導管と前記偏心線の他の側における収縮小室との間を連通させるようになつていること、

I 以上を特徴とする流体圧力装置

(二) 本件発明は、ゲロータ型流体圧力装置において効果的な密封装置の設計を容易にし、かつ弁の直径を比較的小となしうるような新規な改良流出入口及び通路配置を有する液体圧力装置を供することを目的とする。

本件発明の出願前においては、ゲロータ式流体圧力装置の弁は管軸状で流体の送給及び排出両通路装置はその管軸の周面に形成され、通路装置はその管軸が嵌挿されているケーシングの孔の内周面に開口する構成をとつていて、流体の送給側流路と排出側流路との間の密封は弁とケーシングとの係合面である円周面で行なわれていた。このケーシングの内接円周面、弁の外接円周面は密封面であるから精密な仕上げを要するが、それはなかなか困難であり、また相対回転面であるから焼付けをおこすおそれもあつて、どうしてもある程度のクリアランスを必要とし、そのため流体圧力をあまり上げることができなかつた。本件発明は、この弁とケーシングとの係合面を平らな面として構成し、流体送給及び排出両通路装置をその平らな面内に配したので、クリアランスはなくてよく、両通路装置間の密封は極めて良好となり、液体圧力を高圧化することができ、その効率を著しく向上させることができた。また、本件発明では流体排出通路装置を弁内の導管装置とケーシング孔と流体出口導管を通して出口に連結するという構成をとることによつて、弁の直径を小さくできるという効果も奏する。

〔編註その二)本件に関する目録は左のとおりである。

物件目録

添付説明書および図面に示す油圧モータ

(商品名、「オープマークモータ」H型、同S型、「ミニ・オープマークモータ」)

説明書

図面は、油圧モータを示し、第一図は、その縦断正面図であつて、第三図1―1´線に沿つて切断したもの、第二図は、同じく第三図2―2´線に沿つて切断した縦断正面図、第三図は、第一図を3―3´線に沿つて切断し、矢印の方向にみた断面図、第四図は、同じく第一図を4―4´線に沿つて切断し、矢印の方向にみた断面図である。

図面に示す油圧モータの構成は、つぎのとおりである。

中央孔21´を有するケーシング区画2´と流体通路ケーシング区画4´からなるケーシングと、一つの室の外壁を画定する内歯リング部材6´と、前記室内に偏心的に配設されかつ前記リング部材6´よりも一つだけ歯の少ない外歯星形部材18´とを有し、星形部材18´がリング部材6´の軸線24´のまわりにおいて惑星運動を行い、かつ星形部材18´がそれ自体の軸線40´のまわりにおいて回転運動を行うようになつており、星形部材18´がリング部材6´に対して相対的に運動する際に、星形部材18´の歯38´とリング部材6´の歯36´とが密封的にかみ合い、前記部材間の偏心線44´の片側に膨脹小室42´を形成し、該偏心線44´の他の側に収縮小室42´を形成するようになつている。

ケーシング区画2´は流体通路ケーシング区画4´と対接する面に中ぐり孔22´を有し、その中ぐり孔22´内に弁28´が回転自在に配設され、弁28´は回転軸30´の軸端に装架され、回転軸30´は駆動軸58´の一端と、駆動軸の他端は星形部材18´とスプライン連結され、弁28´は星形部材18´のそれ自体の軸線のまわりの回転運動と同期的に回転されるようになつている。又中ぐり孔22´内にブツシユ29´が装入され、弁28´は、その平らな面32´が流体通路ケーシング区画4´の平らな面34´と、その背面35´が前記ブツシユ29´の表面と摺動的に係合するようになつている。

ケーシング区画2´には流体入口14´と流体出口16´があり、流体入口14´は通路66´を介して中ぐり孔22´に連なり、流体出口16´は通路67´を通りケーシング中央孔21´に出、中央孔21´を通つて中ぐり孔22´に連なる。回転軸30´は軸端に中ぐり孔33´を有し、中ぐり孔33´と軸外周面との間に通孔31´を穿つ。弁28´の平らな面32´には六個の流体送給通路装置68´と六個の流体排出通路装置69´~74´が交互に開口しており、又中心孔54´を有し、その中心孔54´と各流体排出通路装置との間に導通路75´~80´が設けられる。弁の外周をめぐつて環状溝65´が穿たれ、各流体送給通路装置はこの環状溝に開口している。

流体通路ケーシング区画4´には、該ケーシングの平らな面34´内に円周方向に隔置された開口を形成しかつ該個所からリング部材6´の室に延びて前記小室42´と連通するようになつた通路装置82´~88´が設けられる。

ケーシング区画2´の中央孔21´に回転軸を嵌挿し、弁28´を中ぐり孔22´内に入れ回転軸30´軸端に装架し、その外側に接して流体通路ケーシング区画4´を配置すると、流体入口14´と六個の流体送給通路装置68´との間は通路66´、中ぐり孔22´、弁の環状溝65´により常時連通状態となり、又流体出口16´と六個の流体排出通路装置69´~74´との間は通路67´、ケーシング中央孔21´、回転軸の通孔31´、回転軸の中ぐり孔33´、弁中心孔54´、弁の導通路75´~80´により常時連通状態となり、送り流路も排出通路も各出入口から流体通路ケーシング区画4´の平らな面34´までは常に連通し、流体送給通路装置と流体排出通路装置との間の密封は、弁の平らな面32´と流体通路ケーシング区画の平らな面34´との滑り係合によりはたされる。

流体送給通路装置68´及び流体排出通路装置69´~74´と前記通路装置82´~88´とは、弁28´の流体通路ケーシング区画4´に対する相対運動によつて逐次的に連通し、流体入口14´と前記偏心線44´の片側における膨脹小室42´との間並びに流体出口16´と前記偏心線44´の他の側における収縮小室との間を連通させるようになつている。

なお流体の入口および出口は回転軸に所望される回転方向に応じて一方が入口となり他方が出口となるものでどちらかに限定されるものでない。

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