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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)566号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

二そこで右賃料増額の意思表示の効力について判断する。

1 <証拠>によれば、本件建物は、地下鉄日比谷線仲御徒町駅の東方約五〇〇メートルに位置し、春日通りと清洲橋通りとの竹町交差点の西方約五〇メートルのところから南に向かつて伸びる佐竹商店街のほぼ中央に所在すること、本件建物の敷地である台東区台東三丁目一七七番八宅地76.15平方メートルと同番九宅地47.76平方メートルとについては原告がその所有者である東京都から賃借しているものであること、右建物は、昭和四八年七月頃、右合計123.91平方メートルの敷地(以下本件土地という。)に建設された鉄骨造陸屋根の五階建店舗・居宅で、一階は店舗、二階以上は居宅等となつていて各階毎に構造上利用上独立性の要件を備えており、本件賃貸借部分はそのうち、三階南側居宅部分であり、居間(八帖)、客間(四・五帖)洋間寝室台所兼食堂浴室便所があり、上下水道が完備され、保守管理の状況は良好であるが、多少の要補修箇所があること、なお本件建物は、店舗付居宅として最有効使用の状態にあること、さらに、本件建物の属する佐竹商店街は南北約三五〇メートルのアーケード付路線商業地域であり、幅員約七メートルの道路の両側に中低層の店舗が連担し大部分が日常品の小売店舗であること、この地域は、業務地域となつている周辺の居住者等を顧客の対象とした近隣商業地域的性格を有し、活況を呈していて、公法上の規制は商業地域防火地域に指定され、建ぺい率八〇パーセント、容積率六〇〇パーセントとなつていること等の各事実が認められ、これに反する証拠はない。

2 本件賃貸借部分の継続賃料の適正額を算出するにあたつては、本件賃料増額の意思表示のなされた時点における建物および土地(更地)の価格に期待利回りを乗じて得た額に、貸賃借を継続するのに必要な諸経費を加算した積算賃料を求め、さらに、各階層別の効用積数比率と各部分別の効用積数比率を査定して、対象部分に対応する正常賃料相当額を決定した後、本件賃貸借の経緯、内容条件等を総合的に考慮して修正のうえ決すべきものである。

これに基づいて本件賃貸借部分の適正賃料について判断するのに、<証拠>によれば、本件土地の昭和五三年一二月の時点における更地価格は九八三〇万円(一平方メートル当り、七九万四〇〇〇円)であつたこと、また本件建物の右時点における価格は、五五四六万円となること、従つて建物と敷地の基礎価格は一億五三七六万円となるものであること、そして、本件建物の賃貸人の期待利回りは、土地につき年六パーセント、建物につき年一二パーセントが相当であるものと認められ、従つて右土地、建物を投下資本とする利潤額(年額純賃料)は、一二五五万三二〇〇円となるものであること、さらに本件土地、建物の昭和五三年度における公租公課(固定資産税・都市計画税)の総額は、ほぼ四八万四五六〇円であり、同年度の本件建物の減価償却費は、一六三万一一七六円、同建物に関する損害保険料(年額)は、一二万二八一二円、同建物の維持修繕費(年額)は一一八万九二〇〇円が各相当であるものと認められること、そして以上の各価格を基礎として、「本件土地、建物を投下資本とする利潤額+必要経費」の算式に従つて、昭和五三年一二月一日の時点における同建物の正常実質賃料(年額)を算出すると、一五九〇万〇一四六円となるから、これを本件賃貸借部分の効用積数割合に従つて按分したうえ、右正常実質賃料(月額)を求めると、一四万六二八一円となるものであること、等の各事実を認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。

ところで、右賃料額は、増額請求前の約定賃料に比して一四倍を超える高額であり、賃借人たる被告にとつて酷であると考えられる。もとより、右の約定賃料が昭和四八年七月に合意されたものであることは、<証拠>によつて明らかであり、また<証拠>によれば、右賃料は当時としても低廉な額であつたことが認められるうえ、その当時、被告から元賃貸人の花健に対し、権利金敷金等の一時金の授受もなく、右の低廉な賃料が昭和五三年一二月まで据置かれてきたことは、きわめて異常と目さなければならず、またかかる事情は、被告と花健との間の、被告の娘婿である訴外吉田太一が、花健に対する本件土地賃借権の譲渡人であり、その代金が未払であることに対する代償である、との個人的な関係に主として基づくものであることも弁論の全趣旨から明らかである。しかし、他方で被告が老令で資力がなく、その生活費の殆んどは前記の娘夫婦に依存しているものであることも弁論の全趣旨から明らかであり、かかる状況にある被告がともかくも右のような賃料で長年生活の本拠を確保してきたことの利益も顧慮に値するのであつて、これを全く無視して、一挙に一四倍強への高騰を容認することは妥当ではないと考える。

以上の点を考慮し、さらに前記甲第二号証中、(総理府発表の東京都区部の消費者物価指数の変動率の部分によれば、昭和四八年七月から昭和五三年一二月にかけて一般取引界における家賃額が1.57倍の伸びを示していると認められることを勘案すると、昭和五三年一二月一日の時点での適正賃料は、前記の正常実質賃料に更に修正を加え、従前の賃料を1.57倍した額に右正常実質賃料額を加算し、これを二で除した数額とするのが相当と考えるものである。これによると、本件賃貸借部分の適正継続賃料は、月額八万円(一〇〇〇円未満切拾て)となる。

<証拠判断略>

以上のとおりであるから、本件賃貸借部分の賃料増額の意思表示は、昭和五三年一二月一日以降右の限度で増額の効果を生じたものと認むべきであり、原告の賃料増額確認請求は右の限度で正当として認容し、これを超える部分は失当として棄却すべきものである。

(手島徹)

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