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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2150号・昭54年(ワ)4422号 判決

第一 本訴請求について

一 被告が本件実用新案権を有すること、本件考案の実用新案登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、原告がイ号物件を製造販売していること、イ号物件の構成が別紙目録(一)記載のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがなく、被告がイ号物件は本件考案の技術的範囲に属するとして争つていることは、本件口頭弁論の全趣旨により明らかである。

二 右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載に成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報。別添実用新案公報と同じ。)の記載を総合すると、本件考案は、次の構成要件からなり、かつ次のとおりの作用効果を奏するものと認められる。

<1> 吸水紙その他の吸水材料より成る吸水層を設けること。

<2> 吸水層の外側に防水性被覆材を、乳首側には乳首挿入用の孔を設けた防水性被覆材を配すること。

<3> 防水性被覆材の周縁を圧着固定してわん形のパツトに成形すること。

<4> 乳首側防水性被覆材と吸水層との間に空隙部を形成すること。

<5> 吸水層の最下層にレーヨン紙の如き乳に浸されても乳首に容易に付着しない吸水紙を配すること。

<6> 授乳婦乳もれ受けパツトであること。

しかして、本件考案は、右の構成をとつたことにより、授乳婦の乳首は乳首側防水性被覆材と吸水層の内面に配したレーヨン紙の如き吸水紙との間に形成された空隙部に位置し、乳首先端は右吸水紙により押えられた状態となるから、右吸水紙の特徴によつて授乳婦の授乳時間外に出る余剰の乳を吸水層にスムーズに吸収し、かつ保液することができ、また吸水層が乳を吸収しても乳に浸された吸水層面が直接乳房に触れるということがないため感触性が良く、更には、乳首或いは乳房に右吸水紙がこびりついてしまうという恐れがない、という実用上の効果を奏する。

三 そこで、前項で認定した本件考案の各構成要件と第一項で確定した当事者間に争いのないイ号物件の構成とを対比すると、

1 イ号物件は、本件考案の構成要件<1>、<2>、<5>、<6>を充足すること。

2 本件考案においては、パツトがわん形に成形されることをもつてその構成とする(前記二<3>)のに対し、イ号物件はわん形ではなく、扁平円形状に成形されていること。

3 本件考案においては、乳首側防水性被覆材と吸水層との間に空隙部を形成することをもつてその構成とする(前記二<4>)のに対し、イ号物件にはかかる空隙部は存しないこと。

4 イ号物件は、吸水層及び吸水紙の各中央部乳首挿入用の孔に対応する部分のみをへこませて乳首受入れ凹部を形成することをその構成の一つとするが、本件考案にはかかる構成は存しないこと。

が認められ、これに反する証拠はない。

以上の事実によれば、イ号物件は、本件考案とパツトの形状を異にする点において本件考案の構成要件<3>を、空隙部が存しないという点において本件考案の構成要件<4>をいずれも充足しないから右4の点を判断するまでもなく本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。

四 ところで、被告は、イ号物件は本件考案と同じく授乳婦乳もれ受けパツトであつて、乳頭から溢れる乳を吸収させる目的のため乳房の曲面を覆う方法によつて使用されるものであるから、本件考案とイ号物件との対比は、まず、イ号物件が実際に使用され、乳もれ受けパツトとして機能しているときの状態においてなすべきであるとの前提のもとに、使用状態においては、イ号物件も本件考案のものも、ともに乳房の形に沿つた形になるのであるから、イ号物件が使用前の形態において扁平円形状に成形され、したがつて、前記認定のようにその構成としてわん形に成形されていなくても本件考案の構成要件<3>を充足する旨、また、イ号物件においても使用状態においては乳首側防水性被覆材と吸水層との間に空隙部が生じ、右空隙部は本件考案の空隙部と同様の作用効果を奏するのであるから、使用前の状態において、本件考案におけるが如き空隙部が予め形成されていなくとも、換言すればイ号物件にその構成として右空隙部が存在しなくても、本件考案の構成要件<4>を充足する旨主張する。しかしながら、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するかどうかの判断は、本件考案の構成とイ号物件の構成とを対比すべきことは多言を要しないところ、被告の主張は、右のような対比の仕方ではなくて、イ号物件が使用される際に生じる一つの形態をとらえ、その形態と本件考案の構成とを対比すべきであるというに帰し、到底採ることをえない。本件考案もイ号物件もともに授乳婦乳もれ受けパツトであつて乳房の曲面を覆う方法によつて使用されるものであるからといつて、本件においては、右被告主張の対比の仕方をすべきであるとする根拠はない。

五 また、被告は、イ号物件が前記認定のように本件考案の構成要件を欠いても、それは本件考案の構成要件のうちから重要性の程度の低いパツトの形状と空隙部とに関する構成を省略し、一方、乳首受入れ凹部という不必要な構成を専ら権利侵害の責任を免れるために付加したもので、本件考案の技術的思想を用いたものであるから、イ号物件を製造販売することは被告の本件実用新案権を侵害する旨主張する。右主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、およそ実用新案登録請求の範囲に記載される事項は技術的思想としての考案の構成に欠くことのできない事項であり、対象物件が右事項の一部、すなわち考案の構成の一部を欠く以上、考案の技術的範囲に属するとはいえないところ、イ号物件は本件考案の構成要件<3>及び<4>を充足しないこと前記認定のとおりであるのみならず、前顕甲第二号証及びいずれも成立に争いのない甲第三号証の五、六、第四号証、第八号証の一、二を総合すれば、本件考案の構成要件中重要なものは<3>(防水性被覆材の周縁を圧着固定してわん形のパツトに成形すること。)、<4>乳首側被覆材と吸水層との間に空隙部を形成すること。)、<5>(吸水層の最下層にレーヨン紙の如き乳に浸されても乳首に容易に付着しない吸水紙を配すること。)であつて、右<3>および<4>の構成は、<5>の構成と相俟つて、前記認定の本件考案の作用効果を奏する不可欠の構成要件であるものと認められ、これらに反する証拠はないので、本件考案の構成要件中被告主張の構成が本件考案にとつて重要性の程度の低いものであるとする被告の主張は首肯し難く、したがつて、右認定とは異なる前提にたつて、右<3>及び<4>の構成を欠くイ号物件を製造販売することが本件実用新案権を侵害するものとの被告の右主張は、その余の主張につき判断するまでもなく採用することができない。

六 してみると、本件実用新案権に基づいて、被告が原告に対してイ号物件を製造販売することを差止める権利を有しないことの確認を求める原告の本訴請求は理由がある。

第二 反訴請求について

一 本訴請求に対する前記判断のとおり、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属せず、原告がイ号物件を製造販売することは、何ら被告の本件実用新案権を侵害するものではない。

二 ロ号物件の構成が別紙目録(二)記載のとおりであること及び原告が被告主張の期間ロ号物件を製造販売したことは当事者間に争いがなく、ロ号物件の構成と当事者間に争いのないイ号物件の構成とを対比すると、イ号物件はロ号物件の構成に乳首受入れ凹部を設けるという構成(<5>´)を付加したものであること、言い換えれば、ロ号物件は右構成を除いたイ号物件の構成を全て具備するものであることが認められるので、イ号物件についての本訴請求に対する前記判断をロ号物件について引用する。

以上によれば、ロ号物件は本件考案の技術的範囲に属せず、原告がロ号物件を製造販売したことは、被告の本件実用新案権を侵害したことにはならない。

三 したがつて、イ号物件及びロ号物件がともに本件考案の技術的範囲に属し、右各物件を製造販売頒布することが本件実用新案権を侵害するものとの前提にたつた被告の原告に対する反訴請求は、その余の主張について判断するまでもなくいずれも理由がない。

第三 よつて、原告の被告に対する本訴請求は理由があるから認容し、被告の原告に対する反訴請求はいずれも理由がないので棄却することとする。

〔編註その一〕本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

吸水紙その他の吸水材料より成る吸水層の外側に防水性被覆材を、乳首側には乳首挿入用の孔を設けた防水性被覆材を配し、その周縁を圧着固定してわん形のパツトを成型するとき、乳首側被覆材と吸水層との間に空隙部が形成されるようにしたパツトにおいて、上記吸水層の最下層にレーヨン紙の如き乳に浸たされても乳首に容易に付着しない吸水紙を配したことを特徴とする授乳婦乳もれ受けパツト。

〔編註その二〕本件考案の構成要件は、左のとおりである。

<1> 吸水紙その他の吸水材料より成る吸水層を設けること。

<2> 吸水層の外側に防水性被覆材を、乳首側には乳首挿入用の孔を設けた防水性被覆材を配すること。

<3> 防水性被覆材の周縁を圧着固定してわん形のパツトに成形すること。

<4> 乳首側被覆材と吸水層との間に空隙部を形成すること。

<5> 吸水層の最下層にレーヨン紙の如き乳に浸されても乳首に容易に付着しない吸水紙を配すること。

<6> 授乳婦乳もれ受けパツトであること。

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