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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)8824号 判決 1981年10月27日

原告

和光鋼業株式会社

右代表者

酒寄守

右訴訟代理人

鈴木正捷

地田良彦

被告

同栄信用金庫

右代表者

笠原慶太郎

右訴訟代理人

松井元一

新井宏明

八木清子

右訴訟復代理人

田倉榮美

被告補助参加人

株式会社ショーサン

右代表者

野口清豪

右訴訟代理人

三森淳

赤松岳

被告補助参加人

呉如岡

右訴訟代理人

佐藤富造

主文

1  被告は原告に対して金一六六〇万円および内金一〇〇万円に対する昭和五二年九月二二日から完済に至るまで年五分八厘五毛の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、補助参加により生じた費用を除くその余の費用につき被告の補助参加により生じた費用につき補助参加人らの各負担とする。

事実《省略》

理由

(当事者間に争いのない事実)

被告の許に本件預金(即ち、株式会社ショーサン((代表取締役鴨田清))名義の当座預金および定期預金)が存することは、当事者間(原・被告のほか、補助参加人らを含め)に争いがない。

本件預金の出捐をなしたのが原告であり、また、その預入行為をなしたのが原告の社員井上國雄であつたことも、当事者間(原・被告のほか、補助参加人株式会社ショーサンを含め)に争いがない。なお、補助参加人呉如岡は、右出捐者が原告であるとの点につき不知、預入行為者が井上國雄であることの点につき否認、と答弁するが、右答弁は、被告の先に示した答弁に抵触するので、効力を生じない。従つて、本件で、補助参加人呉如岡の右答弁を考慮に入れることはできない。

(本件預金の預金者について)

そこで、以下、本件預金の預金者につき判断すると、当該預金の預入行為をしたのが原告の社員井上國雄であつたことは既に説示したとおりであるが、その預入行為が井上國雄個人のためではなく、原告の職務の一貫としてなされたことは、証人井上國雄の証言に徴して、明白である。すると、右井上國雄の立場は、原告主張のとおり、原告の使者(即ち、右預入行為を井上國雄自らの意思決定によつてなしたものではない)と解されるから、被告との間において、本件預金の預金契約を締結した当事者(その意思表示をなした主体)が原告であつたことも否定できないところである。

これに加えて、右証人井上國雄の証言および原告代表者本人尋問の結果によると、(1)本件預金の当座勘定入金帳・当座小切手帳・約束手形帳・定期預金証書は、被告から交付されて以来、現在に至るまで、原告の許に保管されていること、(2)当該預金に関する被告への届出印(株式会社ショーサン名義の代表者実印のほか、その住所・代表者((鴨田清))名・会社名の各記名印)も、前掲井上國雄が業者に製造させたもので、且つ、右同様、原告の許で保管していることをそれぞれ認定することができる。この点について、証人野口清豪(なお、同人は、補助参加人株式会社ショーサンの現代表者でもある)の供述中には、右届出印は野口清豪が業者に製造させたものであつて、以後、原告に保管を依頼していたものである、との供述部分が存するが、右供述部分は、その供述内容が極めて曖昧で、およそ信用することができないし、他に、右認定を左右すべき証拠はない。

以上によれば、本件預金については、原告が被告との間で預金契約の締結をなし、且つ、自ら出捐をなしているだけでなく、本件預金に表示された株式会社ショーサン(代表取締役鴨田清)名義の届出印および被告から交付された預金証書類(その内容は前示のとおり)を全て原告が保管していると言うのであるから、本件預金が株式会社ショーサン(代表取締役鴨田清)名義でなされているとは言え、それは、その預金契約を締結した原告が、自己を表示する使法として、利用したにすぎないと判断するのが相当である。

補助参加人らは、被告が原告に本件預金を払戻すべきではない理由の前提として、代理権の有無は兎も角、原告の本件預金の契約締結行為を把えて、その名簿に表示された株式会社ショーサン、即ち、補助参加人株式会社ショーサンのための代理行為である、と反論するが、右に説示したところからして、右締結行為を代理行為と解するのは困難であり、右反論を容れる余地はない。尤も、<証拠>によると、本件預金の名義に表示された株式会社ショーサンと同一商号(且つ、代表者名も同一)の法人、即ち、補助参加人株式会社ショーサンが、昭和五〇年四月七日、設立されていることが肯定されるだけでなく、原告代表者本人尋問の結果に徴すると、原告が右預金契約の締結にあたり、補助参加入株式会社ショーサンの商号および代表者名を用いたこと自体は否めない。しかし、自己を表示する便法として他人名義を利用することの是非は格別、その名義を利用された他人が架空のものではない(設立登記がなされている)からと言つて、既に説示した事実関係の下で、且つ、その名義に表示された補助参加人株式会社ショーサンは、現在はさておき、その代表者が鴨田清であつた当時は、何ら取引活動をしていない、いわば商業登記簿上だけの存在であつた(このことは、証人鴨田清および同野口清豪の各証言により、肯認することができる)だけでなく、原告がその出捐に係る本件預金を右の状態にある補助参加人株式会社ショーサンに取得させる理由を何ら見い出し難い本件において、原告が自己を表示する便法として株式会社ショーサン(代表取締役鴨田清)名義を利用したとの前示判断を覆えすには至らない。他に、右判断を妨げるべき証拠は存しない。

従つて、本件預金の預金者は、その名簿に拘わらず、その出捐をし、且つ、契約締結をなした原告であると云うべきである。

被告は、本件預金の預金者が、原告であるか補助参加人株式会社ショーサンであるか、それを確定する裁判がなければ、当該預金を原告に払戻すことはできない、との趣旨の反論をするが、前示判断と本判決の補助参加人株式会社ショーサンに対する参加的効力とによれば、右反論を斟酌するには及ぼない。

(差押命令との関係について)

<証拠>によれば、本件預金について、債権者を補助参加人呉如岡、債務者を補助参加人株式会社ショーサン、第三債務者を被告とする東京地方裁判所昭和五四年(ル)第三六二九号事件の債権差押命令が発せられていることを認めることができる。

しかしながら、既に説示のとおり、本件預金の預金者は、補助参加人株式会社ショーサンではなく、原告であるところ、原告がこれを補助参加人呉如岡に対抗できず、右債権差押命令の効力が原告にまで及ぶと仮定しても、権利差押命令は、差押債務者が当該差押債権につき給付訴訟を提起し、追行する権限を失なわせるものでなく、差押債務者は、当該差押債務につき、無条件の勝訴判決を得ることができると解されるので、原告が、本件訴訟をもつて、被告に対して本件預金の払戻を請求すること自体は何ら妨げられるものでない。

従つて、被告の右に関する反論もこれを採用することができない。

(結論)

以上の次第であれば、原告の本件請求は理由がある(なお、本件預金のうち当座預金口座は、本件訴状をもつて、解約したものと善解できるから、右当座預金の払戻期限も、口頭弁論終結時には、既に到来したと云える)のでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九四条(第九三条)を適用し、なお、仮執行の宣言は相当でないから、その申立を却下して、主文のとおり判決する。

(滝澤孝臣)

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