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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)5433号 判決 1981年10月30日

原告 徳山雅一

被告 鉄商工業株式会社 外三名

主文

一  被告鉄商工業株式会社は原告に対し金一一五〇万円及びこれに対する昭和五四年一一月一四日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告石崎則義は原告に対し金一一五〇万円及びこれに対する昭和五四年一一月一四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告石崎則義に対するその余の請求並びに被告石崎正義及び同井上大二郎に対する各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告鉄商工株式会社及び同石崎則義に生じた費用を同被告らの負担とし、原告に生じたその余の費用と被告石崎正義及び同井上大二郎に生じた費用を原告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは原告に対し各自金一一五〇万円及びこれに対する昭和五四年一一月一四日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告石崎正義及び同井上大二郎

1  原告の右被告両名に対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告鉄商工業株式会社及び同石崎則義

右被告両名は公示送達による適式な呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告鉄商工業株式会社(以下「被告会社」という。)は建築材料等の製造販売を業とするもの、被告石崎則義(以下「被告則義」という。)は被告会社の代表取締役、被告石崎正義(以下「被告正義」という。)は被告則義の実父で被告会社の取締役、被告井上は被告則義の義弟で被告会社の取締役である。

2  原告は、被告会社振出に係る別紙約束手形目録記載の約束手形一一通(額面合計一一五〇万円)を所持しており、右各手形を満期に支払場所に呈示した。よつて、被告会社に対し右手形金合計一一五〇万円及びこれに対する満期後である昭和五四年一一月一四日から完済に至るまで手形法所定年六分の割合による利息の支払を求める。

3  被告会社は被告則義及び同井上が実際に経営していたが、右被告両名は、昭和五〇年一二月ごろ、取引先である有限会社笹原工業(以下「笹原工業」という。)の依頼により、被告会社に決済資力がないにもかかわらず、融通手形として額面合計四〇〇万円の被告会社の約束手形を笹原工業宛に振り出し、笹原工業はこれによつて原告から手形割引を受けた。笹原工業は昭和五一年一月倒産したので、支払期日が到来した手形については右被告両名が被告会社振出の書替手形を原告に差し入れていた。

更に、昭和五一年六月ごろ、被告会社が資金繰りに窮したため、右被告両名は、決済の見通しがないにもかかわらず額面合計七五〇万円の被告会社の約束手形を振り出し、これによつて原告から手形割引を受けた。そして、支払期日が到来した手形については右被告両名が被告会社振出の書替手形を原告に差し入れていた。

別紙約束手形目録記載の約束手形一一通(以下「本件手形」という。)は被告会社振出に係る右書替手形である。

4  しかるところ、被告会社は昭和五二年五月約一億円の負債を抱えて倒産し、本件手形の支払が不能となり、原告は手形金相当の一一五〇万円の損害を被つた。

5  被告則義及び同井上は、被告会社の代表取締役又は取締役として、本件手形の振出当時被告会社がこれを決済できる見込が全くなく、手形所持人に損害を及ぼすことを熟知しながら、あえて本件手形を振り出して原告に損害を被らせたものであるから、取締役の職務を行うにつき悪意又は重過失があつたものというべきであり、また、被告正義は、被告会社取締役の地位にありながらその経営を被告則義及び同井上に一任し、悪意又は重過失により取締役としての職務を怠つたものであるから、いずれも商法二六六条の三の規定により原告の被つた前記損害を賠償する責任を免れない。

6  よつて、被告則義、同井上及び同正義に対し各自前記損害一一五〇万円の賠償とこれに対する訴状送達後である昭和五四年一一月一四日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告正義及び同井上の認否

1  請求原因1の事実のうち、被告らの身分関係は認めるが、右被告両名が被告会社の取締役であることは否認し、その余は不知。

2  同2の事実は不知。

3  同3の事実のうち、被告井上が被告会社の経営に当たつていたこと及び同被告が原告主張の手形振出に関与したことは否認し、その余は不知。

4  同4の事実は不知。

5  同5の事実のうち、被告井上が被告会社の取締役であること、同被告が本件手形に決済見込がなく手形所持人に損害を及ぼすことを熟知していたこと並びに被告正義が被告会社の取締役として経営を被告則義及び同井上に一任していたことは否認し、被告正義及び同井上が商法二六六条の三の責任を負うべきことは争う。その余は不知。

第三証拠<省略>

理由

一  被告会社に対する請求について

証人笹原厳の証言及び原告本人尋問の結果並びにこれらにより成立を認める甲第二ないし第一二号証の各一、二によれば、請求原因2の事実を認めるに十分である。したがつて、被告会社に対し本件手形金合計一一五〇万円及びこれに対する満期後である昭和五四年一一月一四日から完済に至るまで手形法所定年六分の割合による利息の支払を求める原告の請求は正当として認容すべきである。

二  被告則義に対する請求について

成立に争いのない甲第一号証、乙第一、二号証及び前掲各証拠に弁論の全趣旨を合わせると、次の事実を認めることができる。

1  被告則義は、昭和四八年二月建築材料等の製造販売を目的とする被告会社を設立し、その代表取締役として経営に当たつていた。

2  昭和五〇年一二月ごろ、被告則義は、取引先である笹原工業から経営悪化を理由として融通手形の発行を頼まれ、笹原工業がこれを決済しなければ被告会社には自ら支払う資力がないことを知りながら、額面合計四〇〇万円の被告会社の約束手形を笹原工業宛に振り出し、笹原工業はこれによつて知人である原告から手形割引を受けた。しかし、笹原工業は翌五一年一月倒産し右手形を決済することができなくなり、被告会社にも支払能力がなかつたので、被告則義はその後何回かにわたり被告会社振出の書替手形を原告に差し入れて支払の延期を重ねてきた。別紙約束手形目録記載(二)ないし(四)の手形(甲第三ないし第五号証の各一、二。額面合計四〇〇万円)は右書替に係る最後の手形である。

3  被告会社の経営は昭和五一年六月ころには相当悪化して資金繰りが苦しく、他から借入をしても返済できる見通しはなかつたが、被告則義はこれを知りながら、被告会社の資金調達のために原告から手形割引を受けようと考え、そのころ額面合計七五〇万円の被告会社の約束手形を振り出し、これを笹原工業の紹介により原告の許に持参して手形割引を受けた。しかし、被告会社には右手形を決済する資力がなかつたので、被告則義は、これについても前同様被告会社振出の書替手形を原告に差し入れて支払の延期を重ねてきた。別紙手形目録記載(一)(五)ないし(二)の手形(甲第二号証の一、二、第六ないし第一二号証の各一、二。額面合計七五〇万円)は右書替に係る最後の手形である。

4  本件手形が振り出された昭和五二年二月ないし五月当時、被告会社の経営は悪化し、右手形を支払える見込みが全くないことを被告則義は知つていたにもかかわらず、同被告は原告に対し、「被告会社は一族で経営している会社で他に不動産も多くあるから心配はない。」などと甘言を申し向けて手形の書替に応ずることを承諾させ、支払見込みのない本件手形を振り出したものであつて、同年六月ごろ、被告会社が数千万円の負債を負つて倒産したことにより、原告は本件手形の支払を受けることが不能となり、右手形金相当の一一五〇万円の損害を被るに至つた。

以上の認定事実によれば、被告則義が前記のごとき状態の下で本件手形を振り出したことは同被告の被告会社代表取締役としての職務の執行につき悪意又は重過失があつたものというべきであり、同被告はこれによつて原告の被つた損害一一五〇万円を賠償する責任を免れない。

なお、原告は右損害につき商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めているが、右損害賠償債務は商行為によつて生じた債務ではないから、これに対する遅延損害金は民事法定利率年五分の割合によるべきものである。

したがつて、原告の被告則義に対する請求は、前記損害一一五〇万円及びこれに対する訴状送達後である昭和五四年一一月一四日(同被告に対する訴状の公示送達が同月一二日の経過により効力を生じたことは記録上明らかである。)から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべく、その余は棄却すべきである。

三  被告正義及び井上に対する請求について

原告は、右被告両名が被告会社の取締役であると主張する。確かに、被告会社の株主総会議事録である乙第三号証の五には右被告両名が昭和五〇年三月二〇日の株主総会において取締役に選任され就任を承諾した旨記載されており、また、被告会社の商業登記簿である甲第一号証及び乙第一、二号証には右被告両名が被告会社の取締役として登記されていることが明らかである。しかし、右被告両名本人尋問の結果によれば、右議事録の記載及び登記は被告則義が無断で勝手にしたものであつて、被告正義及び井上はこれを知らなかつたことが認められるのであり、これを覆えすに足りる証拠はない。また、右虚偽登記の現出ないし存続について右被告両名に帰責事由のあることを認めるべき証拠もない。

してみると、右被告両名が被告会社の取締役であることを前提とする原告の同被告らに対する請求は失当として棄却すべきものである。

四  以上のとおりであるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤繁)

(別紙)約束手形目録<省略>

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