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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)3085号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

1 原告が被告に対し、本件売買契約に基づき本件商品の現実の引渡しをしていないことは、当事者間に争いがない。

2 そこで、本件売買契約には原告が再抗弁において主張するような合意が存在したか否かについて判断するに、<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができ、<反証排斥略>。

(一) 訴外キタノ製作株式会社(以下単に「キタノ」という)は、訴外キタノ協業組合などとともに、主として合成樹脂製品の製造販売を業とする企業集団のキタノグループを構成し、その製品販売を担当する会社である。

(二) 被告は昭和四七、八年ごろから、また原告は昭和五〇年六月ごろからいずれも右キタノグループと取引があつた。殊に被告は、その取引高が昭和五二年ごろから月額約二億円の多額に上つていた。

(三) キタノグループは、その製造販売する育苗箱、衣裳函等の製品が季節商品で年間の販売時期が限定されるため、在庫期間が長期にわたり資金がかさむことから、商社等に対し、自ら売却先を斡旋することとして経常的な買上げ方を依頼し、いわゆる在庫金融と同様の目的を達することによつて円滑な資金繰りを図ろうとしていた。

(四) 原告は、キタノグループの右のような依頼により、キタノ協業組合から昭和五二年一二月二〇日、育苗箱一〇〇万枚を買い入れ、これを同組合の斡旋により訴外東京材料株式会社及び被告(東京支店)に対し昭和五三年一月計三〇万枚(うち被告に一〇万枚)、同年二月計四〇万枚(うち被告に二〇万枚)、同年三月計三〇万枚(うち被告に二〇万枚)をそれぞれ売り渡したが、右いずれの場合も商品の受渡しには関与せず、キタノ協業組合から直接、右各売渡先にその引渡しが行われた。

なお、原告にとつて被告との取引は、右が始めてであつた。

(五) 原告は昭和五三年四月二〇日ごろ、キタノの東京事業部長若林剋男の斡旋により、キタノから育苗箱三〇万枚、衣裳函二万四〇〇〇個を買い入れ、即日、被告に対し、右育苗箱のうち二〇万枚(他の一〇万枚は訴外インプロダクツ株式会社へ売却)、衣裳函の全部を売り渡した。そして同月二八日、キタノに対し右代金合計金七、〇五〇万円の支払のため額面合計同額、支払期日同年一〇月三一日の約束手形を振り出し、また被告から同年五月末日及び六月一二日、売掛代金合計金五、八〇〇万円の支払のため、額面合計同額、支払期日をいずれも同年一〇月三一日とする約束手形の振出し交付を受けた。これらの約束手形はいずれも支払期日に決済された。

右売買契約においては、商品の受渡し場所としてキタノ協業組合八尾工場及び天昇電機株式会社相模原工場とされているが、それは、前記若林の指定にかかる場所であつて、原告は右場所における商品の存在を確認したわけでも、また右場所における受け渡しに関与したわけでもなく、被告が自ら在庫を確認してキタノから直接、その引渡しを受けている。しかも、右衣裳函の一部については、キタノが自ら被告のために買手を見つけて、商品の納入や代金の回収に当たつている。

(六) キタノは昭和五三年三月ごろ、電気事業部を新たに設けて付加価値の高い布団乾燥機等の製造販売を始めたため、被告に対し、右布団乾燥機の在庫のままの買上げ方を要請してきた。

被告は、右要請に応じて同月、キタノから直接一万一五〇〇台を買い入れるとともに、訴外大丸興業株式会社が間に入つた取引により五〇〇〇台を、訴外東京材料株式会社が間に入つた取引により、同月六〇〇〇台、同年四月一万二〇〇〇台、同年五月一万二五〇〇台を買い入れた。

被告は、右取引において間に入つた東京材料等に対しいずれも納品受領書を発行しているが、東京材料等から直接引渡しを受けたわけではなく、キタノから在庫証明を徴する方法によつてその引渡しを受けている。

また、右取引において、東京材料がキタノに振出した約束手形の支払期日と被告が東京材料に振出した約束手形の支払期日とは同一期日であつた。

(七) 原告は昭和五三年六月一九日、前記若林から同年七月及び八月に販売先を紹介するから布団乾燥機一万五〇〇〇台を買い上げて欲しい旨の依頼を受けた。しかし、原告にとつて布団乾燥機は未知の商品なのでこれを断つたところ、被告本社営業副本部長寶谷大亮が右若林の要請に基づき原告方を訪れ、原告との間で布団乾燥機の取引に関しおよそ次のような内容の協議を行つた。

(1) キタノから購入依頼のあつた布団乾燥機一万五〇〇〇台は、被告としては、被告が原告よりその全部の買上げを実施しても、原告が独自の販売ルートの開拓に努めて被告より買い戻したうえ、右ルートに乗せて売却して欲しい。

(2) 原告としては、販売ルートの開拓に努めてそれが実現した場合は販売できる分の買い戻しはできるが、販売先の信用調査に時間がかかり、現時点では被告の右要求に応ずることはできない。

(3) 原告としては、原告の販売ルートの確立が間に合わない場合又は成立しない場合は、被告が原告に対し代金支払の責任を負つて欲しいが、被告としてはこれに応ずることは困難である。

(4) 原告のキタノに対する代金支払は同月末日、支払期日が同日起算の一八〇日後の約束手形を、被告の原告に対する代金支払は同年八月末日、支払期日が同日起算の一二〇日後の約束手形をそれぞれ振出して行う。ただし、被告の意向としては、販売先から回収が遅れる場合は回収を確認してから決済したい。

(5) 以上の協議事項については、それぞれの社内で協議し、双方はその結果を翌々日連絡する。

(八) ところが、寶谷は翌二七日、原告に対し、前日の協議にかかる布団乾燥機については原告の希望する条件に従つて原告との取引に応ずる旨を連絡してきたため、原告は前記若林に対し、同日、キタノの前記依頼に応ずる旨を連絡した。

(九) 被告は、右同日、原告に対し、布団乾燥機(AFK三―六〇〇)一万五〇〇〇台の注文書(甲第一号証)を送付してきたので、原告は、被告に対し、同日、注文請書(乙第一号証)を発行した。

(一〇) キタノは、原告に対し、同月二九日、同月二〇日付をもつて布団乾燥機(AXK―六〇〇)一万五〇〇〇台(以下「本件商品」という)の納品書及び請求書を送付してきたので、原告は、同日、社員山崎喜敏をして被告本社に本件商品の注文請書、納品書及び請求書を持参せしめるとともに、山崎は被告担当社員西谷候男から物品受領書(甲第二号証)に被告の社判と西谷の印章をそれぞれ押捺してもらつてこれを原告方に持ち帰つたので、山崎の上司である原告本社物資部々長代理市川暉夫は右物品受領書を確認したうえ、原告の経理係に指示して、キタノに対し、代金支払のため別紙約束手形目録記載の約束手形二一通を振出し交付した。原告が同日、右約束手形を振出したのはキタノからの本件商品の買入れを同月二〇日付として処理したためである。

(一一) 被告の原告に対する本件商品の注文書及び原告が被告に交付した注文請書には、本件商品の納期として「8/20」、納入場所として「(株)アライ倉庫」と記載されているが、これらは前記協議の際に合意された事項でも、また右注文時に株式会社アライが販売先として確定していたわけでもなく、原告が注文調書にそれらを記載したのは被告の注文書の記載をそのまま写し取つたにすぎない。

(一二) 布団乾燥機はその販売が秋に集中する季節商品であるが、昭和五三年は猛暑続きで、同年八月中にその販売先を確定するには困難な状況にあつた。

(一三) キタノグループは昭和五三年一〇月倒産したが、債権者のうちで被告の債権額が最も多く、帳簿上のものだけでも一四、五億円に上つた。

3 前項(一)ないし(一三)の各事実を総合すれば、本件売買契約は原告と被告とではその取引先に対する支払条件において、支払のため振出される約束手形の支払期日は同一であるけれども、原告の方が被告より少なくとも一か月早く振出し決済することになつている点に違いがあるため、キタノが直接被告に売り渡す場合よりも原告が間に入つて売りつなぐ方式をとつた方がキタノにおいて少なくとも一ケ月早く手形を入手でき、これを利用できる点に着目して、右の方法によるキタノの資金繰りの便宜を図る目的で、被告がキタノの協力を得つつ販売先を確定し、原告に対しては被告が代金の支払義務を負うこととして、原告がキタノと被告との間に入り、キタノから本件商品を買い入れるが直ちにこれを被告に買い取つてもらう方式の、いわゆるつなぎ売買を行うために締結されたものであつて、その締結に当たり、原告の役割は専ら決められた期日に手形を振出して代金を決済する点にあつて、本件商品の受け渡しには関与せず、被告が販売先を確定して直接キタノからその引渡しを受ける旨の約定がキタノの了解のうえで原告と被告との間に暗黙裡に成立していたものであり、被告の原告に対する物品受領書(甲第二号証)の交付は、被告において右約定の存在を認識し、かつこれを確認した趣旨のものであると認めるのが相当である。

(丹野益男)

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