大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和54年(ワ)7424号 判決 1981年9月17日

原告

細川和子

被告

三洋商事株式会社

ほか一名

主文

一  被告三洋商事株式会社は、原告に対し、金一四五万円及び内金一三〇万円に対する昭和五〇年九月二四日から、内金一五万円に対する昭和五四年八月一六日から、各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告坂本良雄は、原告に対し、金一四五万円及び内金一三〇万円に対する昭和五〇年九月二四日から、内金一五万円に対する昭和五四年八月二一日から、各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金二四三万二五〇〇円及びこれに対する昭和五〇年九月二四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮定的に担保を条件とする仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五〇年九月二三日午後六時三〇分ころ

(二) 場所 東京都中央区八丁堀二丁目二三番地先路上

(三) 加害車両 被告坂本良雄(以下、被告坂本という。)運転の普通貨物自動車(品川四四り二一三九)

(四) 被害者 原告

(五) 態様 前記日時場所で、茅場町方面から地下鉄八丁堀駅前交差点に進入し、東京駅方面へ右折しようとした加害車両が、同交差点の横断歩道上を青信号に従つて横断歩行中の原告に衝突した。

(六) 傷害 腰部打撲症、両下腿部打撲症。

2  責任原因

(一) 被告三洋商事株式会社(以下、被告会社という。)は、加害車両の保有者で、これを自己のため運行の用に供していた者であり、自動車損害賠償補償法(以下、自賠法という。)三条による賠償責任を負う。

(二) 本件事故は、前方を注意していなかつた被告坂本の過失により生じたものであり、被告坂本は、民法七〇九条による賠償責任を負う。

3  損害

原告は本件事故により、以下の損害を被つた。

(一) 休業損害 金一万二五〇〇円

原告は、本件事故による傷害のため、昭和五〇年九月二五日から同月二九日まで勤務先である訴外ラビー株式会社東京支店に出勤することができなかつたが、右休業期間に被つた損害の額は、自動車損害賠償責任保険査定基準である一日あたり金二五〇〇円、五日間合計金一万二五〇〇円を下回ることはない。

(二) 慰藉料 金二二〇万円

原告は、本件事故のため、昭和五〇年九月二三日以降同五三年二月八日まで、約二年四か月間余り通院治療を余儀なくされ、右治療によつても、左臀部痛、左下肢痛、痔核等のほか、左側股関節の機能障害(屈曲=自動〇ないし六〇度、外転=自動〇ないし四〇度、内旋=自動〇ないし三〇度等、運動領域の制限を受けるようになつたこと)及び左膝関節の機能障害(屈曲=自動〇ないし六〇度、他動〇ないし八〇度等、運動領域の制限を受けるようになつたこと)の後遺障害を残すに至つたが、これは、自賠法施行令別表一二級に該当するものである。

右のような原告の被つた精神的苦痛を慰藉するには、通院期間に対し金一二〇万円、後遺障害に対し金一〇〇万円、合計金二二〇万円の慰藉料が相当である。

(三) 弁護士費用 金二二万円

原告は、右(一)、(二)のとおり金二二一万二五〇〇円の損害賠償請求権を有するところ、被告らが任意に弁済しないため、本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任したが、右金額の約一割に当たる金二二万円は、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

(四) 合計 金二四三万二五〇〇円

そこで、原告は被告らに対し、各自、右合計金二四三万二五〇〇円及びこれに対する不法行為の日の翌日である昭和五〇年九月二四日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1、2の事実は認める。

2  同3(一)の事実は知らない。

同3(二)は争う。原告は本件事故当時から職業病(頸腕症候群)の治療のため一日おきに通院しており、本件事故による打撲症の治療としてはほんの初期の段階に集中的に行われたにすぎない。すなわち、昭和五〇年一一月以降の治療は職業病の治療に付随して行われたにとどまり、原告主張のように約二年四か月間余りの通院治療を要したものとはいえないから、慰藉料の算定は慎重にされるべきである。

また、原告主張の後遺障害についても、原告の左側股関節の運動領域は、自動の場合のみならず他動の場合の計測値を併せ考えると健側の運動領域とほぼ同一であるし、左膝関節の運動領域は、健側(右膝関節)のそれと比較して四分の三以下に制限されているわけではないから、自賠法施行令別表一二級に該当する後遺障害とはいえないし、その余の原告主張の後遺障害も本件事故に起因するものではない。

同3(三)は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求の原因1(事故の発生)及び2(責任原因)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、請求の原因3(一)休業損害について判断する。

原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故による腰部、下臀部打撲による傷害、特に臀部痛のため、昭和五〇年九月二五日から同月二九日までの五日間、勤務先であるラビー株式会社東京支店に出勤することができなかつたことが認められるけれども、右五日間の欠勤によつて原告の収入が減少し、得べかりし賃金を喪失したことを認めるに足りる証拠はないから、原告の休業損害に関する請求は理由がない。

三  次に、請求の原因3(二)慰藉料について判断する。

1  通院期間に対する慰藉料

原告本人尋問の結果並びにこれにより真正に成立したものと認められる甲第二号証、第四号証(後記一部採用しない部分を除く。)、第六号証ないし第一五号証によれば、原告は、本件事故による腰臀部打撲症等の治療のため、昭和五〇年九月二三日から同月二五日までの間に医療法人社団三和会中央病院に二回通院して治療を受けたが、当時、原告は、職業病である頸腕症候群の治療のためほぼ一日おきに東京大学医学部附属病院に通院していたため、本件交通事故による傷害の治療も同病院の物療内科で受けることとし、腰臀部打撲症等の治療のため、昭和五〇年九月三〇日から同年一一月二六日までの間に一四回の診療を受け、それ以降については、腰部打撲後遺症の治療のため同五二年一〇月五日から症状固定日である同五三年二月八日までの間に七回(その後同年三月二九日までの間に二回)の診療を受けたことが認められる。なお、前掲甲第四号証には、本件事故による傷害またはその後遺症の実治療日数が昭和五〇年九月三〇日から同五三年二月八日までの間に二四八日であつた旨の記載があるが、前掲甲第七号証ないし一五号証と対比して考えると、右二四八日の治療日数のうちには併行して治療を受けていた頸腕症候群のための日数をも合わせて算入されているものと認めるのが合理的であるから、甲第四号証の右部分の記載は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。また、被告らは、原告の右通院治療のうち、昭和五〇年一一月以降の分は、すべて前記頸腕症候群のためのものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠もないし、原告が前記頸腕症候群の治療を併行して受けていたために、本件事故による傷害の治療期間が通常の場合よりも長引いたものと認めるに足りる証拠もない。

右のような治療の経過と通院期間、傷害の程度等を勘案すると、右通院期間に対する慰藉料の額は、金五〇万円が相当である。

2  後遺障害に対する慰藉料

原告本人尋問の結果並びにこれにより真正に成立したものと認められる甲第四号証及び第一六号証によれば、原告の本件事故による傷害は、昭和五三年二月八日症状固定に至つたが、左臀部痛、左下肢痛、痔核等のほか、左側股関節の機能障害(屈曲=自動〇ないし六〇度、外転=自動〇ないし四〇度、内旋=自動〇ないし三〇度。健側である右側に比べて屈曲二五度、外転五度、内旋一五度の運動領域の制限を受けるようになつたこと)、左膝関節の機能障害(屈曲=自動〇ないし六〇度、他動〇ないし八〇度。健側の右膝関節に比較して自動、他動とも二〇度の運動領域の制限を受けるようになつたこと)の後遺障害を残すに至つたことを認めることができ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

なお、被告らは、原告の左側股関節の運動領域は、他動の場合の計測値によると、健側のそれとほぼ同一であるし、左膝関節運動領域は、健側のそれと比較して四分の三以下に制限されているわけではないと主張し、原告の後遺障害の存在を争つている。しかし、原告の左側股関節及び左膝関節の機能が健側と比較して一部制限を受けるようになつたことは前認定のとおりであり、必ずしも、自動、他動の場合とも運動制限を受け、あるいは患側の運動領域が健側のそれの四分の三以下でなければ後遺障害とはいえないということはできないし、原告の場合、左側股関節及び左膝関節の機能障害のみならず、左臀部痛、左下肢痛、痔核等をもあわせた障害が残つたのであるから、被告らの右主張は採用することができない。

そして、右後遺障害の態様、程度等を勘案すると、後遺障害に対する慰藉料の額は、金八〇万円が相当である。

四  請求の原因3(三)弁護士費用について

原告は、右認定のとおり、被告らに対し各自合計金一三〇万円の賠償請求権を有するものであるが、被告らが任意にその弁済をしないため、原告訴訟代理人に本訴の提起及び進行を委任し、相当額の弁護士費用を支払うことを約したことが弁論の全趣旨によつて認められるところ、本件事案の内容、訴訟の経過等諸般の事情を考慮すると、被告らに対し賠償を求め得る弁護士費用は、金一五万円と認めるのが相当である。

五  以上のとおり、本訴請求は、原告が被告らに対し、各自、前記慰藉料及び右弁護士費用の合計金一四五万円及び慰藉料金一三〇万円に対する不法行為の日の翌日である昭和五〇年九月二四日から、弁護士費用金一五万円に対する訴状送達の日の翌日である被告会社は昭和五四年八月一六日から、被告坂本は同月二一日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用し、仮執行免脱宣言の申立は相当でないからこれを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判官 北川弘治 芝田俊文 富田善範)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例