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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)4851号 判決 1981年4月06日

原告 株式会社日医リース

右代表者代表取締役 小菊屋尚秀

右訴訟代理人弁護士 土屋博昭

被告 株式会社司生堂薬局

右代表者代表取締役 庄司美代子

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 堀切真一郎

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金八四四万八〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年四月一日から支払済まで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文同旨の判決並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は主として病院その他医療機関に対する医療用機械器具等のリースを業とする者であり、被告庄司美代子(以下「被告庄司」という。)は薬局業である被告株式会社司生堂薬局(以下「被告会社」という。)の代表者である。

2  原告は、昭和五二年一二月二〇日、被告会社に対し、ヘルマックス(HVF―一〇〇〇)一〇〇台及び麦飯石一〇〇セット(以下「本件物件」という。)を次の約定で割賦販売により売り渡す旨約した(以下「本件契約」という。)。

(一) 代金 九二一万六〇〇〇円

(二) 弁済方法 昭和五二年一二月五日から昭和五五年一二月四日までの間一月二五万六〇〇〇円宛割賦により支払う。

(三) 特約 割賦金の支払を一回でも怠ったときは、期限の利益を失い、残債務を即時支払う。

(四) 遅延損害金 年一五パーセントの割合によるものとする。

3  被告庄司は、右契約日に、原告に対し、被告会社の本件契約上の債務につき連帯保証する旨約した。

4  被告会社は、昭和五三年三月三一日に支払うべき割賦金二五万六〇〇〇円の支払のため振り出した約束手形を不渡りとし、その支払を怠った。

5  よって、原告は、被告らに対し、連帯して割賦販売残代金八四四万八〇〇〇円及びこれに対する期限の利益を喪失した日の翌日である昭和五三年四月一日から支払済まで年一五パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求原因事実はすべて認める。

三  抗弁

被告会社は、すべての割賦代金支払のため額面金額二五万六〇〇〇円の約束手形三六枚を原告に交付したが、原告は本件物件の引渡をしないので、被告会社は、昭和五四年八月一三日付の書面をもって原告に対し、この書面の到達後一週間以内に本件物件を引き渡すよう催告するとともに、その期間内に引渡がされないときは、本件契約を解除する旨の停止条件付解除の意思表示をし、右意思表示は、同月一五日原告に到達した。

従って、本件契約は、同月二二日の経過により解除された。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は、原告が本件物件の引渡をしないとの点を除き認める。

五  再抗弁

1  (解除権の放棄)

(一) 本件契約には、以下の約定がある。

(1) 被告会社は、物件引渡完了のとき、割賦金支払のための約束手形を交付する(第三条)。

(2) 物件は、メーカー又は原告の仕入先が直接被告会社に対し納入することができる(第四条)。

(3) 原告は、物件引渡完了後は責任を負わず、また、物件に隠れた瑕疵があったとき又は物件の引渡が仕入先側の都合で遅延したときは、原告は仕入先に対する請求権を被告会社に譲渡できるが、本件契約は変更しない(第五条)。

(二) 本件物件は、訴外株式会社ノザック(以下「ノザック」という。)が訴外株式会社日本アイ・ディー・エス(以下「日本アイ・ディー・エス」という。)に売り渡し、同会社から原告がこれを仕入れて被告会社に割賦販売し、引渡はノザックから被告会社に対し直接され、被告会社が割賦金支払のための手形を原告に交付し、原告は仕入代金を日本アイ・ディー・エスに支払うことになっていた。

(三) 以上の関係は、原告が被告会社及び日本アイ・ディー・エスに対し信用を供与するファイナンスリースと同一のものであり、実質的には消費貸借契約であり、原告の日本アイ・ディー・エスに対する仕入代金の支払が貸金の交付に、被告会社の原告に対する割賦金の支払が貸金の元利均等割賦弁済に相当するものである。

(四) 被告会社は、右の関係を利用して資金繰りをしようとしたノザックに協力する目的で本件契約を締結し、原告に対し約束手形を交付したものであるから、これによって仮に本件物件の引渡がなされなかったとしても、そのことを理由とする契約解除権を放棄したものと解すべきである。

2  (禁反言)

本件契約の実質は、前記のとおり原告の信用供与としてのファイナンスリースであるところ、被告会社代表者の被告庄司は、本件契約締結の際、原告の担当職員に対し、本件物件は既に受領済である旨言明したので、原告はこれを信用して本件契約を締結し、仕入先である日本アイ・ディー・エスに対し仕入代金を支払ったものであり、原告のなすべき信用供与は履行済であるので、その後において被告会社が物件の引渡がないことを主張するのは禁反言の原則に反するから、本件契約解除は無効である。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実のうち、(一)ないし(三)は争い、(四)は否認する。

2  同2は争う。

原告の担当職員が一挙手一投足を惜しまなければ、本件物件の引渡のないことが確認されたはずであり、この点において原告に重大な過失があるから、原告は禁反言を主張できない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因事実は当事者間に争いがなく、抗弁事実は本件物件の引渡の点を除いて当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  ノザックは、麦飯石を用いて水道水をミネラルウォーターに変換する装置であるヘルマックスを製造し、日本アイ・ディー・エスに販売させ、原告は、日本アイ・ディー・エスからこれを大量に仕入れて全国の薬局に対し割賦販売していた。

2  被告会社は、昭和五一年ころからヘルマックスを現金買で仕入れ販売していたが、昭和五二年八月以降、ノザックの勧めにより、リース会社を通じてヘルマックスをまとめて購入することとし、原告以外の三社との間で各一〇〇台ずつの購入契約を締結した。次いで同年一二月に入り、被告会社は本件物件の購入について原告の信用調査を受け、その一週間位後の同月二〇日、原告との間において本件契約を締結し、契約書(甲第一号証の一)を作成したが、その際、被告会社代表者である被告庄司は、原告の担当職員仙台営業所長小林武彦の質問に答えて、被告会社が現実には本件物件を受領していないのに、これを既に同月五日ころ受領済である旨述べたので、右小林は、契約書の物件引渡予定日欄に、昭和五二年一二月五日との記載をするとともに、割賦期間を同日から昭和五五年一二月四日までの三六月である旨の記載をした。同時に、被告庄司は、原告の用意した受領書(甲第一号証の二)の受領確認欄に被告会社の印を押捺してこれを小林に交付した。右受領書の作成日付は、後に原告会社により同月一五日と記入された。

3  本件契約には、(1)被告会社は、物件引渡完了のとき、割賦金支払のための約束手形を交付する(第三条)、(2)物件は、メーカー又は原告の仕入先が直接被告会社に納入することができる(第四条)、(3)原告は、物件引渡完了後は責任を負わず、また、物件に隠れた瑕疵があったとき又は物件の引渡が仕入先側の都合で遅延したときは、原告は仕入先に対する請求権を被告会社に譲渡できるが、本件契約を変更しない(第五条)との各条項がある。

4  原告は、本件割賦金支払のため被告会社の振り出した約束手形三六枚(額面金額各二五万六〇〇〇円)をノザックの長田を通じて受領した後、日本アイ・ディー・エスに対し仕入代金全額を支払った。

5  本件契約後もノザックから被告会社に対する本件物件の納入はされなかったので、被告会社の原告に対する第一回から第三回までの割賦金支払のための約束手形は、ノザックが自ら決済したが、ノザックは昭和五三年二月末ころ倒産し、以後、原告に対する割賦金の支払はされなくなった。以上の事実を認めることができ、右認定に反する被告会社代表者兼被告庄司本人尋問の結果の一部は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  右認定の事実及び甲第一号証の一によれば、本件契約がリース会社の行う信用供与の性質を含む割賦販売契約であることは否定できないが、右認定の本件契約五条をもってしてもそれが買主である被告会社の債務不履行に基づく契約解除権を排除する趣旨であると解することはできず、また、本件全証拠によっても、ノザックが本件契約の右の信用供与の性質を利用して自己の資金繰りをしようとしたことに協力する趣旨で被告会社が本件契約を締結し、割賦金支払のための約束手形を振り出したことによって契約解除権を放棄したと認めるには足りない。

よって、再抗弁1は理由がない。

四  ところで、前認定のとおり、被告会社は本件契約以前に既に三つのリース会社との間でヘルマックス購入契約を締結しているが、被告会社代表者兼被告庄司本人尋問の結果によれば、右の各契約についても、最初の契約が成立した昭和五二年八月から本件契約成立まで四月間ヘルマックスは被告会社に一台も納入されていないことが認められる。それにもかかわらず重ねて締結された本件契約に際して、被告代表者は、前認定のとおり事実に反して本件物件が契約に先立って既に納入されている旨明言しているのであるから、先の各リース会社との契約の経験から考えて、被告会社代表者である被告庄司は、リース会社である原告に右のような説明をして割賦金支払のための約束手形を交付すれば、原告が本件物件の仕入代金を仕入先に支払うことを知って右の言明をしたものと推認することができ、この認定を覆すに足りる証拠はないところ、原告会社が被告会社振出の約束手形を受領後本件物件の仕入先である日本アイ・ディー・エスに対し仕入代金を支払ったことは前認定のとおりであり、これによって原告の被告会社に対する信用供与の趣旨は実現されたものであり、以後ノザック倒産に至るまでの間、被告会社が本件物件が納入されないことにつき原告に特段の措置を求めた形跡もない。

右の事実関係からすれば、原告の本件訴訟提起後に至ってはじめて本件物件が自己の前言に反して被告会社に納入されていなかったとの理由により本件契約の解除を主張することは、商取引の信義に反するものというほかなく、その効力を認めることはできないというべきである。

なお、被告庄司は、甲第一号証の二の受領書を作成交付したのは、ノザックの長田から、受領書の発行がないと本件物件を出庫できないと言われたからである旨供述するが、このことに原告が荷担したとの事情も認められず、また、原告において本件契約締結の際本件物件の納入の事実を確認することは容易であったから原告がこれをしなかったのは重大な過失である旨の主張についても、本件契約がリース契約と異なり、被告会社が転売を目的とする動産の売買であるから、現品を直接確認しなくとも買主である被告会社に直接その受領の有無を問合せることで確認の行為として十分であると認められるから、いずれも右の結論を左右するに足りない。

よって、再抗弁2は理由がある。

六  以上のとおりであり、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用し、なお仮執行の宣言はこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 久保内卓亞)

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