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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2488号 判決 1984年10月22日

原告 田中繁雄

<ほか三名>

右原告四名訴訟代理人弁護士 岡村親宜

同 内藤功

同 小林良明

同 山田裕祥

同 藤倉眞

被告 株式会社 藤代組建設

右代表者代表取締役 藤代義治

右訴訟代理人弁護士 坂本廣身

同 大谷典孝

同 山﨑司平

被告 株式会社 中里建設

右代表者代表取締役 中里光三郎

右訴訟代理人弁護士 阿部三郎

同 中利太郎

同 柳瀬康治

同 小林清巳

同 山浦美樹

同 道本幸伸

主文

一  被告らは、各自、原告田中繁雄に対し金四三〇一万五九七八円及びこれに対する昭和五三年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員、原告田中せつ子に対し金三〇〇万円、同岩井睦世に対し金一〇〇万円、同田中利彦に対し金一〇〇万円及びこれらに対する昭和五三年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その七を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告田中繁雄に対し金七二四三万一九八五円、原告田中せつ子に対し金五〇〇万円、原告岩井睦世に対し金二五〇万円、原告田中利彦に対し金二五〇万円及び右各金員に対する昭和五三年四月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  当事者

(一) 被告株式会社中里建設(以下、「中里建設」という。)は、一般土木建築工事の請負、採石及び砕石の生産販売、観光事業、陸上・海上輸送事業、不動産売買の事業を目的とする株式会社であり、被告株式会社藤代組建設(以下、「藤代組」という。)は、貨物自動車運送事業、重機・重量物の据付及びリース業、土木・橋梁・鉄骨工事の請負、一般建築の請負業等を目的とする株式会社である。

(二) 原告田中繁雄(以下、「繁雄」という。)は、昭和五三年四月当時被告藤代組の従業員であった者であり、原告田中せつ子(以下、「せつ子」という。)は原告繁雄の妻、原告岩井睦世(以下、「睦世」という。)及び同田中利彦(以下、「利彦」という。)は原告繁雄の子である。

2  事故の発生

被告中里建設は、東京都から江戸川区葛西沖長島川護岸建設工事(以下「本件工事」という。)を請負い、現場に現場代理人訴外織田博文(以下「織田」という。)以下訴外永谷正(以下、「永谷」という。)、訴外重富健二(以下「重富」という。)の三名の現場監督を配置して、右工事を施行し、被告藤代組は被告中里建設から、右工事のうち、長島川に打設してあった仮設鋼であるH鋼、鋼矢板の引き抜き作業(以下、「本件抜き作業」という。)を請負い、昭和五三年四月四日から自社の従業員である原告繁雄らを右作業に従事させていた。

原告繁雄は、昭和五三年四月六日午前一一時ころ、バイブロ機を使用して右作業に従事中、鋼矢板にかませて仮置きしてあったバイブロ機が倒れてきて、バイブロ機と鋼矢板との間にはさまれて川中に落下し、左手、左足を関節より上で切断する傷害を負い、労働者災害補償保険後遺障害等級(以下「労災等級」という。)一級に該当する身体障害者となった。

3  被告らの責任

(一) 被告藤代組

(1) 債務不履行責任

ア 被告藤代組は原告繁雄に対し、労働契約上の信義則に基づき、同人の生命、身体、健康の安全を保護し、労災職業病を発生させてはならない債務(以下「安全保護義務」という。)を負っていた。

イ 右安全保護義務の具体的内容は次のとおりである。

(ア) 作業場が水上であって墜落の危険があり、抜き作業の対象となる川中のH鋼及び鋼矢板に玉掛けする必要があったのであるから、抜き作業を行う全てのH鋼及び鋼矢板に近接して足場を設置する義務。

(イ) 抜き作業には、クレーンを二台使用し、四〇トン吊クレーンにより誘導員を配置し、バイブロ機をかませて順番にH鋼、鋼矢板をクレーンの運転席から見える高さまで中抜きし、中抜きしたH鋼、鋼矢板は別のクレーンで他の誘導員を配置して引き抜く義務。

(ウ) バイブロ機による作業を中断し、別の作業を行う場合、バイブロ機は必ず陸上の安全な場所に移動して設置し、川中の鋼矢板にかませたまま、クレーンから外してはならない義務。

(エ) (ア)ないし(ウ)の義務を履行するために必要な設備・機械、人員が不足する場合には抜き作業を開始してはならない義務。

(オ) 降雨になった場合は、バイブロ機の横転、墜落などの危険による災害を防止するため、抜き作業を中止させるべき義務。

(カ) (ア)ないし(オ)に従って抜き作業を行うよう従業員に対し安全教育をする義務。

ウ しかるに、被告藤代組は、右各義務を全て怠り、抜き作業を行ったため、本件事故を発生させたものである。

したがって被告藤代組は、民法四一五条に基づき、原告らの後記損害を賠償する責任がある。

(2) 使用者責任

ア 本件抜き作業の現場責任者は被告藤代組の従業員である訴外藤代明男(以下「明男」という。)であり、同人は現場責任者として右(1)イの(ア)ないし(カ)と同一内容の義務を負っていたにもかかわらず、これを怠って本件抜き作業を行った過失により本件事故を発生させた。

イ 被告藤代組は、明男を雇傭していたものであり、本件事故は被告藤代組の事業の執行につき発生したものである。

したがって、被告藤代組は民法七一五条一項に基づき、原告らの後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告中里建設

(1) 債務不履行責任

ア 被告中里建設は、本件工事を請負い、同工事のうち本件抜き作業を被告藤代組に下請けさせていたが、現場に自社の従業員織田、永谷、重富を現場監督者として派遣し、工程の管理、工事の進捗状況も管理・把握し、工事の方法、安全についても自社の従業員及び被告藤代組の従業員を直接、間接に指示、指揮、命令して本件工事を行った。

したがって、被告中里建設は、労働関係上の信義則に基づき、原告繁雄に対し、安全保護義務を負っていた。

イ 右安全保護義務の具体的内容は次のとおりである。

(ア) 本件抜き作業による労働災害を防止するため、被告藤代組と協議し、いかなる措置を講ずるかを検討する義務(労働安全衛生法三〇条一項)。

(イ) 前記(一)(1)イの(ア)と同じ。

(ウ) 抜き作業にはクレーンを二台使用し、四〇トン吊クレーンにより誘導員を配置し、バイブロ機をかませて順番にH鋼、鋼矢板をクレーンの運転席から見える高さまで中抜きし、中抜きしたH鋼、鋼矢板は別のクレーンで他の誘導員を配置して引き抜くよう被告藤代組に指示する義務。

(エ) バイブロ機の横転等による労働災害を未然に防止するため、陸上の安全な場所にバイブロ機置場を設置し、バイブロ機による作業を中断する場合、バイブロ機を必ずそのバイブロ機置場に移動するよう指示する義務。

(オ) 前記(一)(1)イの(オ)と同じ。

(カ) 右(イ)ないし(オ)に従って抜き作業を行うように被告藤代組の従業員を具体的に安全教育をする義務。

(キ) 右(イ)ないし(オ)に従って被告藤代組の従業員が抜き作業を行っているかどうかを監視する義務。

ウ しかるに、被告中里建設は、右各義務を全て怠り、被告藤代組に抜き作業を行わせたため、本件事故を発生させたものである。

したがって、被告中里建設は民法四一五条に基づき、原告らの後記損害を賠償する責任がある。

(2) 使用者責任

ア 本件抜き作業の現場における現場監督者は、織田、重富、永谷であり、同人らは現場監督者として右(1)イの(ア)ないし(キ)と同一内容の義務を負っていたにもかかわらず、これを怠って被告藤代組の従業員に本件抜き作業を行わせた過失により本件事故を発生させた。

イ 被告中里建設は、右織田、重富、永谷の三名を雇傭していたものであり、本件事故は被告中里建設の事業の執行につき発生したものである。

したがって被告中里建設は民法七一五条一項に基づき、原告らの後記損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 原告繁雄の損害 金七二四三万一九八五円

(1) 逸失利益 金五一二二万五〇〇〇円

本件事故当時、原告繁雄は満四五歳(昭和七年六月八日生)の健康な労働者であったが、本件事故により、最重度の労災等級一級の後遺障害を有する身体障害者となり、労働能力を完全に喪失した。

同人は本件事故にあわなければ満六七歳まで二二年間働き賃金収入を得ることができたものというべきである。右期間の得べかりし賃金は賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の男子労働者の平均賃金を基礎に算定するのが合理的であるが、昭和五六年のそれによると月間まって支給する現金給与額は金二三万五三〇〇円であり、年間賞与その他特別給与額が金八〇万九八〇〇円であるから、年間給与額の総額は金三五一万三四〇〇円(一か月平均二九万二七八三円)である。

そこで右平均賃金を基礎として、原告繁雄の昭和五三年四月七日以降昭和七五年四月六日までの得べかりし賃金を複式ホフマン式算定法に従って計算すると、金五一二二万五〇〇〇円となる。

(2) 精神的損害 金二五〇〇万円

本件事故により原告繁雄は左手、左足を切断され、労災等級一級の身体障害者となり、これによって精神的苦痛はもとより人間生活を根本的に破壊され、これは生涯継続するが、これによる精神的損害として少なくとも金二五〇〇万円が相当である。

(3) 治療費 金二四四万一二九〇円

本件事故のため、原告繁雄は、昭和五三年四月六日以降昭和五四年三月九日まで治療を行ったが、そのため金二四四万一二九〇円の治療費を要した。

(4) 入院雑費 金一三万七〇〇〇円

本件事故のため、原告繁雄は、昭和五三年四月六日から同年八月二〇日まで、一三七日間入院生活を送り、この間入院雑費を支出したが、右費用は一日当り金一〇〇〇円と評価するのが相当であり、それは金一三万七〇〇〇円となる。

(5) 損益相殺

本件事故により、原告繁雄は、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)による補償給付として①療養補償給付金二四四万一二九〇円②休業補償給付金一七三万一六一五円③障害補償年金八一九万八四〇〇円(年額金二〇四万九六〇〇円の四年分として)の計金一二三七万一三〇五円の支払を受けたので損益相殺する。

(6) 弁護士費用 金六〇〇万円

したがって原告繁雄は、右(1)ないし(4)の合計額から(5)を差し引いた金六六四三万一九八五円の損害賠償請求権を有するところ、被告らがこれを任意に弁済しないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に訴訟の追行を委任し、手数料及び謝金の支払いを約しているが、金六〇〇万円の弁護士費用は、本件と相当因果関係のある損害というべきである。

(7) 原告繁雄の損害の残存額

従って原告繁雄の損害は、右(1)ないし(4)及び(6)の合計から(5)を差し引いた金七二四三万一九八五円となる。

(二) 原告せつ子、同睦世、同利彦の損害 合計金一〇〇〇万円

(1) 原告せつ子は、原告繁雄と婚姻し幸福な家庭生活を営んできたものであるところ、原告繁雄の本件事故により、幸福な家庭生活を根本的に破壊されたが、精神的損害は少なくとも金五〇〇万円が相当である。

(2) 原告睦世、同利彦も原告せつ子と同様に幸福な家庭生活を根本的に破壊され、精神的損害は少なくとも各々金二五〇万円が相当である。

5  よって原告らは被告らに対し、債務不履行又は不法行為に基づき、各自原告繁雄について金七二四三万一九八五円、原告せつ子について金五〇〇万円、原告睦世、同利彦について各金二五〇万円及び右各金員に対する本件事故の日の翌日である昭和五三年四月七日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

(被告藤代組)

1 請求の原因1の事実のうち(一)は認める。(二)は原告繁雄がそのころ被告藤代組の従業員であったことは認め、その余は不知。

2 同2の事実のうち、原告繁雄の身体障害が労災等級一級に該当するとの点は不知、その余は認める。

3(一) 同3(一)(1)について、アは争う。イ(ア)は争う。本件現場には鋼矢板が二列打設され、その間にチャンネル及び山留めがあるから足場設置の必要はない。イ(イ)は争う。二台のクレーンを使用することは作業能率を高めるための一方法にすぎず、一台のクレーンで安全に作業する事が可能である。イ(ウ)ないし(カ)は全て争う。ウは否認する。

被告藤代組は毎月一回以上その従業員に対して安全教育を行ってきており、本件事故前日の昭和五三年四月五日も、毎月五日の定例安全会議開催日であったため、本件抜き作業に従事した原告繁雄を含む従業員五〇名に対し、特に本件工事現場を指摘してバイブロ機の操作を安全に行うよう教育した。

(二) なお被告藤代組の安全保護義務に関する主張は次のとおりである。

(1) 被告藤代組は、被告中里建設から本件工事を下請けしたが、本件下請契約においては被告中里建設が、工事現場に現場事務所を設置するとともに、工事の進行並びに安全管理に必要な数名の現場監督を配すること及び工事を安全に遂行するために必要な現場作業員の員数及び使用機材を指示することが両者間において約され、被告藤代組は被告中里建設の指示する数の現場作業員及び使用機材を派遣するのみで被告藤代組に所属する現場作業員は被告中里建設に所属する現場監督の直接の指示に従って作業する定めであった。したがって、元請業者である被告中里建設は下請業者であを被告藤代組及びその従業員を自らの従業員と同程度もしくはそれ以上に強い支配関係をもって使用することができたから、本件工事現場における安全保護義務は第一次的には元請業者たる被告中里建設が尽くすべきであり被告藤代組はこれを補完する立場にあると考えるべきである。

(2) 原告ら主張の被告藤代組が負うべき具体的安全保護義務(請求の原因3(一)(1)イの(ア)ないし(カ))のうち、(ア)ないし(オ)の各義務は、いずれも当該作業現場と離しては考えることのできない内容をもっているから、作業全体を指揮、監督、監理していた被告中里建設が第一次的に尽すべきものであり、被告藤代組は補完的地位にたち、次のとおり補完的義務を尽した。

ア 被告藤代組は以前から足場の設置を被告中里建設に対して要求しており、本件現場の抜き作業に着手前の昭和五三年三月末頃にも、足場(浮き台)を設置することを被告中里建設の現場事務所所長織田に対し要望したが、同人は被告中里建設において設置することもなく、又被告藤代組に設置を命ずることもないまま本件各作業に従事することを被告藤代組従業員に命じた。

イ 被告藤代組は、昭和五三年三月末頃、前記織田に対して現場監督を増員して被告藤代組所属従業員の行う具体的な作業に対する監督を強化するよう要望したが拒絶された。

ウ 本件事故当日は雨が降っており、又本件作業に従事していた被告藤代組の従業員の一名が欠勤していたため、明男は現場事務所に赴き、前記織田に対し本件事故当日の作業の中止を申し込んだが、同人は工期が遅れていることを理由として作業の敢行を命じた。

(三) 請求の原因3(一)(2)の事実のうち、アは否認する。本件抜き作業の現場責任者は原告繁雄である。イのうち、被告藤代組が明男を雇傭していたことは認め、その余は否認する。

4(一) 同4(一)の事実について(1)は否認する。(2)のうち、原告繁雄が左手、左足を切断されたことは認め、その余は否認する。(3)、(4)はいずれも不知。(5)は認める。(6)のうち弁護士に対して手数料及び謝金を払うことを約したことは不知、因果関係の主張は争う。(7)は否認する。

(二) 同4(二)の事実について、(1)、(2)のうち、それぞれ精神的損害が金五〇〇万円であることは争い、その余は不知。

(被告中里建設)

1 請求の原因1の事実のうち(一)は認める。(二)は原告繁雄がそのころ、被告藤代組の従業員であったことは認め、その余は不知。

2 同2の事実のうち、原告繁雄が労災等級一級に該当する身体障害者となったことは不知、その余は認める。

3(一) 同3(二)(1)アのうち、被告中里建設が長島川護岸工事を請負い、うち本件工事を被告藤代組に下請けさせていたこと、現場に織田ら三名の自社の従業員を現場監督者として派遣したことは認め、その余は争う。

元請人である被告中里建設が下請人の従業員である原告繁雄に対して安全保護義務を負うのは、資材の供給、機械の貸与関係、指揮監督の実態、提供される労務の性質内容、事実上の専属関係の有無、労務賃の支払方法等を総合判断し、実質的に被告藤代組従業員との間に雇傭関係と同視すべき、特別な関係が存するときのみであり、本件抜き作業の如く被告藤代組が一括請負責任施工する場合はこれに該らない。

(二) 請求の原因3(二)(1)イの事実のうち、(ア)ないし(ウ)は争う。クレーン一台で、安全かつ能率的な方法をとることができた。(エ)、(オ)は争う。バイブロ機のチャックは可動歯が雨で濡れている程度では可動歯の滑りが生ずることは考えられず、降雨は事故原因に直接結びつかない。(カ)は争う。本件のように元請人が専門業者である下請人に特定工事を一括請負わせ責任施工させる場合で、且つ本件抜き作業のように単純で格別危険を伴わない場合は元請人は下請人に対し、作業につき一般的、個別的に安全措置を講ずるよう指図し、作業に関する具体的な安全教育は下請人においてその従業員に対し行うのが業界一般の扱いである。(キ)は争う。

(三) 同3(二)(1)ウの事実は否認する。被告中里建設には次のとおり、原告の主張する各義務(請求の原因3(二)(1)イの(ア)ないし(キ))の懈怠はない。

(1) (ア)について

被告中里建設は毎日作業終了後被告藤代組と翌日の作業について十分打ち合わせ、協議してその結果に基づき作業を行っていた。

(2) (イ)について

本件現場には、筏(三〇センチメートルの角、長さ約八メートルの角材四本を番線で結束したもの)二艘と、仮設物に取付けてあるブラケットに足場板(幅三〇センチメートル、長さ四メートル)を渡したものが存在し、被告中里建設はそれを順次移動させながらその足場で作業するよう指示してあった。

(3) (ウ)について

原告ら主張の作業手順は、被告両者間で取り決められていたことであり、事故当日も、四〇トンクレーンと相番関係に立つものとして三六トンクレーンが現場に配車されていた。

(4) (エ)について

バイブロ機を使用しない場合は陸上に置き、仮設物等にかませ仮置しないようにとの指示は、被告藤代組において従業員に厳重に注意されていたし、右取扱については事故当日、始業前明男、原告繁雄と被告中里建設監督員との間で重ねて話し合いがなされていた。

(5) (オ)について

降雨の程度如何によっては作業を中止することは、明男と永谷との間で決定されており、被告藤代組の現場責任者の判断でいつでも中止できた。

(6) (カ)について

本件事故当日始業にあたり、明男、原告繁雄、被告中里建設監視員との間で作業の安全を含めての話合いがなされた。

(7) (キ)について

本件事故当日、永谷が現場に臨んだ際、決定された作業手順に従って四〇トンクレーンと三六トンクレーンが現場に到着しており、格別作業につき問題となるような状況は認められなかった。

(四) 同3(二)(2)の事実について、アのうち、現場監督者が織田ら三名であることは認め、その余は否認する。イのうち、右三名を被告中里建設が雇傭していたことは認め、その余は否認する。

被告中里建設が不法行為責任を負うのは、発注者である元請人と受注者である下請人との関係が、受注者に独立性が乏しく、下請人の従業員が元請人の事実上の指揮監督下にある場合に限ると解すべきで、本件の場合、被告藤代組は被告中里建設から鋼矢板及びH鋼の打抜きを一括請負い、自社の現場責任者の指揮監督のもとに従業員を派遣し、自社の機械(四〇トンおよび三六トンクレーン、発電機、鉄板等)を使用して作業をしていたものであり、被告両者間の打ち合わせ協議は護岸建設工事の全工程との関連からの工期の設定、実施方法、工事の作業手順の決定、安全管理等に関し行っていたのであって、被告藤代組は請負工事に関しては実施、完成につき全責任をもって施行に当っていたのであるから、被告中里建設が、被告藤代組の従業員を事実上支配し直接指揮監督していたという関係にはなかった。

4 請求の原因4の事実のうち(一)(5)は認め、その余はいずれも否認する。

三  抗弁

(被告藤代組)

1 本件事故の原因は、被告藤代組の安全教育に反して、原告繁雄がバイブロ機を鋼矢板に仮置きしたこと及びその仮置きの仕方が不十分だったことにあり、本件バイブロ機を操作し、その鋼矢板のかみ方を確認し得たのは原告繁雄に他ならないから、結局本件事故は同原告自らの過失によるもので、被告藤代組には何ら帰責事由はない。

2 仮に被告藤代組に債務不履行もしくは不法行為責任があるとしても、本件事故の発生については、原告繁雄に過失がある。

すなわち、原告繁雄が前記のとおり、バイブロ機を鋼矢板に仮置きせず、又操作確認し、あるいは、鋼矢板の上は立って歩くことが可能であったから、四つんばいでバイブロ機に近づかず、立って歩いて近づいて、より早くバイブロ機の倒れてくることに気付いたならば、本件事故の発生は防ぎ得た。よって原告繁雄の右過失は損害賠償額の算定上斟酌されるべきである。

(被告中里建設)

本件事故は、被告藤代組が被告中里建設の間で打ち合わせ協議して決定した作業手順に従って作業を行わず、就中、原告繁雄を含む被告藤代組の従業員がバイブロ機を鋼矢板に仮置きしたことが事故の原因である。しかも、バイブロ機が倒れた原因としては、原告繁雄がスイッチ盤の操作を誤ったことが考えられる。

原告繁雄の右過失は、損害賠償額の算定上斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する認否

(被告藤代組の抗弁について)

1 抗弁1の事実は否認する。原告繁雄が、鋼矢板にバイブロ機を仮置きしたのは、合図者であった竹の内の指示によりやむなく従ったものである。

2 抗弁2の事実は否認する。

(被告中里建設の抗弁について)

抗弁事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因1の事実について、(一)及び(二)のうち原告繁雄が昭和五三年四月ころ被告藤代組の従業員であったことは当事者間に争いがなく、原告せつ子が原告繁雄の妻であり、原告睦世、同利彦が原告繁雄の子であることは《証拠省略》により、これを認めることができる。

二  本件事故の発生

1  請求の原因2の事実のうち、原告繁雄の負った傷害の程度を除く事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は労災等級一級に該当する身体障害者となったことが認められる。

2  前記争いのない事実及び認定の事実に、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故前日の昭和五三年四月五日、現場事務所において、被告中里建設の現場監督である訴外織田、同永谷、同重富と被告藤代組の現場責任者である訴外明男とで、翌六日から始められる本件抜き作業についての打ち合わせが行われ、機材は四〇トンクローラ・クレーン(以下「四〇トンクレーン」という。)と三六トントラック・クレーン(以下「三六トンクレーン」という。)の二台を用い、まず四〇トンクレーンにバイブロ機を装着し、仮設鋼にバイブロ機をかませて、振動を与えて約四メートル上方まで抜いていき(以下「中抜き」という。)、その後三六トンクレーンで中抜きされた仮設鋼を土中から抜ききり(以下「素抜き」という。)陸揚して集積していくという手順で作業を行うこととした。

(二)  本件事故当日である昭和五三年四月六日、午前七時三〇分ころ原告繁雄、明男、藤代組従業員である訴外吉田秀夫の三名がまず現場に到着し、明男から原告繁雄へ、繁雄から右吉田へそれぞれバイブロ機は危険なので川中の仮設鋼に仮置きせず陸上へ揚げるようにする旨の簡単な打ち合わせがなされ、午前八時ころ作業を開始した。同八時三〇分ころ、被告中里建設の現場監督員で、当日原告繁雄らの作業現場の監督担当であった前記永谷が見廻りに来たが、明男から先のバイブロ機を仮設鋼に仮置きしない旨の打ち合わせ事項を聞いたのみで、約五分位で立ち去った。

(三)  前記前日の打ち合わせによれば四〇トンクレーンによる中抜き作業には、クレーンの運転者、バイブロ機の操作をする玉掛係、両者が互いに新設護岸にさえぎられて見通せないために護岸上で合図をする合図係の三名が必要であり、更に二台のクレーンによる作業を行うためには、三六トンクレーンによる素抜き作業に、前同様の三名と陸上へ揚げられた仮設鋼の取り外しをする玉外し係の計四名が別に必要であった。

しかし、当日は前記三名と、作業開始頃、三六トンクレーンに乗って来た被告藤代組の従業員である訴外竹の内弘美(以下「竹の内」という。)の四名のみであったため、当日の作業は四〇トンクレーン一台を使い、中抜きした後、一旦陸上へバイブロ機を外して置き、空の四〇トンクレーンで中抜きした仮設鋼を素抜きして陸上へ揚げる方法がとられ、まずH鋼一本を中抜きし、前日仮設鋼の間に水を入れるために中抜きしておいたH鋼一本とあわせてH鋼二本が素抜きされた。現場の状況は別紙図面(一)、(二)のとおりである。

(四)  午前九時ころ、合図係が吉田から竹の内にかわり、同人の合図により作業が継続されたが、H鋼一本を中抜きした後同人はクレーンを鋼矢板の上へ降ろしてきたので、原告繁雄は仮置きしようとしているものと思い、拒絶したが、中抜きするだけならいいだろうと言われ、鋼矢板にバイブロ機をかませた。

ところが、右鋼矢板を中抜きした後、竹の内は再度バイブロ機を護岸上から見て右へ二枚目の鋼矢板上へ降ろしてきた。

原告繁雄はそれに対し横を向いて拒絶の意思を示したが、二、三分経ってもそのままの状態にクレーンがあるため、やむなく、バイブロ機を鋼矢板にかませ、仮置きすることになった。

(五)  その後、H鋼、鋼矢板を中抜きし、バイブロ機を陸上へ戻さないで鋼矢板に仮置きする手順で作業が行われ、H鋼二本を素抜きし、一本を中抜きし、鋼矢板一枚を中抜きして、再びH鋼を中抜きすべく、同日午前一一時ころクレーンがバイブロ機を仮置きしてある鋼矢板の上に降ろされてきたので、原告繁雄はバイブロ機のスイッチ盤のある足場から約六メートル鋼矢板を伝って、クレーンにバイブロ機をかけようとして、バイブロ機に手をかけたところ、突然バイブロ機が原告繁雄の方へ倒れかかり、同人は左手、左足をバイブロ機と鋼矢板の間にはさまれ、川中に墜落した。

《証拠判断省略》

三  被告らの原告繁雄に対する責任

1  被告藤代組の責任について判断する。

雇傭契約において、雇主は被傭者に対して、信義則上雇傭契約の付随義務として、その被傭者が労務に服する過程でその生命、身体、健康等を危険から保護し、そのため配慮すべき義務、すなわち安全配慮義務(安全保護義務)を負うと解すべきであるから、本件においても被告藤代組は雇主として被傭者である原告繁雄の生命、身体及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務を負っていたといわなければならない。

2  被告中里建設の責任について判断する。

前記一2のとおり、被告中里建設が東京都から本件工事を請負い、現場に現場代理人織田以下永谷、重富の三名の現場監督を配置して右工事を施行し、被告藤代組は被告中里建設から本件抜き作業を下請していたことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、右三名の監督員は常駐し、本件工事における品質管理、工程管理、安全管理の各点について、被告中里建設作成の工事工程表により、全てにおいて現場を把握して管理監督しており、本件抜き作業についても、前日に三名の監督員と明男とにより打ち合わせが行われていること、本件当日も、右三名の監督員のうち永谷が本件現場の監督担当で、約一時間おきに見廻る筈であったこと、下請契約においては、被告藤代組は作業につき、被告中里建設の工程表及び係員の指示に従うことが合意されていることが認められる。

右事実によれば、被告中里建設は、被告藤代組の従業員に対して雇主と同視できる程度にその労務管理について指揮監督をなし得る関係を有していたということができ、信義則上、雇主である被告藤代組と同様の安全配慮義務を負っていたというべきである。

3  右安全配慮義務の具体的内容は、当該具体的状況により決せられるべきであるが、本件の場合いかなる義務を負っていたか検討する。

(一)  本件事故は、前認定のとおり、川中に設置された鋼矢板に仮置きされたバイブロ機が倒れ、そのため原告繁雄の左手左足がバイブロ機と鋼矢板との間にはさまれたことによって生じたものであって、本件事故の発生は、バイブロ機を鋼矢板にかませたままクレーンから外して仮置きしたことに基本的かつ最大の原因があり、このことがなければ本件事故の発生はなかったということができる。

(二)  そして《証拠省略》を総合すると、そもそもバイブロ機を使用して作業中、クレーンから外して杭等に仮置きすることは、何らかの理由でバイブロ機のチャックが外れた場合には必然的にバイブロ機が落下することになり極めて危険であることからその仕様書でも禁止されており、同種の事故例もあることが認められるのであるから、被告藤代組は、バイブロ機を川中の鋼矢板にかませたままクレーンから外してはならない義務を負い、被告中里建設はその旨指示すべき義務を負っていたというべきである。

(三)  又、前記(二)のとおり、本件抜き作業はその手順(ことにバイブロ機の扱い方)を誤れば、危険を伴うものであったから、被告らは、作業の手順、手順以外のことを行った場合の危険性について周知徹底させ、作業手順どおりに施工すべきことを厳重に注意し、原告繁雄も含めてその従業員に対して十分に安全教育すべき義務を負っていたというべきである。

(四)  更に、本件作業は手順及び機材の操作いかんによれば危険を伴うものであり、かつ前記三2認定のとおりの被告中里建設と同藤代組との関係からすれば、被告中里建設は、本件現場において打ち合わせたとおりの作業が行われているか否かを監視する義務があったというべきである。

4  そこで、被告らの右安全配慮義務違反の有無について判断する。

(一)  前記二2認定のとおり、バイブロ機の操作をしていたのは、原告繁雄であるが、同人がバイブロ機を仮置きしたのは合図係の竹の内が、原告繁雄の二度にわたる拒絶に拘らず、合図によりクレーンを操作することによって指示したことによるものであり、また、被告藤代組の現場責任者である明男はクレーンの運転をしていたのであるから、バイブロ機の仮置きをすることになれば、クレーンの操作が作業手順と異なるので当然にバイブロ機を仮置きしていることに気がつくはずであるのに、そのまま作業を継続していたというのであるから、被告藤代組は前記バイブロ機を仮置きしてはならないという注意義務に違反したというべきである。

また、被告中里建設の現場監督であった永谷は、当日、一回現場に見廻りに来た際、明男からバイブロ機の仮置きをしない旨の打ち合わせを聞いたが、約五分程で立ち去り、それに対して何ら指示、確認もしていないというのであり、また、《証拠省略》によれば、前日の打ち合わせにおいても、織田はバイブロ機の操作については被告藤代組の従業員は当然知っている筈であるものと軽信し、何ら言及していないことが認められる(《証拠判断断》)ことに徴すれば、被告中里建設も原告繁雄を含めた被告藤代組の従業員にバイブロ機の仮置きをしないよう指示すべき義務に違背したというべきである。

(二)  次に《証拠省略》によれば、原告繁雄は、昭和五二年九月一四日に被告藤代組に雇傭され、翌一五日から働きその日初めてバイブロ機の操作を始めたが、経験のある者と組になって作業を担当し、スイッチ盤の操作を主にやっており、また、陸上の杭の抜き打ち作業に従事することが多く、川中の打設物で、一人でバイブロ機の操作を担当するのは本件抜き作業が最初であったこと、それまでバイブロ機の操作について教育を受けたことはなく、他人の作業を見て覚えていたものであること、被告藤代組において、バイブロ機を仮置きすることはしない旨の注意は一応はなされていたが、その点について、それ以上に詳細な説明はなかったこと、被告中里建設においては月二回、下請の作業員も含めて安全対策に関し、報告があったが、バイブロ機の操作について安全教育はなく、かえってバイブロ機の操作は簡単であるとの認識のもとに、その安全教育に関し配慮していなかったことが認められ(る。)《証拠判断省略》

以上の事実によれば、被告らは、それぞれ前記3(三)の義務にも違背したというべきである。

(三)  更に、前記二2認定の事実によれば、被告中里建設の監督員のうち、永谷が本件現場の監督を担当していたが、同人は午前八時三〇分ころ一回現場に赴き約五分いただけで、その後本件事故が発生する午前一一時まで見廻りに行かなかったというのであり、《証拠省略》によれば、当日は、織田が遅刻したため、監督員は永谷、重富の二人で、重富は別の場所の作業につきっきりであり、本件現場における監督員の通常のやり方としても約一時間に一回は担当する場所の監視には行く筈であったのに、永谷は午前八時三〇分以降本件事故発生まで現場の様子が観察できない現場事務所において書類の整理をしていたことが認められる。

以上の事実によれば、被告中里建設は、前記3(四)の義務にも違背したことが明らかである。

5  ところで、被告藤代組は、本件事故は原告繁雄の過失により発生したものであるから、被告藤代組に帰責事由はないと主張する。

前記二2認定の事実によれば、本件事故の発生については原告繁雄にも自らの手でバイブロ機を鋼矢板に仮置きした点において、過失が認められるが、1ないし4に判示したところに照らして、本件事故が原告の右過失のみに起因するものとはいえないから、原告繁雄に過失があったからといって被告藤代組の責任を否定することはできない。被告藤代組の右主張は採用できない。

6  以上の事実によれば、被告らは、民法四一五条により、本件事故により原告繁雄に与えた損害を賠償する責任がある。

四  被告らの原告せつ子、同睦世、同利彦に対する責任

1  右原告ら三名は、債務不履行に基づく損害賠償と不法行為に基づく損害賠償とを択一的に請求するものであるが、右原告ら三名と被告両名との間には雇傭契約ないしこれに準ずる法律関係はないので、かかる法律関係の存在を前提とする安全配慮義務についての債務不履行責任は認められない。

2  そこで、被告両名の使用者責任について判断するに、被告藤代組は被告中里建設から本件抜き作業を請負い、本件事故当時、明男は被告藤代組の従業員であり本件現場の責任者として、また、永谷は被告中里建設の従業員であり本件現場の監督者として、本件抜き作業に従事していたことは、前認定のとおりであり、明男は被告藤代組の現場責任者として、前記三3(二)及び(三)の被告藤代組と同一の内容の義務を、永谷は被告中里建設の現場監督者として前記三3(二)ないし(四)の被告中里建設と同一の内容の義務があったというべきところ、それぞれ前記三4(一)、(二)及び三4(一)、(二)、(三)各認定のとおり右各義務を怠り本件事故を発生させたものであるから、被告藤代組は民法七一五条一項により、明男がその職務を行うにつき原告せつ子、同睦世、同利彦に与えた本件事故による後記損害を、被告中里建設もまた、民法七一五条一項により永谷がその職務を行うにつき前記原告らに与えた損害を賠償する責任がある。

五  損害

1  原告繁雄の損害について判断する。

(一)  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

原告繁雄は船の荷役作業、仮枠解体作業、鳶職などの筋肉労働に従事していたものであり、本件事故当時四五歳であったが、本件事故により被った左上腕切断、左大腿切断の治療のため、事故当日の昭和五三年四月六日から同年八月二〇日まで京葉病院に入院し、退院後も同年九月一日から昭和五四年三月九日まで春日部市立病院に通院加療した。

原告繁雄は、後遺障害として労災等級一級に該当すると認定され、また、埼玉県知事から身体障害者福祉法に基づき身体障害者手帳(障害の等級を二級とするもの)の交付を受けている。

原告は事故後義足をつけ歩行訓練をなしているが、単独での歩行は困難であり、排便、入浴にも不便をかこち、切断した創面の痛みがある。

(二)  逸失利益

(1) 右(一)で認定した原告繁雄の従来の職業、傷害及び後遺症の程度などを総合すると、原告の後遺症による労働能力喪失割合は一〇〇パーセントと認めるのが相当である。

そして、右(一)によれば、原告繁雄は本件事故当時四五歳であったから、事故当日から六七歳まで二二年間就労可能と認めるべきである。

(2) 《証拠省略》によれば、原告繁雄は、横浜で船の荷役作業、練馬区で仮枠解体の仕事に従事した後、昭和五二年九月一四日から被告藤代組に雇傭され、同社の寮に泊まりこんで勤務していたことが認められるが、原告繁雄が本件事故前においていくらの賃金を得ていたかを認めるに足りる証拠はなく、右(1)の期間に原告繁雄が得られる筈であった賃金額を算定するに当たっては統計的資料によるほかはなく、労働省賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計の男子労働者の平均賃金を基礎として算定するのが相当である。

昭和五六年度のそれを基礎に複式ホフマン式算定法に従って計算すると、右逸失利益の現価は次のとおり金五二九七万四九七二円となる。

23万5300円(月間きまつて支給する現金給与額)×12(月数)+80万9800円(年間賞与その他特別給与額)=363万3400円(年間給与額の総額)

363万3400円(年間給与額の総額)×14.580(22年間のホフマン係数)=5297万4972円(逸失利益)

(三)  治療費

右(一)認定のとおり、原告繁雄は、昭和五三年四月六日から昭和五四年三月九日まで治療を行い、《証拠省略》によれば、それに要した費用は金二四四万一二九〇円であることが認められ、これは本件事故と相当因果関係ある損害と認めるべきである。

(四)  入院雑費

右(一)認定のとおり、原告繁雄は、昭和五三年四月六日から、同年八月二〇日まで一三七日間入院しておりこの間の入院雑費は一日当たり金一〇〇〇円と認めるのが相当であり、その合計は次の計算により、金一三万七〇〇〇円となるがこれは本件事故と相当因果関係ある損害と認めるべきである。

1000円×137=13万7,000円

(五)  過失相殺

原告繁雄の蒙った財産上の損害は、右(二)(三)(四)の合計五五五五万三二六二円となるところ、本件事故の発生につき、原告繁雄にも過失のあったことは前認定のとおりであり、既に認定した事実によれば、原告繁雄も、不十分とはいえ、バイブロ機を鋼矢板に仮置きすることの危険性を認識していたのであるから、合図係の行動から、やむなくなしたとはいえ、バイブロ機の操作は原告自身の分担であり、自ら仮置きを拒否しなかった点において過失があるといわなければならないのであって、右事実関係のもとにおいては、原告繁雄の過失割合を三割として斟酌し、被告らが賠償すべき金額は三八八八万七二八三円(一円未満切捨て)とするのが相当である。

(六)  損害の填補

原告が本件事故について労災保険法による補償給付として療養補償給付金二四四万一二九〇円、休業補償給付金一七三万一六一五円及び障害補償年金八一九万八四〇〇の計金一二三七万一三〇五円の支払いを受けこれを損益相殺することについては、当事者間に争いがない。

(七)  慰藉料

前認定の本件事故の状況、本件事故発生についての原告繁雄の過失の程度、本件事故により原告繁雄の被った傷害の部位、程度その他諸般の事情を考慮すると原告繁雄の被った精神的損害に対する慰藉料としては金一五〇〇万円が相当である。

(八)  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告繁雄は本件訴訟の追行を原告ら代理人弁護士らに委任し、その報酬を支払うことを約したことが認められるところ、本件事案の難易、損害額等の諸事情を総合勘案すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては金一五〇万円を認めるのが相当である。

(九)  損害賠償額の合計

前記(五)の金額から(六)の金額を控除し、これに(七)(八)の金額を加算すると、原告繁雄に賠償すべき金額は金四三〇一万五九七八円となる。

2  原告せつ子、同睦世、同利彦の損害

原告せつ子が原告繁雄の妻であり、原告睦世、同利彦が原告繁雄の子であること、原告繁雄は本件事故により、左手、左足を切断し、労災等級一級に該当する身体障害者となったことは前認定のとおりであり、又《証拠省略》によれば、原告繁雄は本件事故後、自宅において療養しているが、妻である原告せつ子との間に口争いが多くなり、右いさかいのため原告せつ子は朝方、家を出ていき夜まで帰ってこないことがしばしばとなっていること、原告繁雄もいたたまれず田舎へ帰ったりしていることが認められる。

右事実によれば、原告せつ子、同睦世、同利彦は本件事故により、幸福な家庭生活を根本的に破壊され、多大の精神的損害を受けたというべきであり、右損害に対する慰藉料としては、原告せつ子について金三〇〇万円、同睦世、同利彦について各金一〇〇万円が相当である。

3  《証拠省略》によれば、本件事故による損害賠償請求が、原告繁雄代理人弁護士岡村親宜から被告藤代組及び同中里建設に対して昭和五三年一一月一日になされたことが認められる。

六  結論

以上によれば被告らは各自、原告繁雄に対し金四三〇一万五九七八円及びこれに対する催告の日の後である昭和五三年一一月二日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金並びに原告せつ子に対し、金三〇〇万円、同睦世、同利彦に対し各金一〇〇万円及びこれに対する不法行為の日の後である昭和五三年四月七日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって原告らの被告らに対する本訴請求は、各自原告繁雄について金四三〇一万五九七八円及びこれに対する昭和五三年一一月二日から支払済まで年五分の割合による金員、原告せつ子について金三〇〇万円、同睦世、同利彦について各金一〇〇万円及びこれらに対する昭和五三年四月七日から支払済まで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条本文第九三条第一項本文を仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠田省二 裁判官 高田健一 草野真人)

<以下省略>

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