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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)3413号 判決 1980年11月28日

原告

日本電信電話公社

右代表者総裁

秋草篤二

右訴訟代理人

楢原英太郎

右訴訟復代理人

今出川幸寛

右指定代理人

横井豊三

外二名

被告

株式会社ゆうせん

右代表者

辻俊二

右被告四名訴訟代理人

西垣義明

主文

一  被告株式会社ゆうせんは原告に対し別紙電柱目録一、二、四記載の各電柱から別紙線条等目録記載の各物件を撤去せよ。

二  被告株式会社日本ゆうせんは原告に対し別紙電柱目録三記載の各電柱より別紙線条等目録記載の各物件を撤去せよ。

三  被告株式会社ゆうせん及び同辻俊二は、各自、原告に対し金四七一万三八六二円及び内金二二四万一四三〇円に対する昭和五二年一一月一二日から、内金二四七万二四三二円に対する昭和五三年五月二七日から、それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告株式会社日本ゆうせん及び同竹田勝彦は、各自、原告に対し金一九万五〇五五円及びこれに対する昭和五三年五月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

五  訴訟費用は被告らの負担とする。

六  本判決第三、四項は仮に執行することができる。

事実

第一  申立

(原告)

一  主文第一ないし第五項同旨。

二  同第三、第四項につき仮執行の宣言。

(被告ら)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  主張

(請求原因)

一  原告は、公衆電気通信法に基づき国民のために公衆電気通信役務を提供する特殊法人である。

二  被告株式会社ゆうせん(以下「被告ゆうせん」という)および同株式会社日本ゆうせん(以下「被告日本ゆうせん」、右被告両名を「被告会社ら」という)は、いずれもバー、キャバレー、飲食店等に対するいわゆる有線音楽放送を業とする会社、被告辻俊二(以下「被告辻」という)は、被告ゆうせんの代表取締役、被告竹田勝彦(以下「被告竹田」という)は、被告日本ゆうせんの後記線条等添架当時の代表取締役であつたものである。

三  別紙電柱目録第一ないし第四記載の各電柱(以下「本件第一ないし第四の電柱」という)は、原告の所有である。

四(一)  被告ゆうせんは、(一)昭和五一年一二月一四日本件第一の電柱に、(二)同五二年六月から八月までの間に本件第二の電柱に、(二)同年一〇月から同年一二月までの間に本件第四の電柱に、(四)また、被告日本ゆうせんは、同年九月上旬から下旬までの間に本件第三の電柱に、いずれも、別紙線条等目録記載の各物件(以下「音放線等」という)を添架した。

(二)  右被告会社らの行為は、原告の本件第一ないし第四の電柱に対する所有権を侵害する不法行為にあたる。

五  原告は、いずれも原告を債権者として、

(一) 昭和五二年四月五日、被告ゆうせんを債務者として、本件第一の電柱につき「債務者は本件仮処分命令送達後七日以内に右電柱に債務者が添架した有線放送回線条等を撤去しなければならない。債務者が第一項記載の期限までに右線条等の撤去をしないときは、東京地方裁判所執行官及び同裁判所八王子支部執行官は債権者の申立により債務者の費用でこれを撤去することができる」旨の東京地方裁判所八王子支部昭和五二年(ヨ)第一九二号仮処分決定(以下「本件(一)仮処分決定」という)を、

(二) 同年一〇月二九日、同被告を債務者として本件第二の電柱につき前同旨の東京地方裁判所昭和五二年(ヨ)第七一一二号仮処分決定(以下「本件(二)仮処分決定」という)を、

(三) 同五三年五月一五日、被告日本ゆうせんを債務者として、本件第三の電柱につき前同旨の同裁判所昭和五三年(ヨ)第三一五五号仮処分決定(以下「本件(三)仮処分決定」という)を、

(四) 同日、被告ゆうせんを債務者として、本件第四の電柱につき前同旨の同裁判所昭和五三年(ヨ)第三一五六号仮処分決定(以下「本件(四)仮処分決定」という)を、

それぞれ得、本件(一)仮処分決定は昭和五二年四月六日、本件(二)仮処分決定は同年一〇月三一日、本件(三)、(四)仮処分決定は同五三年五月一六日、それぞれ右各債務者に送達された。

六  しかるに、被告ゆうせんは、本件(一)仮処分決定送達後本件第一の電柱から、本件(二)仮処分決定送達後本件第二の電柱中部一、二、一七、三一、港一〇、一二ないし一七、三七ないし三九、四四、七一、豊一六、墨五、六、九ないし一二、三一、三四、三五の各電柱(以下「自主撤去電柱」という)から、それぞれ同被告が添架した音放線等(以下「自主撤去線条等」という)を撤去したが、被告ゆうせんは、本件第二の電柱中自主撤去電柱を除くその余の電柱及び本件第四の電柱全部から、被告日本ゆうせんは、本件第三の電柱全部から、いずれも本件当該仮処分決定送達後七日以内に、前記添架にかかる音放線等を撤去しなかつた。

そこで、原告は、本件(二)ないし(四)仮処分決定の執行を東京地方裁判所及び同裁判所八王子支部を各執行官に委任し、右各執行官は、(一)昭和五二年一一月一五日から同月一七日の間に本件第二の電柱(自主撤去電柱を除く)につき本件(二)仮処分決定の執行として、(二)同五三年六月一日本件第三の電柱につき本件(三)仮処分決定の執行、(三)同年五月三一日から同年六月九日の間に本件第四の電柱につき本件(四)仮処分決定の執行として、いずれも前記被告会社らが添架した音放線等を撤去した。

七  原告は、次のとおり右各仮処分執行による執行費用を、後記(一)につき昭和五二年一一月一一日、同(二)、(三)につき同五三年五月二六日、執行官に納付した。

(一) 本件(二)仮処分決定の執行について

(1) 東京地方裁判所執行官

二一五万四七〇〇円

(2) 同裁判所八王子支部執行官

八万六七三〇円

計 二二四万一四三〇円

(二) 本件(三)仮処分決定の執行について

同裁判所執行官 一九万五〇五五円

(三) 本件(四)仮処分決定の執行について

(1) 同裁判所執行官

一八五万六四九二円

(2) 同裁判所八王子支部執行官

六一万五九四〇円

計 二四七万二四三二円

八  原告は、被告会社らの前記不法行為によつて、右執行費用相当の損害を被つたというべきであるから、民法七〇九条により被告ゆうせんは前項(一)(三)の費用合計金四七一万三八六二円、同日本ゆうせんは同(二)の費用金一九〇万五〇五五円を原告に賠償すべき義務がある。

九(一)  被告辻は、被告ゆうせんの代表取締役の職務を遂行するにあたり、同被告が本件第二、第四の電柱に不法に音放線等を添架したことを知りながら、これを同被告において利用しているのを放置し、また、本件(二)仮処分決定が昭和五二年一〇月三〇日、本件(四)仮処分決定が昭和五三年五月一六日それぞれ同被告に送達されたにもかかわらず、右各決定に定められた期間中に、自主撤去電柱を除く本件第二の電柱、及び第四の電柱から同被告の添架した音放線等を自主的に撤去する措置をとらなかつた。

(二)  被告竹田は、被告日本ゆうせんの代表取締役としての聴務を遂行するにあたり、同被告が本件第三の電柱に不法に音放線等を添架したことを知りながら、それを同被告において利用しているのを放置し、また、本件(三)仮処分決定が昭和五三年五月一六日同被告に送達されたにもかかわらず、右決定に定められた期間中に、本件第四の電柱から同被告の添架した音放線等を自主的に撤去する措置をとらなかつた。

(三)  したがつて、被告辻、同竹田は、前記各職務を遂行するにあたり悪意または重過失があるというべきであるから、被告辻は同ゆうせんと、同辻は同日本ゆうせんと連帯して、それぞれ前記八の各損害を賠償すべき義務がある。

一〇  によつて、原告は、

(一) 被告ゆうせんに対し、本件第一、第二、第四の各電柱から音放線等の撤去を、

(二) 同日本ゆうせんに対し、本件第三の電柱から音放線等の撤去を、

(三) 被告ゆうせん及び同辻に対し連帯して、前記七(一)、(三)の執行費用額相当の損害金四七一万三八六二円、及び内金二二四万一四三〇円(前記七(一))に対する執行費用を予納した日の翌日である昭和五二年一一月一二日から、内金二四七万二四三二円(前記七(三))に対する前同様の日である昭和五三年五月二七日から、それぞれ支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、

(四) 被告日本ゆうせん及び竹田に対し連帯して、前記七(二)の執行費用額相当の損害金一九万五〇五五円及びこれに対する前同様の日である昭和五三年五月二七日から支払ずみまで前同様の遅延損害金の支払、

を求める。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因一ないし三は認める。

二  同四(一)のうち、被告ゆうせんが本件第一の電柱に、被告日本ゆうせんが本件第三の電柱のうち墨一〇〇ないし一〇六の電柱に、それぞれ音放線等を添架した事実は否認する(右本件第一の電柱についての添架は、株式会社東京西部音楽放送がし、その後右添架にかかる音放線等を昭和五一年一一月六日株式会社大阪有線放送が譲り受けたものである)が、その余の事実は認める。同四(二)の主張は争う。

三  同五ないし七は、認める。

四  同八、九は否認する。

五  原告主張の執行費用のうち次に述べる費用を超える部分は、原告主張の不法行為と相当因果関係がない。

1 被告ゆうせんに対する執行費用について

(一) 撤去工事費用について

音楽放送線の撤去作業は、作業員四人を一班とし、一班で一日二キロメートルの撤去が可能である。被告ゆうせんに対する本件仮処分執行によつて撤去された線条の距離は約一、八キロであるから、右撤去のためには九班、三六人の作業員を投入すれば充分であつた。そのための費用は、作業員の日当合計三六万円(一人一日一万円)に一割の雑費を加算した金三九六、〇〇〇円で充分である。

(二) 執行官手数料について

執行に立会する執行官の数は、東京地方裁判所昭和五二年(ヨ)第七一一二号事件の執行、同裁判所昭和五三年(ヨ)第三一五六号事件の執行につき、それぞれ二人で十分である。

しかるに、被告ゆうせんに対する本件仮処分執行には、東京地方裁判所及び同八王子支部所属の全執行官が、不必要な多数の執行補助者を使つて執行にあたつた。

2 被告日本ゆうせんに対する執行費用について

被告日本ゆうせんに対する執行の対象となつた電柱のうち別紙電柱目録第三記載の墨一〇〇ないし一〇六の電柱に添架された音放線等は、同被告が添架したものではないので、これを除外すると、対象電柱は九本にすぎず、これに添架された音放線等を撤去するには、前記被告ゆうせんに対する執行にあたつた執行官及びその補助者が右執行の際兼務すれば足りる。したがつて、被告日本ゆうせんに対する執行費用は、全く不要である。

(抗弁)

一  本件第二の電柱のうち台三七ないし八八の電柱については、昭和五〇年一二月八日被告ゆうせんと原告との間に電線施設添架契約が締結され、同被告は右契約に基づき音放線等を添架したものである。なお、右契約において添架する線条は一条のみとする旨の約定があり、右同被告が添架した線条は放送所出口等で二条にわたつているところがあるが、これはテーピングして一条としてあるから、右契約に違反するものではない。

二  被告ゆうせんは、昭和四七年、原告に対し本件第二の電柱中台一ないし三六、八九ないし九五の電柱につき電線施設添架契約を申込ずみであるが、原告は、何ら支障がないのに、これを承諾しない。更に、原告は、昭和五二年三月ころ以来東京電力株式会社と歩調を合わせ、被告会社らからの電線施設添架契約の申込を一切受理しない態度をとるに至つた。これは、日本有線放送協会に属する日本音楽放送株式会社の言い分のみを取りあげ、これに対立する日本有線放送連盟に属する被告会社らを関東地区から締め出すためにとられた措置である。

原告は、公衆電気事業者として公共用道路に優先して電柱を建てる権限が与えられている(公衆電気回信法第八一条)が、右権限は原告の事業の公益性に基づくものであるから、建てた電柱を独占的に利用するなど勝手気ままに私権を行使することは許されず、激増する電柱利用に対する社会的需要に対応し、公益性の高い電柱利用の申込に対しては積極的に、かつ利用希望者に対する平等の立場から、これを応諾する義務がある(民法一条、公衆電気回信法三条、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律一九条、二条七項一号、五号、憲法一四条)。

一方、被告会社らが営む有線音楽放送事業は、バー、キャバレー、喫茶店に限らず、今や商店・会社・銀行等の事業所、工場、一般家庭にまで対象を拡げ、国民に生活の潤いを与え、予勢能力の向上、文化の発展に貢献しており、その公益性は誰もが認めるところである。

以上の点からすると、原告が被告会社らからの電線施設添架契約の申込を受理・応諾しないというのは、独占的公共企業体として許されない差別的措置というべきである。

被告会社らは、右のような原告の措置に対抗して、不本意ながら自衛手段として必要最小限の範囲で本件各電柱に音放線等を添架したものである。

そして、本件各仮処分決定の執行により、被告会社らは甚大な損害を被り、顧客との間で紛争混乱を生じた。

以上の事情によると、原告が被告会社らに対し本件各電柱に添架された音放線等の撤去を求めることは、権利の濫用にあたり許されず、また、右添架は違法性がないというべきである。

三  本件(二)、(三)仮処分決定の執行にあたり、線条を一スパン(電柱一区間)ごとに切断し、これを「くず線」とした。これにより、被告ゆうせんは、線条一メートルあたり単価二五〇円、切断線条一八、〇〇〇メートルとして、合計金四五〇万円の損害を被つた。

被告ゆうせん、昭和五四年六月二九日の本件口頭弁論期日に陳述した同日付準備書面をもつて、右被告ゆうせんの損害賠償債権をもつて原告の右被告に対する損害賠償債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。<以下、事実省略>

理由

一有線放送用線条等の撤去請求について

(一)  請求原因一ないし三の事実、同四(一)のうち、被告ゆうせんが本件第二、第四の電柱に、同日本ゆうせんが同第三の電柱のうち墨一〇〇ないし一〇六の電柱を除く電柱に音放線等を添架したこと、同五、六の事実は、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告ゆうせんが本件第一の電柱に、被告日本ゆうせんが本件第三の電柱のうち一〇〇ないし一〇六の電柱にそれぞれ音放線等を添架したことを認めることができ<る。>

(二)  被告の抗弁一について判断するに、本件第二の電柱のうち台三七ないし八八の電柱については、昭和五〇年一二月八日被告ゆうせんと原告間に電線施設添架契約が締結されていること、右契約においては、被告ゆうせんが右契約によつて添架できる線条は一条とする旨の約定があることは、当事者間に争いがないところ、<証拠>によれば、被告ゆうせんは、右契約に基づき前記各電柱に一条の音放線を添架した後、更にもう一条の別紙線条目録一但書(一)の音放線等を右各電柱に添架したものであり、右は、前記契約の約定に照し、被告ゆうせんにおいて正当の権限なく添架したものであることが認められ、右認定に反する証人小田茂の供述は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。したがつて、抗弁一は採用することができない。

(三)  抗弁二について判断するに、<証拠>によれば、本件各電柱は、原告が公衆電気通信法に基づき国民に公衆電気通信役務を提供するために設置した公共的施設であるが、原告は、施設の保全、業務遂行その他公益に支障の生じない範囲で、有線音楽放送事業を営む者に対しても、その者が道路占用許可等の法令上の許可を得た場合に限り、その者と電線添架契約を締結したうえ右電柱に有線音楽放送用線条等を共架することを一条に限つて許しているものであることを認めることができるが、原告が右業者からの契約申込に応諾する義務があると解すべき法的根拠はない。被告らは、原告が被告会社らからの右契約申込を受理しないのは、日本有線放送協会に属する業者に加担し日本有線放送連盟に属する被告会社らを関東地区から締め出す意図による差別的措置であると主張し、証人小田茂、被告辻俊二は、これにそう供述するが、右供述は証人添田寛蔵の供述に照し採用することができず、他に右事実を認めるに充分な証拠はない。そして、前掲採用証拠によれば、被告会社らは、原告との間に前記電線添架契約の申込も、締結もしなかつたばかりか道路占有許可も受けず、原告に無断で不法に本件各電柱に音放線等を添架したものであつて、その撤去を求める原告の本訴請求をもつて権利の濫用であるとするいわれはない。したがつて、抗弁二も採用することができない。

(四)  そうすると、原告が被告ゆうせんに対し本件第一、第二、第四の各電柱から、同日本ゆうせんに対し本件第三の電柱から音放線等の撤去を求める請求は、理由があるので、これを認容する。

二被告らに対する損害賠償請求について

(一)  前記一(一)の争いがない事実及び認定事実、同(四)の認定事実によれば、被告ゆうせんが本件第二の電柱(自主撤去電柱を除く)、本件第四の電柱に、同日本ゆうせんが本件第三の電柱に、それぞれ音放線等を添架したことは、原告の右各電柱に対する所有権を侵害する不法行為にあたるといわなければならない。

(二)  前記各事実に<証拠>を総合すると、被告ゆうせんの代表取締役である被告辻は、遅くとも本件(二)、(四)仮処分決定が前記のとおり被告ゆうせんに送達された時には、右各決定によつて撤去を命じられている音放線等が同被告によつて原告所有電柱に不法に添架されている事実を知つたこと、しかるに、右各決定に定められた期間内に、自主撤去電柱を除く本件第二の電柱、本件第四の電柱から同被告の添架した音放線等を撤去する措置をとらなかつたこと、被告日本ゆうせんの代表取締役であつた被告竹田は、遅くとも本件(三)仮処分決定が前記のとおり被告日本ゆうせんに送達された時には、右決定によつて撤去を命じられている音放線等が同被告によつて原告所有電柱に不法に添架されている事実を知つたこと、しかるに、右決定に定められた期間内に、本件第三の電柱から同被告の添架した音放線等を撤去する措置をとらなかつたことを認めることができる。そして、右のような被告辻、同竹田の不作為は、故意又は重大な過失により各被告会社の代表取締役としての職務を懈怠したものといわなければならない。

(三)  請求原因七の事実は当事者間に争いがない。

そうすると、(1)被告ゆうせんが本件(二)、(四)仮処分決定に定められた期間内に自由撤去電柱を除く本件第二の電柱、及び本件第四の電柱から音放線等を撤去しなかつたため、原告が右各決定の執行を執行官に委任することを余儀なくされ、右執行の費用として納付した請求原因七(一)、(三)の合計金四七一万三八六二円の支出は、被告ゆうせんの前記不法行為及び同辻の前記職務懈怠によつて原告に生じた損害であり、(2)また、被告日本ゆうせんが本件(三)仮処分決定に定められた期間内に本件第三の電柱から音放線等を撤去しなかつたため、原告が右決定の執行を執行官に委任することを余儀なくされ、右執行の費用として納付した請求原因七(二)の金一九万五〇五五円の支出は、被告日本ゆうせんの前記不法行為及び同竹田の前記職務懈怠によつて原告に生じた損害であるというべきである。

(四)  被告らは、前記執行費用は、前記各仮処分決定の執行に必要とする費用の限度を超過しており、右超過分の支出については前記被告らの不法行為・職務懈怠と相当因果関係がないと主張するが、執行債権者が執行官の計算に基づき執行費用として納付した金員は、右執行に要した費用と推認されるところ、<証拠判断略>

被告ゆうせんの相殺の抗弁(抗弁三)については、右被告主張の相殺は民法五〇九条により原告に対して対抗することができないことが明らかであるから、これを採用することができない。

(五)  なお、仮処分決定の執行のために債権者が支出した費用で執行と同時に取り立てなかつたものについては、債権者は、民訴法一〇〇条以下の規定により右決定に基づき費用確定決定の申立をし、右決定を債務名義として右費用額を債務者より取り立てることができるが、債権者が右費用額の右の方法による取立を完了していない以上、債権者は、不法行為等の実体上の請求権を行使して、償務者に対して右費用額相当の損害賠償を訴訟上請求することを妨げられるものではないと解する。

(六)  そうすると、原告に対し、被告会社らは民法七〇九条、被告辻及び同竹田は商法二六六条の三の各責任に基づき、被告ゆうせん及び同辻は、各自、損害金四七一万三八六二円、及び内金二二四万一四三〇円に対する執行費用納付の翌日である昭和五二年一一月一二日から、内金二四七万二四三二円に対する前同様の日である昭和五三年五月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告日本ゆうせん及び同竹田は、各自、損害金一九万五〇五五円及びこれに対する前同様の日である昭和五三年五月二七日から支払ずみまで前同様の遅延損害金の支払をする義務がある。

よつて、原告の右金員の支払を求める請求は、理由があるのでこれを認容する。

三よつて、訴訟費用につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(黒田直行)

線条等目録

一 別紙電柱目録一ないし四<省略>に添架された有線音楽放送用の線条及びこれを固定するためのバンド、引留金物等(ただし、(一)電柱目録二台三七ないし八八の各電柱に添架された右物件は、左記二(一)ないし(三)の線条と一条をなす線条及びこれを固定するためのバンド、引留金物等、(二)すでに撤去ずみ)

二(一) 台八八の電柱において、公社ケーブルの上部一、二〇メートル及び一、二五メートルの位置に添架した二条の有線音楽放送線条のうち、図一のとおり一、二〇メートルの位置に二個の引留金物により電柱に添架してある線条

(二) 台四七の電柱において、公社の屋外切替接続盤の上部付近に添架した二条の有線音楽放送線条のうち、図二のとおり公社の屋外切替接続盤の上部から一〇センチメートルの位置に一個の金物により電柱に添架してある線条

(三) 台三七の電柱において、電柱の支線の上端から一、三〇メートル上方の位置に添架した二条の有線音楽放送線条のうち、図三のとおり歩道側の引留金物により電柱に添架してある線条

図一、二、三<省略>

電柱目録一〜四<省略>

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