東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2148号 判決 1981年9月21日
原告 田島一郎こと 陳克譲
右訴訟代理人弁護士 安藤章
被告 田島明峰
右訴訟代理人弁護士 伊藤伴子
主文
本件訴訟は、昭和五六年五月二七日訴取下によって終了した。
理由
一 本件訴訟において、当裁判所に昭和五六年五月二七日原告陳克譲の相続財産管理人古閑孝から被告訴訟代理人の同意を記載した訴の取下書が提出され、同日受理されたことは本件記録に徴して明らかである。
そこで、右訴の取下により訴訟が終了したか否かにつき検討するに、原告陳克譲が死亡し、その相続財産について、東京家庭裁判所が、昭和五五年九月二二日、民法第九二六条第一項、第九一八条第二項、第三項により、相続財産管理人を選任したことは記録上明らかである。ところで、民法第九三一条によれば、限定承認がなされた場合には、まず相続債権者への弁済が優先するのであり、その後にはじめて受遺者への弁済がなされるのであって、受遺者の権利は、相続債権者の権利に劣後することは明らかであるところ、本件において、原告訴訟代理人主張の如く、受遺者が訴訟手続を承継するものとすれば、右民法第九三一条の趣旨に反することにならざるを得ない。というのは、仮に受遺者が本件訴訟手続を承継して、勝訴し、本件土地・建物の所有権移転登記を取得したとすれば、本来相続債権者に劣後するはずの受遺者が結果的に相続債権者に優先することになるからである。そうすれば、本件において、相続財産の清算手続は別として、その管理・保存行為は、右相続財産管理人の権限に属するものであり、本件訴訟の追行は、相続財産の管理行為であって、相続財産管理人がその職務として行うべきものであると解される。以上によれば、本件において、原告陳克譲の訴訟承継人は、受遺者ではなく、相続財産の管理権限を有する相続財産管理人である。受遺者は本件訴訟に独立当事者参加することは格別、陳克譲の訴訟承継人としては、訴訟行為はなし得ないものと解される。
右相続財産管理人の権限については、民法第二八条が準用されるが(同法第九三六条三項、第九二六条二項、第九一八条三項)、本件訴の取下については、同条所定の家庭裁判所の許可は要しないものと解するのが相当である。けだし、相続財産管理人が再び訴を提起する可能性が残されている以上、相続債権者、受遺者あるいは相続人は、本件訴の取下により、法律上の不利益をこうむることはないものと考えられるからである。
以上によれば、相続財産管理人の本件訴の取下は有効であるから、本件訴訟は右訴の取下により終了したことになる。
なお、仮に、原告陳克譲の訴訟承継人が、同人の相続人全員であり(本件では、遺言執行者が存在するので、相続人が当事者適格を失っていることは別として)、右相続財産管理人がその法定代理人であるとしても、右相続財産管理人の訴の取下書の提出は、相続人の法定代理人としての行為であるとも評価し得るのであるから、この点によっては結論を左右するに至らないものである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 荒井真治 裁判官 関野杜滋子 野尻純夫)