東京地方裁判所 昭和54年(ワ)3425号・昭55年(ワ)5599号 判決
第一 本訴請求について
一 原告の被告雑賀技研に対する不当利得返還請求
1 成立に争いのない甲第九号証、第一〇号証、第一九号証の一及び二、第二九号証の二及び三、乙第一号証、第三号証、第四号証、第七号証、第三八号証、第四一号証、原本の存在及び成立について争いのない甲第七号証、第八号証、第一一号証、第一六号証、乙第五号証の一、第七号証、第一八号証、第一九号証、第二一号証、第二二号証、第五二号証ないし第五四号証、証人上田克己の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる甲第二三号証、第二五号証及び第二八号証、原告代表者佐竹良春本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二九号証の一、被告雑賀技研代表者兼被告雑賀慶二本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第五五号証並びに証人上田克己の証言(第一回及び第二回)、原告代表者佐竹良春及び被告雑賀技研代表者兼被告雑賀慶二の各本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)を総合すれば、(1)原告及び原告代表者佐竹利彦と被告ら及び東洋精米機とは、昭和三八、九年頃以降、相互にその有する特許権等に基づき相手方の製品の製造販売の差止めを求める訴訟を提起し、あるいは、相手方の有する特許権について特許無効の審判請求をするなど係争関係にあつた、(2)このような背景のもとにおいて、被告雑賀技研は、昭和四九年一月一七日付内容証明郵便をもつて、原告に対し、原告が製造販売している「サタケモノミンパス」精米機は本件特許権に抵触しているので、直ちにその製造販売等を中止するとともに、その販売数量等を報告すべきである旨警告した、(3)原告は、昭和四九年一月二九日付内容証明郵便をもつて、被告雑賀技研に対し、右精米機は本件特許権を侵害するものではないと考えるが、数種ある「モノミンパス」精米機(原告製品(一)を含む。以下同じ。)のどの機種のいかなる構造が本件特許権を侵害するのか説明願いたい旨回答した、(4)これに対して、被告らは、原告に対し、話合いによる解決を提案したところ、原告は、これに応ずることとし、原告社員柏原健次は、昭和四九年二月四日、被告雑賀技研の事務所を訪問して被告雑賀慶二に面会し、「モノミンパス」精米機は本件特許権に抵触しない旨説明したのに対し、被告雑賀慶二は、右精米機は本件特許権を侵害するものである旨説明するとともに、企画力のある原告は被告雑賀慶二の発明力を利用して製品を製造販売してはどうかといつた提案をした、(5)その後、原告は、社内において、「モノミンパス」精米機が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて検討したところ、意見が分かれたので、将来右精米機をそのまま製造販売していく場合には、細かな技術論争をするよりも、低額の実施料を支払つて紛争を未然に防止した方がよいとの判断から、本件特許権について実施許諾を受けたい旨回答した、(6)被告雑賀慶二は、更に話合いによる解決を進めるため、昭和四九年二月二一日、原告の東京本社を訪れ、原告代表者佐竹良春及び原告社員上田克己らとの間において、主として、被告雑賀慶二の石抜機の発明に関する特許出願についての原告の特許異議の申立ての取下げ及び原告に対する右発明に係る権利の実施許諾について話合いをし、これに関連して、佐竹利彦の有する発明の名称を「撰穀機の細粒除去装置」とする特許第四〇〇五四〇号特許権の被告雑賀技研に対する実施許諾及び本件特許権の原告に対する実施許諾、当時東洋精米機の製造していた自動包装機と原告の製造していた計量器とを組み合わせることの可否等について話合いをし、その結果、全面的な紛争の解決のために、少なくとも右の自動包装機と計量器との組合せの技術的な可能性について更に検討することになつた、(7)被告雑賀慶二は、昭和四九年三月六日、再び原告の東京本社を訪れ、原告との間において、話合いを継続し、原告から契約案(乙第一八号証)が提出されたが、これに対して、被告雑賀慶二は、契約に盛り込む係争事件、契約の前文の表現方法、本件特許権の実施許諾が無償となつている点について不服を有し、更に契約案について双方で検討を加えることとした、(8)上田は、昭和四九年五月八日及び九日の二日間にわたつて被告雑賀技研の事務所を訪ね、被告雑賀慶二及び東洋精米機の代表者雑賀和男に面会し、上田が持参した契約案(乙第二二号証)を基にして検討した結果、上田と本人兼被告雑賀技研代表者兼東洋精米機代理人の被告雑賀慶二との間において、同月九日、日付を同年三月六日とする二通の書面をもつて、原告及び原告代表者佐竹利彦と被告ら及び東洋精米機との間の本件契約を締結し(本件契約が締結されたことは、当事者間に争いがない。)、原告は、同月一一日、原告代表者が右書面に捺印して本件契約の締結を了承したものであるところ、本件契約の内容は、原告及び佐竹利彦と被告ら及び東洋精米機とは、両者間における工業所有権をめぐる年来の係争問題を一掃的に解決し、全面的な協調態勢を確立するための一環として、相互に七件の工業所有権に関する訴訟あるいは特許異議の申立てを取り下げ、又は撤回するとともに、本件特許権を含む三件の工業所有権を有償で相手方に提供することとし、その取扱いの詳細として、本件特許権については、被告雑賀技研は、原告に対する前記昭和四九年一月一七日付警告書を撤回する、原告及び佐竹利彦は、後日本件特許権について特許無効の審判請求をしない、被告雑賀技研は、原告に対し、本件特許権について、原告は、今後本件特許権を実施して製造する製品につき毎年三月末日に売上台帳を締め切り、四月末日までに台帳明細を報告するとともに、工場渡し価格の一パーセントを実施料として被告雑賀技研に支払うとの約定で通常実施権を許諾するというものであり、そして、右の本件特許権の実施許諾は、従前原告が製造販売してきた、自動停止装置を備えているとされた「モノミンパス」精米機と同じもの、すなわち、被告雑賀技研主張の原告製品(一)に含まれる「モノミンパス」RB―10A型、RB―15A型、RB―20E型及びRB―25E型を製造販売する場合には、それが本件発明の技術的範囲に属するか否かにかかわらず、右実施料を支払うということを前提とするものであり、また、被告雑賀慶二の石抜機の発明については、原告は特許異議の申立てを取下げ、被告雑賀慶二は原告に対し通常実施権を許諾するというものであつた、(9)被告らは、昭和五一年一一月一八日付内容証明郵便をもつて、原告に対し、本件契約上、原告は本件特許権及び石抜機の特許権の実施品の明細の報告及び実施料支払いの義務があるのに、その義務の履行をしないので、これを履行するよう催告する旨通告した、(10)次いで、被告らは、昭和五一年一二月四日付内容証明郵便をもつて、原告に対し、原告は右催告に応じないので、右契約の違反を理由として、本件契約を全部解除する旨通告し、同通告は同月六日原告に到達した、(11)これに対し、原告社員上田は、昭和五一年一二月六日付書面をもつて、被告らに対し、右契約による実施料の支払状況等を説明したうえ、右契約解除の通告を撤回してほしい旨通知した、(12)更に、原告は、昭和五一年一二月一四日付内容証明郵便をもつて、被告らに対し、被告らの契約解除には根拠はなく、むしろ、被告らの方に契約不履行がある旨回答した、(13)これに対して、被告雑賀技研は、昭和五一年一二月二四日付内容証明郵便をもつて、原告に対し、「モノミンパス」精米機及び「ニユーミンパス」精米機(原告製品(二)を含む。以下同じ。)の全機種の配線図を示してこれらが本件特許権を実施するものではないことを主張すべきであると通知した、(14)原告は、右両精米機はいずれも本件発明の技術的範囲に属しないものと考えていたが、被告らが原告系列の顧客先に対して特許権侵害に基づく請求をすることを防止するため、昭和五二年一月一七日、被告雑賀技研に対し、昭和四六年四月六日から同五一年三月三一日までに製造販売した「モノミンパス」精米機のうち、RB―10A型、RB―15A型、RB―20E型及びRB―25E型の合計三二五台分の実施料として工場渡し価格の一パーセントに相当する二〇九万五七八二円を支払つた、(15)その後、原告は、被告雑賀技研に対し、「モノミンパス」精米機の配線図を送付し、また、昭和五二年一月二七日付内容証明郵便をもつて、「ニユーミンパス」の自動停止装置は、搗精の終了を光電管によつて感知するものであるから、本件特許権とは無関係である旨説明した、(16)被告らは、昭和五二年二月一二日付内容証明郵便をもつて、原告に対し、原告は、本件契約の前提条件である全面的な協調態勢の確立という取決め、すなわち、原告は自ら製品を作らず、東洋精米機の製品を購入し販売するという取決めに違反し、また、米穀業者から侵害品を回収することをしないなど不信行為をおかし、話合いの道を自ら閉しているものであるから、米穀業者に対し、直接侵害品の廃棄を請求せざるをえないので、その旨通知する、との意思表示をした、(17)そして、被告らは、昭和五二年三月六日付内容証明郵便をもつて、全国食糧事業協同組合連合会に対し、原告に対して本件特許権の実施許諾をしていたが、原告の実施料の不払等の債務不履行を理由として、昭和五一年一二月六日右実施許諾の契約を解除したものであるところ、同連合会が販売している原告製造の自動停止装置付「ニユーミンパス」及び「モノミンパス」精米機は本件発明の技術的範囲に属するものであるから、右精米機の販売を停止し、右精米機の販売先、販売台数及び販売価格を報告し、また、米穀業者からこれを回収し廃棄するようにという要求をした、(18)原告は、前(14)の趣旨にのつとり、昭和五二年四月下旬、被告雑賀技研に対し、昭和五一年四月一日から同五二年三月三一日までに製造販売した「モノミンパス」精米機RB―20E型及びRB―25E型の一七台分の実施料として二二万一三四〇円を支払つた、(19)被告らは、昭和五二年五月一日付内容証明郵便をもつて、上根精機農機具部に対し、前(17)記載と同趣旨の通知をし、また、同月一日付、二日付及び六日付内容証明郵便をもつて、それぞれ阪南倉糧店、小坂米穀店及び大黒屋米穀店に対し、その使用に係る原告製造の「ニユーミンパス」精米機は被告雑賀技研の有する本件特許権に抵触するものであるから、これを撤去してその報告をすること、購入先、購入日及びその使用による利益の額を報告すること、もし誠意ある回答が得られないときは法的措置を採らざるをえないことなどを通告し、更に、同月四日付の株式会社天野商会に対する書簡の中で、「モノミンパス」及び「ニユーミンパス」精米機は本件特許権に抵触するものである旨述べた、(20)原告は、昭和四六年四月から同五三年三月三一日までの間に、別表記載の台数の原告製品(一)を製造し、これを別表記載の単価及び販売価格で販売した(この点は、当事者間に争いがない。)、以上の事実が認められ、被告雑賀技研代表者兼被告雑賀慶二本人尋問の結果中、右認定に反する供述部分は、前掲各証拠に照らしたやすく採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定の事実によれば、原告は、本件契約に基づき、被告雑賀技研に対し、本件契約の日付である昭和四九年三月六日以後原告製品(一)(「モノミンパス」精米機RB―10A型、RB―15A型、RB―20E型及びRB―25E型)の製造販売について約定の実施料を支払うべき義務を負担したものというべきである。ところで、前認定の事実によると、被告らは、催告のうえ、昭和五一年一二月四日付内容証明郵便をもつて、原告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をし、同意思表示は同月六日原告に到達したものであるところ、本件契約は、原告及び原告代表者佐竹利彦と被告ら及び東洋精米機との間に締結されたものであり、かつ、その複数の契約条項は相互に関連性を有する複合的なものであつて、全体として一個の契約であるというべきものであるから、本件契約を有効に解除するためには、原告の主張するとおり、一方当事者全員から他方当事者全員に対して契約全部の解除の意思表示をすることを要するものと解するのが相当である。そこで、本件契約解除の意思表示の効力について審案するに、前認定の事実によると、本件契約解除の意思表示は、本件契約全部についてされたものの、被告らから原告に対してされたものであつて、形式的には、一方当事者全員から他方当事者全員に対してされたものではないけれども、本件契約締結の交渉過程、本件契約締結時及び本件契約解除の意思表示後の関係者の折衝状況並びに原告と原告代表者佐竹利彦との関係及び被告らと東洋精米機との関係等に関する前認定の事実に徴すれば、本件契約解除の意思表示は、関係者の間においては、被告ら及び東洋精米機から原告及び原告代表者佐竹利彦に対するものと受け取られていたものと認めるのが相当であり、そして、本件契約解除の意思表示は、本件契約の条項上、原告は、本件発明及び石抜機の発明の実施品の台帳明細の報告及び実施料支払いの義務があるのに、その義務の履行をしなかつたということを理由とするものであり、かつ、原告が右義務の履行をしなかつたことは前認定のとおりであるから、本件契約解除の意思表示は有効であるというべきところ、本件契約の右条項は継続的契約条項であり、したがつて、右条項に関する本件契約解除の意思表示の効力は、将来に向かつて生じるものと解するのが相当である。そうすると、原告は、右解除の意思表示がされるまでの間の原告製品(一)の製造販売について実施料の支払義務があるものといわなければならない。そこで、昭和四九年三月六日以後右解除の意思表示が原告に到達した同五一年一二月六日までの間に製造販売された原告製品(一)の台数等について検討するに、前認定の事実によると、原告は、昭和四六年四月から同五三年三月三一日までの間に別表記載の台数の原告製品(一)を製造し、これを別表記載の単価及び販売価格で販売したというのであり、その記載によれば、原告は、右の昭和四九年三月六日から同五一年一二月六日までの間に、原告製品(一)に含まれる「モノミンパス」RB―25E型六〇台を総額六五二九万三〇〇〇円、「モノミンパス」RB―10A型四〇台を総額三三三四万〇四〇〇円、「モノミンパス」RB―15A型五台を総額三六七万四〇〇〇円、「モノミンパス」RB―20E型一台を七四万五〇〇〇円でそれぞれ販売したものであつて、その合計額は一億〇三〇五万二四〇〇円となるから、前認定の本件契約中の本件特許権の実施許諾の約定に基づき、原告は、被告雑賀技研に対し、右合計額の一パーセントに当たる一〇三万〇五二四円の支払義務を負担したものというべきである。ところで、前認定の事実によると、原告は、被告雑賀技研に対し、原告製品(一)を製造販売したことによる実施料として総額二三一万七一二二円を支払つたというのであるから、右金額から前記一〇三万〇五二四円を控除した一二八万六五九八円は、過払いであつて、法律上の原因なくして支払つたものというべきであり、したがつて、原告は、被告雑賀技研に対し、同額の不当利得返還請求債権を取得したものといわなければならない。
2 ところで、被告雑賀技研は、原告は、昭和五三年四月二五日付内容証明郵便をもつて、被告雑賀技研に対し、前記実施料の支払金の内金一六〇万八四二二円が過払いになつているとして、右過払金返還請求債権を自動債権として、被告雑賀技研の原告に対する昭和五二年度分GA50石抜機についての石抜機の特許権に関する実施料相当額二九万円及び同年分「モノミンパス」精米機についての本件特許権に関する実施料相当額三〇万二〇六四円の支払請求債権とその対当額において相殺する名の意思表示をしたので、原告の本訴不当利得返還請求債権はその限度で消滅した旨主張するので、審案するに、原告の被告雑賀技研に対する右相殺の意思表示がされたことは、当事者間に争いがないが、本件特許権及び石抜機の特許権の実施許諾の約定を含む本件契約は、昭和五一年一二月六日到達の解除の意思表示により将来に向かつて効力を失つたこと前説示のとおりであるから、右実施料の支払請求債権が生じる余地はなく、したがつて、被告雑賀技研の右主張は、理由がないものというべきである。更に、被告雑賀技研は、原告が原告製品(一)を製造販売したことによる原告に対する損害賠償請求債権をもつて、原告の本訴不当利得返還請求債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をしたので、原告の本訴不当利得返還請求債権は消滅した旨主張するが、後記認定判断のとおり、原告製品(一)は本件発明の技術的範囲に属しないものであるから、右損害賠償請求債権の成立を認めることはできず、したがつて、被告雑賀技研の右主張は、理由がないものといわざるをえない。
3 右のとおりであるから、原告の被告雑賀技研に対する不当利得返還請求は、一二八万六五九八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年四月二二日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却すべきである。
二 原告の被告らに対する謝罪広告請求
1 原告と被告らとの間の本件紛争に至るまでの経緯は、前一1の認定のとおりである。右認定の事実によると、被告らは、原告及び原告系列の顧客先に対し、原告製品(一)及び(二)は本件発明の技術的範囲に属する旨主張して、その製造販売及び使用の中止等を求めたものであるから、まず、原告製品(一)が本件発明の技術的範囲に属するか否かについて判断するに、被告雑賀技研が本件特許権の特許権者であつたこと、本件発明の明細書の特許請求の範囲の記載が本判決添付の本件訂正公報2項のとおりであること、原告が原告製品(一)を製造販売したことは、当事者間に争いがない。
右当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第一号証(本件公報及び本件訂正公報)によれば、本件発明は、次の構成要件に分けることができる。
(A) 精穀機の排出口に設けられた圧迫板の開閉作用を伝達する連結杆を設け、
(B) 該連結杆でもつて開閉作動する回路スイツチを設け、
(C) 該回路スイツチより電磁開閉器の電磁石に電気回路を連結せしめて、精穀機の電動機を自動的に停止せしめるようになした精穀機において、
(D) 前記回路スイツチを操作することなく、精穀機の電動機を起動せしめる起動スイツチを別個に設けたことを特徴とする、
(E) 精穀機の自動停止装置。
右認定の本件発明の構成要件と原告製品(一)の構造とに基づき、本件発明と原告製品(一)とを対比考察するに、被告らは、本件発明の連結杆は、伝達部材として圧迫板の閉じる動作を回路スイツチに連動して伝達する作用を有するものであればよく、杆以外のものも含むから、原告製品(一)の伝達部材は、本件発明の連結杆に該当する旨主張し、これに対して、原告は、原告製品(一)の伝達部材は、本件発明の回路スイツチに相当するマイクロスイツチ31を開閉作動させるものではないから、本件発明の連結杆には該当しない旨主張するので、この点について審案するに、前掲甲第一号証によれば、(1)本件発明は、精穀機の自動停止装置に関するものであるところ、従来、作業者が、精穀機の搗精終了時に精穀機を停止させるには、いちいち手動で電動機のスイツチを切らなければならなかつたので、発生する糠の量によつて精穀機を自動的に停止する装置が考えられたが、この装置は、発生した糠の重量によつて精穀機を自動的に停止するものであるから、穀粒ごとに異なる糠層の厚さを判別して精穀機を自動的に停止する時期を調整しなければならず、実際には右の判別がほとんど不可能であつて、実情に合わず製品化されなかつたこと、(2)本件発明は、従来考えられた装置の欠点を解消し、搗精終了時及び搗精中の事故発生時等精穀機の負荷が軽減した場合に自動的に精穀機を停止させ、精穀機による搗精作業を安全かつ確実に行うようにすることを目的として、特許請求の範囲のとおりの構成を採用したものであること、(3)本件発明をその実施例に即して説明すると、本件発明の精穀機1の電動機10の起動は、起動スイツチ2によつて行われ、精穀機1が回転を始める、穀粒は、ホツパー3から流入され、精穀機1で搗精され、圧迫板5を開いて排穀口4から排出される、このとき、圧迫板5の連結杆6の先端で押えられてOFFの状態にあつた(切られていた)回路スイツチ7は、ONし(通じ)通電することによつて、電磁石8が作用して、電源9と電動機10の回路が直接継がることになるから、ここで起動スイツチ2を切つておく、精穀機1への給穀が終了して、排穀口4から穀粒が排出されてなくなると、圧迫板5が閉じ、それと同時に、連結杆6の先端で電磁石8の回路スイツチ7をバネ13の力で押え、回路をOFFにする(切る)から、電磁石8が働かなくなつて、電源9から電動機10への回路が切れ、精穀機1の運転は自動的に停止する。このように、停止中は、圧迫板5が排穀口4に圧着して、回路スイツチ7は、OFFの状態のままであるから、次の運転の際には、何らかの方法で回路スイツチをONの状態にする必要が生じるわけであるが、本件発明は、回路スイツチ7を人為的に操作することなく、別に電動機10を起動せしめるスイツチ2及び回路を設け、電動機10の回転によつて流動する穀粒の排出作用によつて自動的に回路スイツチ7をONに切り替えた後、手動で起動スイツチ2をOFFにして、回路スイツチ7のみを電気回路的に保持せしめ、搗精終了時まで運転を続行せしめるものであつて、これにより、所期の目的を達成したものであることが認められる。右認定の事実によると、本件発明の連結杆は、圧迫板の開閉両作用を回路スイツチに伝達する機能を有するものであつて、穀粒が圧迫板を開いて排穀口から排出されるときには、回路スイツチをONにし、穀粒の排出が終了して圧迫板が閉じるときには、回路スイツチをOFFにする機能を有するものであることが認められる。この点に関して、被告雑賀技研は、本件発明は、回路スイツチが開又は閉のいずれかにより精穀機を自動停止させればよいとするものである旨主張するが、本件発明は、右認定のような構成によつて精穀機を自動停止するのをその技術的思想とするものであつて、前掲甲第一号証によれば、本件発明の明細書には、被告の右主張のような広い自動停止装置の構成についての技術的思想の開示までもあるとは認められず、したがつて、同被告の右主張は、採用することができない。他方、原告製品(一)の構造を示す別紙物件目録(一)の記載によると、原告製品(一)は、精白米排出部Cに設けた機械的伝達部18と適宜の個所に設けた電気的伝達部とからなるところ、機械的伝達部18は、回軸19の端部に固着した歯車20、歯車20に歯合させた歯車21及びその軸22、歯車21に固着したレバー23、レバー23に一端を接触させた作動金物24及びその軸25、作動金物24を一定回動方向に弾圧するスプリング26、回動軸27の端部に固着した作動レバー28及び切換レバー29、回動軸27を一定回動方向に弾圧するスプリング30、及びマイクロスイツチ31からなり、また、回軸19には、重錘32を移動自在に設けた固定軸33及び圧迫板13を固着し、回動軸27にはバルブ板15を固着するものであり、その作用をみると、原告製品(一)の精米機のモーターMの起動は、起動スイツチSSによつて行われ、主軸2が回転を始める、玄米は、供給口1から流入され、精穀部Bで搗精され、圧迫板13を開いて排出口11から排出される、このときの圧迫板13及び機械的伝達部18は、第7図―Xにおいて矢印で示すように動き、第7図―Yの状態となる。排出樋12に排出される精白米が完全精白米となるのを確認した後、切換レバー29を第7図―Yにおいて矢印で示すように手動操作により回動すると、これと回動軸27を同じくするバルブ板15及び作動レバー28も同図において矢印で示すように同時に回動する。この切換レバー29の手動操作により、作動レバー28はマイクロスイツチ31より離れて作動金物24の端部に支持され、バルブ板15は不完全精白米排出口14を塞ぎ、精白米排出部Cの状態は第7図―Zに示される状態となる、不完全精白米排出口14がバルブ板15で塞がれることによつて、排出樋12に排出される精白米は、排出樋12の先端から取り出される、また、作動レバー28がマイクロスイツチ31より離れることによつてそのa接点MSがOFFになる。次に起動スイツチSSを手動でOFFしリレーR1を消磁させ、そのb接点R1bをONに、a接点R1aをOFFにするが、マイクロスイツチ31のa接点MSがOFFになつているので、リレーR2に通電しないから、モーターMは駆動し続ける、このように自動運転に切り換えられた後に供給口1に供給される玄米がなくなると、排出口11から排出樋12に排出される精白米の量も徐々に減り、圧迫板13及び機械的伝達部18は第7図―Zにおいて矢印で示すように動き、第7図―Xに示す状態になる。この動作により、作動レバー28は作動金動24の端部から離れてスプリング30によつてマイクロスイツチ31を作動し、そのa接点MSをONにする、マイクロスイツチ31のa接点MSがONになると、リレーR1のb接点R1bがONになつているので、リレーR2が励磁されそのb接点R2bがOFFとなり、デルタ回路Drに設けた電磁接触器△(デルタ)が消磁され、そのa接点△aがOFFとなりモーターMは停止する、というものであることが認められる。右の原告製品(一)の構造によると、自動運転に切り換えられた後に供給口1に供給される玄米がなくなると、排出口11から排出樋12に排出される精白米の量も徐々に減り、圧迫板13及び機械的伝達部18は第7図―Zにおいて矢印で示すように動き、第7図―Xに示す状態になり、この動作によつて、作動レバー28は作動金物24の端部から離れてスプリング30によつてマイクロスイツチ31を作動し、そのa接点MSをONにするが、マイクロスイツチ31のa接点MSがOFFになるのは、切換レバー29の手動操作により、作動レバー28がマイクロスイツチ31より離れることによるものであつて、圧迫板13及び機械的伝達部18の作動によるものでないことが認められる。してみると、原告製品(一)は、本件発明にいう連結杆の構成を有しないものであつて、本件発明の構成要件(A)及び(B)を充足しないものといわざるをえず、したがつて、原告製品(一)は、本件発明の技術的範囲に属しないものというべきである。また、原告製品(二)が本件発明の技術的範囲に属しないことは、被告らの自認するところである。
以上によれば、被告らは、原告製品(一)及び(二)は本件発明の技術的範囲に属しないものであるにもかかわらず、原告及び原告系列の顧客先に対し、原告製品(一)及び(二)は本件発明の技術的範囲に属する旨主張して、原告製品(一)及び(二)の製造販売及び使用の中止等を要求したものであるから、それ自体原告の名誉又は信用を毀損するものというべきところ、前一1認定の右要求先の範囲及び要求内容に照らすと、右名誉又は信用の毀損は著しいものといわざるをえない。被告らは、原告の名誉又は信用を毀損するについて過失がなかつた旨主張するが、前一1の認定事実によると、原告製品(一)及び(二)が本件発明の技術的範囲に属するか否かについては、原告と被告らとの間に争いがあつたものであり、また、本件契約中の本件特許権の実施許諾の約定にしても、原告製品(一)及び(二)が本件発明の技術的範囲に属するものであることを当然の前提とするものではなく、原告製品(一)について、それが本件発明の技術的範囲に属するか否かにかかわらず、実施料の支払いをするというものであつたのであるから、被告らが原告に対してした信用毀損行為には過失があるものというほかない。この点に関して、被告らは、上田の捺印のある、本人兼被告雑賀技研代表者兼東洋精米機代理人の雑賀慶二作成名義の原告あて昭和四九年二月二一日付念書(乙第二号証―写を原本として提出)並びに原告及び佐竹利彦の全権上田克已と東洋精米機、被告雑賀技研及び本人の全権雑賀慶二の作成名義の昭和四九年五月九日付合意書(乙第一二号証―写を原本として提出)を挙示して、原告は、右各書面記載のとおり、原告製品(一)及び「ニユーミンパス」精米機が本件発明の技術的範囲に属することを認めていたのであるから、被告らが、原告及び原告系列の顧客先に対し、原告製品(一)及び「ニユーミンパス」精米機が本件発明の技術的範囲に属する旨主張して、その製造販売及び使用の中止等を要求したことには過失がなかつたとの趣旨の主張をするので、審案するに、右の乙第二号証及び第一二号証には、被告らが主張するような事項が記載されているけれども、右の乙第二号証及び第一二号証は、原告と被告らとの間の正式の契約書と目すべき体裁をとつていないこと、若しも、原告が右書面記載のとおり合意したのであれば、後に原告及び原告代表者佐竹利彦と被告ら及び東洋精米機との間において正式の契約書の体裁をとつて締結された本件契約中に、右合意のとおりの条項を入れることができたはずであるのに、本件契約にはその条項が存しないこと及び前一1の項認定の本件紛争に至るまでの一連の事実経過並びに前一1の項掲記の各証拠に照らすと、乙第二号証及び第一二号証の原本の存在及び成立を直ちに肯認することは困難であつて、被告雑賀技研代表者兼被告雑賀慶二本人尋問の結果中、被告らの右主張に添う供述部分は、たやすく採用することができず、他に被告らの右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、したがつて、被告らの右主張は、採用することができない。また、被告らは、原告及び原告系列の顧客先に対してその製造販売及び使用の中止等を要求した「ニユーミンパス」精米機は、原告の説明によると、本件発明の技術的範囲に属するものであつて、原告製品(二)とは異なるものであつたので、被告らが、「ニユーミンパス」精米機が本件発明の技術的範囲に属する旨主張して、その製造販売及び使用の中止等を要求したことには過失がなかつた旨主張するが、被告雑賀技研代表者兼被告雑賀慶二本人尋問の結果中、被告らの右主張に添う供述部分は、前一1の項掲記の各証拠に照らしたやすく採用することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右の「ニユーミンパス」精米機の中に原告製品(二)が含まれていたことは前一1の項の認定のとおりであり、したがつて、被告らの右主張は、採用の限りでない。
2 してみると、原告の謝罪広告請求は、その広告内容に照らし、原告の名誉又は信用を回復するのに適当な処分として相当と認められるから、理由があるものというべきである。
第二 反訴請求について
被告雑賀技研の原告に対する反訴請求は、原告の原告製品(一)の製造販売行為が本件特許権を侵害するものであることを理由とするものであるところ、本件特許権の侵害が認められないことは、前第一、二、1の項に判断するとおりであるから、その余の点について検討するまでもなく、理由がないものというべきである。
第三 結語
よつて、原告の被告らに対する本訴請求は、不当利得返還請求の一部及び謝罪広告請求を認容し、その余の不当利得返還請求を棄却し、また、被告雑賀技研の原告に対する反訴請求は、これを棄却することとする。
〔編註その一〕 本願発明の構成要件は左のとおりである。
(A) 精穀機の排穀口に設けられた圧迫板の開閉作用を伝達する連結杆を設け、
(B) 該連結杆でもつて開閉作動する回路スイツチを設け、
(C) 該回路スイツチより電磁開閉器の電磁石に電気回路を連結せしめて、精穀機の電動機を自動的に停止せしめるようになした精穀機において、
(D) 前記回路スイツチを操作することなく、精穀機の電動機を起動せしめる起動スイツチを別個に設けたことを特徴とする、
(E) 精穀機の自動停止装置。
〔編註その二〕 本件に関する広告目録は左のとおりである。
広告目録
(一) 一 日本農業新聞 二 日本経済新聞 三 米穀新聞 四 農経しんぽう 五 農機新聞 六 商経アドバイス
(二)
謝罪広告
財団法人雑賀技術研究所及び雑賀慶二は、昭和五二年四月頃より、貴社系列の全国の代理店及びその販売先である米穀店に対し、貴社の製造販売に係る精米機(商品名「モノミンパス」及び「ニユーミンパス」)が財団法人雑賀技術研究所の有する特許権(登録第六九五四〇五号、発明の名称「精穀機の自動停止装置」)を違法に侵害している旨を記載した事実に反する文書を大量に頒布し、このため貴社の名誉と信用を害し、多大の損害をお掛けしましたことをここに謝罪します。
昭和 年 月 日
和歌山市毛革屋丁二二番地
財団法人 雑賀技術研究所
右代表者理事 雑賀慶二
和歌山市茶屋ノ丁七番地の一六
雑賀慶二
株式会社佐竹製作所 殿
(三) 標題、当事者双方の名称及び代表者名は、ゴシツク四号活字、その他の部分は、明朝四号活字を使用