東京地方裁判所 昭和54年(ワ)6625号 判決
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【判旨】
二そこで、抗弁につき判断することになるが、原告は、抗弁及び被告による証人金政夫の申請は民訴法一三九条一項により却下されるべきである旨申し立てるので、まず、この点について考える。
1 以下の事実は、当裁判所に顕著である。
(一) 被告は、昭和五五年八月二〇日付同日提出の準備書面(同日の第七回口頭弁論期日で陳述)により、前記立退料支払の合意に基づく同時履行の抗弁を主張するまでは、右合意については、一切主張したことはなく、被告は、防禦方法として、答弁書提出以来、本件建物の占有権原として、昭和五二年七月一六日成立の短期賃貸借契約に基づく賃借権を主張し、原告はこれを争つていた(答弁書より後に提出されたこの点に関する準備書面として、昭和五四年一〇月二三日付同日提出の原告準備書面及び同年一二月一八日付同日提出の被告準備書面がある)。
(二) 本件口頭弁論の第一回期日は、昭和五四年八月七日であり、以後、同年一二月一八日までには、五回にわたり口頭弁論期日が指定されている。
(三) その後、昭和五五年一月三〇日から同年五月二九日まで、七回にわたり和解期日が指定され、そのうち、同年三月一二日から同年五月二九日までの五回にわたる和解期日において、双方代理人が出頭して、被告が原告に対し本件建物を明け渡すとした場合のいわゆる立退料の支払、その額などをめぐつて和解が行われ、右五月二九日の期日にいたり、当事者間に合意の成立する見込がなくなつたため、和解が打ち切られた。
右和解手続中、和解期日において、被告代理人から前記立退料支払の合意が主張されたことはない。
(四) 和解打切後の第二回目の口頭弁論期日であり、かつ、被告主張の短期賃貸借の期間が満了した後の時期の口頭弁論期日である昭和五五年八月二〇日の第七回口頭弁論期日になつて、初めて、従前の賃借権の抗弁を撤回し、前記立退料支払の合意に基づく同時履行の抗弁が主張されるにいたつた。
2 被告の短期賃貸借契約に基づく賃借権の主張が、昭和五五年七月二六日を経過すれば、仮に被告主張の契約成立の時期を前提として考えても、請求原因事実(当事者間に争いがない)に照らし、理由のないものとなること及び右賃貸借契約の内容と成立の時期を原告が争つているのであるから、その立証にある程度の期間を要することは、容易に考えうるところであり、かつ、前記同時履行の抗弁の内容をなす合意は、被告の主張によれば昭和五三年一一月中旬ころに成立したというのであるから、本件訴の提起後いつでも右合意を理由とする同時履行の主張をすることは可能であつたと考えられる。
3 右1及び2に判示したところに照らして考えると、被告の前記同時履行の抗弁は、被告の重大な過失により時機に後れて提出された防禦方法であると言うほかはない。さらに、右抗弁が提出された第七回口頭弁論期日においては、当事者双方の従前の主張を前提とする限り、本件訴訟の審理は、すでに弁論終結の段階にいたつていたのであり、右抗弁の提出は、原告において右抗弁を争うことが明らかであるため、新たな証拠調を必要とする点において、訴訟の完結を遅延させるものであると言わねばならない。
したがつて、右抗弁及び右抗弁にかかる事実を立証するための証人金政夫の申請は、民訴法一三九条一項を適用して、いずれもこれを却下する。
(伊藤滋夫)